番外編7「マッチポンプの少女」ヤンデレ十人の愛と爆炎の戦士たち
## 童話ごっこの始まり
ある日、十人のヤンデレたちは、次の童話ごっこについて話し合っていた。
「白雪姫ごっこも楽しかったですわね!」
「ええ。王子様の口づけで目覚める場面は、特に素晴らしかったです!」
「では、次は『マッチ売りの少女』にいたしましょう!」
こうして、次の演目が決まった。
ただし、今回の主役はヤンデレたちではない。
主人公だった。
「主人公様には、マッチ売りの少女になっていただきます!」
「……なんで俺なんだよ」
「もちろん、主人公様のためですわ!」
彼女たちは満面の笑みを浮かべていた。
そして、主人公にマッチの入った荷物を渡した。
「ルールは簡単です。一日以内に、街の人間にマッチをすべて売り切ってください!」
「まあ、それなら普通に商売をすればいいんだな?」
「はい!」
主人公は少し安心した。
しかし、彼はまだ知らなかった。
今回の童話ごっこには、もう一つの目的があることを。
それは、主人公の回避能力を鍛えることだった。
そして、さらにもう一つ。
この童話ごっこを、戦隊モノ顔負けの超大作特撮番組にすることだった。
## 第一幕 マッチ売りの少女と回避訓練
「それでは、訓練を開始いたします!」
そう宣言したヤンデレの手には、機関銃が握られていた。
「……待て」
「マッチはいかがですか?」
「いや、それ機関銃だろ!」
銃声が鳴り響いた。
主人公は反射的に身をひねり、弾丸を紙一重で回避する。
「おお! さすが主人公様ですわ!」
「今の回避、素晴らしかったです!」
「もっと鍛えれば、さらに強くなれますわね!」
「だから、なんでマッチ売りに銃撃訓練が必要なんだよ!」
そのとき、科学特化型のヤンデレが機関銃を見つめた。
「……少し火力が足りませんわね」
「おい、何を考えている?」
科学特化型は、機関銃を魔改造し始めた。
「弾速を向上させ、追尾機能を追加。さらに、命中しなかった弾丸は空中で分裂するようにいたしましょう!」
「普通の機関銃に戻せ!」
「ご安心ください。主人公様の回避能力を鍛えるための改良ですわ♡」
「安心できる要素が一つもない!」
再び銃声が鳴り響いた。
主人公が横に跳ぶ。
弾丸が追尾する。
主人公が急停止する。
弾丸が分裂する。
主人公が地面を転がる。
背後で連続爆発が起きた。
「おお! 素晴らしい回避ですわ!」
「科学特化型、さらに追尾性能を上げましょう!」
「承知しました!」
「勝手に強化するなあああああああ!」
ヤンデレたちは主人公の抗議を聞き流し、次々と武器を持ち替えていった。
機関銃。
ロケットランチャー。
さらに強力な武器。
主人公は街を歩きながら、弾丸や爆発を避け、必死にマッチを売り歩いた。
「マッチはいりませんか!」
「そこのお兄さん、マッチはいかがですか!」
その様子を、監視特化型のヤンデレが複数のカメラで撮影していた。
「主人公様の回避、正面からも横からも撮影できていますわ!」
「次は、爆発を背景にした走行シーンですわね!」
潜入特化型のヤンデレは、脚本にペンを走らせていた。
「ここで主人公様が振り返り、敵の攻撃を紙一重でかわす……。素晴らしい名シーンになりそうですわ♡」
「おい! 誰が敵役だ! 誰が撮影してるんだ!」
「もちろん、主人公様の勇姿を記録するためですわ!」
通行人たちは、主人公の背後で爆発が起こるたびに悲鳴を上げて逃げていく。
当然、誰もマッチを買ってくれない。
「おい! 客が逃げてるだろ!」
「まあ! 主人公様、周囲の状況を把握する訓練にもなっていますわ!」
