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3 ――エンジェル……天界なんて滅びればいいのに

「アークエンジェル様ーーーーっ!!」


エンジェルの悲鳴が王国の大通りに響き渡った。


しかし、周囲の住民は誰一人として気に留めなかった。


「おっ、今日も誰か飛んでったな」

「格闘特化さんのトレーニングかな?」

「すげえなあ。俺もプロテイン飲もう」


住民たちは、いつもどおりの日常に戻っていった。

(……なんで誰も驚かないの? 大天使が空を飛んでいったんですよ? この国、おかしくないですか?)


「いやいやいや! 今の大天使ですよ!? 第八位のアークエンジェル様ですよ!?」


エンジェルは必死に訴えた。

だが、誰も聞いていない。住民たちは彼女の声を「いつもの騒動」として処理しているようだった。


そのとき、懐の天界通信が鳴った。


『エンジェル。現地調査の進捗を報告せよ』


「む、無理です! アークエンジェル様が格闘特化に吹き飛ばされました!」


『……何? 大天使が敗北したというのか?』


「はい! 名乗りの途中で一撃でした! 相手はただの『トレーニング』だと住民に言われてます!」


『そうか。では、アークエンジェルの現在地を特定し、回収せよ』


「私がですか!?」


『当然だ。お前は現地にいるのだろう?』


「私は最下級天使なんですけど!?」


『だから何だ?』


通信が切れた。


エンジェルはその場にへたり込みそうになった。

(……天界なんて滅びればいいのに。いや、本気でそう思ってます。最下級に全部押しつけて……)


「……天界なんて滅びればいいのに」


思わず本音を漏らした、その瞬間。


頭上から、優雅な声が降ってきた。


「おや? そこにいるのは、先ほどの新聞の押し売りではありませんか?」


振り返ると、魔導が扇子を手に、いつもの柔らかい笑顔で立っていた。


「ひっ!?」


エンジェルは反射的に後ずさる。

(またこの人……! 新聞の押し売り扱いされた人……! 笑顔が怖いわ……!)


「先ほどは失礼しましたわ♡ ご用件があるのでしたら、今度はきちんとお聞きしますわよ?」


「い、いえ! 結構です! 新聞は売っていません!」


「まあ。では、何を売りにいらしたのです?」


「命の保証がない潜入任務です!」


エンジェルは勢いで本音を吐いてしまった。


魔導は扇子で口元を隠し、にっこりと微笑んだ。

その笑顔は、まるで「味方」のように優しかった。


「それは大変ですわね♡ 天界の方は、ご苦労なされていらっしゃいますのね」


「……え?」


「でしたら、主人公に相談してみてはいかがでしょう? ご主人様は、そういう面倒事を押しつけられるのが得意ですから♡ チャオ♡」


「……え?」


エンジェルは目を丸くした。

(主人公さんに相談……? でも、この人の言い方、なんか裏がありそう……)


「ご主人様は、世界を救った英雄ですもの。きっとお力になってくださいますわ。わたくしも、ご主人様のためなら何でもいたしますのよ♡」


「それ、相談相手として適切なんですか!? というか、あなたこそが問題の一人じゃないですか!?」


エンジェルの叫びは、王国の青空に虚しく響いた。


魔導は優雅に一礼し、扇子を閉じる。


「ふふっ……ご用件が済みましたら、またいつでもお越しくださいませ。わたくしたちは、いつでも『お話し』する準備ができておりますのよ♡」


そう言い残して、魔導はゆったりとした足取りで去っていった。


残されたエンジェルは、呆然とその場に立ち尽くした。


(……この国、本当におかしい。大天使が吹き飛ばされても日常、新聞の押し売り扱いされても笑顔……。そして主人公さんに『面倒事を押しつけるのが得意』だなんて……。

 上司、助けて……私、もう帰りたいです……)


彼女の小さな呟きは、誰にも届かなかった。

読んでいただきありがとうございます。

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