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第40話 天喰らい

天喰らいが、町の上空を覆っていた。


二枚の翼が雲を引き裂き、空から雷が落ちる。外壁の一部が崩れ、逃げ遅れた人々が遠くで叫んでいた。


クロウは、その光景を見ながら敵の動きを読んでいた。


「まず、左翼を狙う。右は後でいい」


「翼の大きさだけなら、右の方が傷ついているように見えるが」


レオンが剣を構えながら言った。


「右は罠だ。攻撃すると、反撃で雷を落とす」


「それを先に言ってくれ」


「今言っただろ」


天喰らいが翼を広げた。


「来る!」


セリアが叫ぶ。


空気が震え、無数の雷が地面へ落ちた。レオンが盾を掲げ、クロウは崩れた外壁の陰へ跳ぶ。セリアの魔力が二人の周囲を覆い、雷の直撃を逸らした。


雷が止む。


「次、右!」


クロウが叫んだ。


レオンが走り、天喰らいの左脚へ斬り込む。巨体が身をひねり、爪が振り下ろされた。レオンは正面から受けず、外壁の残骸を使って攻撃を滑らせる。


「レオン、下がれ!」


言葉と同時に、天喰らいの胸から黒い波が広がった。


レオンが一歩遅れていたら、魔力を吸い取られていた。セリアが杖を振り、波の端を押し返す。


「魔力吸収、予兆が見えました。胸の鱗が開く前に、周囲の空気が薄くなります」


「それなら次から避けられる」


「次がある前提なのですね」


クロウは答えず、天喰らいの左翼を見た。


翼の付け根に、古い傷がある。ゲームでは、ここを破壊すると空中へ戻れなくなる。だが、今の天喰らいはゲームよりも強い。何かが魔力を補っている。


クロウは、地下神殿で手に入れた青い宝玉を握った。


「翼の付け根へ、これを使う」


「それは、魔力を遮断する素材ですね」


「そう。たぶん効く」


「たぶん、ですか」


「今までよりは確率が高い」


クロウが走った。


天喰らいが翼を振り、空気の刃を放つ。クロウは地面のくぼみへ滑り込み、刃を避けた。レオンが正面から牽制し、セリアが翼の動きを読み取る。


「今、翼が下がります!」


クロウが跳んだ。


青い宝玉を、翼の付け根へ押し当てる。


宝玉が砕け、青い光が傷口へ流れ込んだ。


天喰らいの翼が大きく揺らぐ。


「効いた!」


セリアが叫ぶ。


「レオン、今のうちに左脚!」


レオンの剣が深く入った。天喰らいが傾き、片翼が地面へ落ちる。


だが、魔物は倒れなかった。


黒い霧が傷口から噴き出し、周囲の魔力を吸い上げていく。空から落ちた雷が、天喰らいの背中へ集まった。


「第二形態か?」


クロウが呟く。


「ゲームでは、そんな名前で呼ぶのか?」


「いや、今のは独り言だ」


天喰らいが地上へ降りた。


着地の衝撃で、町の外壁がさらに崩れる。巨体の周囲に黒い輪が広がり、輪の内側へ入った魔力がすべて吸い込まれていく。


「あの輪には入らないでください!」


セリアが叫んだ。


「分かってる。あれは安全地帯じゃない」


「見れば分かります!」


天喰らいの前脚が、レオンへ向かって振り下ろされた。


レオンは盾で受けた。地面が沈み、膝が落ちる。クロウが横から攻撃し、爪の軌道を逸らした。


「一人で受けるな!」


「今のは受けるしかなかった!」


「次は右へ逃げる。二回目の攻撃が来る!」


レオンが身をひねった。二撃目が外壁を砕く。


その間に、セリアが天喰らいの状態を確認した。


「胸部の鱗が開きました。ですが、核が二つあります」


「二つ?」


「左胸と、首の付け根です。首側が主核だと思います」


クロウは一瞬だけ黙った。


ゲームでは、核は一つだった。天喰らいの胸を破壊すれば、討伐条件を満たす。


しかし現実では、魔力を補う核がもう一つある。


「じゃあ、順番を変える」


クロウは敵の首の付け根を見た。


「左胸を攻撃すると、首の核が防御される。先に首を削る」


「ゲームの攻略法と違うな」


「ゲームにないからな」


天喰らいの咆哮が、町全体を揺らした。


周囲の建物から、窓ガラスが一斉に落ちる。遠くで避難を誘導していた人々が、足を止めそうになった。


セリアが振り返る。


「町の南側、避難路が崩れかけています」


「レオン、あっちを守れるか?」


「お前は?」


「俺は敵を止める。セリア、避難路へ支援を」


三人は一瞬で役割を変えた。


レオンが南側へ走り、崩れた壁の下敷きになりかけた荷車を持ち上げる。セリアが魔力の盾を展開し、避難する人々の頭上へ落ちる石を防ぐ。


クロウは一人で天喰らいの前に立った。


今までなら、敵の行動を知っていれば対応できた。だが、レベル差が大きい。爪の一撃を受ければ終わる。魔力を吸われれば、動けなくなる。


クロウは、慎重に距離を取った。


「こっちだ」


天喰らいが、こちらへ顔を向ける。


クロウは街道の上を走り、あらかじめ見つけていた石橋へ誘導した。天喰らいが追ってくる。地面が揺れ、石橋の下から水が噴き上がった。


ゲームでは、ここはただの背景だった。


現実では、橋の下に地下神殿の魔力が流れている。クロウはそれを利用できると考えた。


「ここだ」


天喰らいが橋の中央へ乗る。


クロウは橋の端に仕掛けた特殊杭を起動した。地下神殿で得た装置の破片だ。魔力の流れを一時的に逆転させ、周囲の魔力を地面へ引き込む。


天喰らいの足元から、青い光が噴き上がった。


巨体がよろめく。


「今だ、レオン!」


レオンが戻り、首の付け根へ斬り込んだ。


天喰らいが咆哮する。翼が再び上がろうとしたが、片翼では浮かび上がれない。


「セリア、核の状態は!」


「首側、出力が落ちています。ですが、三十秒ほどで戻るはずです!」


「十分だ!」


クロウは短剣を握り直した。


ゲームの正規攻略ではない。だが、魔物の能力、攻撃の予兆、弱点の位置は、まだ使える。そこへ現実の地形と、地下神殿で手に入れた道具を組み合わせる。


攻略法は、まだ死んでいない。


ただ、知識だけでは足りない。


「レオン、あと一度だけ正面を頼む」


「分かった!」


「セリア、首の核が見えたら合図をくれ」


「はい!」


天喰らいが、最後の大規模攻撃の構えに入った。


クロウは、敵の右側へ走った。


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