主人公の1日のルーティン 平穏を知らない男
# 主人公の1日
みんなにまだ語ってなかったな。
俺はこの物語の主人公だ。
これから話す出来事が俺の1日のルーティンだ。
なかなかにハードでシビアでイケてるだろ。
見ている分にはドラマティックで面白いかもしれないが、一日生き残ることが俺にとってはもはや修行だ。そんな過酷な一日を今日はお送りするぜ。
## 午前6時。気配を消す訓練……のはずが回避訓練
まずは部屋で大人しくしている。
余計な行動を起こさなければ、ヤンデレたちに見つかる確率も下がるはずだ。俺は布団の中で息を潜め、気配を消す訓練を開始した。
しかし、電話が鳴った。
電話に出るべきか。出ないべきか。
俺は悩んだ末、電話に出た。
「ご主人様♡ おはようございますわ♡」
監視特化の声だった。
(心の中で:ご主人様の起床時間を一秒単位で把握できて、幸せですわ……この声を記録して、毎晩聞き直すんですもの♡)
「しまったああああああ!!」
朝一番の判断ミスだった。
俺は即座に電話を切り、次の訓練へ移行する。
電話に出ない。
それでも電話は鳴り続けた。
やっぱり電話に出ない。
それでも鳴り続けた。
「もういい! いっそ電話を壊す!」
俺は受話器を叩き壊した。
だが、監視特化からすぐに連絡が入った。
「ご主人様♡ 電話を破壊する行動を確認しましたわ♡ 破壊音も綺麗に録音できましたの。ご主人様の朝の慌ただしさ……最高の資料ですわ♡」
「なんで壊したことまで把握してるんだよおおおおお!!」
その瞬間、窓ガラスが振動した。
外を見る。
科学特化が白衣を翻し、新型ミサイルの発射装置と小型ロボット軍団を展開していた。
「おはようございます、ご主人様♡ 今日の回避訓練メニューですわ。新型誘導ミサイルと自律追跡ロボットです。データ収集も兼ねております♡」
(科学の内心:ご主人様の回避パターンを解析すれば、もっと完璧な包囲網が作れますわ……ご主人様を逃がさないための、愛の実験ですもの♡)
「訓練ってなんだよそれ!! 暗殺じゃねえか!!」
ミサイルが飛翔し、小型ロボットが窓を破って室内に侵入してくる。
俺は身勝手の極意を発動し、必死に回避した。
ベッドを飛び越え、カーテンを盾にし、机の下に潜る。
「ご主人様の回避動作、素晴らしい反応速度ですわ♡」と科学が実況する。
監視特化がカメラを回しながら興奮した声を上げる。
「映像、完璧に捉えましたわ♡ ご主人様の朝の動き……永久保存です!」
俺は 悪態をつきながら叫んだ。
「お前らの『愛』は、もう殺人未遂の領域だろ!!」
ようやくミサイルとロボットを無力化し、俺は床に座り込んだ。
朝からこの有様だ。
ハードすぎるだろ。
## 午前8時。普通の格闘トレーニング……のはずが
俺は男の格闘特化に普通の格闘トレーニングを頼んだ。
「肉体を鍛えたい。普通にだ」
「なるほど。俺に任せろ」
二人で汗を流す。拳を交え、蹴りを合わせ、本気で スパーリング する。
「いい動きだ、主人公。もっと腰を入れろ!」
「わかってる!!」
お互い息を切らし、充実した時間だった。
……はずだった。
突然、庭の方から衝撃波が飛んできた。
「うおおっ☆ おれも混ぜろォォォ!!」
腰振りスペシャリストだ。
「来るな!!」
遅かった。
ドゴォォォン!!
俺と格闘特化はまとめて吹き飛ばされ、屋敷の壁を破壊して庭に転がった。
「……やりすぎた」と腰振りが呟く。
格闘特化が起き上がり、拳を振る。
「おい、腰振り! トレーニングの邪魔するな!」
「すまねぇ、テンション上がっちまって☆」
俺は瓦礫の中から声を上げた。
「お前ら、普通の スパーリングがしたかっただけなんだよ!!」
そこへ拷問特化が工具箱を持って現れた。
「……壊れたな。直す」
彼は黙々と壁や柱を修理し始めた。
「いい出来だ。次は補強しておく」
「ありがとう……じゃねえよ。最初から壊すな!!」
拷問特化は静かに頷いた。
「修理も愛だ」
俺は額に手を当てた。
普通のトレーニングすら、普通に終わらない。
## 正午過ぎ。読書の時間
午後1時。
俺は自室でようやく漫画を開いた。
普通に楽しむ。ただそれだけだ。
ページをめくり、主人公の活躍に少しだけ心を和ませる。
……はずだった。
頭の中に、直接声が響いた。
『ご主人様♡ その漫画、面白そうですわね♡ わたくしにも見せてくださいませ』
魔導だ。
脳内通話。
「うるせえ!! 今、いいところなんだよ!!」
『ふふっ……ご主人様が集中している顔も素敵ですわ♡ わたくし、邪魔をしたくて仕方ありませんの。ご主人様の注意を全部、わたくしに向けてほしいのですもの♡ チャオ♡』
(ご主人様が一人で楽しんでいるなんて……許せませんわ。わたくしの声で満たして、ご主人様の世界を独占します。愛ですもの♡)
「脳内に入ってくるな!! プライバシーも何もねえ!!」
『プライバシーなど、ご主人様とわたくしの間には必要ありませんわ♡』
俺は漫画を閉じ、天井を睨んだ。
「……お前らの愛は、読書すら許してくれねえのか」
## 夕食時。自室から食堂への試練
腹が減った。
食堂へ向かうだけだ。簡単なはずだ。
