強面の拷問特化、職人の技で街を救う
拷問特化の男のヤンデレは、強面であった。
眉毛は太く、目元は険しく、口元には常に無意識の威圧が宿っている。街ですれ違うだけで子供が泣き出し、大人たちは目を逸らす。彼自身はただの職人気質な男で、拘束具や新素材の開発に情熱を燃やす穏やかな性格なのだが、顔が顔なのだ。
「……またか」
ある日の午後。公園の前を通りかかっただけで、小さな女の子が母親の後ろに隠れて泣き始めた。母親も慌てて目を逸らし、足早に去っていく。
彼は立ち止まり、手元の設計図を握りしめた。
「俺はただ、いい器具を作りたいだけなのに……」
その落ち込んだ背中を、嫉妬のヤンデレが見つけた。
「あら、どうしたの? 元気ないわね」
彼女は国民的アイドルらしい明るい笑顔で近づき、すぐに事情を聞き出した。話を聞いた嫉妬は、真剣な顔で頷く。
「仲間のピンチはみんなのピンチですわ♡」
その一言で、十人(と必要に応じた追加メンバー)が即座に召集された。
居間に集まったヤンデレたちに、嫉妬が状況を説明する。
「拷問特化さんが街の人に怖がられて、落ち込んでいるの。なんとかしたいのよ」
「表情の問題ですわね。安全対策として、まず表情筋トレーニングを提案しますわ♡」
潜入特化が冷静に分析する。
「私が笑顔の指導をしますわ♡ アイドルとしての神対応、伝授しますからね」
嫉妬が胸を張る。
こうして、拷問特化の「街の人に怖がられない計画」が始まった。
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初日のトレーニングは、潜入と嫉妬の二人体制で行われた。
「まず、口角を上げてください。もっと、もっとですわ。今のだと『尋問開始』に見えますわよ」
潜入が鏡の前で厳しく指摘する。
「いいえ、もっと柔らかく! 『こんにちは』のつもりで目を細めて……そう、そこ! あ、今のは『お前を拘束する』顔になってるわよ?」
嫉妬が慌てて修正する。
拷問特化は真剣に取り組んだ。職人気質なので、一度始めたら本気だ。鏡の前で何度も表情を変え、潜入の変装技術を応用した筋肉の使い方を学び、嫉妬のアイドルスマイルを真似た。
「……どうだ」
彼が完成形を披露すると、二人は顔を見合わせた。
「……進歩はしていますわね」
潜入が遠回しに言う。
「前よりは優しい……かもしれない、わね……?」
嫉妬も微妙な表情。
それでも彼は自信を持って街へ繰り出した。
結果は惨敗であった。
子供に泣かれ、店員に怯えられ、すれ違った老人に「今のは幻だ」と呟かれた。
夜、拠点の作業部屋で彼は項垂れていた。
「俺の顔は……道具にしか向いていないのか……」
そのとき、街の方から怒鳴り声と悲鳴が聞こえてきた。
強盗事件であった。
しかも相手はただの強盗ではない。かつては「千人将」と呼ばれた猛者で、近年は表舞台から消えていたが、腕は鈍っていないらしい。兵士たちが駆けつけるも、圧倒的な力で返り討ちにされていた。
他のヤンデレたちは別件の大規模災害対応で出払っており、拠点に残っていたのは拷問特化だけであった。
彼は立ち上がった。
「戦闘員じゃない俺に……勝てるかわからない」
それでも設計図を机に置き、愛用の拘束具一式を手に取った。
「でも、放っておけない」
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現場に着いたとき、強盗はすでに数人の兵士を打倒し、民家に押し入りかけていた。
「おや、強面が一人で来たか。お前も殴られて寝てろ」
千人将は嘲笑うと、凄まじい勢いで殴りかかってきた。
拷問特化は正面から受け止めた。が、やはり戦闘特化ではない。拳をまともに食らい、壁に叩きつけられ、口の中が血の味でいっぱいになる。
「くっ……」
彼は転がるように距離を取り、懐から金属の器具を取り出した。職人が本気で作った、国防新素材製の拘束具である。
「壊されたらまた作り直すだけだ……だが、今日は壊させない」
強盗が再び突進してくる。拷問特化はあえて接近を許し、タイミングを計った。腕を掴まれた瞬間、関節を極めるように器具を装着。次に足を払い、もう一つの拘束具で動きを封じる。
「ちっ、邪魔なもんを……!」
強盗が力任せに引き千切ろうとするが、素材が違う。簡単には壊れない。その隙に追加の拘束を重ね、徐々に動きを封じていく。
殴られ、蹴られ、何度も地面に叩きつけられながらも、彼は器具を外さなかった。職人の執念である。
やがて、強盗の動きが完全に止まった。
「……動けない、だと……?」
「ああ。これが俺の仕事だ」
拷問特化は鼻血を垂らしながら、静かに答えた。
その一部始終を、物陰から街の人々が見ていた。最初は強面の男が一人で向かっていくのを見て「また何か起きる」と身構えていたのだが、次第に表情が変わっていく。
ボロボロになりながらも、決して逃げず、器具一つで猛者を制圧する姿。
強盗が完全に無力化された後、最初に声を上げたのは、昨日泣いた女の子の母親であった。
「……ありがとう、ございます」
続いて、他の住民たちも次々と頭を下げた。
「助かりました」
「一人で……」
「本当に、ありがとうございました」
拷問特化は、初めて「怖がられていない目」を向けられた。驚いているのは確かだが、そこには明らかな感謝があった。
「……ああ」
彼は短く答え、拘束した強盗を兵士に引き渡し、静かにその場を去った。
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翌日。
拷問特化は、いつものように街を歩いていた。顔は相変わらずの強面である。すれ違った人々は、やはり少し驚いた表情を浮かべる。
だが、昨日までとは明らかに違った。
目を逸らす人は減り、軽く会釈をする人が増えた。子供が泣き出すことはなく、むしろ遠くから「あの人だ」と指差す声が聞こえた。
「昨日の人だよ。強盗を倒した人」
彼は足を止め、空を見上げた。
胸の奥が、少しだけ温かくなった気がした。
「……悪くないな」
拠点に帰ると、嫉妬が満面の笑みで出迎えた。
「お疲れ様! 街の人がみんな『強面だけどいい人』って言ってたわよ♡」
潜入も静かに頷く。
「表情筋トレーニングの成果は……まだ発展途上ですわね。ですが、行動で示すのも有効な手段ですわ」
拷問特化は、手元の新しい拘束具の設計図を広げながら、小さく笑った。
強面は変わらない。
それでも、今日という日を経て、彼の中で何かが少しだけ柔らかくなったのである。
そしてヤンデレたちは、今日も平和を守り、仲間の小さな幸せも、きっちりと守っていくのであった。




