王国祭1 雪合戦のはずが、王国総出のデスマッチになりました
そして週末。
王国最大規模の雪原が、臨時の「軍事演習兼公開イベント会場」へと変貌していた。
公式名称は『愛の地上大試練・雪合戦デスマッチ』。
1つ目の競技である。
ルールはシンプルだ。
- 主人公は会場中央に配置される。
- 制限時間内に逃げ切れば主人公の勝利。
- 各チームが主人公に雪玉(またはそれに準ずるもの)を命中させるたびにポイント加算。
- 最終的にポイントの多いチームが優勝。
……ただし、参加チームの装備と戦力が、普通の雪合戦ではなかった。
潜入特化と科学特化は、国家の兵士を大量に借り受け、物量作戦を展開する。
科学が魔改造した武器一式――凍結弾、追尾雪弾、爆発着雪弾――を兵士たちに完璧に扱わせ、潜入が配置と指揮を取る。
拷問特化・格闘特化・腰振りの三人組は、拷問特化が製作した巨大鉄球を投入。
腰振りの衝撃波で射出し、足りない軌道修正を格闘特化が追いついて蹴り飛ばすという、超物理攻撃を得意とする。
魔導は波動砲を準備し、王城で鍛え上げた魔導士軍団を総動員。大規模魔法で雪原を制圧するつもりだ。
森羅万象は、今回は攻撃側には加わらない。
戦場に被害が出ないよう、破壊された箇所を即座に調整・修復する役回りを担当する。重力と空間を「整え」、クレーターを埋め、雪面を平滑に戻し、観客席や周辺施設への被害を最小限に抑える。
嫉妬はコメンテーター席で各チームの戦いを解説し、監視は全世界へ向けて実況・配信を行う。
国王は特等席で国家総力戦を鑑賞する予定だった。
そして会場の端では、ゲイバーのお兄さんが地味に出店を開いていた。
焼きそば、温かい飲み物、塩おにぎり。
周囲では兵士が魔改造兵器を構え、巨大鉄球が飛び、波動砲が炸裂し、監視が全世界に実況配信しているというのに、彼だけが普通に商売をしている。
「……まあ、人が集まれば売れるだろ」
お兄さんは淡々と鉄板を熱し、戦況を横目で見ながら売上を伸ばす準備を整えていた。
主人公は中央の指定位置に立たされ、頭を抱えていた。
「……俺がしたかったのは、普通の雪合戦だけなんだが」
誰も聞いていない。
国民は大興奮し、兵士は師匠たちの指導成果を発揮しようと目を輝かせ、ヤンデレたちはそれぞれの「愛の表現」を最大限に発揮しようと準備を進めていた。
国王にとっては軍事演習。
監視にとっては世界的コンテンツ。
ゲイバーのお兄さんにとっては書き入れ時。
全員が、別の意味でこの雪合戦を楽しもうとしていた。
魔導は、波動砲の照準を主人公に合わせながら、うっとりと微笑んでいた。
「主人公様♡ 私の愛を全身で受け止めてくださいませ♡ もちろん、避けても構いませんわ。逃げる主人公様を追い詰めるのも、また一興ですもの♡」
「いや、普通に当たったら痛いだろ!」
「まあ♡ 私の愛を痛いだなんて! あとでゆっくりお話ししましょうね♡」
潜入特化は、兵士たちの配置を確認しながら冷静に告げた。
「主人公様の逃走経路をすべて予測しました。どこへ逃げても、私たちの包囲網からは逃れられません」
「雪合戦で包囲網を敷くな!」
「ご安心ください。主人公様が逃げやすいよう、あえて一か所だけ突破口を残してあります」
「それ、どうせ罠だろ!」
科学特化が手元の装置を操作し、満足そうに頷く。
「追尾性能、凍結効率、着弾時の衝撃。すべて理論値どおりですわ♡ 主人公様の身体能力を測定する絶好の機会ですわね!」
「俺を実験台にするな!」
「大丈夫ですわ♡ 森羅万象さんが修復してくださいますもの!」
森羅万象は静かに微笑んだ。
「ええ。雪原も、施設も、観客席も、すべて元どおりに整えますわ。ですから皆さん、遠慮なく全力を出してくださいませ♡」
「俺のことは整えてくれないのか!?」
「主人公様のお身体は、皆さんが責任を持って愛してくださるそうですわ♡」
「責任の押しつけ合いをするな!」
拷問特化が、完成した巨大鉄球を撫でながら口を開く。
「この鉄球、何度も試作を重ねた自信作だ 主人公様にふさわしい、最高の一撃をお届けする」
