第4話 【ファイル1】さまよう死霊事件 その2
治安軍本部から公用車で北に一時間ほど移動すると、運転席のパネルから目的地への到着を知らせる音声が流れ、道の端に停止した。
ノースフロストの郊外まで来たらしく、広い道路に面しているにもかかわらず、他の車や人通りはないうえに、住宅や商店もまばらに建っていて活気もない。
レオンはルカを起こし、車から出ると、目の前の建物を見上げた。他の住宅よりも一回り大きく、敷地も広いようだったが、建てられて随分経つのか、外壁のレンガは長年の風雨に削られたように丸みを帯びており、ところどころ黒ずんでいたり、苔が生えていたりしている。
建物正面にある、重厚な木製の玄関扉の隣には、『葬儀屋 モルティエル』と控えめに書かれた看板がぶら下げられていた。
早速レオンは玄関の扉をノックしようとしたが、突然後ろから首根っこを引っ張られ、「ぐえっ」と潰れたカエルのような声が出た。
「おい! 何をするんだ!」
抗議すえうレオンに構わず、ルカは「いいか」とレオンに言い聞かせるように話す。
「田舎者のお前がヘマしないように先に言っておく。ここの協力者は頭がおかしいから、聞かれたことに対していちいちまともに取り合うんじゃないぞ」
「頭がおかしいって、どういうことだ?」
「ハア…。ユリア・モルティエルは普段、この家の裏手のある墓地で墓守をやっているが、鼻歌を歌いながら墓を徘徊し、墓石と楽しくおしゃべりする上に、死人の声が聞こえるとかでそのおしゃべりにこっちも巻き込んでくるような変人だ」
「そ、そうなのか…。弟のノアがいるって言ってたけど、そっちの方はどんな人なんだ?」
レオンは面倒くさそうに舌打ちをしつつも答える。
「言っておくが、お前の質問に答えるのは親切心からじゃない。仕事が面倒になると困るからだ。ノア・モルティエルはいつもダルそうにしているが、守銭奴でな。人を見るなりおすすめの棺の営業をかけてくる変人だ」
双子そろって変人だとルカに忠告を受け、一抹の不安とともに、レオンは玄関の扉をノックする。
しかし、中からは返事はなく、レオンは念のためにもう一度扉を叩き、「すみません、治安軍特務課の者です。ユリア・モルティエルさんはいらっしゃいますか?」と声をかける。
すると、扉の向こう側から「はぁーい。開いてますよぉ」とのんびりとした、やる気の感じられない声がした。
レオンが扉を開けると、入って正面に木製の立派なカウンターがあり、そのカウンターと一体化するようにだらけ切った人物がいた。
その人物は登録書の写真で見たユリア・モルティエルと瓜二つだったが、写真に写った彼女とは異なり、目に生気を感じさせないばかりか、寝癖の残る白髪を手櫛で整えながらひとつあくびをし、ひどく眠たそうな琥珀色の双眸でレオンたちの方を見る。
レオンは訓練学校で習った通り、軍服のズボンのポケットから治安軍の身分証を取り出し、カウンターに座っている人物に見せる。
「治安軍本部から来ました、レオン・コルネルです。捜査協力の件で…」
「あー、姉への用事でしょう。僕はただの葬儀屋。墓守で死霊術が使えるのは姉のユリアの方ですよ。見た目だけは似ているんでね、間違える人もいますが」
目の前にいるのは弟の方だったかと納得していると、ノアはカウンターに頬杖をつきながら、レオンの頭から足先までを値踏みするように見る。そうしたかと思えば、ノアは唐突に口を開いた。
「君さぁ。今年、治安軍に配属になった新人くん?」
「そうですが…」
ノアの質問に答えながらも、レオンは嫌な予感がした。
「見たところ、狼の獣人の血を引いているのかな。結構良い体格してるから材質は丈夫な方がいいなぁ。ま、そこはオプション料金かな」
ノアはブツブツと小声でつぶやいたかと思うと、パッと顔を上げ、レオンと目を合わせる。「君、レオンくんだったね。ウチで棺、作らない?」
「はい?!」
