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主人公勝利編① 奥義・股間無! 人類最強の完全勝利

## 前編:無の領域――人類最強の完全勝利


夜の屋敷。


最新型の免震拘束具に固定された主人公の前に、九人のヤンデレが集結していた。


嫉妬のヤンデレはアイドル活動のため不在である。


「ご主人様♡ 今日はどの部位から強化してさしあげましょうか♡」


魔導が魔法陣を浮かべ、科学が怪しげな数値を計測し、薬学が特製のアンプルを掲げる。

拷問特化がボルトを締め、森羅万象が逃走用の空間を重力で完全に封鎖する。

慈愛がフルヒールの準備をし、監視が録画を開始し、潜入が逃げ道を塞ぎ、腰振りスペシャリストが衝撃波の予兆を漂わせていた。


いつも通りの夜が始まろうとしていた。


主人公は、十人分の愛に押し潰されそうになりながらも、静かに目を開けた。


「……なぁ、お前たち」


ゆっくりと頭を上げ、九人を冷たい目で見つめる。


「俺は自由になりたいんだ。何度言っても理解しないお前らに、最後の手段を使う」


「まあ♡ どんな抵抗をされても、私の《アルティメット・フルヒール》と絶対安全空間がありますわ♡」

慈愛が聖母のように微笑む。


「無理だよ。——これならな」


**バチィッ……!!**


空間が静止した。


主人公は己の体内で、最も狙われ、最も悲劇の引き金となってきた概念——『己の股間』に全集中した。


前世での破壊、異世界での強化、第二段階への進化。そのすべてを経て溜め込まれた無駄に膨大なエネルギーを、内側から一気に限界突破(自爆)させる。


**『無能力化奥義——【股間無(む)】!!』**


ズドォォォン!!


音のない衝撃波が世界を駆け抜けた。


主人公の股間が存在そのものごと完全消滅し、その代償として、概念を書き換える絶対の「無能力場(アンチ・アビリティ・フィールド)」が地球全域へ展開された。


「……え?」


真っ先に声を上げたのは魔導だった。


杖の先の魔法陣が一瞬で霧散し、練り上げていた戦略級魔力が雲散霧消する。


「ま、魔法が……発動しませんわ!? 概念干渉も、情報共有も……全部消えた!?」


「私の重力障壁が……!? 空間が『普通』に戻っている!?」

森羅万象が目を見張り、自らの手がただの素手になっていることに呆然とした。


「バイタル固定プログラム停止! 異常数値の自動リセット不可!」

科学の計測器がただの鉄くずと化す。


「アルティメット・フルヒールが出ませんの!? 回復魔法が……タダの気休めのおまじないに……!?」

慈愛が蒼白になり、パニックで杖を振り回した。


魔法、現実改変、重力操作、即時回復、状態異常付与——すべてが『無』になった。


「はは……ははは! 効いた……! 効いたぞ!!」


拘束具のロックが魔法的サポートを失って緩んだ瞬間、主人公は『自力(人類最強の物理筋肉)』で金属を力任せに破砕し、立ち上がった。


股間は無い。だが、今の主人公の心はどこまでも澄み渡り、全身に全盛期を遥かに超える野生の力が満ち溢れていた。


「これで……お前たちもただの人間だ!!」


九人は一斉に後ずさった。


特殊能力を失った彼女たち(と彼ら)の素の戦闘力は、人類最強の主人公には遠く及ばない。


最初に飛びかかってきたのは薬学だった。


「ご主人様……っ! 私の愛の特効薬を——」


毒針を構えて突進するが、主人公は軽やかにかわし、手首を掴んで薬を床へ叩き落とした。


「その薬のデータも、もう取る必要はない!」


デコピン一発。薬学は白目を剥いて倒れた。


次に監視と潜入が連携して背後を取ろうとする。


「カメラで死角を……!」

「経路を封鎖しますわ♡」


だが主人公の動眼力は神域だった。


「お前たちのカメラも変装も、素の動眼力で見切れる!」


ドンッ! ドンッ!


