ヤンデレ版『大人の脳トレ』
主人公が目を覚ますと、椅子に拘束されていた。
頭には謎の装置が取り付けられ、目の前には大きなモニターがある。
画面には、でかでかとこう表示されていた。
『大人のトレーニング』
「……なんだ、これは?」
目の前には、十人のヤンデレたちが並んでいた。
「主人公様♡ 今日は特別な脳トレを用意しましたわ!」
「脳を鍛えることで、主人公様のさらなる成長を促すのです♡」
「ちなみに、問題を間違えると……」
ヤンデレの一人が、にっこりと微笑んだ。
「股間に電流が流れますわ♡」
「脳トレの罰ゲームとして明らかにおかしいだろ!」
そのとき、ヤンデレの一人が突然、目に涙を浮かべた。
「で、でも……これ以上、逞しい股間になってもらっては困ります……!」
「え?」
「今の主人公様の股間も素晴らしいのに、これ以上強くなってしまったら……私たち、一体どうなってしまうのでしょう……!」
彼女は涙を流しながら、主人公の股間を見つめた。
「どうか、ほどほどにしてくださいませ……!」
「いや、俺に言われても……」
すると彼女は、突然涙を拭いた。
そして、満面の笑みを浮かべた。
「じゃあ今から究極の股間作成と行きましょう!♡」
「話が変わってるだろおおおおお!!」
こうして、地獄の脳トレが始まった。
第一問 人数数え――潜入特化の演出
画面には、一軒の家が映し出されていた。
人々が次々と家に入ったり、出たりしている。
「さて、家から出ていった人と入ってきた人を数えてください♡」
主人公は画面を凝視した。
一人、二人、三人……。
そのとき、画面の端に不審な男が現れた。
男は家の壁に近づくと、何もない場所に扉を取り付け、堂々と家の中へ入っていった。
「……なんだ、今の?」
「潜入特化のヤンデレが仕込んだ演出ですわ♡」
「人数を数える問題に潜入工作を混ぜるな!」
潜入特化のヤンデレは、手元の脚本をめくった。
「ここで視聴者に違和感を抱かせ、後半で伏線を回収するのです♡」
「脳トレをドラマ仕立てにするなああああ!!」
結局、主人公が数え終わる頃には、住人全員が地下トンネルから逃げていた。
「正解はゼロ人ですわ♡」
「伏線を回収する前に問題を成立させろおおおお!!」
第二問 誰の声でしょう?――科学と薬物の共同開発
画面が暗転した。
「続いては、声を聞いて誰なのかを当てていただきます♡」
スピーカーから声が流れた。
「主人公様、愛していますわ♡」
主人公は耳を澄ませた。
声は加工されていたが、息継ぎのタイミング、語尾の震え、発音の癖まで注意深く分析する。
「慈愛のヤンデレだ!」
「正解です♡」
続く問題も、主人公は次々と正解していった。
「森羅万象のヤンデレ!」
「正解♡」
「性技のスペシャリストのヤンデレ!」
「正解ですわ♡」
「股間のスペシャリストの男のヤンデレ!」
「正解だよ♡」
「どうだ! 声を変えた程度で俺を騙せると思うな!」
主人公は、わずかな声の特徴から本人を見抜いていた。
ヤンデレたちは顔を見合わせた。
「普通の声変換では、もう通用しませんわね」
ヤンデレたちが顔を見合わせた。
科学特化のヤンデレが、巨大な装置を持ち込んだ。
「声紋、息継ぎ、発音の癖、声帯の振動まで解析し、完全に別人の声を再現する装置ですわ♡」
薬物特化のヤンデレも、試験管を掲げた。
「さらに、声を担当するヤンデレに専用の薬品を使えば、発声そのものまで変えられますわ♡」
「声当てクイズにそこまでの技術を投入するな!」
「では、実験開始ですわ♡」
スピーカーから声が流れた。
『主人公様、愛していますわ♡』
主人公は即答した。
「慈愛のヤンデレ!」
「不正解です♡」
「なにっ!?」
科学特化のヤンデレが胸を張った。