ルカから聞いていたとはいえ、あまりにも唐突な勧誘にレオンは声をあげる。しかし、ノアはそんなことはお構いなしといったように、カウンターから出てきて棺のカタログを抱えてレオンに近づく。
「あぁ、ごめんごめん。僕はノア。ノア・モルティエル。葬儀屋をやってるんだ。治安軍ってさ、殉職率も高いでしょぉ。ウチも何度も取引しているからわかるよ。今だったら、配属祝いってことで安くしとくけどどぉ? あ、もちろん分割払いもできるからそこは安心してよ」
怒涛の勧誘に困惑していると、背後から「おい、その辺にしておけ」というルカの声がした。
「おやおや、ルカ坊ちゃん。今日はどんなご予定でぇ? ついにウチで棺を作る気になりましたか?」
「バカ言うな。俺はそいつがヘマしないように見張っているだけだ。それで、ユリアはどこだ」
もみ手をしながらにじり寄ってくるノアから距離を取りながら、ルカは本題に戻す。すると、ノアはあからさまにため息をつき、がっくりと肩を落としながらカウンターに戻った。
「姉なら、接客中ですよ」
「接客? 彼女は墓守だろ。葬儀屋としての接客はお前がするんじゃないのか?」
それを聞いたノアは「見た方がはやいですよ」と言いながら、ふたりをカウンターの中へ通し、さらに奥にある黒色のカーテンで仕切られたバックヤードの方へ案内する。バックヤードに入ると、おそらく彼らの住居へとつながると思われる廊下があり、その手前には一つの扉があった。
「お客様がいらっしゃってますので、お静かに」
ノアはそう言って、廊下の手前の扉をほんの少し開ける。すると、ノアと全く同じ背格好をした人物、ユリアがレオンたちに対して背を向けるようにして座っており、その向かいにはテーブルをはさんで一目見ただけで上質なものだとわかる服を着た三十代くらいの男女が座っていた。
「娘はまだ八歳だったんです。あの日はヴァイオリンのレッスンの日で、とても楽しみにしていたはずなのに…。悪い友達にそそのかされて家庭教師の先生をだましてレッスンを抜け出して遊びに行ってしまったばかりか、川で溺れて死んでしまうなんて!」
ユリアの向かいに座っていた女性は娘を亡くした母親らしく、両手で顔を覆ってせきを切ったように泣きはじめる。その隣に座っていた亡くなった娘の父親は、母親の肩にそっと手を置き、彼女にハンカチを渡しながら言う。
「妻も私もあの日は忙しく、娘とまともに会話ができていなかった。だから、せめて生きた娘にはもう会えなくとも、彼女の声を聞きたいんです」
父親はそう言って上着の内ポケットから分厚い札束を取り出しながら「これで足りないのならばいくらでも」と言う。
そんな悲壮感に満ちた夫婦とは裏腹に、ユリアは今日の天気の話をするかのように、とても軽い口調で話し出す。
「いえいえ、そんな大金はいりませんよ。その三分の一もあれば十分なくらいです。それよりも、娘さんの声を聞くためには彼女が亡くなったときに身に着けていたものが必要とお伝えしましたが、お持ちいただけましたか?」
ユリアにそう言われ、母親は泣き腫らした顔を上げ、ハンドバックから白いハンカチに包んだ何かを取り出し、テーブルの上に置く。
「娘の髪飾りです。丁度、八歳の誕生日を迎えた時にプレゼントしたものでした」
ユリアは控えめなサイズの白いリボンが付いた髪飾りを手にし、満足そうに頷く。
「ありがとうございます。それでは失礼して…」
ユリアは手にした髪飾りにそっと息を吹きかける。すると、髪飾りから白いもやのようなものが出てきてユリアの体に吸い込まれていく。すると、ユリアは脱力したようにだらりと椅子の背もたれにもたれかかり、それからゆっくりと顔を上げ、両親の方を見上げる。
「お父さん、お母さん…?」
扉の隙間から中の様子を見ていたレオンは思わず息を飲んだ。ユリアの低くも軽やかさのある声とは全く違う、幼さが残る鈴のように可愛らしい声がユリアの口から発せられた。
