復活した幼馴染とヤンデレたちの和解
## 第五章 蘇る幼なじみ
その夜。
主人公は珍しく平穏な時間を過ごしていた。
いや。
正確には平穏ではない。
十人のヤンデレたちに囲まれている時点で平穏など存在しない。
だが少なくとも、
爆発もなかった。
竜も出なかった。
敵組織も襲撃してこなかった。
地形も消えていなかった。
主人公にとっては十分平和だった。
「今日は静かだな……」
主人公はソファに深く腰掛けた。
「そうですわね♡」
魔導が紅茶を注ぐ。
「平和ですわ♡」
慈愛も微笑む。
「異常値なし♡」
科学が頷く。
「逃走の兆候もありませんわ♡」
監視が報告する。
「やめろその報告」
主人公は疲れた声で突っ込んだ。
その時だった。
ピクリ。
「……ん?」
主人公の顔が引きつる。
妙な感覚。
嫌な予感。
これまでの人生経験が告げていた。
絶対にろくでもないことが起きる。
「おい」
主人公が立ち上がる。
「どうしましたの?」
「ちょっと待て」
嫌な汗が出ていた。
「なんか来る」
十人が首を傾げた。
「何がですの♡」
「知らん」
主人公は頭を抱える。
「でも絶対来る」
その瞬間。
屋敷全体が揺れた。
ゴゴゴゴゴゴゴ……
「来たぁぁぁぁぁぁ!!」
主人公だけが叫んだ。
庭の中央。
巨大な光柱が天へ伸びる。
空が裂け、
地面が震え、
謎の神秘的な音楽まで流れ始めた。
「演出が豪華すぎるだろ!」
主人公が突っ込む。
実は、あれは単なる生理現象ではなかった。
主人公の身体の特定の部位には、ヤンデレの神を召喚する力が宿っていたのである。
そして、その力は死者すら呼び戻した。
光の中から現れた。
一人目。
黒髪の少女。
主人公が息を呑む。
「……え」
知っている顔だった。
忘れるはずがない。
幼い頃、
毎日一緒に遊んだ少女。
そして。
数年前に死んだ少女。
「久しぶり♡」
少女は笑った。
昔と同じ笑顔だった。
主人公の顔から血の気が引く。
「なんで」
少女は首を傾げる。
「会いたかったから?」
「そういう問題じゃねぇ!!」
しかし。
光は終わらない。
二人目。
三人目。
四人目。
続々と増える。
「増えるなぁぁぁぁぁぁ!」
主人公は頭を抱えた。
最終的に。
元幼なじみ軍団がずらりと並んだ。
全員美女。
全員笑顔。
全員主人公を見ている。
嫌な予感しかしない。
「会いたかった♡」
「ずっと待ってたの♡」
「もう離れないからね♡」
彼女たちは主人公への愛を忘れていなかった。
むしろ、死を経験したことで、以前よりも積極的になっていた。
「もう二度と離れませんわ♡」
主人公は絶望した。
死んでも終わらない。
逃げても終わらない。
しかも、死が必ずしも永遠の別れではないと分かったことで、追いかける側はますます大胆になっていた。
嫉妬のヤンデレが、蘇った幼なじみたちに優しく声をかける。
「みんな、主人公様を大切にしてあげてね♡ 私も応援するわ!」
それを見た魔導も頷いている。
「良かったですわね♡」
「良くない」
森羅万象も微笑む。
「家族が増えましたわ♡」
「増やすな」
主人公の精神力が削られていく。
しかし。
意外なことが起きた。
幼なじみたちは、
十人のヤンデレを見た。
十人も、
幼なじみたちを見た。
沈黙。
主人公は戦慄した。
ついに戦争だ。
そう思った。
だが。
「主人公様を愛しているんですの?♡」
「もちろん♡」
「そうですの♡」
「あなた方も?♡」
「もちろん♡」
「仲良くできそうですわ♡」
握手。
和解成立。
主人公だけが叫んだ。
「なんでだよぉぉぉぉぉ!!」
普通は揉める。
普通は争う。
恋愛作品とはそういうものだ。
しかし。
この世界には嫉妬がいない。
