四身の拳で逃げ切れ!――なお、逃走劇は4K映像で永久保存されます
# 四身の拳編――逃げた自分と、残された自分
## 序章 特訓、そして覗き見
地下トレーニング場。
格闘特化の男ヤンデレが、構えを取った。
「参ります、ご主人様! 今日こそ、一歩でも――」
次の瞬間。
**ドガッ!!**
彼の体が、壁にめり込んだ。
「……ぐはっ」
主人公は拳を振り下ろしたまま、息ひとつ乱していない。
「悪い。手加減したつもりだった」
「……いえ」
格闘特化は瓦礫を払い、血を拭い、それでも笑った。
「今の……何でした?」
「四身の拳、の基礎だ。分身の感覚を掴む前の、力の配分の練習」
格闘特化の目が見開かれる。
「分身……! しかも、今の一撃は本気……いえ、本気の一端、ですか」
「まあな」
彼は膝をついたまま、深々と頭を下げた。
「素晴らしい技です。どうか、その力は魔王の再来や国家の危機に――どうか、国のために役立ててください!」
主人公の額に、冷や汗が伝った。
(……国のため、か。俺が磨きたいのは、逃げ切るためなんだが)
「あ、ああ……。まあ、機会があれば」
「はい! また特訓をお願いします!」
その様子を、トレーニング場の扉の隙間から、誰かが見ていた。
**【魔導のヤンデレ】**である。
彼女は口元を手で覆い、小さく、しかし確かに笑った。
「……ほうほう♡」
瞳だけが、愉しげに細められている。
「四身の拳、完成が近いわね。……ご主人様、また素敵な手札を持ってしまったようですわ♡」
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## 準備 一日がかりの「お迎え」
その夜。
魔導の部屋に、**【潜入特化のヤンデレ】**が呼ばれていた。
机の上には地図と、想定逃走ルートがびっしりと記されている。
「四身の拳、ですのね♡」
「ええ。分身は本物と同性能。一人が逃げ、三人で引きつける……そういう使い方をなさる可能性が高いですわ」
潜入は頷いた。
「では、逃げる一本を狩るルートを先に埋めます。山・海・無人島・国外……ご主人様が『ここなら』と思う場所、全部」
「魔法の探知は、あえて遅らせます。すぐ追うと、逃げ切った感が足りませんもの♡」
「……一日かけて、仕込みますわね」
「ええ♡ 完璧なお迎えを」
二人は顔を見合わせ、同じように微笑んだ。
主人公の最高の逃走劇は、始まる前から、一日がかりで準備されていた。
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## 本編 四身の拳
そして、決戦の日。
十人のヤンデレを前に、主人公は拳を構えた。
「四身の拳!」
光が弾け、主人公が**四人**に分かれた。
しかも、ステータス低下なし。四人とも、本物と同じ力。
「……これならいける!」
ヤンデレたちは目を輝かせた。
「まあ♡ 主人公様が4人になりましたわ♡」
「しかも、皆様、同じ強さですのね♡」
「素晴らしいですわ♡ それでは、存分にお相手いたしましょう♡」
三人の主人公が戦闘態勢を取る。
そして、残る一人は――
「……逃げるんだああああああああああああ!!」
全力で走り出した。
「「「おい、待てえええええええ!!」」」
残された三人が叫ぶ。逃げた一人は振り返らない。
「お前ら、あとは任せたああああああ!!」
ヤンデレたちは、逃げる背中を見て笑顔になった。
「まあ♡ 主人公様ったら、お茶目なんですから♡」
「せっかく4人もいらっしゃるのですもの♡ 残りの3人とも、たっぷり遊びましょう♡」
残された三人は、絶望した。
本物と同じ強さの分身が三人もいるのに、ヤンデレたちは追わない。
残った三人との「遊び」を始めてしまった。
その輪の外で、**【嫉妬のヤンデレ】**だけがメガホンを構えていた。
「皆様ー♡ 頑張ってくださいませー♡ ご主人様(全員)も、諦めないでくださいませー♡」
「どっちの味方だよ!!」
「両方ですわ♡」
一方、**【監視・情報特化】**はカメラを回しながらも、今回は世界配信のスイッチを入れなかった。
