ヤンデレたちから逃げるために鬼ヶ島を要塞化したら、味方が全員敵だった
# 桃太郎編
## 第1章 新しい遊び
主人公は、巨大な桃の中に閉じ込められていた。
外からは、ヤンデレの一人が斧を振り下ろす音が聞こえてくる。
「えいっ♡ えいっ♡」
桃が揺れるたび、主人公は内部で必死に身をかわした。
「ちょ、ちょっと待て! 斧で桃を割るな! 中に俺がいるんだぞ! 普通に『開けます』って言え!」
しかし、ヤンデレは楽しそうに斧を振り続けた。愛おしげな笑顔だ。
やがて、彼女は何かを思い出したように手を止めた。
「あら♡ この遊び、かぐや姫でやりましたわね♡ 桃バージョンですわ」
そして、満面の笑みを浮かべた。目が本気だ。
「今度は私たちが桃太郎をやりましょうか♡ 愛を込めて」
こうして、十人のヤンデレたちは、新しい遊びを始めることになった。
今回の遊びは、桃太郎。
七人のヤンデレが桃太郎側となり、主人公とその仲間たちが鬼ヶ島を守る。
ただし、本物の桃太郎が登場するわけではない。あくまでヤンデレたちによる、ごっこ遊びである。
森羅万象ヤンデレが、主人公に向かって微笑んだ。優雅に紅茶を傾ける。
「今回は、今までの反省をしてありますわ♡」
主人公は警戒した。眉間に皺が寄る。
これまでの遊びでは、何度もひどい目に遭ってきたからだ。鋼の精神が、すでに警告を発している。
しかし、森羅万象ヤンデレは続けた。声が優しい。
「今回はちゃんと今までの反省をしてあります。魔導のヤンデレと科学特化のヤンデレは主人公様側につけて差し上げますわ♡ 愛の配慮ですわ」
主人公は驚いた。
魔導のヤンデレと科学特化のヤンデレ。
二人とも非常に優秀で、これまでの経験から考えても頼りになる存在だった。希望が、わずかに芽生える。
「本当にいいのか? 罠じゃねえよな? 絶対罠だろ」
「もちろんですわ♡ ご安心を」
魔導のヤンデレと科学特化のヤンデレも、主人公に優しく微笑んだ。手を胸に当てる。
「主人公様♡ 私たちが必ずお守りいたしますわ♡ 愛を込めて」
「立派な鬼ヶ島を作り上げましょうね♡ データ上、成功率は高いですわ」
主人公は、ようやく味方を得られたと安心した。肩の力が少し抜ける。
一方、その裏では――。
魔導のヤンデレと科学特化のヤンデレは、残りの八人のヤンデレに、主人公側の情報を逐一報告する二重スパイだった。
鬼ヶ島の設計も、罠の位置も、防衛計画も、すべてリアルタイムで筒抜けになる予定だったのである。
もちろん、この事実を主人公は知らない。希望が、最大の罠だ。
「それでは、主人公様♡」
森羅万象ヤンデレが宣言した。空間が微かに整う。
「五日間差し上げますわ♡ その間に、立派な鬼ヶ島を作ってくださいませ♡ 愛を育てる時間ですわ」
「そして五日後、私たちが攻め込みますわ♡ 全力で」
主人公は拳を握った。目が燃える。
「いいだろう……! 今度こそ、お前たちの好きにはさせない! 俺の平和を守ってやる!」
こうして、鬼ヶ島防衛戦の準備が始まった。
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## 第2章 最初の仲間と、にぎやかな応援係
主人公は、まず町へ向かった。
鬼ヶ島を守るためには、仲間が必要だった。
「頼む! 一緒にヤンデレを迎え撃ちましょう! 普通に協力してくれ!」
しかし、町の人々は主人公を見るなり、目をそらした。足音が逃げる。
誰も協力してくれない。
彼らはヤンデレたちの恐ろしさを知っていた。主人公に協力すれば、どんな目に遭うかわからない。童話ごっこに巻き込まれるのが怖いのだ。
主人公は肩を落とした。
「くそっ……誰も協力してくれないのか……。俺の人気はどこ行った」
そんな彼を、魔導のヤンデレと科学特化のヤンデレが慰めた。優しく肩に手を置く。
「お気を落とさないでくださいませ、主人公様♡ 私たちがいますわ」
「大丈夫です♡ 私たちがついています。五日間あれば、立派な鬼ヶ島を作れますよ♡ 愛を込めて設計しますわ」
二人は罠の設計や防衛設備の建設を手伝うと約束した。笑顔が信頼できる。
