第46話 通行止めなんだけど
竜骨砦へ向かう街道は、完全に封鎖されていた。
道の中央に杭が並べられ、その奥には王国軍の兵士たちが立っている。簡易なものではない。木柵の後ろには弓兵が配置され、街道脇の高台には見張り台まで組まれていた。
クロウは、街道の手前で足を止めた。
「通れないんだけど」
「見れば分かる」
レオンが、やや疲れた声で答えた。
「ダンジョン、あっちなんだけどな」
「王国軍が封鎖しているからだ」
セリアは、街道の先にある砦を見た。竜骨砦は、この先の山道を越えたところにある。王国北部の軍事拠点であり、古い竜の骨が眠る地域でもある。
クロウが欲しい素材は、その砦の地下深くで手に入る。
「正面から通る必要はないだろ」
クロウは地図を開いた。
「ゲームなら、横に抜ける道がある」
「ゲームの地図では、だろう?」
「こっちでも地形は同じだと思う」
「思う、ということは確実ではないのですね」
「確実ではないけど、正面で止まっているよりはいい」
三人が街道の端へ移動すると、王国軍から声が飛んできた。
「そこにいる者たち、止まれ!」
鎧を着た騎士が数人、こちらへ歩いてくる。先頭の男は、以前宿へ来た王国の使者とは別人だった。肩に王国軍の紋章をつけ、腰には長剣を差している。
「この先は王国軍の管理区域だ。許可なく通ることは認められない」
レオンが一歩前へ出た。
「我々は、竜骨砦へ向かうだけだ」
「それが認められないと言っている」
「理由を聞かせてもらいたい」
「理由は、すでに通達したはずだ。あなた方の勢力は、王国の許可なく高位魔物を討伐し、鉱山や街道を管理している。これ以上、王国北部へ進むことは敵対行動と見なす」
クロウは、二人の後ろで地図を見ていた。
「竜骨砦へ行きたいだけなんだけど」
騎士がクロウを見る。
「お前は何者だ?」
「同行者」
変装しているクロウは、王国側から見れば素性の分からない旅人だった。武器を持っている。妙に落ち着いている。レオンとセリアの近くにいる。
それだけで、警戒対象として十分だった。
「同行者も含め、ここから先へは進ませない」
「そうか」
クロウは地図へ目を戻した。
「じゃあ、別の入口を探す」
騎士の顔がこわばった。
「待て。王国の命令を、迂回すれば無視できると思っているのか?」
「命令を無視するつもりはない。通れる道を通るだけだ」
セリアが、すぐに言葉を挟んだ。
「クロウ、今は話を広げないでください」
「でも、通行止めなんだろ?」
「そうですが」
レオンとセリアは、騎士から距離を取った。
交渉で解決できる可能性は低かった。王国はすでに、彼らを地方の有力勢力ではなく、王国の秩序に従わない武装集団として扱い始めている。
街道を封鎖しているのも、竜骨砦を守るためだけではない。レオンとセリアの勢力が王国北部へ進出することを止めるためだ。
「我々は、王国と争うつもりはない」
レオンが言った。
「こちらが要求しているのは、これまで通りの活動を認めることだけだ」
「天喰らいを倒せる戦力を持つ集団が、王国の許可なく動いている。それを、王国が放置すると思うか?」
騎士の返答は硬かった。
「あなた方が力を持ちすぎた。だから、管理下に置く必要がある」
クロウは、ようやく話の長さに耐えられなくなった。
「俺たち、もう行っていいか?」
「クロウ」
セリアが低い声で制止する。
「竜骨砦に行けないと、装備が作れない」
「聞いているのか!」
騎士が声を荒らげた。
「お前たちは現在、王国軍の監視下にある。勝手に動けば、それだけで敵対行動とみなす」
クロウは、街道脇の山を見た。
ゲームでは、竜骨砦の正門へ向かう道の途中に、崩れた橋がある。その下を進むと、砦の北側へ抜ける細い道が見つかる。正規ルートではない。ソロや少人数で攻略するプレイヤーが使うショートカットだ。
現実にも、山肌の形は似ている。
「こっちから行ける」
クロウが山の斜面を指した。
レオンが目を細める。
「王国軍を避けるのか?」
「戦う理由がないだろ」
「それは、私も同意します」
セリアは騎士へ向き直った。
「通行止めに従い、街道は通りません。これで問題はありませんね」
「山へ入ることも許可していない」
「そこまでの封鎖は、王国の命令書に記載されていません」
セリアの声は穏やかだったが、譲るつもりはなかった。
騎士が言い返す前に、クロウたちは街道を外れた。
王国軍は追ってこなかった。三人が戦闘を始める様子もなく、ただ山へ向かっているためだ。だが、見張り台からはその動きがはっきり見えていた。
「北側の山へ進んだ」
報告を受けた王国軍の指揮官は、眉をひそめた。
「防衛線を突破されたのか?」
「戦闘はありません。街道を避け、山道へ入ったようです」
「それでも、我々の封鎖を無力化したことに変わりはない」
実際には、クロウたちはただ近道を使っているだけだった。
山道を進むと、崩れた石橋が見えてきた。クロウは橋の下へ降り、苔のついた岩を三つ動かした。
岩壁に隠し通路が現れる。
「ここだ」
「本当にあったな」
レオンが通路をのぞき込む。
「ゲームなら、正門を避けられるショートカットだ。竜骨砦の地下へ直接入れる」
「王国軍は知らないのでしょうか?」
「知らないから正門を守ってるんだろ」
セリアは、街道の方角を振り返った。
王国軍は、正面から来る敵を防ぐために防衛線を作っている。三人は、その横を歩いて通り過ぎた。これが国家間の緊張をどの程度高めるのか、クロウは考えていなかった。
「便利なショートカットだったな」
クロウは満足そうに通路へ入った。
その先に、竜骨砦の地下が広がっていた。
隠し通路の中は、竜の骨を削って作られた古い階段になっていた。壁には、砦を建てた兵士たちの名前と、短い祈りの言葉が刻まれている。ゲームでは表示されなかった細かな傷や風化した文字が、現実の場所には残っていた。
クロウはそれらを一度だけ眺め、階段の先へ視線を戻した。
「奥に敵がいる。まず、入口の魔力を切る」
階段の先には、青い炎を灯した石像が並んでいた。クロウは左端の炎を消し、次に右から二番目を消す。最後に中央の床を踏むと、地下の奥で扉が開いた。
「ここまで来るだけでも、普通ならかなり難しいでしょうね」
セリアが言った。
「だから、みんな正門から入るんだ」
「普通は、正門が使えるならそうします」
クロウは短剣を抜いた。
「じゃあ、ここから攻略開始だ」




