勇者と一日だけパーティーを交換した結果、俺の地獄が勇者にバレた
# 勇者と主人公の一日交代
ある日、主人公は一人の勇者と出会った。
その勇者は、誰もが認める実力者だった。容姿端麗で、戦闘能力も高い。仲間には美しい女性や男性がそろっており、数々の強敵を打ち倒してきた実績もある。
そんな勇者が、主人公の姿を見て鼻で笑った。
「お前、あんな豪華なパーティーにいるのに活躍できないなんて、相応しくないよな。俺ならもっと上手くやれる」
主人公は怒らなかった。
むしろ、少し考えてから提案した。
「じゃあ、一日交代しましょう」
「……は?」
「あなたが俺のパーティーに入る。俺はあなたのパーティーに入る。それで一日過ごしてみましょうよ」
勇者は自信満々に笑った。
「いいぜ。お前には無理だろうけどな」
こうして、二人のパーティーを一日だけ交換することになった。
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## 1.主人公、理想のパーティーに出会う
主人公が勇者のパーティーに合流すると、仲間たちは温かく迎えてくれた。
「今日からよろしくね!」
「あなたの実力、楽しみにしているわ」
「困ったことがあったら、何でも言ってくれよ」
主人公は感動した。
会話が成立する。
誰かの機嫌を常にうかがう必要もない。何かを失敗したからといって、国が滅ぼされる心配もない。
そして、冒険が始まった。
主人公は魔物との戦闘で活躍した。仲間が危険にさらされれば助け、逆に自分が苦戦すれば仲間が援護してくれる。
互いの役割を理解し、協力し、勝利を喜び合う。
ごく普通の冒険者パーティーだった。
主人公にとっては、それが何より新鮮だった。
昼食の時間には、仲間たちと一緒に食事をした。
「主人公さん、これ食べる?」
女性の仲間が料理を取り分けてくれる。
「ありがとう」
「あーんしてあげようか?」
「えっ、いいの?」
主人公は素直に口を開けた。
別の仲間が、そんな二人を見て笑った。
「ずるい! 私もやる!」
いつの間にか、主人公は美男美女の仲間たちに囲まれていた。
戦闘では頼られ、休憩中には構ってもらえる。
主人公は思った。
――これが、普通のパーティーなんだ。
夕方、街に戻ったあとも、仲間たちは主人公を誘って食事をした。
「主人公さん、明日も一緒に冒険しようよ!」
「もちろん!」
主人公は即答した。
そのころ、主人公が本来所属しているパーティーでは、勇者が地獄を見ていることなど、すっかり頭から抜け落ちていた。
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## 2.勇者、ヤンデレたちのパーティーへ
一方、主人公と交代した勇者は、十人のヤンデレたちと行動を共にしていた。
最初、勇者は余裕だった。
「なるほどな。お前が普段どんな環境にいるのか、俺が教えてやるよ」
しかし、ヤンデレたちは勇者の話をほとんど聞いていなかった。
彼女たちの関心は、ただ一つ。
主人公が今、何をしているのか。
「主人公様は、もう冒険を始めたでしょうか♡」
「きっと活躍なさっていますよ♡」
「今ごろ、仲間の皆さんと楽しく過ごしているのでしょうね♡」
勇者は首をかしげた。
「おい、俺の話を聞いているのか?」
「もちろんです♡」
「では、今日の目的は?」
「主人公様のご様子を確認することです♡」
「いや、俺たちの目的だよ!」
「主人公様が幸せなら、それが一番です♡」
勇者は、このパーティーが少しおかしいことに気づき始めた。
だが、まだ甘かった。
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## 3.竹取物語の始まりと、もう一つの制作
魔導のヤンデレが、巨大な竹を生み出した。
「勇者様、こちらへどうぞ♡」
「何をするつもりだ?」
「かぐや姫様をお迎えするための試練ですよ♡」
勇者が警戒する間もなく、彼は竹の中へと押し込まれた。
外では、老人に扮したヤンデレが斧を構えている。
「さて、竹を切るとするかのう」
「待て! 俺はかぐや姫を迎えに来たわけじゃない!」
斧が振り下ろされた。
勇者は間一髪で身をかわす。
「危ねえだろうが!」
次々と斧が振り下ろされる。勇者は必死に逃げ回った。
やがて、魔導が魔法を唱え、勇者の体が竹の中で急激に巨大化する。
次の瞬間、竹が内側から弾け飛んだ。