格闘特化が拳を鳴らす。
「俺も全力で軌道を修正するぜ! 主人公様、覚悟してくれ!」
腰振りが腰をくねらせながら、楽しそうに笑う。
「フフフ♡ 俺の衝撃波で、主人公様を雪原の彼方まで吹き飛ばしてやるぜ!」
「三人とも、雪合戦って意味を知ってるか!?」
そして、合図の鐘が鳴る。
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**雪原に響く国家総力戦**
鐘の音と同時に、雪原が戦場と化した。
「全軍、配置につけ! 追尾雪弾、発射準備!」
潜入特化の冷静な声が通信機を通じて響き、科学特化が改造した兵器を構えた兵士たちが一斉に射撃を開始する。
雪の弾が、まるで弾幕のように主人公の周囲に降り注ぐ。
「くっ……! ただの雪じゃねえ!」
主人公は身を低くし、人類最強の身体能力で弾幕をかいくぐる。
だが物量は容赦ない。数発が肩と背中に命中し、ポイントが加算されていく。
嫉妬の明るい実況が会場に流れる。
「おおっ! 潜入・科学チーム、初弾命中ですわ♡ 兵士たちの連携、完璧ね! 科学さんの魔改造、冴えてるわ!」
監視がカメラを切り替え、全世界に配信する。
「現在の命中ポイント、潜入・科学チームが先行! 主人公様の回避率も高いですが、物量の差が効いていますわ♡」
次に動いたのは、三人組だった。
「いくぞ! 巨大鉄球、射出!」
拷問特化が巨大な鉄球をセットし、腰振りが腰を大きく振る。
ドゴォォォォン!!
衝撃波が鉄球を加速させ、雪原を削りながら飛んでいく。
軌道がわずかにずれかけた瞬間、格闘特化が全力で追いつき、蹴り込む。
「軌道修正! 行けええええ!!」
鉄球が主人公の目前まで迫る。
主人公は間一髪で跳躍し、鉄球は雪原に大穴を開けて着弾した。
森羅万象が静かに指を鳴らす。
クレーターが滑らかに埋まり、雪面が元通りに「整え」られていく。観客席への衝撃も、空間ごと吸収されていた。
「惜しい! でも迫力は満点ですわね♡」
嫉妬が解説する。
「格闘特化さんの蹴り修正、見事でした! ポイントはまだ入っていませんが、観客の盛り上がりは最高潮よ! 森羅万象さんがすぐに修復してくれて、会場は常に綺麗なままね!」
魔導のチームが遅れて参戦する。
「波動砲、斉射しますわ♡ 魔導士の皆さん、ご一緒に!」
王城で鍛えられた魔導士たちが詠唱を合わせ、巨大な光の弾が雪原を走る。
主人公は歯を食いしばり、三方向からの攻撃をかいくぐり続ける。
命中が重なり、各チームのポイントが拮抗していく。
主人公が追尾雪弾をかわし、巨大鉄球を飛び越え、魔導の波動砲を紙一重で回避していた頃。
嫉妬は実況席で、目を輝かせていた。
「まあ♡ 主人公様ったら、あんなに華麗に逃げ回って! まるで私たちに追いかけてほしいとおっしゃっているようですわね♡」
「言ってねえよ!」
「照れなくてもよろしいのに♡」
監視はカメラを主人公の顔へと寄せた。
「皆様、ご覧ください! 主人公様のこの表情! 追い詰められながらも、私たちの愛を一身に受けていらっしゃいますわ♡」
「ただ苦しんでるだけだろ!」
「その苦悶の表情も、世界中の皆様に大人気ですわ♡ 視聴者数がさらに増加しております!」
「俺の苦しみをコンテンツにするな!」
その様子を見ていた科学特化が、潜入特化に通信を入れる。
「潜入さん、他チームの命中率が上昇していますわ! このままでは優勝を逃してしまいます!」
「了解。射撃部隊を再編成します。主人公様の回避傾向も更新済みです。次の斉射で包囲を完成させましょう」
「ふふふ♡ 負けませんわよ! 主人公様に一番多く雪玉を当てたチームこそ、最も深く主人公様を理解しているチームですもの!」
「いや、当てた数で理解度を競うな!」
魔導は対抗するように杖を掲げた。
「皆さん、もっと出力を上げてくださいませ♡ 主人公様を他の方々に独占させるわけにはいきませんわ!」
「魔導さん、競技中に独占欲を出すな!」
「嫉妬さん、実況を続けてくださいませ♡ 私の波動砲が主人公様に命中する瞬間を、全世界にお届けするのですわ!」