主人公は、彼女たちの優しさに救われた。胸が少し熱い。
「ありがとう……。お前たちがいてくれて、本当に助かる。今度こそ普通に勝てる気がする」
次に主人公が向かったのは、行きつけのゲイバーだった。
店の奥には、いつものお兄さんがいた。塩おにぎりを握っている。
「お兄さん! 頼む、力を貸してくれ! 普通の防衛だ!」
しかし、お兄さんは主人公の顔を見た瞬間、嫌な予感がした。手が止まる。
「……お前、また何か始めるつもりか? 顔に書いてあるぞ」
主人公は事情を説明した。
五日後、七人のヤンデレが鬼ヶ島に攻め込んでくる。
だから一緒に防衛計画を立ててほしい、と。普通の作戦会議だ。
お兄さんの脳裏に、これまでの地獄がよみがえった。
リングコンに変えられたこと。重力トレーニング。天下一武道会。優勝後の余興。
お兄さんは顔を覆った。
「もう嫌だ。お前の頼みでも絶対受けねえよ。普通の店を守らせてくれ」
主人公が絶望しかけた、そのときだった。
魔導のヤンデレがお兄さんに近づき、そっと耳打ちした。声が甘い。
「……今回は、お兄さんだけは救済措置があります。愛の特例ですわ」
「……本当か? 嘘だろ」
「ええ♡ 今回は、今までのような無茶苦茶なことにはなりませんわ♡ 詳しいことは、参加していただければわかります♡ ご安心を」
お兄さんは疑いの目を向けた。それでも、主人公を放っておくこともできなかった。根が優しい。
「……わかった。ただし、今回はちゃんと作戦を考えるぞ。普通の作戦だ」
主人公は何度も頭を下げた。
「ありがとう、お兄さん! 俺の『普通』の味方だ!」
こうして、頼もしい協力者が加わった。希望が、また少し膨らむ。
その頃、島の入り口では、もう一人の人物が忙しそうに動いていた。
嫉妬のヤンデレである。
彼女は両手にメガホンと差し入れ袋を抱え、鬼ヶ島建設現場を駆け回っていた。笑顔が太陽のようだ。
「主人公様ー♡ 頑張ってくださいませー♡」
「落とし穴、すごく深いですわね♡ さすがですわー♡ 素敵!」
「ミサイルの配置、素敵ですわ♡ 十キロ以内なら何でも弾けますわね♡ 応援してます!」
主人公は振り返った。眉をひそめる。
「……お前、なんでここにいるんだ。桃太郎側だろ」
「応援ですわ♡」
嫉妬は胸を張った。目が純粋だ。
「桃太郎側の七人には入っておりませんもの。ですから、建設期間中は主人公様の応援係をさせていただきますわ♡ 両方応援しますわ!」
「応援係……。本当に邪魔しねえよな?」
「はい♡ 差し入れも持ってきましたの。甘いものも、しょっぱいものも、回復薬も……あ、回復薬は薬学特化さんに頼んだので、効きすぎに注意してくださいませ♡ 愛の薬ですわ」
「効きすぎって何だよ。普通の回復薬にしろ」
それでも、誰も協力してくれない町から戻ってきた主人公にとって、元気に手を振る彼女の存在は、妙に心強かった。鋼の精神が、少しだけ緩む。
「……まあ、邪魔しなければいいけどな。ありがとう」
「もちろんですわ♡ 邪魔はいたしません。ただ、毎日現場に来て、全力で応援するだけですわ♡ 皆様の愛を繋ぎますわ」
こうして、嫉妬のヤンデレは鬼ヶ島建設のにぎやかし担当となった。
朝はメガホンで「本日も素敵な要塞を目指しましょう♡」、昼は差し入れを配り、夕方は完成した設備の前で拍手をする。
主人公が疲れて座り込むと、必ず横に座り、
「主人公様、まだ五日間ありますわ♡ 絶対に立派な鬼ヶ島になりますわよ♡ 応援してます!」
と、根拠のない自信で励ました。愛が、明るい。
魔導と科学が二重スパイであることも、彼女は知っていた。
それでも、嫉妬は「応援係」の立場を崩さなかった。純粋だ。
「私の仕事は、皆様が揉めないようにすること。そして、主人公様の気持ちが途切れないようにすることですわ♡ 愛の潤滑油ですわ」
そう言って、彼女は今日もメガホンを構えた。声が弾む。
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## 第3章 国王と兵隊
鬼ヶ島を守るためには、兵力も必要だった。
主人公は国王のもとへ向かった。城の扉を叩く。
「国王! お願いがあります! 普通のお願いだ!」