「はあ……はあ……。こんなもの、どうということはない!」
十人は拍手した。
「素晴らしいですね♡」
「では、次の試練へ参りましょう♡」
勇者の顔から笑みが消えた。
――その裏で。
**【監視・情報特化】**と**【科学特化】**は、すでに別作業を始めていた。
モニターには、主人公側のパーティーの映像が流れている。
腕を組まれる瞬間。あーんの瞬間。笑顔で「明日も一緒に」と答える瞬間。
科学が編集ソフトを起動し、監視がカットを指定する。
「ここ、スローで♡」
「音声は残しますわね。『もちろん!』の返事、はっきり録れていますわ♡」
「タイトル案は……『他パーティーに取られた日』、で仮置きしておきます♡」
二人は、かぐや姫の斧音など気にせず、淡々と「記録作品」を組み立てていた。
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## 4.終わらない試練
次に待っていたのは、ビリーズブートキャンプだった。
「さあ、勇者様! 体力を鍛えましょう♡」
「いや、俺はもう十分鍛えて――」
「ワン、ツー、スリー、フォー♡」
休憩はない。
終わったと思えば、ボディービルダーの大会。
主人公の等身大の像を三日間で十体。
ヤンデレたち十人の精巧な像を、さらに三日。
「待て! なぜ俺が主人公の像を作らなきゃならないんだ!」
「主人公様への愛を形にするためです♡」
「俺は主人公じゃない!」
「では、主人公様の素晴らしさを理解するために頑張りましょうね♡」
火鼠の衣、火牛にまつわる試練と続く。
どれも常識的な冒険者が挑むようなものではない。
それでも勇者は耐えた。
自分は本物の勇者なのだ、と自分に言い聞かせていた。
その間も、監視と科学の編集は進んでいた。
主人公の「普通の幸せ」だけが、丁寧に、執拗に切り取られていく。
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## 5.阿修羅との戦い
「武器も魔法も使わず、阿修羅と戦ってくださいね♡」
「……何だって?」
「素手で、あの阿修羅と戦えと?」
「はい♡」
阿修羅が現れた。
武器は取り上げられ、魔法は封じられている。
勇者は必死に避け、隙を突いて反撃した。
一撃ごとに体力が削られていく。
ようやく戦いを終えたとき、彼は地面に倒れ込み、しばらく動けなかった。
「……終わった、のか?」
「お疲れさまでした♡」
「では、最後の試練です♡」
勇者は、聞かなかったことにしたかった。
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## 6.八岐大蛇との十日間と、お茶会の映像
最後の試練は、八岐大蛇との十日間。
勇者は死力を尽くして戦った。
傷は増え、体力は削られ、衣服はぼろぼろになっていく。
一方、ヤンデレたちは優雅にお茶会を開き、主人公の様子を映像で確認していた。
「主人公様、今日も楽しそうですね♡」
「仲間の方と一緒に笑っていらっしゃいます♡」
「まあ、また食べさせてもらっていますよ♡」
主人公が仲間の女性に腕を組まれた瞬間、十人の視線が一斉に画面へ集中した。
「……あら♡」
「ずいぶんと仲がよろしいですね♡」
笑顔の奥から、尋常ではない熱がにじみ出ていた。
その隣で、監視が科学に耳打ちする。
「このカット、本編のクライマックスに使いましょう♡」
「了解ですわ♡ BGMは切なく、でも明るく♡」
勇者が八岐大蛇に吹き飛ばされても、誰も見ていない。
勇者が立ち上がっても、誰も気づかない。
そして、十日目。
勇者は限界を迎えていた。
十一日目。
ようやくヤンデレたちが八岐大蛇の存在を思い出した。
「そういえば、勇者様はまだ戦っていましたね♡」
森羅万象が、軽く手を振った。
次の瞬間、八岐大蛇は跡形もなく消滅した。
勇者は地面に倒れ込んだ。
もはや、怒る気力すら残っていなかった。
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## 7.お迎え、アイドル対応、計画通り
ヤンデレたちは、ぼろぼろの勇者を森羅万象が首根っこで拾い上げ、主人公のもとへ向かった。
その途中。
**【嫉妬のヤンデレ】**が、勇者の横にしゃがみ込み、優しく手を握った。
「大丈夫ですか?♡」
ステージの神対応そのものの笑顔。
握手会で何万人を救ってきた、国民的アイドルの顔だった。
