10――慈愛のヤンデレと救済の使者1
【天界・作戦会議室】
天界の中級天使、力天使ヴァーチャーズは、作戦会議室で腕を組んでいた。
これまで天界は、さまざまな手段で十人のヤンデレを排除しようとしてきた。
アークエンジェルは格闘特化に殴り飛ばされ、権天使プリンシパリティは監視特化の手によってゲームの報酬にされ、能天使パワー率いる精鋭軍団は、腰振りスペシャリストの朝のコーヒータイムに巻き込まれて壊滅した。
そして、そのすべての後始末を押しつけられているのが、最下級天使のエンジェルだった。
「……もう嫌です。どうして私が、毎回こんな報告書を書かなきゃいけないんですか……」
エンジェルは大量の資料を抱え、机に突っ伏していた。
「アークエンジェル様、星になる。プリンシパリティ様、ゲームのカードになる。パワー様、コーヒーのついでに吹き飛ばされる……。これ、どうやって正式な戦闘記録に書けばいいんですか……」
彼女の声には、すでに疲れ切った響きが混じっていた。
(……またか。また誰かが自信満々に行って、また私が後始末をする。もう心が持たない……)
ヴァーチャーズは資料に目を通し、静かに頷いた。
「なるほど。これまでの作戦は、いずれも力による制圧に偏っていたようだな」
「は、はい……。そうなんですけど……」
「ならば、今回は別の方法を試そう。慈愛のヤンデレは、人々を癒やし、困窮する者を助けていると聞く。彼女の善意に訴え、歪んだ愛情を正すのだ」
ヴァーチャーズの声は、どこまでも自信に満ちていた。
アークエンジェルもプリンシパリティもパワーも失敗したというのに、彼の表情に陰りはない。
「そ、それで解決するなら、ぜひお願いします……」
エンジェルは心の底からそう願った。
しかし、同時に不安が胸を締めつける。
「……ヴァーチャーズ様。本当に、行くんですか?」
「当然だ」
「前の方々も、みんな自信満々だったんですよ? アークエンジェル様も、プリンシパリティ様も、パワー様も……。で、結果はあの通りです」
エンジェルの声が、少し震えた。
(お願いだから、普通に帰ってきてほしい。また変な報告書を書きたくない。もう、天使を辞めたい……)
「私は違う。力ではなく、言葉と奇跡で正す。慈愛の心に真の救いを届けるのだ」
「……そうですよね。いつもそうおっしゃいますよね……」
エンジェルは力なく笑った。
「今回こそ、報告書にまともなことを書きたいんです。それが私のささやかな望みなんです……」
「ところで、ヴァーチャーズ様。今回はどのようなお姿で人間界に降りられるのですか?」
「まずは神父に変装する。慈愛のヤンデレと接触し、話を聞くためだ」
「神父ですか……。確かに、救済を説くなら自然ですね」
「ああ。正体を明かす必要もない。彼女に天使だと知られずに、話を進める」
ヴァーチャーズは立ち上がった。
「では、行ってくる」
「どうかご無事で……。本当に、どうか……お願いします。普通に帰ってきてください……」
エンジェルは両手を合わせて祈った。
心の中では、すでに次の報告書の書き出しを考え始めていた。
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