だが、薬学と潜入がタッグを組んでいた。
潜入が影から囁く。
「ご主人様が通りそうなルート、すべて予測済みですわ♡」
薬学が小瓶を並べ、嬉しそうに笑う。
「そのルートに、さまざまなトラップを仕掛けましたわ♡ 眠気を誘う霧、足を滑らせる床、一時的に筋力を奪うガス……ご主人様の反応データが取れますもの♡」
(薬学の内心:ご主人様がトラップを回避する姿……愛おしいですわ。失敗しても、わたくしが薬で助けてあげますもの♡)
(潜入の内心:先回りして塞ぐのが、わたくしの愛ですわ。ご主人様を食堂まで安全に……いえ、楽しく導きます)
俺は廊下を一歩踏み出すたびに罠を回避し、ガスを我慢し、滑る床でバランスを取り続けた。
「ただ飯を食いに行きたいだけなんだよ!! 命がけじゃねえか!!」
ようやく食堂にたどり着いたとき、俺はすでに汗だくだった。
「……今日の飯、うめぇのか?」
誰も答えなかった。
ただ、薬学と潜入が遠巻きにノートを取っているだけだった。
そのとき、慈愛のヤンデレが料理を載せたトレーを持って現れた。
「ご主人様♡ お待たせしましたわ。温かいうちに召し上がってくださいませ♡」
トレーの上には、湯気の立つご飯に味噌汁、焼き魚、彩りのいい副菜が並んでいた。
どこからどう見ても、まともな食事だった。
「……え?」
俺は目の前の料理を見つめた。
「これ……普通に食べていいのか?」
「もちろんですわ♡ ご主人様が毎日頑張っていらっしゃるのですもの。せめてお食事くらい、安心して楽しんでいただきたいですわ♡」
「毒とか入ってないよな? 眠くなる薬とか、筋力を奪うガスとか……」
「入っていませんわ♡ 栄養のバランスも考えて、心を込めて作りましたの」
俺は恐る恐る箸を手に取った。
焼き魚を一口食べる。
……うまい。
味噌汁をすする。
……温かい。
ご飯を口に運ぶ。
……普通だ。
普通にうまい。
「うっ……ううっ……」
「ご主人様!? どうなさいましたの!?」
慈愛のヤンデレが慌てて駆け寄ってきた。
俺は箸を握りしめたまま、涙を流した。
「うわああああああん!! まともな飯だあああああ!!」
「ご主人様……♡」
「罠もない! ガスもない! 食べたら眠くなるとか、筋力が奪われるとかもない! ただの飯だあああああ!!」
俺は号泣しながら、次々と料理を口に運んだ。
「うめぇ……! うめぇよ……! 普通の食事って、こんなにありがたいものだったんだな……!」
「まあ……♡ そんなに喜んでいただけるなんて、わたくしも幸せですわ♡ おかわりもありますから、遠慮なく召し上がってくださいませ♡」
「おかわりまであるのかよおおおおお!!」
俺は再び泣いた。
慈愛のヤンデレは、そんな俺の背中を優しくさすってくれた。
「大丈夫ですわ、ご主人様♡ お腹いっぱいになるまで、わたくしがそばにおりますからね♡」
「ありがとう……! 本当にありがとう……!」
俺は心の底から感謝した。
この屋敷に来て初めて、食事というものに救われた気がした。
……なお、背後では薬学と潜入が真剣な顔でノートを取っていた。
「なるほど……通常の食事を与えた際の感情反応、とても興味深いですわ」
「涙の量も記録しておきますわ♡ 次回の誘導計画に活用できそうですもの♡」
「お前ら、今くらいノートを取るのをやめろおおおおお!!」
俺の平穏な食事は、最後まで平穏ではなかった。
## 午後8時。休息……のはずが
俺は自室に戻り、ベッドに倒れ込んだ。
今日はもう何もしない。
電話にも出ない。外にも出ない。余計なことも考えない。
そして最後の選択肢。
『ただ、寝る』
俺はそれを選んだ。
その瞬間、部屋の空気が変わった。
「その選択肢はありませんわ♡」
森羅万象の声。
彼女は指を軽く鳴らした。
重力が歪み、風が吹き、空間そのものが俺を持ち上げる。
「整えましたわ♡ ご主人様を、夜の場所へ」
俺の身体は強制的に移動させられ、ヤンデレたちが待つ寝室へと引き寄せられた。
そこには、十人のヤンデレたちがいた。
「ご主人様♡ お待ちしておりましたわ♡」
魔導が扇子を開き、優雅に微笑む。
「今夜も、わたくしたちの愛で満たして差し上げますわ♡」
「いや、俺は休むつもりだったんだが!?」
「まあ♡ そんなことより、今夜も楽しみましょうね♡」
「選択肢を無視するなああああああ!!」
こうして、今日も夜の生活が始まる。
主人公のトレーニングルーティンは、まだ終わらない。
## 本日の成果
- 逃走成功率:0%
- 精神力:わずかに向上(だが意味がない)
- 体力:回復と消耗を繰り返した結果、プラスマイナスゼロ
- ヤンデレたちからの注目度:大幅上昇
- 明日の逃走計画:未定
俺は眠りについた。
そして翌朝。
「ご主人様♡ おはようございますわ♡」
俺のトレーニングルーティンが、また始まった。
……なかなかハードだろ。
生き残るだけで、俺は毎日限界を超えてる。
普通に飯を食って、普通に寝たい。
それだけのことが、この屋敷じゃ最大の難易度なんだよ。
読んでいただきありがとうございます。
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