↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
37/54

第37話 じゃあ常設でいいか

赤月祭が始まらないと分かった翌日、クロウたちは沈黙の地下神殿へ向かった。


「イベントが信用できないなら、常設コンテンツを使えばいい」


出発してすぐ、クロウはそう結論づけた。


レオンが隣で苦笑する。


「切り替えが早いな」


「考え続けても、発生しないイベントは発生しないからな」


セリアは帳面へ、赤月祭についての記録を書き込んでいた。ゲームでは一定時期に発生するイベント。現実では、前提となる勢力間の争いが起きていないため、発生しない可能性が高い。


未来を保証する情報ではない。


しかし、クロウがゲームの中で得た知識が、すべて失われたわけではない。


「沈黙の地下神殿は、ゲーム史とは関係なく存在する。地形と魔物と仕掛けが変わっていなければ、かなり稼げる」


「変わっていなければ、ですか」


「実際に見てみないと分からないな」


神殿は、荒野の地下に埋まっていた。


地上に残っているのは、崩れた石門だけだ。周囲には魔物の足跡が多く、長い間、人が近づいていないことが分かる。


クロウは石門の脇にある小さな窪みへ手を入れた。隠し扉が開き、地下へ続く階段が現れる。


「入口は合っている」


クロウは心底安心した。


「何と比べているんだ?」


レオンが尋ねる。


「こっちの話」


セリアがため息をついた。


「最近、それが増えましたね」


地下神殿の内部は、ほとんどゲームの記憶通りだった。


最初の通路に罠がある。左の壁へ触れると毒針が出る。右の扉は行き止まりで、正面の階段だけが先へ進む。魔物の配置も、クロウが覚えている位置と一致していた。


「よかった」


クロウは小さく息を吐いた。


「ダンジョンは変わってない」


「だから、何と比べている?」


「ゲームと」


「そのゲームは、どこにあるのですか?」


「昔遊んでたやつだ」


レオンとセリアは、もう深く追及しなかった。


第一層の魔物は、以前の狩場とは明らかに格が違った。黒い鎧をまとった骸骨兵。音を立てずに近づく影獣。魔力を吸い取る青い花。


だが、三人の能力も変わっている。


「骸骨兵は、盾を構えた直後に首の骨が露出する」


クロウが指示を出す。


「影獣はセリアが位置を見てくれ。俺には見えにくい」


「分かりました。右の柱の裏です」


セリアの声に合わせ、レオンが盾を向ける。影獣が飛びかかり、弾かれたところへクロウの刃が入った。


青い花の群れには、レオンが近づかない。セリアが魔力の流れを遮断し、クロウが中心の球根を破壊する。


ゲーム知識が、そのまま現実の戦術になる。


ただし、クロウは以前より慎重だった。


罠の位置が一致しているからといって、床が崩れないとは限らない。魔物の配置が同じだからといって、音や匂いまで同じとは限らない。彼は二人の安全を確認しながら、一つずつ先へ進んだ。


中層へ入ったところで、クロウは宝箱の前に立った。


「ここに装備がある」


鍵を外し、蓋を開ける。


中は空だった。


クロウは固まった。


「……ない」


「何がですか?」


「宝箱の中身」


箱の底には、誰かが開けた痕跡が残っていた。錆びた留め具。削れた木片。古い靴跡。かなり前に、別の誰かがここへ入り、宝を持ち去ったのだろう。


「ゲームでは、固定配置だったんだけどな」


クロウは箱の中をもう一度確認した。


「……そりゃそうか」


現実のダンジョンに、誰も触れない宝箱が永遠に残っている理由はない。過去に誰かが発見し、開け、持ち去ることもある。ゲームの情報は、世界の仕組みを知る手がかりにはなる。しかし、未来の状態を保証するものではない。


「宝箱が空でも、道と敵の情報は使える」


クロウは立ち上がった。


「この先に、経験値の高い魔物がいる。報酬はなくても、狩場としては十分だ」


セリアは彼の言葉を聞きながら、記録を書き換えた。


固定配置の宝箱は、必ず残っているとは限らない。


ダンジョンの構造、魔物の能力、ギミックの仕組みは、現時点では信頼できる。


歴史と人の行動は、別に考える必要がある。


クロウも、同じ結論へたどり着いていた。


「ゲーム知識は、未来予知じゃない」


彼は神殿の奥を見た。


「でも、世界の仕組みを知る情報としては使える」


レオンがうなずいた。


「それだけでも、十分すぎるほど強いと思うが」


「当然だろ。攻略情報だからな」


三人は中層の奥へ進んだ。


そこには、神殿の最深部へ続く巨大な扉があった。扉の向こうから、低い唸り声が聞こえる。


「ボスがいる」


クロウは短剣を構えた。


「次は、まだゲームと同じか確認する」


扉がゆっくり開いた。


その先で、青白い魔力が渦を巻いていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。