到底、声真似で何とかなる範疇ではない芸当を前に、レオンの後ろから様子をうかがっていたルカは小声でノアに詰め寄る。
「おい。何だ、これは」
「何だ、と言われましても、『死者の声を聞く』というビジネスですよ。ウチも葬儀屋と墓守だけではなかなか厳しくってですねぇ。ま、サイドビジネスってやつですよ」
ノアはさして気にした様子もなく言う。
「まあ、僕としてはそろそろやめてもいいかなって思ってますが、一部からは好評ですし、口コミでそこそこ広まっちゃってますからねぇ。それに姉も楽しんでいるようで。でも、今日はたぶんすぐに終わりますから、もう少し待っていてくださいよ」
ノアはそう言ってルカに部屋の様子を見るように促す。
「エリシア、エリシアなのね?!」
母親は立ち上がってユリアに駆け寄り、父親もユリアに近づき、視線を合わせるようにひざまずく。
「エリシア、わかるか? お前のお父さんとお母さんだよ」
「お父さん、お母さん…」
「あぁ、エリシア、私がちゃんと見ていれば…、本当にごめんなさい!」
泣き崩れる母親の方へユリアは顔を向け、「それは違うよ、お母さん」と少女の声で言う。その言葉を聞いて母親は顔を上げたが、少女が次に発した言葉によって両親の顔がこわばった。
「あの日はね、ちょっとだけ外に出たくなったの。前の日も、その前の日もお勉強とヴァイオリンのレッスンばかりで遊びたくなっちゃって。そしたら、友達が川で遊んでて、私も仲間に入れてもらったんだよ」
「エリシア?! あなた、何を言っているの?! そうね、きっと悪い子にそそのかされたのね? そうよね?!」
取り乱しだした母親に構わず、少女はユリアの口で言葉を紡ぐ。
「友達は誰も悪くないの。家庭教師の先生に『すぐに戻ります』って言って抜け出して遊びに行ったんだよ。だから、お父さんもお母さんも私と遊んでくれる友達のことを『悪い子』って言ってるけど違うの。悪い子は私だよ。 本当は前からお勉強の時間にもこっそり抜け出して遊んでいたの」
滔々と語るエリシアの言葉を聞きながら、父親は声を震わせながら否定する。
「そんなはずがない…。エリシアが、そんな…」
エリシアの声はまるで軽やかにスキップするように続く。
「だって、良い子で居続けるのも疲れちゃうんだもん。良い子でいないとお父さんはすぐに怒るし、お母さんは『恥をかかせないで』って言うでしょ…?」
母親はうつむいて手をわなわなと震わせ、父親はみるみるうちに怒りで顔が真っ赤になっていた。
「そんなこと、エリシアが言うはずがない!」
父親の怒号とともに、拳でテーブルを叩いたところで、ユリアの体がビクリと震え、椅子から転げ落ちる。
「いたたたたぁ。おや、どうしましたか?」
床に転がったユリアはゆっくりと起き上がり、椅子に座りなおす。彼女の声は、ユリア本人のものに戻っていた。
「おい、これはどういうことだ!」
激昂して詰め寄ってくる父親にひるむことなく、むしろ愉快そうに笑いながらユリアは答える。
「『どういうこと』と言われましてもねぇ。あなた方の娘さんの言葉ですよぉ。せっかく声が聞けたのですから、もっと喜んでいただいても良いと思うのですがねぇ。それに…」
ユリアが話すのを遮り、母親は「ふざけないで!」とヒステリックに叫ぶ。
ユリアはエリシアの母親の叫び声に驚いたように目を見開いてから、芝居がかった仕草で肩をすくめる。
「私はいたって真面目ですよ。いつだってね。せっかくなので教えて差し上げますとね、私の声をエリシアさんに貸している間は彼女の生前の記憶が共有されるんですよ。
いやぁ、お二人ともなかなか娘さんをお大事にされてましたねぇ。学校の成績が振るわなければ部屋に閉じ込めて反省させ、ヴァイオリンが上手く弾けなければピシッとムチが飛んでくるんですから」
ケタケタと笑いながら言うユリアとは対照的に両親は青ざめる。そんな彼らの反応を知ってか知らずか、ユリアは楽しそうに続ける。
