番外編 主人公の代役を三人用意したら、魔導のヤンデレに最初から裏切られていた
# 番外編 三人の代役と、魔導のヤンデレの裏切り
主人公は考えていた。
どうすれば、十人のヤンデレたちから逃れ、平穏な時間を手に入れられるのか。
逃げても追われる。抵抗しても捕まる。話し合いも通じない。
主人公は、一つの結論に達した。
**代わりを用意すればいい。**
頼る相手は、先日ご褒美で機嫌が良かった魔導のヤンデレだった。
「実はさ、俺の代わりになってくれる人を用意したいんだ。俺そっくりに変身させてほしい」
「もちろんですわ! ご褒美のお礼です! 今回ばかりは、私がお手伝いいたします!」
「ほかの九人には秘密で頼む」
「私から事情を話すことはありませんわ♡」
主人公は安心した。
知らなかった。彼女が「私からは話さない」だけであり、**すでに話してある**ことを。
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## 第一章 第一の代役――羨望の青年
「一日でいいから、主人公の立場を経験してみたい」
「どうぞどうぞ! 魔導、頼む!」
光が青年を包み、主人公そっくりの姿が完成する。
「任せてくれ!」
そのとき、横から明るい声が飛んだ。
「頑張ってくださいませー♡」
慈愛と嫉妬が、手を振っていた。
「え……俺、応援されてる?」
「ええ♡ とても素敵な挑戦ですわ♡」
なぜ応援されているのか分からない。だが、悪い気はしなかった。
青年は胸を張って屋敷へ入った。
主人公は、その背中を見送ると、すぐに姿を消した。現場には戻らない。自由な時間は、すべて自分のために使う。
### かぐや姫〜試練(要約)
朝食のあと、竹の中。斧。ビリーズ。ボディビル優勝。像づくり。ファラリスの雄牛。阿修羅。八岐大蛇十日間。最後はキュベレイ。
青年に足りないのは、主人公の異常な戦闘力と股間力だった。
「私は主人公じゃない!」
変身が解け、次の代役が呼ばれる。
「まだいるのかよおおおお!!」
その間も、慈愛は「よく耐えましたわね♡」、嫉妬は「応援していましたわ♡」と手を振っていた。青年は訳が分からないまま、なぜか少し救われた気になった。
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## 第二章 第二の代役――恋愛の達人
「私なら十人との関係を上手く築ける」
「どうぞどうぞ!」
また変身。また慈愛と嫉妬の応援。
「なぜか応援されている……悪い気はしないが」
話し合いは竹と斧の前に消え、同じ系列の試練が、短く、しかし確実に彼を削った。キュベレイの前で降伏。
「恋愛の達人などと名乗るのは、もうやめる……」
本物の主人公は、相変わらず現場にはいない。
その頃も、店のカウンターでグラスを傾けているはずだった。
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## 第三章 第三の代役――正義漢
「君は洗脳されている。私が説得する」
「どうぞどうぞ!」
三度目の変身。三度目の応援。
「主人公の意思を尊重しろ!」
「ええ、かぐや姫だから竹ですわ♡」
会話は成立しない。最後はまたキュベレイ。
「私は主人公ではない!」
変身が解け、正義漢は地面に座り込んだ。
目の前には、十人の笑顔。本物の主人公の姿はない。
「……いない。最初から、ここにいなかったのか」
誰に言うでもなく、力なく笑った。
「私は、君を救おうと思っていた。だが……逃げたがる理由は、分かった」
慈愛が優しく声をかける。
「よく耐えましたわね♡」
嫉妬が手を振る。
「応援、届いていましたわ♡」
なぜ応援されていたのか、最後まで分からない。
それでも三人は、訳もわからず少しだけ救われた気になっていた。
魔導が杖を置く。
「三人とも、お疲れさまでしたわ♡ あとは、主人公様が戻られるのを待つだけですわね」
正義漢は、もう何も言えなかった。
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## 第四章 ゲイバーの平穏、そして乱入
主人公は、三人を送り出したあとも現場には戻らなかった。
自由な時間のすべてを、いつもの店での会話に使った。
店に入ると、馴染みのお兄さんがカウンターに立っていた。
「お兄さん! 久しぶり!」
「おう。なんだか機嫌がいいな」
「いやあ、ちょっといろいろあってさ」
代役三人のこと、試練のこと、キュベレイのこと。主人公は笑いながら話した。現場の詳細は想像と、あとから耳に入った噂で十分だった。
「……お前、人を三人巻き込んだのか」
「本人たちが代わりたいって言ったんだ」
「そうか。まあ、お疲れさん」
余計な試練のない会話。ただの酒と、ただの言葉。