「声紋データを解析し、別人の声帯モデルに変換しましたわ♡」
薬物特化のヤンデレも笑顔で続けた。
「薬品によって発声まで変化させましたので、本人が話していても判別できませんわ♡」
「それはもう声当てクイズじゃなくて、本人確認システムへの攻撃だろおおおお!!」
「主人公様、素晴らしい分析力ですわ♡」
「褒めても電流を流すなああああ!!」
第三問 色彩識別――魔導の追加問題
画面に、黄色い文字で「あか」と表示された。
「文字の意味ではなく、文字そのものの色を答えてください♡」
「黄色!」
「正解です♡」
主人公は得意げに笑った。
「今度こそ、まともな問題じゃないか!」
すると、魔導のヤンデレが杖を振った。
画面の文字が、黄色から赤、赤から青、青から緑へと目まぐるしく変化し始めた。
「では、次の問題ですわ♡ 今この瞬間、文字の色は何色でしょう?」
「赤!」
「不正解です♡」
「今、赤だっただろ!」
「主人公様が答えた瞬間、魔法で青に変えましたの♡」
「回答する瞬間に色を変えるなああああ!!」
科学特化のヤンデレが、装置の数値を確認した。
「回答速度は十分ですわ♡」
薬物特化のヤンデレも頷く。
「反応速度を測定するための薬品も、すでに準備済みですわ♡」
「俺の脳を鍛える話はどこへ行ったんだよ!」
魔導のヤンデレは満面の笑みを浮かべた。
「もちろん、主人公様を鍛えるためですわ♡」
「鍛えるという言葉を便利に使うなああああ!!」
そして、股間に電流が流れた。
「ぐああああああああああ!!」
### 最終問題 主人公様が本当に好きなのは誰でしょう?
画面に三つの選択肢が表示された。
A:ゲイバーのお兄さん
B:森羅万象のヤンデレ
C:魔導のヤンデレ
主人公は画面をじっと見つめた。
これまでの問題は、理不尽なものばかりだった。
だが、今回は違う。
誰を選ぶべきか。
Aを選べば、ヤンデレたちを裏切ることになる。
Bを選べば、森羅万象のヤンデレ以外のヤンデレたちが嫉妬するかもしれない。
Cを選んでも、魔導のヤンデレ以外のヤンデレたちが嫉妬するかもしれない。
主人公は真剣に考え込んだ。
「くっ……これは難問だ……!」
彼は三つの選択肢を何度も見比べた。
そして、ついに決断する。
「よし……Bだ!」
主人公が選択肢を選ぼうとした、その瞬間。
主人公の股間が、勝手に動いた。
「なっ……!?」
股間が自らの意志でAを指し示した。
A:ゲイバーのお兄さん
「身勝手の極意だとおおおおおお!?」
主人公の意思を無視して、股間が選択肢を選んでしまったのだ。
画面に大きく表示される。
『不正解!』
「ぐあああああああああああ!!」
股間に強烈な電流が流れた。
そして、ヤンデレたちの笑顔が消えた。
「……主人公様?」
「ち、違う! 今のは俺の意思じゃない! 身勝手の極意が発動して、股間が勝手に……!」
「つまり、主人公様の股間は、私たちよりもゲイバーのお兄さんを選んだということですわね♡」
「違うって言ってるだろおおおおお!!」
ヤンデレたちの周囲に、禍々しい魔力が渦巻き始めた。
森羅万象のヤンデレが重力を操り、主人公の身体を床に押さえつける。
魔導のヤンデレが逃走を封じる魔法を展開する。
格闘特化の男のヤンデレが拳を構える。
残りのヤンデレたちも、それぞれの能力を発動させた。
「皆様……総攻撃ですわ♡」
主人公は、ようやく自分の置かれた状況を理解し始めた。
「ま、待て! 俺は本当に何もしていな――」
そのときだった。
主人公は、目の前の三つの選択肢を思い出した。
Aはゲイバーのお兄さん。
Bは森羅万象のヤンデレ。
Cは魔導のヤンデレ。
そして、ここにいるヤンデレたちは十人。
残りの八人は、どこに行った?