国王は主人公の顔を見るなり、眉をひそめた。机に突っ伏しそうになる。
「……まさか、またあやつらの遊びに付き合えと言うのではあるまいな? 余はもう限界じゃ」
主人公は事情を説明した。五日後、七人のヤンデレが攻め込んでくる。国の兵隊を貸してほしい。普通の防衛だ。
しかし、国王の反応は厳しかった。白目が少し見える。
ウマ娘の育成レースでは、開始前に波動砲で吹き飛ばされた。
デレステでは女性アイドルに変えられ、元に戻った瞬間に美貌を返せと絶叫した。
国王は机を叩いた。カップが跳ねる。
「もう嫌だ! 兵隊も貸さぬ! 絶対に貸さぬぞ! 余の平和を返せ!」
主人公が困り果てていると、科学特化のヤンデレが国王のそばへ歩み寄り、耳打ちした。声が論理的だ。
「ご安心くださいませ♡ 兵隊さんたちは、私が超強化して差し上げますわ♡ データ上、完璧ですわ」
「超強化……? また何か起きるんじゃろうな」
「身体能力も、防御力も、反応速度も、すべて通常の兵士とは比較にならない水準に♡ 愛の強化ですわ」
国王は考え込んだ。これなら役立つかもしれない。諦めの色が浮かぶ。
「……よかろう。兵隊を貸そう。ただし、普通に戻してくれよ」
「本当ですか! ありがとうございます、国王! 俺の味方だ!」
主人公は心から喜んだ。希望が、また膨らむ。
ただし、兵士たちが超強化されることを、主人公は知らない。愛の裏がある。
現場では、嫉妬のヤンデレが兵士たちの到着を大歓迎していた。メガホンを振る。
「まあ♡ 兵力が増えましたわね♡ 主人公様、ますます頼もしいですわ♡ 応援してます!」
「お前、何をそんなに喜んでるんだ。俺の戦力だぞ」
「応援係として当然ですわ♡ 戦力が上がれば上がるほど、防衛成功の可能性が上がりますもの♡ 両方の愛を応援しますわ」
彼女の笑顔に、悪意はなかった。
ただ、結果として、その戦力は主人公を苦しめる方向に使われることになるのだが――。愛が、重い。
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## 第4章 筒抜けの鬼ヶ島
鬼ヶ島に戻った主人公とお兄さんは、さっそく防衛計画を練り始めた。地図を広げる。
「お兄さん、あいつらの裏をかく作戦が必要だ! 普通の罠じゃダメだ」
「そうだな。まともに戦って勝てる相手じゃない。罠と仕掛けで対抗するしかない。俺の店を守るためだ」
島の入り口には特殊な樹脂の落とし穴。
偽の通路と自動防衛砲台。
島全体の防護結界と侵入検知。
味方だけが通過できる認証システム。
「よし、これなら簡単には突破できないはずだ! 俺の五日間の集大成だ!」
魔導と科学も、資材を運び、設置を手伝った。笑顔が信頼できる。
「主人公様♡ こちらの設備も完成いたしましたわ♡ 愛を込めて作りましたわ」
「ありがとうございます! 本当に助かります! お前たちがいてくれてよかった」
主人公は二人を完全に信頼していた。希望が、最大まで膨らむ。
一方、鬼ヶ島から離れた場所では、残りの七人が大型モニターを囲んでいた。
入り口の落とし穴。偽の通路。砲台。結界。認証。
すべてがリアルタイムで映し出されている。ポップコーンが香る。
七人はポップコーンを食べながら、楽しそうに映像を眺めていた。目が愛おしげだ。
「まあ♡ 主人公様、真剣に作戦を立てていらっしゃいますわ♡ 素敵」
「私たちを迎え撃つために、こんなに頑張ってくださるなんて♡ 愛が深まりますわ」
そのモニターの隅には、嫉妬のヤンデレが現場でメガホンを振る姿も映っていた。
「嫉妬さん、今日も元気ですわね♡」
「ええ。応援係、全うしていらっしゃるようですわ♡ 愛の潤滑油ですわ」
彼女たちは主人公の努力を馬鹿にしているわけではなかった。
必死に考え、工夫し、対抗しようとする主人公が愛おしくてたまらなかった。
だからこそ、全力で攻略するつもりだった。愛が、真剣だ。
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## 第5章 最強の要塞
五日間の準備を経て、鬼ヶ島の防衛設備が完成した。