「きっとどんな『悪い子』でも矯正できますよぉ。いやぁ、エリシアさんでしたっけ? 教育熱心な親御さんに恵まれましたねぇ」
ユリアがそう言った瞬間、カンッと軽い音がした。音を発したのは、床に落ちたティーカップで、その中身の紅茶はユリアの頭にぶちまけられ、彼女の頬や髪をつたって紅茶がポタポタと床に滴り落ちていた。
「ば、馬鹿にしてっ…」
エリシアの母親はティーカップを投げつけた格好で今にもユリアを殺さんばかりに睨みつけている。
ユリアは、一瞬だけ笑うのをやめたかと思うと、次の瞬間、腹を抱えて大笑いし始めた。
「あっははははははぁ! すっごいねぇ、こんなに怒ってる人は久しぶりだぁ! やっぱり生きている人って素晴らしいなぁ!」
突然ひとりで笑い出したユリアをエリシアの父親は汚いものを見るように顔をゆがめ、母親はおびえた表情で後ずさる。
とんでもない展開になったと、扉の隙間から見ていたレオンはちらりとノアの方を盗み見る。しかし、ノアは「またこのパターンか」と言って頭を抱えた後、無関係を決め込むことにしたようで。我関せずといったように帳簿をめくり出した。ルカは興味がないのか、退屈そうにあくびをしながら事の成り行きを見守っている。
レオンはどうしたものかと焦っていると、部屋の中では、父親が怒りで床をダンと踏み鳴らしながらユリアの方へ一歩踏み出していた。それを見て、レオンは慌てて扉から飛び出した。
「ちょっと待ってください!」
レオンはユリアを背に隠すようにして、エリシアの父親の前に立つ。
突然の闖入者に、部屋にいた三人の間に沈黙が訪れる。
「誰なんだ、お前は!」
最初に沈黙を破ったのは、エリシアの父親だった。怒りで肩を震わせながらも、レオンの着ている治安軍の制服を見て、少し落ち着きを取り戻したように軽く息を吐き、ユリアの方を指さした。
「なんだ、治安軍の人間か。だったら、今すぐにこいつを逮捕してくれ」
「逮捕…。なぜです?」
レオンは内心再びこの父親の逆鱗に触れないかヒヤヒヤしながら尋ねる。
「なぜ、だと! こいつは高い金を払わせて私たちの娘の声を聞かせるとうそぶいたばかりか、私たちを侮辱してきたんだぞ!」
「やだなぁ。私は嘘はついてませんよぉ。料金だって割引したじゃないですか。それに…」
レオンの後ろからのんびりと抗議するユリアにレオンは「あなたは少しの間で良いので黙っててください」と半分頼み込むように言い、エリシアの両親と向かい合う。
「まず、彼女の交霊魔法は本物です。この部屋には交霊魔法を使用したときに残る魔法跡が色濃く残っています」
レオンはそう言いながら、胸ポケットから軍から支給された白色の魔法石が埋め込まれた杖を取り出し、部屋全体に魔法を使用した痕跡である魔法跡を視認できるようにする残痕視認魔法をかける。
すると、ユリアの座っていた椅子から黒いもやのようなものが立ち上がり、ユリアの使用した魔法が魔法式として数字や文字の羅列として浮かび上がる。
エリシアの父親はちらりと一瞥はしたものの、なおもレオンに食ってかかる。
「だが、こいつは私たちの家族を侮辱してきたんだぞ。こちらには優秀な弁護士もいる。それで裁判したっていいんだぞ!」
「そうよ、私たちのことをこんなに馬鹿にして…!」
エリシアの両親は口々にそう言いながらレオンの背後にいるユリアを睨みつける。
「しかし…!」
エリシアの両親の勢いに、どう説得しようかとレオンが怯みかけていると、背後の扉、先ほどまでレオンが隠れていた扉の方からルカの声がした。
「あんたらは訴えるだの息まいているが、無理だよ」
まっすぐとはっきり言い放つルカの声に、エリシアの両親は目を見開き、動きが止まる。そんな彼らに構うことなく、ルカは淡々と続ける。
「そもそも、侮辱ってのは『事実の提示を伴わず、社会的評価を下げる悪口』のことだ。ユリアの発言はただの事実の指摘。だから今回の場合、侮辱罪は成立しない」