「……あ」
勇者は、その手の温もりと笑顔に、ぼんやりと気をよくした。
「……あ、ああ。まあ、な。俺は勇者だからな。これくらい……」
「ええ♡ とても頑張っていらっしゃいましたわ。素敵です♡」
勇者が少し胸を張った、その背後で。
**【魔導のヤンデレ】**が、口元だけを歪めて小さく笑った。
「……計画通り、ですわね♡」
希望を持たせ、限界まで使い、最後に優しく撫でる。
勇者の機嫌を直すのも、主人公を連れ戻すのも、すべて計算の内だった。
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## 8.主人公の一日の終わり
そのころ、主人公は勇者のパーティーで、楽しい一日を終えていた。
「主人公さん、明日も一緒に冒険しましょうね!」
「うん、ぜひ!」
帰ろうとした瞬間、目の前に魔法陣が現れた。
光が弾け、十人のヤンデレが現れる。
森羅万象が、勇者の首根っこをつかんでいた。
勇者はぼろぼろだった。
衣服は破れ、全身傷だらけで、立つことさえできない。
主人公と勇者の目が合った。
勇者の目が、必死に何かを訴えていた。
――お前、絶対に許さないからな。
主人公は、そっと目をそらした。
「……今日はいい天気ですね」
夜だった。
「主人公様♡ お迎えに来ましたよ♡」
「いや、俺はまだ帰るつもりは……」
監視が、にこにこと報告する。
「仲間の女性に腕を組まれていましたね♡ 食事もあーんしてもらっていましたね♡ 明日も一緒に冒険しましょうと誘われていましたね♡」
「よく見てるなあ……」
「もちろんです♡」
慈愛が首をかしげる。
「勇者様との一日交代のお約束、もう終わっていますよね?」
「…………」
「忘れてしまったのですか?」
主人公は、しばらく沈黙した。
そして、爽やかな笑顔で答えた。
「いやあ、すっかり忘れていました!」
勇者の目が見開かれた。
十人は、笑顔のまま主人公を取り囲んだ。
「では、帰りましょうか♡」
「いや、ちょっと待ってくれ! 俺はまだあっちのパーティーで――」
「主人公様♡」
十人の声が重なった。
「明日も一緒に過ごしましょうね♡」
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## エピローグ 渡された一本のビデオ
翌日。
要塞の談話室。
**【監視・情報特化】**と**【科学特化】**が、十人分の記憶媒体を配布した。
「昨夜、完成いたしましたわ♡」
タイトルは、こう記されていた。
**『他のパーティーに取られた件について――主人公様の一日(完全版)』**
再生が始まる。
あーん。腕組み。笑顔の「もちろん!」。
勇者パーティーの温かい食卓と、主人公の安堵した横顔。
部屋の空気が、ゆっくりと変わった。
森羅万象は紅茶のカップを置いた。
「……よくできた記録ですわね♡」
魔導は、最初から知っていたように微笑んだ。
「想定通りの映像ですわ♡ ご主人様の『普通の幸せ』、とても参考になりますわ」
慈愛は、画面の主人公を見つめたまま言った。
「あんなに安心した顔……普段は、なかなか見せてくださいませんものね♡」
薬学はメモを取っている。
「幸福時の表情データ、貴重ですわ♡ 今後の調合の参考に」
科学は満足げに頷いた。
「編集は正確です。カット割りも、感情の流れも、計算通りですわ♡」
監視は胸を張った。
「世界配信はしていません。今回は、私たち専用ですわ♡」
腰振りが腕を組む。
「……で、次はいつ、ご主人様を『取り戻す』イベントにするんだ」
格闘が拳を握る。
「記録を見た以上、黙って見過ごせないな」
拷問は静かに言った。
「拘束の強度、再計算が必要かもしれない」
潜入は地図を広げ始めた。
「勇者パーティーの行動範囲、すでに把握済みですわ♡」
嫉妬だけは、画面の主人公と、昨日の勇者の両方に目を細めた。
「ご主人様も、勇者様も……頑張っていましたわね♡ お仕事、お疲れ様です♡」
魔導が、全員を見渡して小さく笑った。
「ええ。だからこそ、今夜も――ご主人様には、私たちのところへ戻っていていただきますわ♡」
ビデオの最後に、主人公の声が残っていた。
『うん、ぜひ!』
その一言が、十人の「愛」に、静かに火を灯した。
勇者は、昨日の握手で少しだけ救われた気でいた。
主人公は、一日だけの普通を、まだ忘れられずにいた。
そしてヤンデレたちは、その両方を材料に、次の計画を立て始めていた。