島の周囲十キロ以内の異物を探知して殲滅するミサイル。
惑星の反対側まで貫通し、宇宙へ放り出す落とし穴。
偽の通路、自動砲台、防護システム、味方認証。
「これで完成だ……! 俺の『普通』を守る要塞だ!」
主人公は完成した要塞を見上げた。胸が熱い。
さらに、魔導に頼んで兵士全員の顔を自分とまったく同じに変えてもらった。
「これで敵は混乱するはずだ! 完璧な作戦だ!」
現場では、嫉妬のヤンデレが完成式典のように拍手をしていた。目が潤んでいる。
「素晴らしいですわ♡ 五日間の努力の結晶ですわ♡ 応援しててよかった!」
「お前、完成祝いで泣くなよ。俺の要塞だぞ」
「だって……主人公様がこんなに一生懸命、私たちの相手をしてくださるなんて……♡ 愛が伝わってきますわ」
「相手じゃねえ! 防衛だ! 俺の平和のための防衛だ!」
一方、七人のヤンデレたちはモニターを眺め、森羅万象だけが少し不満そうに言った。優雅に扇子を使う。
「でも、主人公様と同じ顔は許せませんわ♡ 愛の独占ですわ」
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## 第6章 開幕、鬼ヶ島
決戦の日。
主人公は入り口に立ち、迫りくるヤンデレたちを待ち構えていた。拳を握る。
「来るなら来い……! 十キロ以内に入った瞬間、ミサイルで全員まとめて吹き飛ばしてやる! 俺の勝ちだ!」
しかし、背後から科学特化が近づいてきた。タブレットを抱えている。
「主人公様♡」
「ん? どうした? 準備はいいか」
彼女は肩を軽く叩き、にっこりと微笑んだ。愛が、静かに重い。
「ミサイルの仕掛け、解除しました♡ 安全のためですわ」
「…………は? 今、何て言った?」
「ちょ、ちょっと待て。お前、俺の味方だろ? 約束だろ」
「はい♡ 味方ですわ。愛の味方ですわ」
「じゃあ、なんで解除したんだよおおおおおおおおお!! 俺の五日間を返せ!」
その絶叫を、嫉妬のヤンデレが現場から聞いていた。
彼女はメガホンを握りしめ、一瞬だけ表情を曇らせた。でも、すぐに明るくなる。
「……ミサイル、解除、ですか。でも、まだありますわ」
それでも、彼女はメガホンを口に当てた。声が弾む。
「主人公様ー♡ まだ落とし穴がありますわー♡ 頑張ってくださいませー♡ 応援してます!」
応援の声だけは、最後まで止まらなかった。愛が、明るい。
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## 第7章 改良された落とし穴
ミサイルを無効化されても、主人公にはまだ切り札があった。
惑星の反対側まで貫通し、宇宙へ放り出す究極の落とし穴。
「ミサイルは解除された……だが、まだ終わりじゃない! 俺の落とし穴だ!」
七人のヤンデレが到着し、全員が落とし穴に落ちた。ドスン、と音がする。
「よし! これでお前らは星の外だ! 今度こそ俺の勝ちだあああああ! 平和だ!」
次の瞬間、背後から聞き慣れた声がした。優雅だ。
「主人公様♡」
振り返ると、七人が立っていた。笑顔が揃っている。
「な、なんでだああああああああ!! 宇宙行っただろ!」
魔導が得意げに微笑んだ。杖を軽く振る。
「ちょっと改良しました♡ 愛の改良ですわ」
「落とし穴に落ちると、主人公様の背後に転送される仕組みですわ♡ ご安心を」
「俺の五日間を返せえええええええええ!! 努力はどこ行った!」
さらに森羅万象が兵士たちを見つめた。空間が微かに整う。
「国の兵士さん方、主人公様と同じ顔はいけませんよね♡ 愛の整理ですわ」
「どうなるかわかっていますか? 理解したならば、今すぐ主人公様を捕えなさい! 整えましたわ♡」
魔導が指を鳴らし、兵士たちの顔を元に戻した。光が走る。
「さあ♡ これで遠慮はいりませんわね♡ 愛を込めて」
「国の兵士さん方、今すぐ主人公様を捕えなさい! 全力で」
兵士たちは一斉に襲いかかった。足音が重い。
「ちょっと待てえええええ! 顔を戻したのは何だったんだよおおおおお!! 混乱させるためだろ!」
「だって、主人公様と同じお顔のまま捕まえるなんて、もったいないでしょう?♡ 愛の顔は特別ですわ」
