↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
17/54

第17話 誰も取っていないスキル

旧採掘場を出た翌日、クロウはセリアの戦い方を見て、ふと思い出した。


「セリアなら、あのスキルが取れるな」


「また突然ですね」


セリアは朝食の手を止めた。レオンも、肉を切るナイフを止める。


「どんなスキルだ?」


「補助と観察系。取得条件が面倒だから、ゲームでは取る人が少なかった」


「面倒というのは?」


「決められた順番で魔物を倒して、決められた場所で特定の行動をする」


クロウはパンをかじりながら説明した。


「それだけなら、別に面倒ではないのでは?」


「順番を間違えると最初からやり直し。途中で別の魔物を倒しても駄目。しかも必要なアイテムが一つ、普通に拾っていると捨てやすい」


セリアはすぐに帳面を開いた。


「必要なアイテムの名前は?」


「灰色の羽根。昨日の採掘場で拾った鉱石の欠片と交換できる」


「それを、なぜ昨日のうちに言わなかったのですか」


「思い出してなかったから」


セリアのペンが止まった。


「……あなたの記憶は、そういう仕組みになっているのですね」


「どういう意味だ?」


「重要な情報を、必要になるまで保存しておける仕組みです」


「普通に忘れてるだけだぞ」


セリアは何も言わず、帳面に書き足した。


目的地はセレス東方の森にある、古い巡礼路だった。ゲームでは低レベル帯の脇道にすぎない。だが、特定の条件を満たすと、森の奥にある小さな祭壇が反応する。


クロウが覚えている限り、取得できるスキルの名前は《戦場把握》。周囲の敵味方の位置、魔力の流れ、負傷の程度を感覚的に捉え、支援魔法の効率を高める。派手さはないが、パーティー全体の生存率を大きく上げるスキルだった。


セリアのためにあるようなスキルだ。


「まず、森の入口で角兎を三体」


クロウは歩きながら説明した。


「一体目はレオン。二体目は俺。三体目はセリアが倒す」


「私が?」


「弱いから大丈夫だ」


「安心していいのか、侮られているのか分かりません」


角兎は確かに弱かった。ただし、順番を間違えれば条件は失敗する。クロウは周囲の魔物を避け、必要な三体だけを誘い出した。


レオンが一体目の角を受け流し、首元へ剣を入れる。クロウが二体目を短剣で仕留め、最後の一体へセリアが向き合った。


角兎が跳ぶ。


セリアは杖を構えたが、すぐには魔法を放たなかった。昨日の戦いで見た動きを思い出しているのだろう。着地の瞬間に足が止まる。その一瞬を待ち、魔力の矢を放つ。


角兎が倒れた。


「順番は合っている」


「ずいぶん簡単に言いますね」


「次が面倒だからな」


森の奥では、三種類の魔物を指定された順番で倒した。毒を吐く蛙。音で位置を探る蝙蝠。そして、倒すと周囲へ光を散らす白い鹿。


クロウは魔物の攻撃を避けながら、セリアへ細かく指示を出した。


「蛙は倒した後、毒袋を壊すな。蝙蝠は魔法を使わず、レオンが仕留める。鹿は最後に、角へ触れてから倒す」


「指定が多すぎませんか」


「ゲームでは説明されないからな」


「それを、あなたはどうやって知ったのですか?」


「攻略サイトに書いてあった」


「そのサイトを書いた人は?」


「たぶん、失敗した人」


セリアは深い息を吐いた。


それでも、彼女の動きは明らかに良くなっていた。敵の間合いを読み、レオンの死角を補い、クロウが狙う場所へ魔力を集中させる。まだ強力な魔法は使えない。だが、戦場全体を見る目が育っていた。


最後の白鹿を倒すと、森の奥で鐘の音が鳴った。


「条件達成だ」


クロウは迷いなく、苔むした石碑へ近づいた。表面に刻まれた文字へ、灰色の羽根を押し当てる。石碑が淡く光り、奥の木々が左右へ割れた。


その先に、小さな祭壇が現れた。


祭壇には古い杖が置かれていた。柄には目のような紋章が刻まれている。


「触ればいいのですか?」


「その前に、三人で手を置く」


三人が祭壇へ手を重ねる。


光がセリアの腕を伝い、胸の奥へ流れ込んだ。


彼女は目を閉じた。


周囲の音が遠くなる。代わりに、森の中にいるものの位置が、輪郭として浮かび上がった。レオンの呼吸。クロウの魔力。木々の間を走る小動物。遠くでこちらをうかがう魔物。


敵味方の区別が、考えるより先に分かる。


セリアが目を開くと、視界の端に淡い文字が浮かんでいた。


《戦場把握》を取得しました。


「……これは」


「取れたか?」


「はい。周囲の位置が分かります。魔力の偏りも、少しだけ」


「やっぱり向いてたな」


クロウは満足そうにうなずいた。


セリアは、祭壇と自分の手を見比べた。自分の適性に合わせた道筋を、クロウは迷いなく示した。彼にとっては、効率のよい育成方法の一つなのだろう。


しかし彼女にとっては違う。


これまで数字と帳簿でしか把握できなかった状況が、直接感じ取れる。人や物の流れを読むように、戦場の流れまで読める。


「私にも、こういう力があるとは思いませんでした」


「使えるなら使えばいい。ゲームでも、支援役は便利だぞ」


「またゲームですか」


「大事なことだろ」


レオンが苦笑した。


「俺にも、同じような隠しスキルはあるのか?」


「あるけど、今は取らない方がいい」


「なぜだ」


「取得効率が悪いから」


レオンはしばらく黙った。


「俺は、効率で後回しにされたのか」


「そういうことだな」


「……納得しづらい」


セリアは思わず笑った。


帰り道、祭壇の近くに生えていた青白い草を見つけた。セリアが鑑定すると、治癒薬の材料として非常に価値があるものだと判明した。森の外ではほとんど採れず、薬師なら高値で買うだろう。


「これは、他人に場所を知られない方がいいですね」


セリアは草を見ながら言った。


「使わないなら売れば?」


「売るとしても、採取場所まで伝える必要はありません」


「そうか。任せる」


クロウは興味を失ったように、次の狩場の地図を広げた。


セリアは青白い草を布で包みながら、改めて理解した。


クロウは攻略のためなら、誰も知らない道を進み、誰も得られない力を手に入れる。その一方で、攻略に直接関係しない価値には驚くほど無頓着だ。


だからこそ、彼の隣には自分が必要なのだろう。


「次は、どこへ?」


「装備を更新してから、もう少し強い狩場へ行く」


クロウは即答した。


セリアは帳面を閉じ、レオンと並んで歩き出す。


新しいスキルの感覚は、まだ体になじんでいない。だが、三人の中で自分が担う役割は、もうはっきり見えていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。