恋愛イベントを強制終了させるヤンデレたち
## 第四章 恋愛イベントが始まらない
その日。
主人公は珍しく機嫌が良かった。
理由は単純である。
平和だった。
敵もいない。
侵略もない。
世界滅亡の危機もない。
ヤンデレたちは各自の仕事で忙しい。
つまり。
久しぶりの自由時間だった。
「ふっ……」
主人公は屋敷の庭で紅茶を飲んだ。
「平和だ……」
感動していた。
本当に感動していた。
しかし。
世界はそう甘くなかった。
「主人公様ー♡」
遠くから聞き慣れた声。
「帰れ」
即答だった。
嫉妬のヤンデレが全力で走ってくる。
「帰らないわ♡」
「何の用だ」
「恋愛イベントよ♡」
「嫌な予感しかしない」
嫉妬は胸を張った。
「みんなで話し合った結果!」
嫌な予感が増した。
「主人公様にもっと青春してほしいという結論になりました!」
「余計なお世話だ」
「だから今日はデートイベントです!」
「帰る」
「拒否権はありません♡」
十分後。
主人公は街中にいた。
しかも。
両脇を魔導と森羅万象に挟まれていた。
「離せ」
「嫌ですわ♡」
「ご主人様が照れてらっしゃいますわ♡」
「照れてねえ!!」
逃げようとする。
しかし。
「ご主人様♡」
監視がいる。
ビルの屋上。
超望遠カメラ。
完全装備。
「記録開始ですわ♡」
「何を記録してる」
「デートですわ♡」
「監視するな!」
反対側を見る。
潜入がいた。
カフェ店員になっている。
「本日のおすすめはこちらです♡」
「何でここにもいる」
「勤務中ですので♡」
「嘘をつけ」
その時。
科学がノートパソコンを開いた。
「恋愛感情研究のためのデータ収集を開始します」
「帰れ」
「心拍数上昇確認」
「帰れ」
「瞳孔反応記録」
「帰れ!!」
一方。
少し離れた場所。
嫉妬は双眼鏡を握りしめていた。
「みんな頑張ってるわぁ♡」
隣にいる格闘が聞く。
「お前は参加しないのか」
「応援係だもの♡」
「そうか」
「はい♡」
「おーい魔導さーん!」
メガホン装備。
「いい感じよー♡」
「応援するな!」
主人公が叫んだ。
その時。
カフェの向かい側に、一人の少女が立っていた。
普通の少女。
普通に可愛い。
普通に主人公を見ている。
「……ん?」
少女が近付いてきた。
「もしかして、英雄の方ですよね?」
主人公の動きが止まる。
「まあ、一応」
「私、ファンなんです」
周囲の空気が凍った。
魔導が笑顔のまま止まる。
森羅万象も笑顔で止まる。
科学だけが眼鏡を押し上げた。
「危険度測定開始」
怖い。
「もし良かったら、一緒にお茶でも――」
少女が最後まで言う前に。
魔導が前へ出た。
「残念ですわ♡」
笑顔。
満面の笑顔。
「すでに満席ですの♡」
「え?」
森羅万象が微笑む。
「席がありませんわ♡」
「いや、空いてますよね?」
「ありませんわ♡」
急にカフェが消えた。
「消すなあああああ!!」
主人公が叫ぶ。
店員姿の潜入が避難誘導を始めた。
「安全対策です♡」
「安全じゃねえ!」
十分後。
恋愛イベントは終了した。
少女は何が起きたのか理解できないまま帰った。
主人公は頭を抱えていた。
「何で毎回こうなるんだ……」
嫉妬は笑顔だった。
「でも楽しかったでしょ?♡」
「全然」
「青春だったわ♡」
「どこがだ」
嫉妬はきょとんとした。
「だって恋愛イベントにはライバル登場が必要だもの♡」
「お前の恋愛知識どうなってんだ」
夕日が沈む。
今日もまた。
主人公の平穏な青春は守られた。
本人の意思とは関係なく。
そして遠く離れた場所では。
ある墓石の前で。
一人の少女が静かに微笑んでいた。
「……やっと会えるね」
土の下から伸びた指が、
ゆっくりと墓石を叩いた。
主人公はまだ知らない。
次の騒動が、
すぐそこまで来ていることを。
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