表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
融点36.5℃  作者: 虎馬
2/3

融点36.5℃(中)

 変な顔をしていたらしい私に、面白そうにユキは続けた。


「雪が人間に恋をして、人の姿になったんだよ。そして、冬が終わるころに、この部屋で溶けたんだ」


 私がまだ幼いころに亡くなった伯父は、写真を見る限りは平凡な感じの人間だったが、実はずいぶんと非凡な存在であったようだ。

 というか、ユキの言葉の通りなら、ユキの部屋は母親の死んだ場所だということになるが。


「溶けた跡にいた赤ん坊が、ユキだよ」

「で、なんでずっとそこにいるの」


 母親の死んだ場所なんて、居心地のいいものではないだろう。


「だって、赤ん坊のユキを誰も触れなかったんだ」

「なんで」

「その頃のユキの融点が人肌よりもずっと低かったから」


 私は瞬きをした。


「融点?……って、あの個体の溶ける温度の…………」

「そう、融点。それよりも高い温度に触れたらユキは溶けてしまうよ」


 私は少し腕を伸ばしてユキに触ってみた。

 氷枕を触った時のような、ひんやりとした感覚が指の先に伝わる。


「ユキを溶かしてしまうつもり?」


 くすくすとユキが笑う。

 しかし、どこも溶けてなんかいない。


「溶けてないじゃない」


 私が少しにらむと、ユキは笑い声をおさめて、しかし、顔には笑みを浮かべたまま、応えた。


「今のユキの融点は36.5℃なんだよ」

「上がってるわね」

「何度も溶けながら、ちょっとずつ上がったんだ」

「なんで、溶けたの?てか、なんで溶けたのに消えなかったの?」

「消えてほしかった?」


 ユキが首を少し傾けた。

 私はその言葉に少し怒りを覚えた。


「この格子が無ければ殴ってやるのに」

「それは勘弁」


 また笑い声が出はじめた。


「それに、この格子はなぜついてるの」

「それは、小さい子供が入ってこないように」

「でも、あなたここから出てこれないじゃない」

「出る必要はないよ」


 それに、カギはここにあるんだ。と、ユキは服の中から黒いカギを出して見せた。


「小さい子供の体温は高いから、触れたら溶けてしまうし、この部屋は一番居心地がいいんだ」

「なんで?お母さんの死んだところなんでしょう?」


 私の言葉にユキは不思議そうな顔をした。

 そして、すぐに何かに気づいたような表情に変わり、応えた。


「いや、死んではいないよ。この部屋中の空気にいまだに漂っている。……でも、そっかぁ、お母さんなのか」

「何かおかしいの?」

「いや、別に。確かにお父さんは男だから、雪は女なのかもね」


 雪に性別はないから、お母さんとか考えたこともなかったよ。とユキはおかしそうに笑った。

 そして、なつかしむように自分の部屋の奥のほうへ目をやった。

 私もユキの目線を追ってみた。勉強机があって、その上に写真がいくつか立てかけてあるようだった。


「おじさんの写真?」

「そう。見る?」


 私がうなづくと、ユキは「はい」とカギを差し出した。

 どうしろというのだろうか。


「そこに鍵穴があるから」


 ユキの指さすほうを見ると、確かに鍵穴があった。

 外からかぎを差しいれながら「これだとカギを持っていても、ユキは外に出れないだろう」と思った。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