第33話 入口が四つある
黒獣行軍を終えた後も、クロウは休まなかった。
イベントで大量の経験値は得られたが、レベル六十にはまだ届いていない。通常の狩場を回っても、必要な経験値を集めるには時間がかかりすぎる。
「次は四門迷宮へ行く」
クロウが地図を広げて言った。
「大型ダンジョンだ。五十台向けで、経験値も装備もいい」
レオンは地図上の迷宮を見た。
「また、普通ではない場所か?」
「今度は普通だぞ。ゲームではよく使われていた」
「あなたの言う普通は、あまり信用できません」
セリアは迷宮の周辺を調べた。四門迷宮の近くには、古い街道の跡がある。かつては東西を結ぶ道だったようだが、迷宮から出る魔物が増えたことで封鎖されている。
「ここにも、使われていない道があります」
「ダンジョンへ行くついでに、周りの魔物も倒せるな」
「あなたは、道を見つけるたびに狩場として考えるのですか?」
「使えるなら使うだろ」
三人は迷宮へ向かった。
入口に着くと、巨大な門が四つ並んでいた。北門、東門、西門、南門。それぞれの前に、異なる紋章が刻まれている。
「入口が四つある」
レオンが言った。
「そうだな」
「また人数が足りないのではないか?」
「足りないな」
クロウはあっさり答えた。
ゲームでは、四つの入口から複数のパーティーが入り、内部の装置を同時に作動させる。最低でも四パーティー。参加者が多ければ多いほど安全に進める大型ダンジョンだ。
だが、クロウは正規攻略だけを知っているわけではない。
「三人でも行ける方法がある」
「最初から、それを言ってくれ」
クロウは地面へ簡単な図を描いた。
「入口の装置を一つずつ起動する。普通は同時に作動させるけど、扉が閉じるまでに少しだけ猶予がある。その間に隠し通路へ入れば、次の区画へ移動できる」
「四つの入口を三人で?」
「一人が二か所を担当する」
「誰が?」
「俺」
クロウは北門と東門を指した。
「レオンは西。セリアは南。装置を起動したら、中央区画で合流する」
「単独で進む必要があるのか」
レオンの声に、わずかな緊張が混じった。
「一定区間だけだ。敵は強いけど、数は少ない。危なくなったら戻れ」
クロウはそう言ってから、二人を見た。
「無理はするな。時間がずれたら、いったん中止して外へ戻る」
ゲーム時代なら、装置を押す順番と時間だけを気にしていた。失敗しても、何度でもやり直せる。
しかし今は、レオンとセリアがいる。失敗してもやり直せるとは限らない。
クロウは迷宮の構造を説明した。敵の種類、危険な床、扉が閉じるまでの秒数、戻るための道。いつもより細かく、何度も確認する。
「そこまで慎重になるのですね」
セリアが言った。
「死んだら、経験値も装備も取れないからな」
「……そういうところだけ、いつも通りです」
四門迷宮の攻略が始まった。
レオンは西門から入り、石の鎧を着た魔物を二体倒した。以前なら、敵の攻撃を受けながら押し切っていたところだが、今は足場を選び、攻撃を誘導している。
セリアは南門の奥で、魔力を吸う花の群れを相手にした。彼女は花の位置を一つずつ読み、魔法の範囲を調整する。攻撃するだけでなく、魔力の流れを止めることで、敵の再生を防いだ。
クロウは北門の装置を起動し、隠し通路へ入った。東門へ続く道には、ゲームでは存在しなかった崩落がある。足場が一つ欠けていた。
「ここは違うな」
クロウは立ち止まった。
知識が通じない部分がある。現実になった迷宮は、ゲームと完全には同じではない。
だが、構造そのものは変わっていない。崩落した道の下に、別の通路があるはずだった。
クロウは壁を調べ、床の隙間へ手を入れた。隠し通路の扉が開く。
「あった」
ゲームの攻略情報と、現実の観察。その両方を使って、クロウは東門へ回り込んだ。
同時に、三つの装置が光った。
「セリア、あと何秒だ?」
「八秒。西門は、もう作動しています」
「レオン、中央へ走れ!」
「今行く!」
四つ目の装置へ、クロウが手を置く。
四つの門が開き、内部の壁が動いた。複雑に組み合わさっていた通路が一本につながり、迷宮中央へ続く道が現れる。
レオンとセリアが合流した。
「成功したな」
「予定通りです」
セリアは息を整えながら答えた。
「しかし、中央区画の先に、まだ大きな魔力反応があります」
「中ボスだな」
クロウは奥を見た。
中央区画には、四つの門を守る石像が立っていた。装置が作動したことで、すべての石像が動き始める。
「四体同時か」
レオンが剣を構えた。
「本来なら、各パーティーが一体ずつ受け持つ」
「でも三人しかいない」
「どうする?」
「一体ずつ、順番に止める。セリアが中央の装置を使えば、残りの三体は少し遅くなる」
クロウの指示に、セリアがうなずく。
レオンが最初の石像を引きつけ、クロウが弱点を攻撃する。セリアが装置を起動すると、石像の動きが鈍った。二体目を倒し、三体目を倒す。最後の一体が崩れると、中央の扉が開いた。
迷宮の外から、地響きが聞こえた。
周囲に出ていた魔物が減り、閉鎖されていた旧街道の一部が見えるようになっていた。
「この先の道、東へ抜けています」
セリアが地図を確認した。
「別の地方へ通じる旧街道です」
「じゃあ、帰りに魔物を倒しておくか」
「迷宮攻略のついでに、街道まで開けるつもりですか?」
「経験値があるなら」
クロウは中央の扉を見た。
その奥には、迷宮最深部へ続く階段がある。
「まだボスが残っている。先にそっちだ」
三人は階段を下りた。
四門迷宮の最奥で、巨大な魔力の塊が待っている。




