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第52話 あと少し

王都の中央広場にある王墓の地下で、クロウたちは古い階段を下りていた。


地上では、王国の統治機構が崩れ始めている。門の管理、食料の配給、兵士の処遇。レオンとセリアが対応すべきことは多い。


だが、クロウにとって重要なのは、階段の先にあるダンジョンだった。


「この先が王墓地下迷宮だ」


クロウは、壁へ刻まれた紋章を見ながら言った。


「ゲームでは、レベル九十台向けの最高難度ダンジョンだった。経験値も高いし、レベル百用の素材も出る」


「王家の墓を、狩場と呼ぶのはやめてください」


セリアが答える。


「でも、実際に魔物がいるだろ」


階段の下から、骨の擦れる音が聞こえた。


扉を開くと、長い通路の左右に石像が並んでいた。王冠をかぶった人々の像だ。ゲームでは背景にすぎなかったが、現実の王墓には一体ずつ名前が刻まれている。


その中には、今なお王国で語られている王の名もあった。


「この人たちは、歴代の王か?」


レオンが尋ねる。


「たぶん。ゲームでは詳しく見なかったから分からない」


「今も、詳しく見ようとは思わないのですね」


「敵が出る場所を覚えた方が大事だろ」


クロウは通路の先を見た。


最初の仕掛けは、床に並んだ十二枚の石板だった。正しい順番で踏めば、奥の扉が開く。間違えると、天井から即死級の槍が落ちてくる。


ゲームでは、何度も失敗したプレイヤーが攻略情報を残していた。クロウはその順番を覚えている。


「右から四番目、次に左端。中央は踏まない」


レオンが足を止めた。


「中央を踏まないと言ったな?」


「最後まで踏まない」


「なら、なぜ中央に石板がある?」


「罠だから」


クロウは迷いなく進んだ。


三人が正しい石板を踏み終えると、扉が開く。中央の石板だけが、遅れて沈んだ。そこから黒い槍が飛び出し、天井へ突き刺さる。


「あれを受けていたら、どうなっていた?」


「死ぬ」


「簡単に言うな」


レオンは、クロウが二人を危険にさらしているわけではないと分かっていた。事前に確認し、少しでも違和感があれば止まる。ゲーム知識をそのまま信じるのではなく、現実の仕掛けを見て判断している。


最初の区画を抜けると、骨の兵士が現れた。普通のアンデッドよりも動きが速く、倒しても周囲の骨を吸収して再生する。


「こいつは倒さなくていい」


クロウが言った。


「通路の奥にある鐘を鳴らせば、しばらく動かなくなる。その間に横を抜ける」


「経験値が高い敵ではないのか?」


「時間がかかるから効率が悪い」


クロウは鐘の位置を示した。レオンが敵を引きつけ、セリアが魔力の流れを読み、クロウが横の通路へ走る。


鐘が鳴った。


骨の兵士が動きを止める。


「今だ」


三人は戦わずに通り抜けた。


次の区画では、逆に一体だけを倒した。そいつを倒すと、周囲の魔物が出現しない安全な道が開くからだ。


「戦わない方がいい敵と、戦った方がいい敵を、どうやって区別しているのですか?」


セリアが尋ねた。


「経験値と時間と危険度を比べている。あと、宝箱」


「最後は、宝箱ですか」


「重要だろ」


中層へ進むほど、ゲームと現実の違いが増えた。


最初の分岐では、ゲームに存在しなかった水路が道を塞いでいた。地下から流れ込んだ水が通路を削り、床の一部を沈ませている。クロウは地図を見ながら、壁に残った古い排水口を探した。


「ここを開ければ、水が流れる」


「簡単に開くのか?」


「たぶん」


「その言葉が出た時は、俺が先に調べる」


レオンが前へ出た。


排水口の周囲から、骨の魚に似た魔物が飛び出した。レオンが盾で受け止め、セリアが水路全体を把握する。クロウは敵を倒す順番を指示しながら、排水口の栓を外した。


水が流れ、沈んでいた床が現れる。


「ゲームでは、ここに魔物はいなかった」


「現実では、住み着いていたようですね」


セリアが魔物の残した骨を見た。


「でも、倒せば経験値になる」


クロウは前へ進んだ。


次の部屋では、古い宝箱が三つ並んでいた。二つは空で、一つだけ蓋が開かない。クロウが鍵穴を確認すると、内部に魔力の反応がある。


「これは、たぶん残っている」


「たぶん、ですか?」


「ゲームでは当たりだった」


セリアが周囲を警戒する中、クロウは鍵を解除した。中に入っていたのは、レベル百装備の素材ではないが、魔力を回復する希少な薬だった。


「当たりだな」


クロウは嬉しそうに袋へ入れた。


「先ほどの宝箱より、今の薬の方が喜んでいませんか?」


「使える消耗品は大事だぞ。ボス戦で足りなくなると困る」


セリアは、その言葉に少しだけ安心した。クロウは戦利品の価値を知らないわけではない。自分の攻略に必要かどうかで、判断基準が変わるだけだ。


固定配置だった宝箱の一つは、すでに開けられていた。別の通路は崩落し、ゲームにはない迂回路が必要になった。魔物の配置も一部変わっている。


それでも、ダンジョンの構造とギミックは、ほとんど同じだった。


クロウは崩落した通路の壁を調べ、隠し通路の入口を見つけた。セリアは、ゲームにはなかった魔力の流れを読み、危険な床を避ける。レオンは敵を引きつけ、二人が仕掛けを操作する時間を作った。


「やっぱり、ここは攻略できるな」


クロウは、深く息を吐いた。


「何か、不安だったのか?」


レオンが尋ねる。


「歴史が変わっていたからな。ダンジョンまで別物になっていたら、かなり面倒だった」


「それでも進むつもりだっただろう」


「まあ、そうだけど」


最深部の前で、三人は一度休憩した。


セリアは回復薬を確認し、レオンは装備の傷を見た。クロウは敵の行動と、次の装置の順番を整理している。


「この先は、ボスが三体連続で出る」


「三体?」


「最初が骨竜。次が王墓守。最後が、王墓の主」


「聞いているだけで疲れますね」


「でも最後の方が経験値は高い」


クロウは扉へ手を置いた。


レオンとセリアも、それぞれ武器を構える。


王墓地下迷宮の最深部で、巨大な魔力が目を覚ました。


「行くぞ」


クロウが扉を開いた。


その先に、三人の最後の攻略対象が待っていた。


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