第38話 攻略法は合ってる
沈黙の地下神殿の最深部には、青白い光が満ちていた。
広間の中央に、巨大な石像が立っている。人の姿に似ているが、腕は四本あり、胸には赤い宝玉が埋め込まれていた。周囲には六つの魔力装置が並び、一定の間隔で光を放っている。
「ゲームでは、こんな装置は壊れていた」
クロウが足を止めた。
「壊れていた?」
レオンが剣を構える。
「ボス部屋に入った時点で、装置は機能していなかった。だから、最初に柱を壊して、ボスの防御を下げる」
セリアは装置へ目を向けた。
「ですが、これは動いています」
装置から伸びた光が、石像の身体へ流れ込んでいる。広間の床には魔力の線が走り、石像の胸の宝玉が脈打っていた。
「そんな仕様、なかったぞ」
クロウは初めて、明確に焦った。
石像が動き出す。
「帰るか?」
レオンが尋ねた。
「いや」
クロウは石像の動きを観察した。
「ボスそのものは、ゲームと同じだ。行動パターンも、弱点も、攻撃の予兆も変わっていない」
「装置は違う」
「だから、そっちを先に対応する」
石像の右腕が上がった。
「来るぞ。右から横薙ぎ」
レオンが後ろへ下がる。石像の腕が空を切り、床に深い傷を残した。
「次は左腕。二連続だから、最初の後に近づくな」
クロウが言い終わる前に、左腕が振り下ろされた。レオンが盾で受け、衝撃を足元へ流す。
セリアは攻撃を避けながら、魔力装置の流れを見ていた。
「装置は、石像へ魔力を供給しています。中央の二つが特に強い」
「なら、そこを切る」
クロウが走った。
石像が振り向き、四本の腕を同時に動かす。クロウは攻撃の予兆を見て、床に描かれた線の外へ逃れた。巨大な衝撃波が広間を横切る。
「レオン、三秒だけ引きつけて!」
「三秒か!」
レオンが石像の正面へ踏み込んだ。大剣を受け、腕が震える。それでも、石像の視線を離さない。
クロウは中央の装置へ短剣を突き立てた。
魔力の流れが逆流する。装置が赤く点滅し、石像の胸の宝玉が一瞬だけ暗くなった。
「一つ止まった!」
セリアが叫ぶ。
「次、右奥!」
クロウが振り返る。
「右奥の装置が、逆に出力を上げています」
「ボスの体力が減るほど強くなるタイプか」
「それはゲームになかったはずです」
「ゲームのボスじゃなくて、装置の問題だ」
石像の動きが速くなった。
レオンが一撃を避けきれず、肩をかすめられる。セリアがすぐに治癒魔法をかけた。
「レオン、無理に受けなくていい。攻撃を誘導するだけでいい」
「分かった!」
クロウは、石像の攻撃パターンを思い出しながら、現実の装置の挙動を見た。
ボスの行動は同じ。だが、周囲の魔力が増えることで、技の威力と速度が上がっている。ならば、すべての装置を壊す必要はない。出力の高い装置だけを止めれば、元の強さへ戻せる。
「セリア、装置の流れを逆にたどれるか?」
「可能です。ですが、戦いながらでは難しい」
「俺が時間を作る。レオンは次の攻撃を受けずに、柱へ誘導してくれ」
「分かった」
クロウが石像の正面へ出た。
ゲームでは、ボスの足元へ入るのは危険だった。だが、攻撃の予兆を知っていれば、次にどこが安全になるかも分かる。
右腕が上がる。左へ移動。二本の腕が開く。後ろへ下がる。胸の宝玉が光る。攻撃の直前に横へ跳ぶ。
クロウは、攻撃を紙一重で避け続けた。
「今です!」
セリアの声が響く。
レオンが石像を装置の前へ誘導した。クロウが魔力の刃を放つ。石像の腕が装置へ当たり、光の柱が砕けた。
広間の魔力が一段階弱まった。
「残り二つ!」
「左奥と、最初に止めた中央の隣だ!」
三人は役割を変えながら戦った。セリアは装置の出力を読み、次に破壊する場所を指示する。レオンは石像を引きつけ、攻撃で装置を壊させる。クロウはゲームの知識を使って、石像の動きを先回りする。
最後の装置が砕けた。
石像の動きが遅くなる。胸の宝玉が赤から青へ変わった。
「ゲームと同じ状態になった」
クロウは息を吐いた。
「ここから、胸の宝玉が弱点だ」
レオンが正面から斬り込む。セリアの魔法が石像の足を縛る。クロウは安全な時間を見極め、宝玉へ攻撃を集中させた。
石像が崩れる。
赤い宝玉が床へ落ち、周囲に大量の魔石が散らばった。
「勝ったな」
レオンが息を整えた。
「攻略法は合ってるんだよな」
クロウは落ちた宝玉を確認しながら言った。
「最初から弱点を知っているだけでも、十分おかしいと思うが」
「でも、仕様変更されてたら困るだろ」
「誰が変更するんです?」
セリアが尋ねた。
「……誰だろうな」
クロウは真剣に考えたが、答えは出なかった。
ボスが消えたことで、神殿の外へ流れていた魔力が止まった。地上へ戻ると、周囲の荒野から魔物の気配が明らかに減っている。
地下神殿が、長い間魔物を引き寄せていたのだろう。
「また安全になる場所が増えましたね」
セリアが遠くの道を見た。
「そうだな。帰ったら、見回りの人に伝えておく」
クロウは新しく手に入れた装備素材を袋へしまった。
「それより、次の狩場を探そう。レベル七十まで、もう少しだ」
ゲーム史は変わっている。
それでも、魔物の弱点とダンジョン攻略法は、まだクロウの味方だった。




