↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
59/162

強面の拷問特化、職人の技で街を救う

拷問特化の男のヤンデレは、強面であった。


眉毛は太く、目元は険しく、口元には常に無意識の威圧が宿っている。街ですれ違うだけで子供が泣き出し、大人たちは目を逸らす。彼自身はただの職人気質な男で、拘束具や新素材の開発に情熱を燃やす穏やかな性格なのだが、顔が顔なのだ。


「……またか」


ある日の午後。公園の前を通りかかっただけで、小さな女の子が母親の後ろに隠れて泣き始めた。母親も慌てて目を逸らし、足早に去っていく。


彼は立ち止まり、手元の設計図を握りしめた。


「俺はただ、いい器具を作りたいだけなのに……」


その落ち込んだ背中を、嫉妬のヤンデレが見つけた。


「あら、どうしたの? 元気ないわね」


彼女は国民的アイドルらしい明るい笑顔で近づき、すぐに事情を聞き出した。話を聞いた嫉妬は、真剣な顔で頷く。


「仲間のピンチはみんなのピンチですわ♡」


その一言で、十人(と必要に応じた追加メンバー)が即座に召集された。


居間に集まったヤンデレたちに、嫉妬が状況を説明する。


「拷問特化さんが街の人に怖がられて、落ち込んでいるの。なんとかしたいのよ」


「表情の問題ですわね。安全対策として、まず表情筋トレーニングを提案しますわ♡」

潜入特化が冷静に分析する。


「私が笑顔の指導をしますわ♡ アイドルとしての神対応、伝授しますからね」

嫉妬が胸を張る。


こうして、拷問特化の「街の人に怖がられない計画」が始まった。


---


初日のトレーニングは、潜入と嫉妬の二人体制で行われた。


「まず、口角を上げてください。もっと、もっとですわ。今のだと『尋問開始』に見えますわよ」

潜入が鏡の前で厳しく指摘する。


「いいえ、もっと柔らかく! 『こんにちは』のつもりで目を細めて……そう、そこ! あ、今のは『お前を拘束する』顔になってるわよ?」

嫉妬が慌てて修正する。


拷問特化は真剣に取り組んだ。職人気質なので、一度始めたら本気だ。鏡の前で何度も表情を変え、潜入の変装技術を応用した筋肉の使い方を学び、嫉妬のアイドルスマイルを真似た。


「……どうだ」


彼が完成形を披露すると、二人は顔を見合わせた。


「……進歩はしていますわね」

潜入が遠回しに言う。


「前よりは優しい……かもしれない、わね……?」

嫉妬も微妙な表情。


それでも彼は自信を持って街へ繰り出した。


結果は惨敗であった。


子供に泣かれ、店員に怯えられ、すれ違った老人に「今のは幻だ」と呟かれた。


夜、拠点の作業部屋で彼は項垂れていた。


「俺の顔は……道具にしか向いていないのか……」


そのとき、街の方から怒鳴り声と悲鳴が聞こえてきた。


強盗事件であった。


しかも相手はただの強盗ではない。かつては「千人将」と呼ばれた猛者で、近年は表舞台から消えていたが、腕は鈍っていないらしい。兵士たちが駆けつけるも、圧倒的な力で返り討ちにされていた。


他のヤンデレたちは別件の大規模災害対応で出払っており、拠点に残っていたのは拷問特化だけであった。


彼は立ち上がった。


「戦闘員じゃない俺に……勝てるかわからない」


それでも設計図を机に置き、愛用の拘束具一式を手に取った。


「でも、放っておけない」


---


現場に着いたとき、強盗はすでに数人の兵士を打倒し、民家に押し入りかけていた。


「おや、強面が一人で来たか。お前も殴られて寝てろ」


千人将は嘲笑うと、凄まじい勢いで殴りかかってきた。


拷問特化は正面から受け止めた。が、やはり戦闘特化ではない。拳をまともに食らい、壁に叩きつけられ、口の中が血の味でいっぱいになる。


「くっ……」


彼は転がるように距離を取り、懐から金属の器具を取り出した。職人が本気で作った、国防新素材製の拘束具である。


「壊されたらまた作り直すだけだ……だが、今日は壊させない」


強盗が再び突進してくる。拷問特化はあえて接近を許し、タイミングを計った。腕を掴まれた瞬間、関節を極めるように器具を装着。次に足を払い、もう一つの拘束具で動きを封じる。


「ちっ、邪魔なもんを……!」


強盗が力任せに引き千切ろうとするが、素材が違う。簡単には壊れない。その隙に追加の拘束を重ね、徐々に動きを封じていく。


殴られ、蹴られ、何度も地面に叩きつけられながらも、彼は器具を外さなかった。職人の執念である。


やがて、強盗の動きが完全に止まった。


「……動けない、だと……?」


「ああ。これが俺の仕事だ」


拷問特化は鼻血を垂らしながら、静かに答えた。


その一部始終を、物陰から街の人々が見ていた。最初は強面の男が一人で向かっていくのを見て「また何か起きる」と身構えていたのだが、次第に表情が変わっていく。


ボロボロになりながらも、決して逃げず、器具一つで猛者を制圧する姿。


強盗が完全に無力化された後、最初に声を上げたのは、昨日泣いた女の子の母親であった。


「……ありがとう、ございます」


続いて、他の住民たちも次々と頭を下げた。


「助かりました」

「一人で……」

「本当に、ありがとうございました」


拷問特化は、初めて「怖がられていない目」を向けられた。驚いているのは確かだが、そこには明らかな感謝があった。


「……ああ」


彼は短く答え、拘束した強盗を兵士に引き渡し、静かにその場を去った。


---


翌日。


拷問特化は、いつものように街を歩いていた。顔は相変わらずの強面である。すれ違った人々は、やはり少し驚いた表情を浮かべる。


だが、昨日までとは明らかに違った。


目を逸らす人は減り、軽く会釈をする人が増えた。子供が泣き出すことはなく、むしろ遠くから「あの人だ」と指差す声が聞こえた。


「昨日の人だよ。強盗を倒した人」


彼は足を止め、空を見上げた。


胸の奥が、少しだけ温かくなった気がした。


「……悪くないな」


拠点に帰ると、嫉妬が満面の笑みで出迎えた。


「お疲れ様! 街の人がみんな『強面だけどいい人』って言ってたわよ♡」


潜入も静かに頷く。


「表情筋トレーニングの成果は……まだ発展途上ですわね。ですが、行動で示すのも有効な手段ですわ」


拷問特化は、手元の新しい拘束具の設計図を広げながら、小さく笑った。


強面は変わらない。

それでも、今日という日を経て、彼の中で何かが少しだけ柔らかくなったのである。


そしてヤンデレたちは、今日も平和を守り、仲間の小さな幸せも、きっちりと守っていくのであった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。