「はい♡ 魔導さんの愛情が、主人公様に届く瞬間を見逃さないようにいたしますわ!」
「お前ら、何を放送してるんだ!」
潜入・科学の物量。
三人組の超物理。
魔導軍団の魔法弾幕。
どれもが主人公一人を標的にしているため、自然と接戦になっていく。
主人公がうまく回避すればポイントは伸びず、わずかな隙を突かれれば一気に加点される。
破壊された箇所は、森羅万象が都度、優雅に修復していく。
鉄球の着弾痕も、波動砲の焦げ跡も、すぐに綺麗な雪原へと戻される。戦場は常に「整え」られた状態を保っていた。
特等席の国王は、顔を青くしながらも食い入るように見つめていた。
「こ、これが……我が国の軍事力……? いや、これはもう演習の域を超えておる……! しかし会場が壊れないのは……ありがたいことだな」
一方、会場の端。
ゲイバーのお兄さんは、焼きそばを次々と提供していた。
「はい、大盛り一丁! 飲み物もどうだ?」
戦闘が激しくなるほど、観客や待機兵士が腹を空かせて押し寄せてくる。
売上が、過去最高のペースで伸びていく。
「……まあ、賑やかで結構だな」
お兄さんは戦況を横目で見ながら、淡々と商売を続けた。
制限時間が半分を過ぎた頃、ポイントはほぼ横並び。
主人公は息を弾ませながら、中央付近を走り続ける。
「普通の……雪合戦が……したかっただけなのに……!」
しかし、ここから戦況が急激にエスカレートした。
潜入・科学チームは、他チームの派手な攻撃に触発され、凍結弾をさらに高出力化し、追尾性能を極限まで上げた改良弾を投入し始める。
兵士たちの射撃密度が倍増し、主人公の回避ルートを次々と塞いでいく。
三人組も負けじと、拷問特化が次々とより巨大な鉄球を用意。
腰振りの衝撃波も制御を超えて増幅され、格闘特化の蹴り修正がより豪快になる。鉄球のサイズは最初の倍、三倍と膨れ上がり、着弾のたびに雪原がえぐられる。
魔導のチームも黙っていない。
波動砲の出力を段階的に引き上げ、魔導士軍団の詠唱を重ねて広域弾幕へと変えていく。光の弾が雪原を埋め尽くす勢いで飛来する。
「他チームに触発された各隊の攻撃が、どんどんエスカレートしていますわ♡」
嫉妬の実況が熱を帯びる。
「兵器も魔導も鉄球も、規模が拡大中! 主人公様の回避が追いつかなくなってきていますね!」
監視がカメラを寄りにする。
「主人公様の表情、 素晴らしいですわ♡ 全世界が固唾を飲んで見守っています! 森羅万象さんによる会場修復も完璧で、配信映像も常にクリアですわね♡」
人類最強の身体能力を持つ主人公でさえ、避けきれなくなっていく。
追尾弾が肩に、巨大化した鉄球の衝撃波が側面に、強化された波動砲が背中に――次々と命中する。
「ぐあっ……! か、避けきれねえ……!」
それでも彼の肉体は、人類最強の耐久力で持ちこたえる。骨は折れず、内臓は無事で、倒れはしない。ただ、衝撃のたびに体が大きく揺られ、雪の上に膝をつきそうになる。
破壊された箇所は、森羅万象が都度、優雅に修復していく。
どれだけ攻撃が激化しても、会場はすぐに綺麗な雪原へと戻される。
次の瞬間、各チームが一斉に最終攻勢を仕掛けた。
物量弾幕、超巨大鉄球、最大出力の波動砲。
雪原が白く光り、轟音が響き渡る。
森羅万象が両腕を広げ、破壊の余波をすべて空間に吸収し、雪面を一瞬で平滑に戻す。
主人公の体に、避けきれなかった無数の命中が重なる。
制限時間が残りわずかとなり、各チームの攻撃が激しさを増していた。
拷問特化が、これまでで最大の鉄球を指さした。
「完成したぜ! 特大の一撃だ!」
格闘特化が大きく跳躍する。
「今度こそ当てるぜ! 主人公様、俺の拳と蹴りの成果を見てくれ!」
腰振りが渾身の力で腰を振り抜いた。
「これが俺たち三人の愛の結晶だああああ!」
巨大鉄球が雪原を一直線に突き進む。
主人公は顔を引きつらせた。
「愛の結晶が鉄球なのはおかしいだろおおおお!」
一方、魔導は魔導士軍団とともに最大出力の波動砲を放とうとしていた。
