5 ―― 神の認証、ヤンデレの管理者権限
---【王国・監視特化の制御室】
「うーん……また爆死かぁ」
監視特化はポテトチップスを食べながら、ソシャゲを周回していた。
王国全土の監視カメラ、通信網、行政システム、物流管理。あらゆる情報が集まる制御室である。
なお、モニターの一角には、主人公の現在位置を映し出す専用画面が、常に最優先で表示されていた。
監視特化はソシャゲを周回しながらも、視線の半分は必ずそちらに向いている。
「あっ、ご主人様がお茶を飲んでる♡ 今日も素敵……♡」
画面の中で主人公が椅子に座り直すと、監視特化も無意識に身を乗り出した。
(……喉、乾いてたのかな。昨日の夜、少し疲れてたみたいだったし。水分補給、ちゃんとできててよかった)
彼女は満足げに微笑み、画面を拡大する。
「ふふっ♡ 今、ちょっとこっちを向いた? ……向いてないか。まあ、ご主人様の一挙手一投足を見守るのが私のお仕事だしね♡ たとえご主人様が私を見ていなくても、私はいつも見てるから」
心の中で続けて呟く。
(ご主人様が息をするのも、瞬きするのも、全部記録してる。今日で通算何時間目だっけ……まあ、数えきれないくらい。これが私の幸せだもの)
本人は画面の半分をソシャゲに占領されていたが、主人公専用画面の優先度は絶対に下げない。
「さて、ガチャの続きっと♡」
「あと一回だけ……いや、次こそ出る。確率的にはそろそろ――」
ピコン!
突然、巨大モニターが赤く点滅した。
《警告:外部からの大規模侵入を検知》
《攻撃元:天界》
《対象:王国全土のインフラシステム》
監視特化はポテトチップスを一枚口に放り込んだ。
「……ん?」
数秒間、画面を眺める。
(天界? 久しぶりね。前に動画が検知されたとき以来かしら)
彼女は検索をかけつつ、主人公の画面を確認する。
「へえ。神様のところにもネット回線あるんだ」
(ご主人様、今は静かに本を読んでる。邪魔されたくないよね。だから、さっさと片付けるわ)
そこに、天界から通信が入った。
『我は権天使プリンシパリティ! 天界の秩序をもって、貴様らの支配体制を打ち砕く!』
監視特化は、ソシャゲから目を離さなかった。
「うんうん。で、何の用?」
『王国の電力網を制圧する!』
「へえ」
『通信網を遮断する!』
「ふーん」
『物流を停止させ、国家機能を麻痺させる!』
「……あ、それは困るな」
監視特化はようやく顔を上げた。
「宅配便が遅れたら、今日頼んだポテチが届かないじゃん」
(それに、ご主人様の生活リズムが乱れたら大変。お茶の時間も、休息も、全部私の監視計画に影響するし)
『……は?』
「ちょっと待ってね。今、対処するから」
監視特化は片手でキーボードを叩き始めた。
その間も、もう片方の手はソシャゲを操作し、視線は主人公の画面に釘付けだった。
「あっ、ご主人様がページをめくった♡ 指の動き、今日は少し丁寧……疲れてない証拠ね」
*
【天界・中枢管理区域】
「まずは電力網から制圧する!」
プリンシパリティが指を振り下ろした。
天界の超高度演算装置が起動し、王国全土の電力制御システムへ侵入する。
「これで王国は暗闇に包まれる! いかに強大な力を持つヤンデレであろうと、社会基盤を失えば――」
アクセスが順調に進む。
『侵入成功率……87%……92%……』
プリンシパリティの唇が、わずかに緩んだ。
(……いける。今度こそ、地上の異常を正せる。アークエンジェルの失敗を、私が取り戻す)
「これでよし! 電力を奪えば、監視の目も暗くなるはずだ!」
『電力網の制御を確認しました』
「よし!」
希望が膨らむ。
『……あ、管理者権限を確認しました』
「何?」
『設定を更新します』
「待て」
『電力網の制御権限を返還しました』
「待て待て待て!」
画面には、あっさりと表示された。
《電力網:正常》
《障害:0件》
《作業時間:2.4秒》
「何が起きたああああっ!?」
監視特化から通信が入った。
『あ、ごめん。そっちのプログラム、管理者権限の設定が甘いよ』
「馬鹿な! 天界の認証システムだぞ!?」
『うん。だから、その認証システムごと管理画面に入れたんだけど』
「どういう意味だ!?」
『管理者さんが管理者としてログインできるなら、私も管理者としてログインできるよね? 情報の流れを逆利用しただけ。ご主人様の監視網を守るのは、私の基本中の基本だもの』
「そんな理屈が通るかあああっ!」
『通ったよ?』
プリンシパリティは言葉を失った。
監視特化は、主人公の画面を見つめたまま続ける。
『それに、電力が止まったらご主人様の部屋の照明が消えるでしょ? それは絶対にダメ。ご主人様が暗がりで不便するなんて、許さないから』
「暇つぶしで国家防衛をするなあああっ!」
監視特化はポテトチップスの袋を探りながら答えた。
『あ、ごめん。手が汚れてキーボード触れない。……あ、ご主人様が少し身を乗り出した。本の続きが面白いのかな? ふふっ、記録しなきゃ』
「今すぐ攻撃をやめろ!」
『ちょっと待って。ポテチ食べ終わったらね。あと、ご主人様の表情変化もチェックしなきゃいけないし』
「国家転覆作戦だぞ!?」
『こっちは期間限定イベントなんだけど。ご主人様の平穏を守るのも、イベントの一種みたいなものよ』
「どちらも同じだろうが!」
『いや、報酬が違うから。私の報酬は、ご主人様の無事な姿だもの♡』
プリンシパリティは、人生で初めて通信相手を殴りたくなった。
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