↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
45/54

第45話 なんか怒ってるらしい

月影の湖から戻った翌日、王国の使者が宿を訪れた。


濃紺の外套を着た男と、護衛の騎士が二人。表情は硬く、手には封蝋の押された書状がある。


レオンとセリアが応対し、クロウは少し離れた椅子で地図を見ていた。


使者が通された部屋には、窓際に簡素な机が一つあるだけだった。レオンは椅子を勧め、セリアは茶を用意した。クロウは礼儀作法について考える気がなく、机の上へ竜骨砦の地図を広げている。


王国の使者は、その地図を見たまま黙っていた。


北部の重要地点。古い砦。周辺の鉱脈。そこへ続く街道。王国の役人なら、地図を見ただけで意味が分かる場所だ。


「クロウ、今は地図をしまってください」


セリアが小声で言った。


「でも、竜骨砦はここから行ける」


「後で確認します」


「分かった」


クロウは不満そうに地図を畳んだ。


「王国より、正式な通達をお持ちしました」


使者が書状を開く。


「第一に、王国領内での無断の高位魔物討伐。第二に、許可なき武装集団の活動。第三に、管理地域の急速な拡大。第四に、王家直轄鉱山への接触について、説明を求めます」


クロウは顔を上げた。


「なんか怒ってるの?」


使者の眉が動いた。


「かなり、です」


セリアが答える。


「鉱石を取ってないのに?」


「問題は、鉱石だけではありません」


レオンが低い声で言った。


王国から見れば、レオンとセリアの勢力はすでに一つの地方軍に近い。街道を守り、鉱山を管理し、複数の町へ人を派遣している。そこへ高位魔物を倒せる戦力が加わり、王家直轄の資源へ立ち入りを求めた。


王国が、それを単なる素材集めと考えないのは当然だった。


使者は書状を机の上へ置いた。


「王国は、あなた方を敵と断定しているわけではありません」


「では、何を求めている?」


レオンが尋ねる。


「王国の秩序へ従う意思を示していただきたい。これまであなた方が管理してきた街道や鉱山についても、王国の監督を受けること。武装した人員の数と配置を報告すること。そして、天喰らいを討伐した経緯を、可能な限り説明することです」


セリアは書状の一文を指でなぞった。


「天喰らいの討伐経緯を、どこまで?」


「使用した武器、人数、戦術、討伐地点。特に、あれほどの魔物を倒せる戦力が、どこに所属しているのかを知りたいと」


セリアはクロウを見なかった。


クロウの存在を伝えるわけにはいかない。王国が知りたがっている情報の中心には、彼がいる。だが、彼の知識と力をそのまま説明すれば、これまで守ってきた情報管理が崩れる。


「討伐は、私とレオンの指揮下にある者たちが行いました」


セリアは慎重に答えた。


「詳細な戦術は、現場の状況に応じたものです。再現できるものではありません」


完全な嘘ではない。


クロウがいなければ、同じ戦術は成立しなかった。しかし、彼の存在を知らない者が聞けば、レオンとセリアの勢力が独自に考えた攻略法だと思うだろう。


「王国は、私たちへ三つの選択を求めています」


セリアが書状へ目を落とした。


「王国への臣従。武装勢力の縮小。現在管理している鉱山と街道の権限返還。そして、天喰らいを含む高位魔物の討伐情報の開示です」


「それを受け入れるのか?」


クロウが尋ねた。


「受け入れれば、今まで通りの生活はできません」


「じゃあ断れば?」


使者がクロウを見た。


変装しているため、彼はただの同行者にしか見えない。王国側が把握しているのは、レオンとセリアの勢力だけだ。


「そう簡単な話ではない」


レオンが言った。


「断れば、王国は敵対勢力と判断する可能性がある」


「でも、今まで通り暮らしたいんだろ?」


クロウは二人を見た。


「なら断ればいい。俺の方は、鉱山に入らなくても星鉄を取れたし」


セリアは一瞬、目を閉じた。


クロウにとって、話はそれだけだった。目的の素材は手に入った。王国と揉める理由もない。ならば、要求を受け入れず、これまで通りにすればいい。


しかし、王国側から見れば、臣従を求められた地方勢力が、ほとんど検討もせずに拒否している。


「我々の要求を、軽く考えないでいただきたい」


使者の声が強くなった。


「これは、王国の命令です」


「命令なら、なおさら従う理由がないな」


レオンが答えた。


クロウは地図をめくった。王国北部に、次の装備素材が手に入る場所がある。八十帯の武器を完成させるには、星鉄だけでは足りない。


必要な素材の名前を、クロウは頭の中で並べた。星鉄。竜骨片。深層竜の皮。最後の一つは、竜骨砦の奥で手に入る。そこへ入るには、王国の街道を北へ進むのが一番早い。


交渉が長引けば、それだけ攻略開始が遅れる。


「竜骨砦へ行く許可は、取れそうか?」


クロウがセリアへ聞いた。


使者の表情が硬くなる。


「そういえば、次は竜骨砦へ行くか」


セリアが、ゆっくり顔を上げた。


「……王国北部です」


「また王国か」


「今度は、立ち入り許可を取るのが難しいでしょう」


「王国は、今のところ竜骨砦周辺への立ち入りを認めていません」


使者が答えた。


「あの地域は軍事上の重要地点です。天喰らいを倒した勢力が、続けてそこへ向かうことを許可できると思いますか?」


「でも、ダンジョンへ行きたい」


クロウは正直に言った。


レオンが額を押さえる。


「少し黙っていてくれ」


「分かった」


「別の入口はないのか?」


「調べてみます」


使者は、クロウたちが次の王国領へ向かう話を始めたことに気づいた。自分が伝えた通達が、脅しとして受け取られていない。むしろ、相手は別の方法で王国の管理地域へ入るつもりらしい。


王国側へ戻った使者は、報告を改めた。


レオンとセリアの勢力は、王国の要求を拒否した。さらに北部の重要地点へ進出する意図がある。


警戒は、敵意へ変わり始めていた。


宿では、クロウが竜骨砦の地図を広げていた。


「ここに、八十用の素材がある。ダンジョンとしても面白い」


「今、王国と問題になっている最中ですが」


「だから、早めに行った方がいいだろ」


レオンは深く息を吐いた。


「お前にとって、王国との対立も攻略の予定に入るのか?」


「対立したいわけじゃない。ただ、ダンジョンへ行きたい」


クロウは本気だった。


その目的のために、王国と地方勢力の関係が崩れ始めていることを、まだ深刻には理解していなかった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。