「主人公様♡ この一撃で、私の愛を刻み込んで差し上げますわ!」
潜入特化は兵士たちに最後の指示を出す。
「全軍、最終斉射! 主人公様の逃走経路を完全に封鎖してください!」
科学特化が高出力弾を装填する。
「最高出力ですわ♡ 主人公様の回避能力、最後まで測定させていただきます!」
「だから測定するなああああ!」
そのとき、森羅万象が両腕を広げた。
「皆さん、どうぞご自由に♡ どれほど雪原が破壊されても、私がすべて整えて差し上げますわ!」
嫉妬は実況席から身を乗り出す。
「さあ、最終局面ですわ♡ 主人公様を巡る愛の競演、勝利を手にするのはどのチームでしょうか!」
監視が声を張り上げる。
「世界中の皆様、瞬き厳禁ですわ♡ これが主人公様を愛する者たちの、本気です!」
「俺はこんな本気を望んでねええええ!」
そして、すべての攻撃が主人公へと殺到した。
雪原が白く染まり、轟音が響き渡る。
制限時間終了の鐘が鳴り、雪原に倒れた主人公をよそに、各チームが歓声を上げていた。
そこへ、慈愛のヤンデレと薬学のヤンデレが救護班を率いて駆けつけた。
「皆様、本当にお疲れさまでしたわ♡ これほど激しい競技を戦い抜いたのですもの。どうか、私たちにお身体を癒やさせてくださいませ♡」
慈愛は、巨大鉄球を射出して腰を痛めた腰振りの肩に手を添えた。
「まあ、腰が少し疲労していますわね。無理をなさらないでくださいませ♡」
「いやあ、さすがに今の一撃は腰にきたぜ……」
慈愛が優しく治癒魔法をかけると、腰振りの疲労が瞬く間に消えていった。
「おおっ! 完全復活だ! これならもう一戦いけるぜ!」
「まあ♡ お元気になられたのは嬉しいですけれど、今日はゆっくりお休みくださいね」
「次も頼むぜ!」
「次がある前提で話さないでくださいませ♡」
その隣では、格闘特化が薬学から疲労回復薬を受け取っていた。
「これは?」
「最新の疲労回復薬ですわ♡ 筋肉疲労を軽減し、身体能力を一時的に高めます。もっとも、用法用量は守ってくださいませね」
「よし、飲むぜ!」
格闘特化が一気に飲み干すと、全身に活力がみなぎった。
「おおおっ! 力が湧いてくる! これなら次の訓練も――」
「安静にしてくださいませ」
薬学が笑顔で釘を刺した。
一方、拷問特化は巨大鉄球の整備中に痛めた腕を、慈愛に治療してもらっていた。
「……助かる」
「いいえ♡ 皆様が全力で頑張られたのですもの。お身体を労わるのも、私たちの大切な役目ですわ」
拷問特化は静かに頷いた。
「次はもっと大きな鉄球を作るつもりだ。腕を万全にしておきたい」
「……それは治療が終わってから考えましょうね♡」
その後も二人は休むことなく、戦場を駆け回った。
科学特化には薬学が装置の反動による疲労を和らげる薬を渡し、潜入特化には慈愛が精神的な緊張をほぐす治癒魔法をかける。
魔導には魔力を回復させる薬が渡され、魔導士たちにも回復魔法が施された。
「ふう……。これで次も全力で主人公様に愛を届けられますわね♡」
魔導が満足げに微笑む。
「ええ♡ ですが、魔力を使い切るまで無理をなさってはいけませんわ」
慈愛が優しく諭すと、魔導は少しだけ頬を膨らませた。
「もう♡ 主人公様のためですもの。多少の無理くらい構いませんわ」
「その『多少』がどれほどなのか、私たちはよく存じておりますわ♡」
薬学もにっこりと微笑んだ。
監視と嫉妬も、長時間の実況で疲れた喉や目を癒やしてもらい、森羅万象も戦場の修復作業で消耗した魔力を補充してもらった。
「お二人とも、ありがとうございますわ♡」
森羅万象が優雅に礼を述べる。
「いいえ。皆様が元気でいてくださることが、私たちの喜びですもの♡」
慈愛は、満足げに微笑んだ。
そして、薬学が最後に周囲を見回した。
「さて、負傷者と疲労した方々への処置は、これで一通り完了ですわね」
その言葉を聞いた主人公が、雪原に倒れたまま勢いよく顔を上げた。
「おい!! 俺は!? 俺もさっきから全身ボロボロなんだけど!?」
慈愛と薬学が、同時に主人公を振り返った。
「あら、主人公様♡」
「ご無事で何よりですわ♡」
