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不意打ち

 ベッドの上、横向きで向き合った状態だ。

 小雪は直哉の胸に顔を埋めて、仔猫のように目を細める。

 

「えへへ……直哉くんのにおいだー……」

「ほ、ほんとに待ってくれませんかね……!?」


 風邪で上がった体温がダイレクトに伝わるし、息遣いや匂いもとても近い。

 昨日は上半身裸で温めあったので、今日の方がまだお互い服を着ているだけマシのはず。


 それなのにベッドで一緒に横になっているというだけで、これまで経験したどんなイベントより遥かにインモラルに感じられた。上には上があるということを、直哉は身をもって知った。


 小雪が風邪でぼんやりしているせいで、余計に色っぽく見えるのも一因だろう。

 赤く染まった頰だったり、とろんとした目だったり、熱っぽい吐息がこぼれる唇だったり……そこだけ切り取れば、完全に『イケナイこと』をしているような状態だった。


(まずいだろ!? 風邪をうつされるだけならいいけど……色々とまずいって!?)


 はたから見ると完全に据え膳状態だろうが、今の小雪は理性ゼロだ。

 そこに手を出すのは、彼氏とかそんな以前に人としてアウトだ。

 だから直哉は必死にこの危機的状況を打開しようとするのだが――。


「ほ、ほら、小雪……一緒に寝るのはまずいだろ……そろそろ放してくれないかな……?」

「やだ」

 

 小雪は即答して、拗ねたように口を尖らせる。

 

「ひとりで寝てるの、さびしいんだもん……直哉くんも、一緒がいい……」

「俺はどこにも行かないから。それにほら、このベッド、さすがにふたりで寝ると狭いだろ? だから俺は出て――」

「せまいー……? だったら、もっとくっつくね……?」

「ち、違う……!?」


 完全に墓穴を掘った。

 小雪はさらにぎゅーっと抱きついて、足を絡めてくる始末だった。

 生足の感触が心臓に悪い。逆に寝にくいだろうとツッコミを入れる余裕もなかった。


 小雪はますますご機嫌そうに、頬を緩めてへにゃっと笑う。

 

「ふふ……直哉くん、しゅきー……」

「俺も好きだけど……やっぱりこれはアウトだろ!?」

 

 むしろセーフの部分が見当たらなかった。

 相手が病人なので力尽くで押し除けることはできないが、拘束からなんとか逃れようと直哉はじたばたと暴れる。

 

「ええい放せ! いい子にしてたら、あとでなんでも好きなの買ってきてやるから! な!?」

「むう……うるさいなー……」

 

 小雪は目をこすりながら不満そうに言う。

 抱き枕のおかげか、また眠くなってきたらしい。

 静かに寝かしてやりたいところだが、そうも言っていられない。

 

(このまま寝られると本気で後がない……!)

 

 直哉はなおも抵抗しようとするのだが、その目論見は完全に打ち砕かれることとなる。

 小雪が『そうだ』とばかりに目を光らせて、直哉の首筋に腕を回した。そして――。

 

「うるさい人にはー……んっ」

「っっ……!?!」

 

 あろうことか自分の唇を、直哉の唇に押し付けたのだ。

 直哉はその瞬間に凍りつく。それは、あれだけ機会を伺い続けていたはずのファーストキスそのものだった。


 唇の柔らかさも、ゼロ距離にある小雪の閉じた目も、かすかに触れ合った鼻先も、なにもかもが濃厚な現実感とともに脳裏に強く刻み付けられた。


 時間にしてほんの数秒。

 しかし直哉にとっては永劫にも思える時間ののちに――。

 

「えへへ……しずかになったー……」

 

 小雪はそっと唇を離して、いたずらっぽく笑う。

 そのままゆっくりと目を閉じて――。

 

「それじゃ、おやすみー……」

 

 すぐにすやすやと心地良さそうな寝息を立てる。

 直哉は抱きつかれて固まったまま、真っ赤になって呻くしかなかった。

 

「う、奪われた……!?」

続きは明日更新します。明日で本章ラスト!

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書籍をお買い上げいただき、巻末の宛先までファンレターをいただけると、もれなく『イケナイことを教え込む(略)』と本作の書き下ろしSS、新作プロローグが収録された16pの小冊子をプレゼントいたします!ぜひどうぞ。

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― 新着の感想 ―
[一言] >完全に『イケナイこと』をしているような状態 魔王「ガタッ」 狼の仔「ガタッ」 地獄カピバラ「ドンガラガッシャーン」
[一言] 小雪……可愛い……グフッ…
[良い点] 直哉君の理性にひたすら感服です。 こういう時の小雪ちゃん。デレのみで可愛いですね。
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