「……あ」
主人公の顔から血の気が引いた。
自分は何をやっていたのだろう。
Aを選べばヤンデレたちを裏切る。BやCを選べば、選ばれなかったヤンデレたちが嫉妬する。
そのうえ、選択肢にすら登場していないヤンデレが八人もいる。
そもそも、最初から正解など存在しなかったのだ。
それなのに自分は、真面目に三つの選択肢を比較し、誰を選べば被害を最小限に抑えられるのかなどと考えていた。
なんという愚かさ。
この問題は、脳を鍛えるための問題ではない。
十人のヤンデレの前で、誰を選んでも破滅するように仕組まれた、ただの処刑宣告だったのだ。
「……俺は……俺は何を真剣に考えていたんだ……!」
「主人公様♡ 股間に愛を込めて♡」
「愛じゃねええええええ!! そもそも八人が選択肢から抜けてるだろおおおおお!!」
しかし、もう遅かった。
重力が主人公を押さえつけ、魔法が逃げ道を塞ぎ、十人のヤンデレたちが一斉に襲いかかる。
「主人公様の股間に、愛を込めて♡」
「だから愛じゃねええええええ!!」
十人の総攻撃が始まった。
施設全体が激しく揺れ、モニターには最後まで無慈悲な文字が表示され続けていた。
『トレーニング終了!』
こうして、脳を鍛えるはずだったトレーニングは、問題を間違えるたびに股間へ電流を流され、最後には十人のヤンデレたちから総攻撃を受けるという、地獄の訓練となった。
主人公が床に倒れ、ピクピクと痙攣している横で、科学特化のヤンデレと潜入特化のヤンデレが顔を見合わせた。
「……これは、売れますわね♡」
科学特化のヤンデレが、記録データを確認しながら呟いた。
「問題の難易度、回答時間、誤答率、身体反応。すべて記録できましたわ♡ ゲームとしての調整も簡単ですわね」
潜入特化のヤンデレは、撮影映像を再生した。
「脚本も完璧ですわ♡ 序盤で理不尽さを見せ、中盤で特殊能力による妨害を加え、最後は究極の選択で盛り上げる。これは名作になりますわ♡」
「待て……今、何の話をしている?」
床に倒れていた主人公が、かすれた声で尋ねた。
科学特化のヤンデレは、満面の笑みで答えた。
「今回のトレーニングをゲームソフトにするのですわ♡」
「……は?」
「タイトルは『大人のトレーニング』。脳を鍛えながら、理不尽な罠を見抜き、特殊な状況に対応する能力を身につける画期的なゲームですわ♡」
「いや、俺が受けたのは脳トレじゃなくて拷問だろ!」
潜入特化のヤンデレは、涼しい顔で頷いた。
「その臨場感こそが売りなのですわ♡ 普通の脳トレでは味わえない緊張感。正解しても安心できず、不正解なら罰ゲーム。さらに最終問題では、プレイヤー自身の意思すら裏切る予測不能な展開……!」
「最後のは俺の股間が勝手に動いただけだろおおおお!!」
「その予測不能性が素晴らしいのですわ♡」
「褒めるなああああ!!」
こうして、科学特化のヤンデレと潜入特化のヤンデレによる共同開発が始まった。
科学特化のヤンデレは、主人公の反応データをもとに問題と判定システムを構築。
潜入特化のヤンデレは、脚本と演出を担当し、各問題に伏線やどんでん返しを盛り込んだ。
薬物特化のヤンデレは、薬品による身体反応の再現について監修を申し出たが、二人から丁重に断られた。
「なぜですの!?」
「家庭用ゲーム機に薬品は必要ありませんわ♡」
「では、魔導のヤンデレに魔法演出を……」
「それもプログラムで再現できますわ♡」
「そんな……!」
こうして完成したゲームソフト『大人のトレーニング』は、発売前から大きな話題を呼んだ。
発売日。
ゲーム配信者たちは、理不尽な問題に翻弄される様子を次々と配信した。
「なんで正解したのに不正解なんだよ!?」
「家の住人、地下トンネルで逃げてるんだけど!?」
「声当てクイズで魔法を使うなああああ!!」
「最後の選択肢、誰を選んでも詰んでるじゃねえか!!」
視聴者たちは爆笑し、動画は瞬く間に拡散された。
「理不尽すぎるのに、なぜかもう一回やりたくなる!」
「友達と遊ぶと最高に盛り上がる!」
「脳トレのはずなのに、毎回予想外の展開になる!」
評判は評判を呼び、ゲームソフトは爆発的に売れた。
累計販売本数は数百万本を突破。
関連グッズも発売され、続編の制作まで決定した。
そして、発売から一か月後。
科学特化のヤンデレと潜入特化のヤンデレは、売上報告書を前に満面の笑みを浮かべていた。
「大成功ですわ♡」
「これも主人公様が身体を張って協力してくださったおかげですわ♡」
「協力してねええええええええ!!」
主人公は叫んだ。
「俺は無理やり椅子に縛りつけられて、股間に電流を流されただけだろうが! なんで俺の地獄が数百万本も売れてるんだよ!!」
潜入特化のヤンデレは、にっこりと微笑んだ。
「主人公様の苦痛が、多くの人々に笑顔を届けたのですわ♡」
「俺の苦痛を社会貢献みたいに言うなああああ!!」
科学特化のヤンデレが、さらに追い打ちをかけた。
「ちなみに、次回作では新しいトレーニングモードを追加する予定ですわ♡」
「次回作だと!?」
「はい♡ 今度は主人公様に実際にプレイしていただき、追加問題のデータを収集しますわ♡」
「もう二度とやるかあああああ!!」
しかし、ヤンデレたちはすでに次回作の企画書を広げていた。
「次は十人のヤンデレから逃げながら問題を解く、サバイバル脳トレにしましょう♡」
「いいですわね♡ 世界中で売れますわ♡」
「勝手に決めるなあああああああ!!」
こうして、主人公の地獄のトレーニングは、世界的な大ヒットゲームへと生まれ変わった。
**主人公にとっては地獄。ヤンデレたちにとっては愛情表現。そして世間にとっては、最高に面白いゲームだった。**