「だったら!」となおも反論しようとした母親の方をルカは一瞥して続ける。
「だったら名誉毀損で訴えるってのも無理だ。あんたらの娘への虐待が事実であるなら、ユリアの発言は『真実性の抗弁』で無罪。それに、彼女は国に登録されている死霊使いだ。交霊魔法による死者の声や発言内容の正誤を判断する技術や方法はうちにもあるし、裁判でも一定の証拠能力は認められている。ユリアの証言が本当なら、児童虐待で調査が入るのはあんたらの方だ」
冷たく言い放つルカを前に、エリシアの母親が青ざめて拳を握って震えだし、父親は唇を噛んで押し黙る。場の空気は完全にルカに掌握されていた。
そして、ルカは床に落ちているティーカップを一瞥してニヤリと笑い、とどめを刺すように言う。
「そういや、あんた。さっき彼女に紅茶入りのカップを投げつけていたな」
ルカの視線に絡めとられ、エリシアの母親は「ヒッ!」と喉の奥からしぼり出すような悲鳴を上げる。
「あれならすぐにでも暴行罪として立件できる。人を訴える前に、優秀な弁護士やらと自分たちの罪をどうするか話し合うんだな」
淡々と告げるルカに対して、エリシアの両親は完全に押し黙ってしまった。しばらくの沈黙ののち、エリシアの父親は懐から札束を取り出すと、テーブルの上にドンッと置き、一言「帰る」と言ってエリシアの母親とともに逃げるように帰っていった。
ユリアが接客していた部屋は嵐が過ぎ去った後のように静かになった。
「これはこれは、特務課の方々。もういらっしゃっていたんですね。いやぁ、久しぶりに楽しくなってはしゃいでしまいまして。お見苦しいところを見せてしまい、申し訳ありませんねぇ」
その沈黙を終わらせたのはユリアだった。ユリアはそう言うと、ゆったりとした動作でレオンたちに向かって深々とお辞儀する。
「姉さん、面倒ごとは避けてくれって何回も言っているだろ。今回ので今週は三件目だぞ。あんまり変な噂が立つと葬儀屋の方の客も減ってしまうかもしれないじゃないか」
帳簿を片手に入ってきたノアは開口一番にユリアに抗議するが、ユリアは全く気にした様子もない。
「おや、この仕事を勧めてしたのはノアだったと思うのだけど…。私としては、この仕事は楽しいからまだまだ続けたいのだけどねぇ。それに、トラブルを避けるためとはいえ、死者の言葉をねじ曲げるのは彼らに対する冒涜だよ」
「だとしてもだ、それでうちの評判が下がったんじゃ本末転倒だよ」
さらにユリアが反論しようとしたところで、ルカが「姉弟喧嘩ならそこまでにしてくれ」と止める。
「ユリア・モルティエル。先に連絡があったから分かっていると思うが、捜査協力のため、俺たちと来てもらう」
「はいはい、分かっていますよ。どこでもお供いたします。それでは、すぐに準備するので待っていてくださいねぇ」
ユリアはそう言ってレオンたちが隠れていた扉から部屋を出て行くと、五分ほどで戻ってきた。戻ってきたユリアは、服に合わせた黒の外套を羽織り、腰のベルトにはランタンを取り付け、手には女性が持つには大ぶりで長年使い込まれたであろう金属製のシャベルが握られていた。
「ずいぶんと大荷物ですね…」
「そうですかねぇ。まあ、どれも先代から頂いた大事な仕事道具なんですよ」
主にユリアの手に握られたシャベルを見て驚きつつも、レオンは乗ってきた公用車の後部座席にユリアを案内する。
「おっと、忘れるところでした」
ユリアは後部座席に乗り込む直前にくるりと振り返り、見送りに出てきたノアに声をかける。
「ノア、お土産は何がいいかな?」
「強いて言えば、何も買わないことだな。出て行くお金は少なければ少ないほどいいよ」
「あれま、つれないなぁ」
ユリアは残念そうに肩を落として公用車に乗り込む。それを見て、レオンは公用車のエンジンをかけ、静かに発進させた。




