↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
18/54

第18話 中盤装備なんだけど

森から戻った翌朝、クロウは宿の部屋で荷物を整理していた。


「装備を更新する」


突然の宣言に、レオンが振り返った。


「昨日、何か壊れたか?」


「壊れてはいない。けど、次の狩場へ行くなら替えた方がいい」


「今の剣で不足があるとは思えないが」


レオンの手元には、紅蓮王の剣がある。セレス周辺で見れば、十分すぎるほど強力な武器だ。魔力を帯びた刀身は傷一つなく、普通の鉄剣とは比べるまでもない。


クロウにとっては、序盤から中盤へ移る時期に使う武器だった。


「武器だけじゃない。防具もだ。セリアの杖も替える」


「私の杖も、まだ使えます」


「使えるかどうかじゃない。効率の問題」


クロウは収納袋から、古びた地図を取り出した。


「ここに隠しエリアがある。普通の道からは入れない」


「また隠しエリアですか」


「装備が置いてあるからな」


目的地はセレスの西にある廃礼拝堂だった。街道から外れた丘の上にあり、今では屋根の一部が崩れている。クロウは以前、ゲームの中で何度もそこへ通った。


入口から入るのではない。


礼拝堂の裏手にある倒木を三本、決められた順番で動かす。床下にある隠し階段を降り、途中の壁に描かれた紋章へ、魔力ではなく血を一滴だけ落とす。


現地の人間が見つけられないのも当然だった。


「ここが廃礼拝堂か」


丘へ着いたレオンが見上げた。


「礼拝堂というより、崩れた倉庫ですね」


「昔は礼拝堂だったらしい。ゲームでは隠しダンジョン扱いだ」


「あなたの中では、何でもゲームですね」


「実際、そういう場所だからな」


クロウは礼拝堂を回り、倒木へ手をかけた。一本目を右へ倒し、二本目を手前へ引く。三本目は動かさず、根元に落ちていた石を拾って横へ置いた。


地面が低く鳴った。


礼拝堂の床の一部が沈み、石造りの階段が現れる。


セリアは黙ってその様子を見ていた。


「これを、偶然発見したと説明するのは難しいですね」


「別に説明しなくていいだろ」


「誰かに見られた場合は?」


「先に取れば問題ない」


クロウは階段を下りた。


地下には、礼拝堂の規模からは考えられないほど広い空間が広がっていた。壁には青い鉱石が埋まり、薄暗い光を放っている。通路の奥から、石の擦れる音が聞こえた。


「敵がいる」


セリアが言った。


「三体。左右に一体ずつ、奥に大型が一体」


《戦場把握》を得てから、彼女の報告は迷いがなくなっていた。


「その通り。左右はレオンに任せる。奥のやつは俺が止める」


「大型を一人で?」


「短時間なら大丈夫だ」


石の鎧をまとった人形が、通路の奥から姿を現した。頭部に目はない。胸の中央に小さな赤い石が埋まっている。


クロウは足元の白線を見つけた。


「あいつは線の外へ出られない。レオン、左右を片づけたら赤い石を狙え」


人形が腕を振る。クロウはぎりぎりで避け、攻撃を石壁へ誘導した。大きな音とともに壁が砕ける。


「ずいぶん乱暴な攻略ですね」


「安全な位置に立っているだけだぞ」


レオンが左右の人形を倒した。紅蓮王の剣が赤い光を帯び、石の継ぎ目を正確に断ち切る。セリアは大型の人形が腕を上げるたび、攻撃範囲を伝えた。


「右腕、三歩下がってください! 次に左足が沈みます!」


レオンが従い、クロウが人形の背後へ回る。三人の動きに無駄がない。


最後にクロウが赤い石へ短剣を突き立てた。


人形が崩れ、地下空間に静けさが戻った。


「さて、宝箱だ」


クロウは奥の壁へ歩いた。そこには何もないように見えたが、右から二つ目の鉱石を押すと、壁が横へ開いた。


中には三つの箱があった。


クロウは一つ目を開け、青い外套を取り出した。二つ目からは、細身の杖。三つ目には、赤黒い金属で作られた腕当てが入っている。


「まあまあだな」


クロウは外套を広げた。


「繋ぎ装備としては使える」


レオンは腕当てを手に取った。軽い。表面に刻まれた魔法陣は、彼の力を受けてわずかに赤く光った。


「これが、繋ぎ?」


「三十台なら十分だ。四十を越えたら替える」


「これ以上に良い装備があるのか」


「いくらでもあるぞ」


セリアは杖を鑑定していた。魔力の伝導率、詠唱補助、精神疲労の軽減。どの項目を見ても、王都の一級魔術師が使う杖に匹敵する。


「クロウ」


「何だ?」


「これは、どこで売るつもりですか?」


「売らない。使う」


「全部ですか?」


「俺に合うのは外套だけだな。杖はセリア。腕当てはレオン」


クロウは残った箱から魔石を取り出し、腰袋へ入れた。


「余った装備は?」


「売ればいい」


セリアは返事をしなかった。


彼女の計算では、杖だけでも小さな商会を一年運営できるほどの価値がある。腕当てと外套を合わせれば、地方領主が保管していても不思議ではない。


それをクロウは、狩りの途中で拾った消耗品のように扱っていた。


「これは、他人に見せない方がいいと思います」


「どうして?」


「欲しがる人が出ます」


「そうか。じゃあ、普段はしまっておく」


クロウは素直に外套を収納した。


セリアは少し安心し、それから別の問題に気づいた。


「この場所も、知られない方がよいですね」


「宝箱はもう空だぞ」


「装備だけの問題ではありません。壁の鉱石です」


地下空間の壁には、青白い鉱石が大量に埋まっている。魔力を蓄える性質があり、魔道具や高級な術具の材料になる。採掘すれば、セレス周辺の相場を変えるほどの量だった。


クロウは壁を見て、少しだけ考えた。


「使わないなら、あとで掘ればいいんじゃないか」


「あとで、ですか?」


「今はレベル上げが先だからな」


その言葉に、セリアは小さくうなずいた。


クロウは本気で言っている。装備も鉱石も、彼にとっては次の狩場へ進むための手段にすぎない。


だからこそ、情報を管理する必要がある。


「ここは私が記録しておきます。場所は他人に伝えません」


「頼む」


クロウは新しい外套を身につけた。黒に近い青色の布が、肩から背中へ静かに落ちる。魔力を込めると周囲の光をわずかに吸い、姿が見えにくくなる効果まであった。


「似合っているな」


レオンが言った。


「そうか? 性能は悪くないけど、見た目は普通だろ」


セリアは外套の紋様を見て、答えを飲み込んだ。


普通の品ではない。普通どころか、王都の宝物庫にあってもおかしくない。


だが、クロウの言う「普通」は、彼が遊んでいたゲームの基準なのだ。


地下を出ると、丘の麓で旅の商人と出会った。商人は三人の装備を見て、特にレオンの腕当てへ視線を固定した。


「その品、どこで手に入れたんです?」


「拾った」


クロウが答える。


商人はそれ以上聞かなかった。聞けなかったのだろう。


クロウは気づかず、次の狩場を地図で確認していた。


「装備も揃った。これで、次の場所へ行ける」


「次は、どれほどの装備が必要なのですか?」


「今回より少し強いくらいだな」


レオンとセリアは、新しく手に入れた装備を見た。


少し強い。


その言葉がどの程度の差を意味するのか、二人にはもう分からなかった。


ただ一つ確かなのは、三人の旅が次の段階へ進んだことだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。