正確無比な寸止めからの手刀で、二人はあっさり気絶させられた。


科学が分析機器を盾に構えるが、ただの鉄の塊に過ぎない。


「数値で詰めようとしても、今の私にはデータが……!」


主人公の一撃で計測器ごと吹き飛び、科学も床に沈んだ。


残るは武闘派組だ。


「フッ……甘いぞ、ご主人様」


カチン、と無骨な音が響いた。


暗闇から躍り出たのは、拷問特化と腰振りスペシャリストだった。


「俺たちの強さは魔法や特殊能力じゃねえ! 血のにじむような『肉体の鍛錬』だ!」

拷問特化が新素材の特殊警棒を構え、武人の眼光で迫る。


「そうだ! 俺の腰振りは純粋な筋肉と体幹の産物! 能力が消えたところで、俺の衝撃は止まらん!」

腰振りスペシャリストが凄まじい風切り音を立てて踏み込んだ。


「ハッ、それでこそだ!!」


主人公は逃げなかった。


ドカアッ!!


腰振りが放った音速の衝撃波を伴う蹴り。それを主人公は**素手で受け止めた**。


「なっ……!?」


「言ったはずだ……俺は『人類最強』だと!!」


能力を失っても、主人公が積み上げてきた戦闘経験と純粋な身体スペックは神の領域だった。


主人公は腰振りの足を掴むと、そのまま背負い投げで拷問特化へ激突させた。


ドガッ、バキバキッ!!


「ぐああああっ!?」

「バカな……純粋な筋力だけで、俺の免震防具の上から……!?」


二人はそれでも立ち上がり、何度か主人公の拳を肉体で受け止めた。


拷問特化は警棒で防ぎ、腰振りは体幹で衝撃を殺そうとする。


だが、スペックが違う。


三発、四発と重ねられた拳が、二人の限界を超えた。


最終的に二人は、立ったまま白目を剥いて気絶した。


「……す、すげぇ……」

腰振りが呟き、そのまま棒立ちで意識を失う。


拷問特化も「いい……出来だったな……」と満足げに呟き、同じく立ったまま沈んだ。


残るは三人。魔導、慈愛、そして森羅万象。


「くっ……! 魔法も重力もない私たちが、肉弾戦で彼に勝てるわけが……!」

魔導が悔しそうに歯を食いしばる。


「諦めませんわ! 愛の力で……!」

慈愛が果敢に飛びかかってくるが、能力のない彼女はただの華奢な乙女である。


主人公は彼女の拳を優しく受け止め、そのままクルリと回転させて床に優しく拘束した。


「慈愛、お前の回復がなくても……俺はもう傷つかない」


「あぁ……ご主人様……♡」


魔導も杖を捨てて素手で魔法を繰り出そうとするが、何も起きない。


主人公の一撃で、優雅な体が壁に叩きつけられ、意識を失った。


「お任せ……くださいませ……♡」


そして、最後の一人。


すべての元凶であり、ヤンデレ要塞のリーダー格である**森羅万象**。


彼女はポロポロと涙をこぼしながら、素の足で主人公へ駆け寄ってきた。


「嫌……嫌ですわご主人様! 重力も空間操作もなくても……私、あなたを愛していますの! どこにも行かないで……っ! 逃げ道はありませんわ♡」


抱きつこうと伸ばされた彼女の手を、主人公はしっかりと受け止めた。


そして、静かに、しかし断固とした声で告げた。


「終わりだ、森羅万象。今夜は俺の勝ちだ」


ポン、と優しく額を小突く。


衝撃で脳が揺れた森羅万象は、「ご主……様……♡ 整え……ました、わ……」と呟き、そのまま床へと崩れ落ちた。


——静寂。


屋敷の大広間には、倒れ伏す八人のヤンデレたちと、仁王立ちする主人公だけが残されていた。


現実改変も、絶対重力も、無限回復もない。

全員を己の拳と覚悟だけで完全にノックアウトしたのだ。


「勝った……」


主人公は膝をつき、天を仰いだ。


「勝ったぞおおおおおおおおおおっ!! 完全勝利だあああああっ!!」


股間はない。精神も限界だった。


しかし今、この瞬間、主人公は間違いなくすべての束縛を打ち破り、完璧な勝利と「自由」を手に入れたのだった。


彼はよろめきながらも、屋敷の出口へと向かった。


扉に手をかけ、外の空気を吸い込もうとした、その時だった。


「……おい」


低い、熱を帯びた声がした。


出口の前には、一人の男が仁王立ちしていた。


格闘特化の男ヤンデレである。


彼は拳を固め、真剣な眼差しで主人公を見据えていた。


「さあ、主人公! 能力はお互いなしだ。差しでやりあおうか。今までの修行の成果。今日こそあなたを超えて見せる」


夜風が二人の間を吹き抜けた。


主人公の完全勝利は、まだ、終わっていなかった。

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