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男たちの楽しい海水浴、上空では天使が全部記録していた

### 番外編――海のナンパ会と記録特化の天使


【海岸】


「よし! 今日は海だ!」


主人公が拳を突き上げる。


その隣には、格闘特化、腰振りスペシャリスト、拷問特化、そしてゲイバーのお兄さんが並んでいた。


「ようやく脱走に成功したな……!」


格闘特化が拳を握りしめる。


「女性陣の目を盗んで、全員で連携した甲斐があったぜ」


腰振りスペシャリストが低く頷く。


「これで今日は普通に遊べる」


拷問特化が腕を組む。


「俺は平穏厨なんだが……まあ、たまにはな」


お兄さんが呆れながらもついてくる。


男たちは互いに顔を見合わせ、笑った。


ここまでの道のりは長かった。


女性陣の注意を別方向へ引きつけ、監視の目をかいくぐり、追跡されないように移動経路まで工夫した。


完璧な脱走計画だった。


「さあ、今日は男同士で思いっきり遊ぶぞ!」


「おう!」


男たちは海へ駆け出した。


まずは海水浴。波に飛び込み、泳ぎ、砂浜で休憩する。


次にビーチフラッグ。砂の上を全力疾走し、フラッグを奪い合う。


格闘特化が圧倒的な脚力で連勝し、腰振りスペシャリストが微妙な腰の動きでバランスを崩して転び、拷問特化が「いい出来だ」と自分の走りを自己評価し、お兄さんが「俺は店に戻りたい」とぼやきながらも参加した。


