腰振りのヤンデレ――国を滅ぼす男の切実な願い
# 腰振りのヤンデレ編――愛する者と過ごすために
## プロローグ:深夜のゲイバー
深夜のゲイバー。
すでに看板を下ろした店内で、お兄さんはグラスを磨きながら、カウンターの端に座る男を見つめていた。
引き締まった体躯、鋭い眼光、そして圧倒的な存在感。
「腰振りのスペシャリスト」と呼ばれる男のヤンデレだった。
「……珍しいな。お前が一人でうちに来るなんてよ」
お兄さんは冷えたロックグラスに丸氷を浮かべ、男の前に滑らせた。
「マスター……いや、お兄さん。少し、話を聞いてくれないか」
男はグラスを掴み、静かに口をつけた。
二人の間には、かつて拳を交わし、魂で語り合った者同士にだけ芽生える、奇妙な友情の空気があった。
お兄さんは苦笑しながら、カウンターに肘をついた。
「いいぜ。お前とは昔、死ぬ気でやり合った仲だ。今さら隠し事もあるまい。……で、何に悩んでんだ? また腰の振りすぎで山脈でも吹き飛ばしたか?」
「……笑わないで聞いてほしい」
男は真剣な眼差しで、お兄さんをまっすぐに見つめた。
「俺は……主人公を心の底から愛してる。だが、あいつの『夜の生活』に参加させてもらえねえんだ」
お兄さんは一瞬、耳を疑った。
「ハァ……!? 夜の生活……って、お前、あの9人にハブられてるのか?」
「ハブられてるわけじゃねえ」
男は悔しそうに拳を握りしめた。
「彼女たちも親身に断ってくれるんだ。『あなたの気持ちは分かりますわ♡ でも、もう少しだけ遠慮していただけませんこと?』ってな。……だが、俺が『加減はできる』って言うと、必ずこう返される。『以前、そうおっしゃって国を三つ消滅させましたわよね?』って……」
「そりゃそうだろ!! 加減できてねえよ!! 国3つは消し飛びすぎなんだよ!!」
お兄さんは思わずカウンターをバンッと叩いた。
「お前なぁ……! 俺は昔、お前と戦ったから分かるぞ。お前のその腰振りはな、もはや個人戦術の域を超えてんだよ! 本気で振れば地球の自転すら狂わせかねない破壊兵器なんだ! 止めるのも当然だろ! 主人公の命がいくつあっても足りねえわ!」
男は深く頭を垂れ、肩を落とした。
「……分かってる。俺だって主人公を傷つけたいわけじゃねえ。ただ、他の9人と同じように、主人公と一緒に過ごしたい……愛する者と肌を重ねたいだけなんだ。だが、この能力のせいで、皆に迷惑をかけてしまう……」
男の目から、ぽろりと一筋の涙がこぼれ、グラスの氷を濡らした。
お兄さんは溜め息をついた。
国家を消すほどの男が、ただ一人を愛するがゆえにここまで落ちている。無下にはできなかった。
「……なあ、腰振り」
「なんだ、お兄さん」
「お前、一人で抱え込みすぎなんだよ。あのヤンデレどもを甘く見るな」
男は顔を上げた。
「……どういう意味だ?」
「あいつらは狂ってる。だがな、主人公に対する愛の熱量と、そのために動かせるスペックは『世界最強』なんだよ。国家を救う科学も、空間を捻じ曲げる魔法も持ってる。……お前のその不器用な悩みを、あいつらに隠さず全部ぶつけてみろ」
「しかし、皆の手を煩わせるわけには……」
「バカ野郎!」
お兄さんは男の肩を力強く叩いた。
「『仲間』なんだろ、お前たちは! 主人公を愛する同盟国みたいなもんだろうが! お前が本気で悩んで涙流してんなら、あいつらだって放っておくわけねえよ。魔法も科学も薬学も全部動かして、お前の腰振りを抑え込むシステムくらい作ってみせろって話だ!」
男は目を見開き、お兄さんの顔を凝視した。
「……仲間……。そうか……俺は、一人で解決しようとしすぎてたのか」
「そうだ。本気で主人公を愛してるなら、格好つけずに頭を下げろ。『主人公と夜を過ごしたい、助けてくれ』ってな。あいつらなら絶対に面白がって……いや、本気で解決策を考えてくれるはずだ」
男はゆっくりと立ち上がり、お兄さんに向かって深く頭を下げた。
「……ありがとう、お兄さん。昔と変わらず、お前は俺の目を覚まさせてくれるな」
「へっ、気にするな。……ただし、実験中にうちの店を吹き飛ばすのだけはやめろよ?」
「ああ、約束する」
男は迷いの晴れた顔でゲイバーを後にした。
夜風の中へ消えていく背中を見送りながら、お兄さんはグラスに残った酒を飲み干した。