隣で**【科学特化】**が、録画機材と編集用端末を静かにセットする。
「世界には流しませんわ♡ 今夜は……私たちだけの、見返せる記録にいたしましょう」
「解像度は最大、音声もノイズ除去済みですわ♡ 後で何度でも、ご主人様の逃走劇を楽しめますもの♡」
二人は、そっと頷き合った。
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## 残された三人 苦戦と撃破
戦場は、すぐに修羅場になった。
一人目の分身が、**【腰振りのスペシャリスト】**に正面から突っ込む。
「国を消す腰、今ここで止める!」
衝撃波が山を削る。分身は紙一重でかわし、黄金の出力で中核を打ち抜いた。
**ドガァァァン!!**
腰振りが膝をつく。
「……ぐうっ……! この出力、本物と変わらん……!」
「まあ♡ 腰振りさんが押し負けていますわ♡」と嫉妬が実況する。
二人目の分身は、**【拷問・具現化特化】**の拘束具を力任せに粉砕した。
「絶対愛の抱擁も、四身の前では――ッ!」
金属が悲鳴を上げ、フレームが砕ける。拷問特化が目を見開く。
「702号が……! データ以上の負荷……!」
科学が焦り、計測器を叩く。
「無効化フィールド、一人分なら安定するのに、三人同時は想定外ですわ……!」
森羅万象が重力を強めても、三人いると座標が分散し、締めきれない。
慈愛が一人を回復させても、別の分身が薬学の薬を払い、格闘を殴り飛ばす。
「ぐはっ……! ご主人様が三人……手が回り切らぬ……!」
監視はカメラを回しながらも、声が弾む。
「苦戦……ですわね♡ でも、映像は最高ですわ♡ あとで科学さんと編集しましょうね♡」
残された三人の主人公は、実際に殴り、壊し、押し返していた。
ヤンデレ側も、本気で苦戦していた。
――だが、それでよかった。
彼女たちにとって、それは「逃げる一人」を見逃す理由として、十分すぎるほど魅力的だった。
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## 無人島 自由の味
逃げた主人公は、山を越え、海を渡り、監視網をかいくぐり、誰もいない無人島へたどり着いた。
「……はぁ、はぁ……」
「……逃げ切った、のか?」
空にも、海にも、気配はない。
「……やった」
砂浜に倒れ込み、両手を天に掲げる。
「やったぞおおおおおお!! ついに、ついに自由だああああああ!!」
涙がこぼれる。
「四身の拳……最高の技じゃねえか……! あいつらが三人の俺に夢中になっている間に、本物の俺は逃げ切ったんだ……!」
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## 終章 チャオ♡ そして四倍の夜
そのときだった。
**シュンッ。 シュンッ。**
隣に、二人分の気配が降りた。
**【魔導のヤンデレ】**と、**【潜入特化のヤンデレ】**。
魔導が、にっこりと顔をのぞき込む。
「チャオ♡」
主人公の笑顔が凍りついた。
「……なんで?」
「主人公様をお迎えに上がりましたわ♡」
「なんでここが分かったんだよおおおおおお!!」
魔導は、隣の潜入を手で示した。
「魔法、だけではありませんわ♡」
潜入が、丁寧に頭を下げる。
「一日かけて、ご主人様が『ここなら安全』とおっしゃりそうな場所を、すべて潰して回りましたの♡ 無人島も、候補の十二番目でしたわ」
「十二番目……だと……?」
魔導が、愉しげに続けた。
「特訓のときは、覗かせていただきましたの。四身の拳……素敵な技ですわね♡ だから、潜入さんと二人で、丸一日かけてお迎えの準備をいたしましたの♡」
「一日……前から……?」
「ええ♡ ご主人様が逃げ切った気になれるタイミングまで、わざと遅れました。素晴らしい逃走劇でしたわ♡」
主人公の手が、砂を掴む。
「嫌だああああああ!! 俺は逃げ切ったんだああああああ!!」
「ええ♡ 逃げ切りましたわ。三人のご主人様は、今も要塞で頑張っていますもの♡」
潜入が、静かに手を添える。
「ですので、本物のご主人様は、こちらへ♡」