続いてビーチバレー。ネットを挟んで激しい攻防。


主人公のサーブ、格闘特化のスパイク、腰振りの予想外のフェイント、拷問特化の「絶対に落とさない」守備。


さらに砂掘り競争、スイカ割り、簡易的なサーフィン真似事まで、一通りの海遊びをこなした。


海の家で飯を食い、ひとしきり遊んだところで、腰振りスペシャリストが突然立ち上がった。


「……さて、ここで一つ、重要な議題を提案したい」


「何だ?」


「この中で誰が一番魅力的なのか、競い合おうじゃないか」


「おおっ!」


男たちの目が輝いた。


「容姿、会話術、包容力、そして女性を惹きつける魅力。それぞれの長所を存分に発揮し、誰が頂点に立つのか決めよう」


格闘特化が熱く乗る。


「俺の強さと真っ直ぐさを見せつけてやるぜ!」


腰振りスペシャリストが腰に手を当てる。


「俺のキレと雰囲気で勝負だ」


拷問特化が淡々と。


「……いい出来の男が勝つ。当然だ」


お兄さんがため息をつく。


「俺は店の営業時間を気にしてるだけなんだが……まあ、付き合うか」


主人公も腕を組んで頷いた。


「いいじゃないか。今日は女性陣の監視もない。存分に競い合おう」


男たちは砂浜で大いに盛り上がった。


誰が一番格好いいか。


誰が一番女性に好かれそうか。


互いの長所を褒め、欠点を指摘し、冗談を飛ばし合う。


「お前の腰の動きは確かに魅力的だが、日常生活でどう使うんだ」


「力だけじゃ女性は寄ってこない。包容力も必要だ」


「俺の『いい出来だ』は説得力がある」


「俺はただ普通に生きたいだけなんだが……」


久しぶりに、何の心配もなく過ごせる時間だった。


――その頃。


【上空】


海岸から十分に離れた上空。


そこには、天使の姿があった。


エンジェルである。


彼女は手にしたバインダーを開き、眼下の主人公をじっと見つめていた。

バインダーを抱いているだけで頬が赤く、瞳が潤み、軽いハイ状態になっている。


「記録開始から、順調にデータが蓄積されていますね……ふふっ」


バインダーには、細かい文字がびっしりと書き込まれていた。


主人公が女性に目を向けた回数。

女性の顔を見た回数。

女性の身体の特定の部位に視線を向けた回数。

視線を向けてから戻すまでの時間。

女性と会話した際の表情の変化。

ほかの男たちと会話している最中に女性の存在へ気づいた回数。


「女性Aへの視線、合計十二回……女性Bへの視線、合計八回……特定部位への視線、合計三回……」


エンジェルはペンを走らせる。

声が少し甘くなっている。


「なるほど。主人公様は、あの女性が通り過ぎた際に一度振り返っていますね。

……残しておきたい。全部、私の手元に」


カリカリカリカリ。


隣で、魔導が扇子を優雅に開いていた。


「ふふっ♡ エンジェルさん、いい表情ですわね。ハイになって記録に没頭する姿、とても愛らしいですわ」


監視特化がポテトチップスを齧りながらモニター代わりの端末を確認する。


「映像は全部こちらでも記録済みですわ。上空からの視点、地上カメラ、すべて同期しています。

ご主人様の視線移動、0.3秒単位で解析可能ですよ♡」


潜入特化が影のように静かに微笑む。


「逃げ道は最初から塞いでありますわ。男の人たちが『成功した』と喜んでいる顔も、ちゃんと記録に残しておきました」


エンジェルが目を輝かせる。


「ありがとうございます……! これで主人公様の『普通に遊んでいるつもり』の表情も、全部残せます。

愛ですから。正確に、永遠に、私だけが把握しておきたいんです」


魔導が扇子の陰で笑う。


「チャオ♡ いい病み方ですわ」


監視特化が頷く。


「ご主人様の一挙手一投足を見逃さない。それが私たちの仕事ですものね♡」


潜入特化が低く呟く。


「……帰宅後の回収も、スムーズにいくように手配済みですわ」


エンジェルはバインダーの余白に大きく書き込んだ。


『主人公様の女性に対する視線について――詳細調査報告書

備考:本人は監視されていないと確信している。この油断した表情も、極めて価値が高い』


「ふふっ……♡ 愛ですから♡」


地上の男たちはそんなことなど知る由もなかった。


彼らは海を満喫し、最後まで脱走の成功を信じていた。


そして夕方。


「いやあ、今日は楽しかったな!」


「久しぶりに心から遊べたぜ!」


「また来ようじゃないか!」


男たちは満足しきった顔で屋敷へ戻ってきた。


主人公も晴れやかな表情だった。


「やっぱり、普通に遊ぶのが一番だな!」


その瞬間。


「お帰りなさいませ、皆さん♡」


玄関で、一人の天使が出迎えた。


エンジェルだった。


「……」


主人公の笑顔が固まった。


「今日は楽しかったですか?」


エンジェルはにこやかに尋ねる。

その手には、あのバインダーがあった。

しかも、表紙を開いた状態で。


中には、今日一日の主人公の行動記録が、ページいっぱいに書き込まれていた。


「……おい」


主人公の額から冷や汗が流れた。


「お前、何やってんの?」


「記録です♡」


「何の?」


「主人公様の本日の行動記録です♡」


エンジェルは、まるで天気の話でもするかのように答えた。

ハイの余韻で声が少し甘い。


「主人公様が女性に目を向けた回数、特定の部位に視線を向けた回数、視線を戻すまでの時間、会話中の反応……すべて記録してあります♡」


「全部!?」


主人公はバインダーを覗き込んだ。


そこには、信じられないほど細かい数字が並んでいた。


「女性A、視線十二回。女性B、視線八回。女性C、視線五回……」


「待て待て待て! 何でそんなもんまで数えてんだよ!?」


「愛ですから♡」


「愛で片づけるな!!」


主人公は思わず叫んだ。


そのとき、ふと気づいた。


「……あれ?」


周囲を見回す。


格闘特化がいない。

腰振りスペシャリストもいない。

拷問特化も、ゲイバーのお兄さんもいない。


つい先ほどまで一緒に帰ってきたはずの男たちが、忽然と姿を消していた。


「……あいつら、どこ行った?」


「皆さんなら、すでにそれぞれの場所へ戻られましたよ♡」


「いつの間に!?」


「主人公様が私のバインダーをご覧になっている間に♡」


「お前ら、俺を置いて逃げやがったな!?」


主人公は玄関の外へ駆け出そうとした。


だが、その前にエンジェルがバインダーを閉じた。


「それでは、主人公様」


彼女の表情から笑みが消える。

代わりに、病んだ熱が宿る。


「本日の記録を踏まえまして、お仕置きの時間です♡」


「待て。お仕置きって何だ!?」


「もちろん、主人公様を正しい方向へ導くためのお仕置きです♡」


エンジェルはバインダーを開き直し、記録を読み上げた。


「本日、主人公様が女性へ目を向けた回数は合計二十五回。特定部位への視線は三回。

……ですので、その回数分だけ、お仕置きを受けていただきますね♡」


「はあ!? 回数分って何だよ!?」


「説明になってねえ!」


エンジェルがバインダーを構えた。

魔導の手によって改造された、恐るべき記録兵器。


その砲口が主人公へ向けられる。


「では、二十五回プラス三回分、発射しますね♡」


「おい! ちょっと待――」


ドゴォォォォォン!!


衝撃波が炸裂した。


「うわああああああああああっ!!」


主人公の身体が屋敷の敷地を飛び越え、彼方へと吹き飛ばされていった。


エンジェルはバインダーに目を落とし、淡々と、しかし満足げに記録する。


「お仕置き開始。視線回数に基づく衝撃波による主人公様の搬送、成功♡」


そして、彼女は飛んでいく主人公を追いかけた。


「お迎えに参りますね、主人公様♡ 残り回数分も、きちんと執行しますからね♡」


――数分後。


主人公は、女性陣が待つ場所へ運び込まれていた。


「はい♡ 主人公様をお連れしました♡」


魔導が扇子を優雅に開き、監視特化がカメラを向け、潜入特化が影から微笑む。

他の女性陣も、すでに待ち構えていた。


「本日の記録に基づき、お仕置きを実施しました♡ その後の管理は、皆さんにお任せしますね♡」


「お、おい! 待て! 俺は普通に海で遊んでただけだぞ!?」


主人公は必死に訴えた。


しかし、エンジェルはすでに踵を返していた。


「それでは、私は本日の記録を整理しますので♡」


「お前、最後までそれかよ!!」


エンジェルは振り返り、満面の笑みを浮かべた。


「もちろんです♡」


「愛ですから♡」


こうして、男たちの海での脱走計画は幕を閉じた。


主人公は女性陣に囲まれ、夜の生活へとお持ち帰りされた。


「普通に飯を食って、普通に寝たいだけなのに……」


その呟きは、今日も誰にも届かなかった。


なお、翌日。


エンジェルのバインダーには、新たな項目が追加されていた。


『主人公様が脱走計画を実行した際の行動分析』


そして、その最初の一行には、こう記されていた。


『監視を振り切ったと思い込んでいた主人公様の表情――大変、興味深いものでした♡

すべて、愛ゆえの記録です』

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