少年「手伝うよ」
「ねえ、手伝っていいかな?」
「…」
それはまた突然の言葉であった。
いつも通りの、押しつけられた仕事の一つである汚物の処理中。簡単に言えばトイレに堪ったアレなんかを捨てる仕事の途中の出来事である。
いつもなら誰にも声をかけられず、カラはもくもくと作業をする予定だった。それは先ほどやった皿洗いにおいても同じである、しかし今回もまたこの少年によって、そのような今までの日常的な慣習が壊されてしまった様な感じがしたのであった。
「…」
ジィ…っとカラはちょっと怪しげな眼でみつめる、いくら先ほどの皿洗いをキチンと最後までしてくれたからと言って、カラの中において、いままでカラ味方と言える人は存在しなかったからである、これはカラが記憶喪失だと言う点も影響しているであろう。
つまり、いままでカラが出会ってきた人間は、カラをいたぶってきた大人の連中やいじめっ子のみであり、カラがこの様に他の人間に対して警戒感を持つようになるのは当たり前の事であった。
「…あっ、ごめん怒った?」
少年が彼女のその行動を怒っていると認識してしまったのだろうか、後ずさりながら謝罪する。
「…別に」
カラは別にここで嘘を言ってもなにもならないのでそう言う。
「…そっか」
その言葉に喜んだように、少年が先ほどまで薄めていた笑顔が、またパァっと輝き出し始めた。
少年は真に許可を得た後、すぐさま鼻をつまみながら汚水をくみ取る、汲んだ量も多く、その姿が真剣そのものであった事に、カラはちょっと顔を緩めた。
「くさいね…君はいつもこんな匂いに我慢してるんだ…すごいよ、僕にはまねできないな」
「…」
少年のお世辞に、カラは何の返答もなしに、むすっとしたような顔を向ける。
「…ねえ、なにか話そうよ、さっきの皿洗いのときもなにも話さなかったしさ、そうだ、昨日食べたリンゴ、どうだった」
「…」
少女はさらに顔をむすっさせながら少し間をおいて小さい声で言った。
「食べれなかった」
「え?」
「私の分はなかった」
「…」
少年はカラの言葉をきいて、その言葉が予想できなかったためか、半ば呆然として体を動かす事が出来なかったのであった。
「…」
カラは呆然となっている少年をじっとにらむ。
「あっ…ご…ごめんしらなくて」
少年は呆然して真っ白になった頭から好転したのだろうか、慌てて謝ったのであった。
「…別に良い」
カラはそう言い、少年の事はほおっておいて、一人で汚水を捨てに歩いてゆく。
「え…ちょっとまってくれよ」
少年は用器に入った汚水をこぼさないように、慎重に、急いでカラを追い掛けて行ったのであった。
そんなバカな…
皿洗いだけではなく、汚水処理まで手伝うと言うのか、しかも用器一杯に…
これは…
これはもしや…
これはあれだな、奴ら本気を出したって事か。
ふっ、まさか連中ここまでしてカラをいじめたくなったと言うわけか、油断ならねえ、血も涙もないぜ本当、カラの心をなんだと思ってるんだこいつら、人間じゃねえな。
本当はこんな奴ぶっとばしてやりたいところだが、残念ながら俺はパンツだ、殴り飛ばすどころか、悪口すら言うことができない。
まあ、幾ら本気でも最初だけさ、後からは段々ボロだして最終的にはやめて帰るだろう、なにせこの汚水処理はカラがやっている仕事の中で断トツに最悪な部類に入るからだ、まずお風呂にはいった位じゃおちない匂い、そしてあれやらこれやらで汚れる身体…そんなすさんだ心じゃ30分と持たないって、もしかしたら心配する必要なかったかもなうん、さあさっさとボロを出しやがれ、そしてカラから離れやがれクソヤローが。
けっ
「よいしょ…これで終わりだね、ホントこんな汚い仕事良くできるよな、ホント凄いなカラちゃんは本当」
「…」
カラはじっと、何時間もの時間をかけて、この仕事を最後までやり遂げた少年を見ながら、やはりむすっとしていた。
「…ねえカラ、もしかして僕の事信用できてない?」
少年が心配そうにそう言う。
「…」
その言葉に、カラは迷わず首を縦に振るう、はたから見れば失礼な行為かもしれないが、現状において、カラが記憶喪失であり、またその記憶喪失後からろくな人間に会った事がないという悲劇的な事の連続によって、カラの精神は半ば人間不信となっていためた、このような行動を起こすのもむりなからぬ事であった。そして、もしかしたら寄生虫野郎の影響かもしれない。
「そっか…」
ショボくれた顔をしながら、少年は残念そうにそう言った。
「…」
そしてその言葉に、なにも言い返せなく、ただどうすればいいのかカラは迷っていた。
「じゃあさあ」
しかし、少年は迷ってしまったカラを導くがごとく、さっきまでのショボくれた顔は何処へやら、またパァっと輝いてそう言う。
「別に信用しなくてもいいからさ、カラの仕事を僕に手伝いさせてよ、僕もいままでカラが…その、あんな目にあっているのを知っているし、カラの僕を信用できない気持ち、わかるよ…だから、別に信用しなくたっていい、せめて僕にいままで見て見ぬふりをしてしまう自分の罪滅ぼしとして、僕にカラの仕事を手伝わせてほしい」
「…ッ!!」
あまりにも予想外な言葉なのか、カラはさながら空気を吸い込む金魚みたいに口をパクパクさせながら驚いた。
「じゃあ、次の仕事行こう、さっさと終わらせような」
少年はそう言うと、カラに向かって手を差し伸べた。
…え?
え?何この急展開ついていけないよ。
幾ら言葉が分かんないからってこのカラの動揺ぶり、そして少年の献身的な今までの行為…
まさかこの少年のこの行動は奴らいじめっ子どもの陰謀じゃないかもしれないだと…少なくても今回の汚物処理の仕事を最後まで真剣にやったことからその可能性は低くなったな…
じゃあなんだ?
こいつは本気でカラと仲良くなりたいってか?
…まあ、百歩譲ってそうだとしよう、
だけどな、一つ問題が有る、コイツが気づいているのか居ないのかはパンツの俺には分かんねーが。
恐らくこいつもいじめっ子の連中のターゲットになるぞ、大体いじめっ子って言うのは、いじめている奴を助ける奴もいじめると言う悪の鏡みたな連中だしな、
…まあコイツもその事が理解できている上で、カラと友達になりたいのが本当で、カラもコイツに心を許せるようになったら、なんやかんやで俺が望んでたカラの友達ができるようになるな…
嬉しい事だ…