「……まったく。世界を滅ぼすパワー持った奴らが、夜の生活のために総力戦かよ。……主人公、お前、次からマジで生き残れよな」
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## 第一幕 仲間への告白
主人公には、十人のヤンデレがいた。
魔導のヤンデレ、森羅万象のヤンデレ、慈愛のヤンデレ、そして残りの七人。
その中に、腰振りのヤンデレと呼ばれる男がいた。
彼は股間のスペシャリストであり、腰を振ることで衝撃波を放つ。
ひとたび本気を出せば、国家を丸ごと消滅させてしまうほどの威力だった。
そんな彼の悩みは、主人公の夜の生活に参加できないことだった。
お兄さんの言葉を胸に、彼は魔導のヤンデレのもとへ向かった。
「最近、元気がありませんわね♡ 何かありましたの?」
「……いや。俺のことは」
「何をおっしゃいますの♡ 私たちは仲間でしょう?」
その一言で、彼はようやく胸の内を明かした。
「俺はただ、お前らと同じように主人公と夜を過ごしたいだけなんだよ! だが、俺が腰を振りゃ国が消滅しちまう。お前らに迷惑をかけるわけにはいかねえ……!」
魔導は目を見開いた。
「そんなことで悩んでいらしたのですか……!」
彼女はすぐにほかの八人を集めた。
「皆さん、彼をこのまま放っておくわけにはいきませんわ♡」
「そうですわね。彼も私たちと同じ、主人公を愛する仲間ですもの♡」
森羅万象も賛同した。
こうして、十人のヤンデレによる「腰振り制御完全攻略プロジェクト」が始まった。
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## 第二幕 失敗の連続
まず、魔導が衝撃波を封じる魔法の研究を始めた。
森羅万象は、衝撃波を別空間へ逃がす方法を考える。
だが、どれだけ力を尽くしても、完全には制御できなかった。
「おかしいですわね……。理論上は封じ込められるはずなのですが……」
そこへ科学特化が入ってくる。
「魔法の理論は理解した。だが、発生条件と出力を数値化しなければ安定しない」
計測が始まって間もなく、装置が次々と破損した。
「……計測器が耐えられないほどの出力とは。想定以上だな」
「だから言っただろ! 加減はできるって!」
「その加減を客観的に証明してほしいのだが」
薬物特化も加わった。
「身体の状態を調整すれば、出力の変動を抑えられるかもしれませんわ♡」
試作薬の完成には、まだ時間がかかった。
潜入特化は各地を回り、古代文明の遺跡に関する情報を持ち帰った。
「強大なエネルギーを別空間へ転送する装置が、遺跡に残されているそうです♡」
魔導と科学と森羅万象が協力し、装置の再現を始める。
薬物特化は薬の調整を続ける。
それでも実験は失敗の連続だった。
結界は砕け、逃がした空間ごと消滅し、転送装置も安定しない。
「いったい、どうすればいいのですわ……!」
魔導が頭を抱える。
誰も諦めない。
彼もまた、制御訓練を重ねた。
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## 第三幕 諦めかけた男と、嫉妬の励まし
何度目かの実験が終わった夜。
訓練場の片隅で、腰振りのヤンデレは一人、膝をついていた。
砕けた計測器。
消し飛んだ結界の残滓。
薬の効き目が切れて震える指先。
「……無理なんだな」
呟きは、誰に向けたものでもなかった。
「皆がこれほど動いてくれてんのに、俺の腰は止まらねえ。国を消し、装置を壊し、空間ごと持っていく。……やっぱり、夜の生活なんて、俺には分不相応だったんだ」
立ち上がろうとして、また力が抜けた。
そのときだった。
「ダメですわよ♡」
明るい声が、真後ろから飛んできた。
振り返ると、嫉妬のヤンデレが両手に差し入れ袋を抱えて立っていた。
「……嫉妬。ここへ何の用だ」
「差し入れですわ♡ 皆様、頑張りすぎですもの。糖分は大事ですわ」
彼女は袋からおにぎりと甘い飲み物を取り出し、彼の前に並べた。
「それに、今の独り言、全部聞こえていましたわ♡」
「……聞いてたのか」
「ええ♡ 『分不相応』だなんて、とんでもないですわ」
嫉妬は腰を下ろし、彼と同じ目線になった。
