主人公勝利編④ 能力なき世界で、ヤンデレたちは動き出す
## 復旧と、動き始めた男たち
屋敷の大広間は、戦場の跡そのものだった。
床は陥没し、壁は砕け、空気にはまだ無能力場の余韻が残っている。
特殊能力を失ったまま倒れ伏す女性陣のそばに、王城から駆けつけた兵士たちが慌ただしく動いていた。
「慈愛様! 意識はありますか!?」
「薬学様、呼吸は安定しています! とりあえず安静に!」
「魔導様と森羅万象様も……魔力の揺らぎが完全に止まっている……!」
兵士たちは、日頃から世話になっている守護者たちを丁寧に介抱する。
フルヒールも特効薬も使えない今、できるのは応急処置と見守りだけだった。
女性陣はまだ動くことができなかった。
魔導は杖を握ったまま白目を剥き、森羅万象は優雅な髪を乱して意識不明。
科学の計測器はただの鉄くずと化し、監視のカメラは真っ暗。潜入は仮屋で別行動中。慈愛と薬学も力なく横たわる。
その中で、唯一動ける三人がいた。
格闘特化、腰振りスペシャリスト、拷問特化である。
「……っ、体が重いな」
格闘特化がゆっくりと上体を起こす。顎に残る痛みを無視して、周囲を見渡した。
「お前らも、立てるか?」
「ああ……なんとかな」
腰振りが壁に手をついて立ち上がる。衝撃波は出せないが、体幹だけは健在だった。
「俺の拘束具は無事だった。……皮肉なもんだ」
拷問特化が強面のまま、床に落ちていた特殊警棒を拾い上げる。
三人は顔を見合わせ、無言で頷いた。
その時、王国軍の偵察兵が駆け寄ってくる。
「三名の皆様! 無事で何よりです! 監視様の機材が完全に沈黙しております。映像も通信も途絶えたままです!」
格闘特化が拳を握った。
「だったら、復旧するまでだ。俺たちはまだ動ける」
「物理で何とかするしかねえな」
腰振りが腰に手を当てる。
「壊れたら作り直す。俺の仕事だ」
拷問特化が工具箱を引きずり出す。国防新素材の予備パーツが、いくつか残っていた。
偵察兵たちも即座に協力姿勢を示した。
「お手伝いします! 日頃からご指導いただいている恩を返させてください!」
こうして、即興の復旧作業が始まった。
監視のメインコンソールは無能力場の影響で回路が焼けるように沈黙していた。
魔法的な補助は一切使えない。純粋な物理と知識だけで、機材を蘇らせねばならない。
「ここは配線を物理的にバイパスさせろ」
拷問特化が新素材の導線を丁寧に繋ぐ。
「振動で接触不良を起こしてる箇所がある。俺が微調整する」
腰振りが繊細な手つきで基盤を叩く。普段の衝撃波とは対照的な、精密な作業だった。
「力仕事は俺に任せろ。このパネル、どかせ!」
格闘特化が重い筐体を担ぎ上げ、作業スペースを確保する。
偵察兵たちも手際よく工具を運び、配線図を広げ、指示に従って動く。
「格闘師匠の稽古で鍛えられた腕、今こそ役に立ちます!」
「魔導様に教えられた基礎理論が、こういう時に活きるとは……!」
汗だくになりながらも、彼らの目は真剣だった。
守護者たちが倒れた今、自分たちが支えねばならないという覚悟が、そこにはあった。
数十分後。
「……来た」
拷問特化が低く呟く。
モニターが微かに明滅し、ノイズ交じりながらも映像が戻った。
「通信回線、最低限復旧! 外部との接続を確認します!」
偵察兵が叫ぶ。
画面に、ぼんやりと街の光景が映し出される。
そして、遠くで響く「ヤンデレコール」の地鳴りのような声。
格闘特化が拳を握りしめた。
「……国民が、動いている」
腰振りが息を吐く。
「俺たちが守ってきた国が、今度は俺たちを守ろうとしてるってわけか」
拷問特化が機材を軽く叩き、満足げに頷いた。
「いい出来だ。壊れたままで終わる器具じゃない」
三人は揃って、まだ動けない女性陣を見やった。
「もう少し待ってろ。俺たちが先に、状況を整える」
格闘特化の声は、熱を帯びていた。
「ご主人様は……まだ、自由を信じているはずだ。だが、俺たちは負けたままじゃ終わらねえ」
無能力場が続く限り、特殊能力は戻らない。
だが、肉体と意志と、仲間との連携だけは、まだ生きていた。
屋敷の外では、兵士たちの救援部隊が到着し始め、国民の応援の波が徐々に近づいてくる。
仮屋で小説を書き続ける主人公は、まだ何も知らなかった。
世界が、静かに、しかし確実に、動き出していた。