二人に両腕を取られ、主人公は引き立てられていく。
「嫌だ……帰らない! 離せ! 俺は自由をつかみ取ったんだ!」
往生際悪く暴れる主人公の額に、魔導がそっと人差し指を押し当てた。
**ちゅん。**
「あ……? なんか頭が重い……?」
「ふふ♡ 『四身の拳』の解除術式を、私の魔導で一時的にロックさせていただきましたわ♡」
「……は? 封印……?」
「ええ♡ 解除の魔法陣を私の魔術回路と同期させましたので、少なくとも丸一日は、いくらご主人様が念じても分身は解除できませんわ♡」
「な……ッ!?」
青ざめる主人公の横で、潜入が転移ゲートを開く。
「ご安心くださいませ。要塞で暴れていた残り三人のご主人様も、すでに慈愛様と格闘様が優しく捕縛・回収完了しております♡」
魔導の瞳が、愉しげに光る。
「今夜は……本物のご主人様が『4人』揃った状態で、私たち全員で夜のステージを迎えられますの♡ 10人対1人ではなく、**10人対4人**……♡ 一人あたりの愛の濃度が、実質4倍になりますわね♡」
「待て……待ってくれえええええええ!! 4倍になったら俺の精神が持たない!! 解除しろ! 今すぐ分身を解除してくれえええええええ!!」
「だ~め♡ 逃げ切ろうとした『おしおき』と、最高の技を見せてくださった『ご褒美』ですわ♡」
「嫌だああああああああああああ!!!」
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転送先は、いつもの大寝室ではなかった。
白い砂浜。透明な海。椰子の木。
貸し切りの南国の島に、四体の拘束ベッドだけが、行儀よく並んでいる。
**【森羅万象のヤンデレ】**が、優雅に手を広げた。
「今回はご主人様が4人ですもの♡ 要塞では手狭ですので、南国の島を一島、貸し切りにいたしましたわ♡ 天候も波も、今夜は穏やかに整えてありますの。さあ、楽しみましょう♡」
「南国……!? 無人島から、別の島に連れてきただけじゃねえか!!」
「ええ♡ ただし、今度は私たちも一緒ですわ♡」
四体に分かれたまま固定された主人公(×4)を、十人が自然に囲む。
**【慈愛のヤンデレ】**が手を合わせた。
「回復は、四人分まとめて準備しておきますわね♡ 疲れたら、すぐに癒やしますの♡」
その隣で、**【薬物特化のヤンデレ】**がアンプルケースを抱えて微笑む。
「慈愛さんが四人分でお疲れになったら、私がサポートいたしますわ♡ 慈愛さんの魔力と体力も、専用の処方で回復させますの。回復役が尽きることは、ありませんわ♡」
「回復の回復まで用意するなあああああ!!」
嫉妬がメガホンを振る。
「ご主人様(全員)ー♡ 南国でも、今夜も頑張ってくださいませー♡」
砂浜の隅では、監視と科学が編集端末を並べていた。
世界には流さない。
その代わり、逃走の始まりから無人島のガッツポーズ、チャオの瞬間、南国への転送、そして四倍の夜の入口まで――すべてが、二人の共同制作による「見返し用ビデオ」に収録されていく。
「タイトルは……『四身の拳――逃げ切った気になった夜/南国貸し切り版』、でどうです?♡」
「いいですわね♡ チャプター分けもしておきましょう。無人島の涙はスロー再生、南国の入島はオープニング曲付きですわ♡」
波の音だけが、やさしく響く。
主人公は確かに逃げ切ろうとした。
四身の拳で得たものは、戦闘力の増強ではなかった。
**逃げる自分と、逃げられない自分を同時に生み出す、究極の役割分担**だった。
そしてその役割分担すら、一日がかりの打ち合わせの想定内であり、
得たものは自由ではなく、**自分の生み出した四人分で、自業自得を四人分受けるという、逃げ場のない自縛**だった。
回復は四人分。
回復役の回復も用意済み。
舞台は、森羅万象が整えた南国の貸し切り島。
監視と科学の端末に、赤い録画ランプだけが静かに灯り続けている。
南国貸し切り版のラストに、「監視と科学が完成した超高画質ビデオをヤンデレ全員に配布し、みんなが大歓喜(ご満悦)する」という最高の後日談・エピローグを追加しました!