「あなたは、主人公様を愛していないのですか?」
「愛してるに決まってんだろ! だからこそ――」
「だからこそ、諦めるのですか?♡」
その言葉に、彼は言葉を失った。
嫉妬は指を立てた。
「私は火力もありませんし、国を消す腰もありません。監視ほど記録も上手くないし、魔導ほど狡くもありませんわ。でもね」
彼女は胸の前で手を合わせた。
「私の仕事は、皆様が揉めないようにすること。そして、主人公様を愛する気持ちが途切れないように、後ろから応援することですわ♡」
「……応援、か」
「はい♡ あなたが今諦めれば、プロジェクトは止まります。止まれば、主人公様と夜を過ごせないままです。それは、あなたの不幸ですし……私たちにとっても、仲間が一人欠けたままの夜になってしまいますわ」
彼は目を見開いた。
「欠けたまま、だと?」
「もちろんですわ♡ 十人で愛するのが、私たちの流儀ですもの。九人で完結するなんて、私は認めませんわ」
嫉妬はにっこりと笑った。
「国を三つ消した過去? 知っていますわ。計測器を壊す出力? 見ていますわ。それでも皆様は動いている。なぜだと思います?」
「……なんでだよ」
「あなたが、主人公様を本気で愛しているからですわ♡ 不器用で、危険で、制御不能でも、その熱量は本物ですもの。だから私も応援します。諦め禁止ですわ♡」
彼女は差し入れのおにぎりを彼の手に押し付けた。
「まずは食べて。糖分を摂って。それからもう一度、腰の振り方を一ミリだけ調整しましょう? 私には理論は分かりませんが、気合なら分けられますわ♡」
彼は、握られたおにぎりの温もりを感じて、小さく笑った。
「……お前は、本当に奇妙な嫉妬だな」
「名前に反して、誰にも嫉妬しないのが取り柄ですわ♡ その代わり、仲間が落ちそうなときは全力で引き戻しますの」
彼はおにぎりを頰張り、立ち上がった。
「分かった! もう一度だけ……いや、何度でもやってやるぜ! 振るんだよ、俺の腰は!」
「その意気ですわ♡ では、魔導さんたちにも『まだやれます!』と伝えてきますね。あ、実験中はなるべく山の方へ衝撃波を向けてくださいませ♡ 街があると後始末が大変なので」
「……なるべく、な」
「なるべくで結構ですわ♡」
嫉妬は手を振って走り去った。
その背中を見送りながら、腰振りのヤンデレは拳を握り直した。
諦めかけた心に、再び火が入る。
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## 第四幕 完成
そして、ついにその日が訪れた。
魔導が開発した新たな魔法。
森羅万象が構築した特殊な空間制御。
科学が設計した制御装置。
薬物特化が完成させた、出力安定の薬。
潜入が入手した古代文明の技術。
それらすべてを組み合わせ、衝撃波を完全に封じ込める仕組みが完成した。
「これなら、あなたが腰を振っても国が消滅することはありませんわ♡」
魔導が胸を張る。
科学も数値を確認してうなずいた。
「出力は安定している。理論上、問題はない」
「薬の調整も完了していますわ♡」
「必要な準備はすべて整いましたわ♡」
腰振りのヤンデレは、震える声で尋ねた。
「本当に……本当に大丈夫なのか!?」
「ええ。私たちを信じてくださいまし♡」
彼は仲間たちを見渡した。
魔導も、科学も、森羅万象も、薬物も、潜入も。
そして、少し離れた場所で両手を振っている嫉妬も。
自分のために、ここまで動いてくれた。
目から涙がこぼれた。
「お前ら……ありがとうよ! この恩は一生忘れねえ! 俺、本気で振るからな! でも加減は……できるだけする!」
九人も、優しく微笑んだ。
「さあ♡ 今夜から、一緒に主人公様を愛しましょうね♡」
「順番は公平にですわ♡」
「腰の振りすぎには注意ですわよ♡ 制御装置があっても、気は抜かないでくださいませ」
こうして、腰振りのヤンデレも、ついに主人公との夜の生活に参加できるようになった。
その夜。
ゲイバーの店先に、遠くで小さな地響きがした。
お兄さんは空を見上げ、グラスを傾けた。
「……やるじゃねえか、腰振り」
世界は平和だった。
制御装置のおかげで、国は消えていなかった。
そして主人公だけが、新戦力を加えた十人の愛を、全身で受け止めることになったのだった。