「無事じゃねえよ!! 見れば分かるだろ!! お前ら、俺にも回復魔法と薬を使えよ!!」
慈愛は不思議そうに首を傾げた。
「でも主人公様は、人類最強の肉体をお持ちですもの。皆様の攻撃にも耐え抜かれたではありませんか♡」
「耐え抜いたんじゃねえ!! 耐えるしかなかったんだよ!!」
薬学も、手元の記録を確認しながら頷いた。
「確かに、これほどの連続攻撃を受けても生命活動に問題はありません。驚異的な耐久力ですわね♡」
「分析して感心してる場合か!!」
「ただ、興味深い症例ですので、もう少し経過を観察してから治療を――」
「実験台にするな!! 今すぐ治せ!!」
慈愛は主人公のそばにしゃがみ込み、優しく微笑んだ。
「まあまあ♡ そんなに怒らないでくださいませ。主人公様も、あとでゆっくり癒やして差し上げますから」
「その『あとで』が信用できねえんだよ!! お前ら、ほかの連中にはすぐ回復魔法をかけてただろ!!」
「皆様、頑張られましたもの♡」
「俺だって頑張っただろうが!!」
「まあ……♡ 主人公様も、頑張って逃げ回っていらっしゃいましたわね」
「競技のルールだろうが!!」
薬学は慈愛と顔を見合わせ、二人そろって微笑んだ。
「では、主人公様にも特別な回復処置を施しましょう♡」
「最初からそうしろおおおお!!」
こうして、ようやく主人公にも治癒魔法と疲労回復薬が施された。
身体の痛みが引いていくのを感じながら、主人公は雪原に仰向けになった。
「……最初からこうしてくれればいいんだよ」
慈愛は主人公の頭を優しく撫でた。
「お疲れさまでした、主人公様♡ 今日は本当によく頑張りましたね」
「……ああ。もう今日は何もしたくない」
「では、明日も頑張れるよう、今夜はゆっくりお休みくださいませ♡」
「明日の予定を勝手に決めるな!!」
魔導は満足そうに微笑む。
「ふふふ♡ 主人公様、今日も素敵でしたわ♡」
潜入特化は戦果を確認する。
「作戦目標は達成。主人公様の逃走能力についても、貴重なデータが得られました」
科学特化は記録を保存した。
「次回は、さらに精度を高められそうですわね♡」
拷問特化は鉄球を片づけながら呟いた。
「次はもっと素晴らしい一撃を用意いたしますわ♡」
格闘特化は満足げに拳を握る。
「いい訓練になったぜ!」
腰振りは腰をさすりながら笑った。
「いやあ、いい汗をかいたぜ!」
森羅万象は雪原を整え終え、優雅に一礼した。
「会場は完全に復旧しましたわ♡ 皆さん、お疲れさまでした」
嫉妬は笑顔で締めくくる。
「いやあ、実に見応えのある競技でしたわね♡」
監視は配信画面を確認した。
「再生数、過去最高を更新しましたわ♡」
主人公は雪の上で、かすれた声を漏らした。
「……お前ら……少しは……俺の気持ちも……考えろ……」
息はしているが、まぶたは半開きで、腕も足も力なく投げ出されている。人類最強の肉体が、エスカレートした攻撃の連続ヒットに耐え切った末の、限界の姿だった。
国王が立ち上がり、満足げに(あるいは放心状態で)宣言する。
「実に……素晴らしい戦いだった。我が国の結束と戦力を、世界に示すことができた。会場も無事で何よりだ」
監視が配信を締めくくる。
「以上で本日のイベントは終了ですわ♡ 再生数、過去最高を更新中です! 森羅万象さんによる修復作業のおかげで、後片付けも最小限ですわね♡」
そして会場の端で、ゲイバーのお兄さんがレジを閉めながら小さく呟いた。
「今日は……過去最高の売上だったな」
焼きそばの匂いが、まだ雪原に残っている。
主人公は雪の上に屍のように横たわったまま、遠くを見つめていた。
「……次は、本当に普通の雪合戦がしたい」
誰も、その言葉を真剣に取り合わなかった。
国王にとっては軍事演習。
監視にとっては世界的コンテンツ。
ゲイバーのお兄さんにとっては書き入れ時。
ヤンデレたちにとっては愛の表現。
森羅万象にとっては、戦場を「整える」役割。
慈愛、薬物にとっては兵士たちをいやす役割。
全員が、それぞれの意味でこの雪合戦を楽しんでいた。