ヤンデレたちの「愛の深さ(狂気)」と「変な方向への仲の良さ」が際立ち、完璧な締めくくりになっています!
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## 終章追加パート(ビデオ配布・エピローグ)
(〜監視と科学の端末に、赤い録画ランプだけが静かに灯り続けている。〜)
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数日後。
激動の「四身の拳・南国貸し切りナイト」が明け、要塞に戻ったヤンデレたちのもとに、【監視・情報特化】**と**【科学特化】から全員へ一斉メッセージが届いた。
『ご主人様逃走劇・限定プライベートビデオ(超高画質4K・ノイズキャンセリング立体音響・未公開チャプター付き)のデータ化およびパッケージ化が完了いたしました♡』
要塞の大ホールに集まったヤンデレたちには、科学特化がこのためだけに特注で作った「豪華メタルケース入り限定ホログラムディスク」が一人ひとりに手渡された。
「まあ……♡ なんて素晴らしい出来ですの♡」
真っ先にディスクを受け取った【森羅万象のヤンデレ】が、優雅にケースを開いて瞳を輝かせる。
「チャプター3『無人島で泣きながらガッツポーズするご主人様(スロー再生版)』……ふふ♡ 走馬灯のように何度でも観られますわね。監視殿、科学殿、見事な仕事ですわ♡」
「私の『お迎え』の瞬間、チャオ♡のシーンもバッチリ高解像度で納められていて素晴らしいわ♡」と【魔導】もご満悦の表情を浮かべる。
「南国の入島オープニング曲、私の新曲のインスト版を使ってくださったのですね♡ 映像とマッチしていて最高ですわ〜♡」とメガホンを置いて拍手する【嫉妬】。
さらに、【拷問・具現化特化】**と**【格闘特化】の男ヤンデレ組も、真剣な眼差しでパッケージ裏のスペック表を読み込んでいた。
「すごいぞ……! 分身3人との戦闘データがマルチアングルで完璧に解析されている! 拷問殿の702号拘束具が砕けた瞬間の応力分布までスーパースローで確認できるとは……次回の拘束具開発の神資料だ!」
「ああ! 俺の『神殺拳』を紙一重でかわす本物の動き……何度見返しても武者震いが止まらん! 素晴らしい映像を感謝する!」
「ふふ♡ 皆様に喜んでいただけて光栄ですわ♡」
監視は嬉しそうにカメラを胸に抱きかかえ、科学も達成感に満ちた笑みを浮かべた。
「ちなみにディスクにはパスワードがかかっておりますの。ご主人様が自力で解除を試みた場合、**自動で『南国ナイトのダイジェスト映像(音声特化版)』が大音量で要塞中に流れる仕様**になっておりますわ♡」
「まあ♡ どこまでも隙がない技術ですこと♡」と手を叩いて微笑む【慈愛】。
その頃、自室のベッドでぐったりと横たわり、ようやく分身が解けて(一人に戻って)全身の関節を湿布だらけにしていた【主人公】は、廊下から聞こえてくるヤンデレたちの歓声と拍手を耳にして、静かに布団を頭までかぶったのだった。
「俺のトラウマで試写会やって大盛り上がりすんじゃねえよ……(泣)」
監視と科学の端末から配られたその映像作品は、ヤンデレ十人の絆を深める「永久保存版の宝物」として、要塞の歴史に深く刻まれたのであった。