「……やっぱり、ここが一番落ち着くな」
「大げさだなあ」
二人は笑った。十分にくつろぎ、店を出る頃には満足していた。
「じゃあ、また来るよ!」
「おう。またな」
主人公が手を振った、その十秒後。
店の扉が、にぎやかに開いた。
「こんばんは♡ 空き席、ありますわよね♡」
十人のヤンデレたちが、ぞろぞろと入ってきた。
お兄さんの顔が引きつる。
「……お前ら」
「今夜はお酒を楽しみますの♡」
カウンターが埋まる。カクテルが並ぶ。誰かが「主人公様の好きそうな甘口を♡」、誰かが「辛口で勝負ですわ♡」。笑って、注いで、また笑って。
「お兄さん、もう一杯♡」
「うちは普通の店なんだが……」
「分かっていますわ♡ だから普通に、盛り上がりますの♡」
監視が店内をスマホで撮り、科学がアルコール度数を分析し、腰振りが「調子に乗って衝撃波は出しません♡(たぶん)」と宣言する。嫉妬は店員のように気配りし、慈愛は「飲みすぎには気をつけて♡」と言いながら自分も赤ら顔。
魔導だけが、グラスの縁で小さく笑っていた。
「……計画通り、というわけではありませんが。楽しいですわね♡」
やがて十人は、いい具合に酔って店を出た。
「帰りますわよー♡」
「道、まっすぐですわね? ……曲がった?」
「森羅万象さん、重力でふらつかないでくださいまし♡」
「ふらついてなど……ふらついていますわね♡」
酔っ払った行列が、夜道を自宅へ向かう。
主人公は、そのときまだ知らなかった。
自分の「また来るよ」の直後に、平和な店が彼女たちの宴会場になっていたことを。
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## 第五章 酔っ払いのお出迎え
「ただいまー」
自宅の明かりが、いつもより強い。
「おかえりなさいませ、主人公様ー♡」
十人が、酔った目で一斉に振り返った。
森羅万象は頰を赤らめ、指で空間を軽く弾く。玄関が、妙に狭くなる。
「三人の代役……素敵な作戦でしたわね♡ ……ふふ、頭が少し重いですわ」
「なんで知ってるんだ」
「魔導さんから、最初に全部♡」
魔導はグラス代わりの空コップを持ったまま、にこにこと歩み寄る。
「お手伝いは本当ですわ♡ 秘密も……私からは、言いませんでしたわ♡ もう言ってあった、というだけですの♡」
「最初から全部ばらしてるじゃねえか!!」
「ええ♡ でも、ゲイバーも楽しかったでしょう? 私たちも、あとから同じ店で盛り上がりましたの♡」
科学が数字を数え間違える。
「アルコール血中濃度、ご主人様への愛情換算で……四百パーセント、ですわ♡」
「換算するな」
監視がスマホを掲げ、焦点が合っていない。
「今夜の記録……撮りますわ♡ タイトルは『酔っ払いのお仕置き』……あとで直しますわ♡」
慈愛がふらふらと近づき、主人公の肩に手を置く。
「疲れているように見えますわ♡ 回復、しますね♡ ……そのあと、たっぷり、ですわ♡」
「順序が最悪だ」
嫉妬がメガホンを持っているが、どっちが口か分からず逆さにしている。
「ご主人様ー♡ 三人とも、頑張っていましたわー♡ 応援もしていましたわー♡ だから今夜は……ご褒美、いっぱい、ですわー♡」
腰振りが壁に手をつく。
「酔っていても……加減は、できます♡ ……たぶん、です♡」
「たぶんやめろ」
格闘が拳を握り、自分の拳を間違えて壁に当てる。
「ご主人様を、離さない……今夜は、特に」
拷問が拘束具の部品を落とす。
「これ……今夜用、です♡ シルクは……どこだっけ、です♡」
薬学がポケットから変な色の飲み物を出す。
「二日酔い予防と、持久の……両方、ですわ♡ 混ぜました♡」
「飲むかボケ」
主人公は後ずさり、瞬間移動を試みた。
森羅万象が、酔ったまま重力をずらす。床が傾いた気がして、足が止まった。
「ふふ……逃げ道は、今夜は……もっと近くに、しまいましたわ♡」
魔導が、主人公の手を握る。酔いで力が強い。
「大丈夫ですわ、主人公様♡ ……大丈夫かどうかは、明日の朝、一緒に確認しましょうね♡」
「全然大丈夫じゃねえ!!」
「三人の代役も、応援も、ゲイバーのカクテルも……全部、愛ですわ♡」
「愛でまとめるな、酔ってるだろお前ら!!」
「はい♡ 酔っていますわ♡」
十人が、ふらつきながら、しかし確実に輪を縮める。
三人の代役は失敗した。
魔導への依頼も、秘密にはならなかった。
ゲイバーの平穏の直後には、同じ店が彼女たちの宴会場になった。
それでも主人公は、一つだけ覚えていた。
お兄さんとの「またな」だけは、素面で、本物だった。
一方、酔っ払った魔導は、ご褒美の記憶と今夜の予定を混ぜたまま、幸せそうに笑っていた。
彼女にとっても――いや、酔っている今の彼女たち全員にとっても、
今回の一件は、大成功だったのである。