嫉妬は、その光景を遠目に見ながら、メガホンを下ろした。目が少し潤む。
「……応援係として言えることは、もうありませんわね。でも」
それでも、彼女は小さく手を振った。声が優しい。
「主人公様……最後まで、かっこよかったですわ♡ 応援してました!」
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## 第8章 鬼ヶ島の農園
一方、鬼ヶ島の片隅では、ゲイバーのお兄さんが畑仕事に精を出していた。
騒音を遮断するヘッドホンを装着し、音楽を聴きながら野菜を収穫している。普通の午後だ。
「うん、うまそうだ。今日はトマトとキュウリのサラダにするか! 普通の味だ」
主人公の悲鳴は遠くから響いていた。
しかし、ヘッドホンのお兄さんには何も聞こえなかった。平和だ。
主人公がどんな目に遭っていようが、知ったこっちゃ無かった。オアシスは守られている。
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## 第9章 脱出ゲームの始まり
兵士に囲まれ、ミサイルは解除され、落とし穴も改良されている。
それでも主人公は諦めなかった。目が燃える。
「……待てよ。この島から脱出すればいい。それが俺の新しい勝利条件だ! 普通に逃げる!」
全力を解放し、身体が黄金の光に包まれる。
やがて現れたのは――巨大な黄金の股間だった。神々しい。
「俺自身が股間になることだ。これが俺の本気だ!」
ヤンデレたちは息をのんだ。目がハートになる。
「神々しいですわあああああ♡ 愛の象徴ですわ!」
「黄金の股間……! この世の至宝ですわ♡ 記録しなきゃ!」
嫉妬も、思わず手を合わせた。メガホンを落としそうになる。
「……見ましたわ。主人公様の本気、全部♡ 素敵すぎますわ!」
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## 第10章 超強化兵士の恐怖
黄金の股間となっても、兵士は倒れない。衝撃が弾かれる。
「なんで倒れないんだよ! お前ら、普通の兵士だろうがあああああ!! 俺の技が効かねえ!」
薬物専門が嬉しそうに口を開いた。薬瓶を抱えている。
「ふふふ♡ 超強化しました♡ 愛の強化ですわ」
「俺を助けるために兵士を強化したんじゃなかったのかよおおおおおお!! 裏切りか!」
「ええ♡ ですから、主人公様が本気を出せるように、兵士さんたちにも本気を出していただこうと思いまして♡ 愛の訓練ですわ」
七人は目を輝かせ、助ける気はなかった。愛が、見守る形だ。
嫉妬だけが、遠巻きに叫んだ。メガホンを再装着する。
「主人公様ー♡ 連携を崩せば勝てますわー♡……たぶんですわー♡ 応援してます!」
「たぶんじゃねえよ! 具体的に教えろ! 普通の助言しろ!」
「応援係に戦術は求めないでくださいませ♡ 愛の応援だけですわ」
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## 第11章 鬼退治達成
主人公は最後の兵士に渾身の一撃を叩き込んだ。光が走る。
「これで……最後だああああああ!! 俺の勝ちだ!」
兵士は倒れた。全兵士撃破。埃が舞う。
しかし主人公も限界だった。黄金の光が消え、その場に力尽きる。膝がつく。
「はぁ……はぁ……。や、やっと……終わった……。平和だ……」
八人が取り囲み、うっとりと見つめた。目が愛おしげだ。
「主人公様、素敵でしたわ♡ 鋼の精神ですわ」
「超強化された兵士さんたちを、最後まで倒しきるなんて……♡ 愛が深まりましたわ」
「鬼退治、達成でございますわ♡ おめでとうございます」
主人公は最後の力で顔を上げた。息が切れる。
「あれ、鬼は俺でお前らが桃太郎だよな? 役割違うだろ」
ヤンデレたちは顔を見合わせ、全員そろって答えた。笑顔が揃う。
「忘れました♡」
「忘れましたじゃねえええええええええ!! 最初から役割確認しろ!」
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## 第12章 努力の昇華、そして映画化決定