正確にはいる。
嫉妬のヤンデレがいる。
だが本人は誰より嫉妬しない。
「みんな仲良く♡」
拍手。
拍手。
拍手。
「増殖するなこの包囲網!」
主人公は絶望した。
さらに。
幼なじみの一人が手を上げる。
「私たちも追跡班に入っていい?」
「もちろんですわ♡」
科学が歓迎。
「監視担当も歓迎ですわ♡」
監視も歓迎。
「先回り技術を教えますわ♡」
潜入も歓迎。
「帰れぇぇぇぇ!!」
主人公の叫びだけが屋敷に響く。
その時だった。
慈愛のヤンデレが、静かに一歩前へ出た。
彼女は蘇った幼なじみたちを、優しく見つめた。
聖母のような、温かな眼差し。
「……あなた方の気持ち、よくわかりますわ」
幼なじみたちが顔を上げる。
「主人公様に会いたくて、死を超えてまで戻ってこられたのですもの。素敵な愛ですわ♡」
慈愛はそっと両手を合わせた。
「でも……」
彼女の声が、わずかに落ちる。
「すでに亡くなった方々が、このまま現世に留まれば、因果が歪みますの。あなた方自身も、いずれ苦しむことになりますわ」
光が、慈愛の掌から溢れ出す。
柔らかく、清らかで、しかし絶対的な光。
「理解はしています。だからこそ……成仏して差し上げますわ♡」
「え?」
「待って――」
《アルティメット・ライト・セパレーション》
神々しい光が幼なじみたちを包み込む。
彼女たちは驚きの表情を浮かべたまま、徐々に透明になっていく。
「あ……あっ……」
「主人公様……」
「また……会える……?」
慈愛は優しく微笑んだ。
「安心してくださいませ。きちんと成仏させましたの。心残りは、私が引き取りましたわ♡」
光が消える。
庭に残ったのは、十人のヤンデレと、呆然とする主人公だけだった。
「……お前」
主人公が絞り出す。
「優しそうな顔して、とんでもないことしやがるな……」
「ええ♡」
慈愛は澄ました顔で紅茶を一口啜る。
「愛する者の平穏を守るのも、私の役目ですもの♡」
その時だった。
成仏しきれなかったのか、それとも最後の執着か。
光の残滓から、幼なじみの一人が半透明の状態で一瞬だけ戻ってきた。
彼女は主人公をじっと見つめ、静かに言った。
「……会えたのは、嬉しかったよ」
「お、おう……」
「でも」
表情が変わる。
「何勝手に恋人増やしてんだよ」
次の瞬間。
どこからともなく現れたハンマーが、主人公の頭を正確に捉えた。
ガンッ!!
「ぐあああああああっ!?」
主人公はその場に崩れ落ち、白目を剥いて気絶した。
半透明の幼なじみは、満足げに頷くと、本当に光になって消えていった。
十人のヤンデレたちは、気絶した主人公を囲んで顔を見合わせる。
「……まあ、無事で何よりですわね♡」
魔導が微笑む。
「頭は大丈夫かしら?」
慈愛がすぐにヒールの準備をする。
「問題ありませんわ。すぐに回復させます♡」
「回復したらまた追跡計画の続きですね♡」
科学がノートを開く。
「記録も完璧ですわ♡」
監視がカメラを止める。
嫉妬が手を叩いた。
「今日も充実した一日だったわね♡」
森羅万象が静かに空間を整える。
「では、ご主人様をお部屋までお運びしましょうか♡」
こうして。
死を超えた再会は、感動的なドラマではなく、
主人公包囲網の一時的な増強と、即座の成仏と、ハンマーによる強制終了という、
極めてこの世界らしい形で幕を閉じた。
そして主人公は、気絶したまま、十人に囲まれて寝室へと運ばれていくのであった。
今日もまた、ヤンデレたちの愛は、死すら超えて、しかし最終的には「整え」られていく。
読んでいただきありがとうございます。
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