主人公は、そのままヤンデレたちにお持ち帰りされた。腕が優しい。
五日間かけて築き上げた鬼ヶ島。
惑星の裏側まで貫通する落とし穴。
十キロ以内の敵を殲滅するミサイル。
超強化された兵士たちとの死闘。
黄金の股間形態。
そのすべてが、主人公の脱出計画のために費やされた努力だった。希望の残骸だ。
しかし、最終的に彼を待っていたのは、勝利でも自由でもなかった。愛が、重い。
「主人公様♡ 今日は本当に素敵でしたわ♡ 愛を感じましたわ」
「黄金の股間形態まで見せていただけるなんて……♡ 至宝ですわ」
「超強化兵士との戦闘も、実に参考になりましたわね♡ 夜のレパートリーにしますわ」
ヤンデレたちは、主人公が鬼ヶ島で披露した技や戦い方を、今後の夜の生活のレパートリーへと次々に取り入れていった。メモまで取る。
「ま、待て……。俺の五日間の努力は……いったい何だったんだ……。平和はどこだ」
「もちろん、私たちとの愛を深めるためですわ♡ 最高の愛ですわ」
「違うわああああああああ!! 防衛だ! 俺の防衛だったんだ!」
そのときだった。
部屋の隅から、監視特化のヤンデレが静かに歩み出た。カメラを抱えている。
彼女は終始、現場には姿を見せていなかった。
代わりに、島の各所に仕込んだカメラと、遠方からの望遠撮影で、五日間のすべてを記録していたのである。愛の記録だ。
「皆様♡ お疲れさまでした♡ 完璧な映像ですわ」
「監視さん……? いつの間に。隠れてたのか」
「最初からですわ♡ 建設開始の朝から、決戦の最後の絶叫まで。一カットも欠かさず、撮影済みですわ♡ 愛を残しますわ」
主人公の顔が引きつった。
「撮ってたのかよ……! 俺の地獄を!」
「もちろんですわ♡ しかも、今回は特別ですの。愛の特別ですわ」
監視特化は、タブレットを掲げた。
画面には、編集済みの予告映像が流れている。
落とし穴、ミサイル解除、黄金の股間、超強化兵士との死闘、そして「忘れました♡」。BGMまでついている。
「本編、完成いたしましたわ♡ 高解像度ですわ」
「本編って何だよ。映画か? 絶対映画だろ」
「映画ですわ♡」
部屋が一瞬、静まった。空気が凍る。
「……は? 映画? 俺の五日間が?」
「タイトルは――」
監視特化は、にっこりと微笑んだ。愛が、静かに重い。
**『鬼ヶ島防衛戦――黄金の股間、五日間の記録』**
「勝手にタイトルつけるなあああああ!! 普通のタイトルにしろ!」
「すでに配給会社とも話がついておりますわ♡ 世界同時公開予定ですの♡ 愛を世界に届けますわ」
科学特化が頷いた。タブレットを見せる。
「映像データは私がバックアップを三重にしてありますわ♡ 安全ですわ」
魔導も嬉しそうに続けた。杖を軽く振る。
「予告編のナレーション、私が担当いたしましたわ♡ 優雅に仕上げましたわ」
嫉妬は、メガホンを胸に抱いたまま、目を潤ませていた。声が震える。
「主人公様の頑張る姿が、世界中に届くなんて……♡ 応援係として、本望ですわ♡ 両方応援してよかった!」
「本望にするな! 俺の地獄を映画にするなあああああ!! 平和を返せ!」
監視特化は、満足そうにカメラのレンズを拭いた。光が反射する。
「ご安心くださいませ♡ 続編の構想も、すでにございますわ♡ 愛の続きですわ」
「続編!? まだやるのか」
「ええ♡ 題して――『鬼ヶ島防衛戦2:今度こそミサイルは解除されない(されない保証はない)』ですわ♡ 楽しみですわね」
「保証しろおおおおおお!! 俺の『普通』を保証しろ!」
こうして、鬼ヶ島防衛戦は幕を閉じた。
主人公の努力は、夜の生活のレパートリーへと昇華され、
さらに世界規模の映画作品としても昇華された。愛が、形を変える。
嫉妬の応援は最後まで続いた。
監視のカメラも、最後まで回り続けた。
そして今日も、主人公だけが、平和とは程遠いエンディングを迎えていた。
(……次は、普通の桃太郎にしてくれ。頼む。愛はわかった。普通が欲しい)
誰も、普通には答えなかった。
ただ、優しい微笑みだけが、静かに彼を囲んでいく。