「営業妨害だろうが!」
「ご安心ください。主人公様なら乗り越えられます!」
主人公は歯を食いしばり、再び走り出した。
## 第二幕 誘爆
訓練は、次第に激しさを増していった。
ついには、ヤンデレの一人が爆撃まで始めた。
「主人公様! 次は広範囲への攻撃を回避していただきます!」
「そんな訓練はない!」
空から爆弾が降り注ぐ。
主人公は全力で駆け出した。
爆発を避け、瓦礫を飛び越え、どうにか直撃を免れる。
しかし、そのときだった。
背負っていた荷物に爆風が直撃した。
主人公が振り返る。
荷物の中には、売るはずだったマッチが入っていた。
そして――。
誘爆。
爆発が連鎖し、荷物の中のマッチはすべて吹き飛んだ。
しばらくして、煙が晴れた。
主人公は空っぽになった荷物を見つめていた。
「……あれ?」
何度確認しても、マッチは一本も残っていない。
「……全部、なくなった?」
ヤンデレたちが集まってきた。
「主人公様。マッチは売り切れましたか?」
「売れるわけないだろ! お前らの爆撃で全部なくなったんだよ!」
「まあ……」
十人は顔を見合わせた。
そして、静かに微笑んだ。
「それでは、残念ながら失敗ですね」
「原因を作ったのはお前らだろうが!」
「ですが、ルールはルールですから」
「ふざけるな!」
ヤンデレたちは、主人公の抗議を聞きながら、楽しそうに頷いた。
「では、罰ゲームを始めましょう!」
その一方で、潜入特化型のヤンデレは脚本を閉じた。
「第一幕の撮影は順調ですわね。ここからは、いよいよ本番です!」
「カメラ、全機スタンバイですわ!」
監視特化型のヤンデレが宣言した。
科学特化型は魔改造した機関銃を構え直し、薬学特化型は特殊効果の準備を整える。
主人公は、嫌な予感しかしなかった。
## 第三幕 本来の攻撃
その瞬間、空気が変わった。
それまで機関銃やロケットランチャーを使っていたヤンデレたちが、武器を下ろした。
そして、主人公に向かって微笑んだ。
「ここまでは、あくまで回避訓練でした」
「……何?」
「ここからは、お仕置きですわ」
十人が魔力を解放した。
大地が震える。
空間に亀裂が走る。
遠くの山々が消し飛び、世界そのものが悲鳴を上げた。
そのとき、森羅万象のヤンデレが両手を広げた。
「主人公様には、自然の脅威にも立ち向かっていただきますわ♡」
次の瞬間、空が暗転した。
暴風が吹き荒れ、雷鳴が轟き、大地が激しく揺れ始める。
巨大な竜巻が主人公に迫る。
「おい! 自然災害まで使うな!」
主人公は竜巻を紙一重でかわした。
しかし、竜巻が通り過ぎた先には、落雷が待ち構えていた。
「危なっ!」
主人公は身をひねって回避する。
「素晴らしい反射神経ですわ!」
森羅万象のヤンデレは、嬉しそうに拍手した。
「では、次は津波ですわね!」
「次があるのかよ!」
遠方から巨大な水の壁が迫ってきた。
主人公は全力で走り出した。
その姿を、監視特化型のヤンデレがあらゆる角度から撮影している。
「津波を背景にした主人公様の疾走! これは絵になりますわ!」
潜入特化型のヤンデレは、脚本に書き加えた。
「ここで主人公様が自然の猛威に立ち向かう! まさに第一話のクライマックスですわ!」
「勝手にクライマックスにするな!」
そこへ、魔導のヤンデレが巨大な魔法陣を展開した。
「自然災害だけでは、少々迫力が足りませんわね」
「いや、十分すぎるだろ!」
魔法陣の中心に、膨大な魔力が集束していく。
「主人公様! 必殺技のお時間ですわ♡」
「やめろ! その魔法陣は何だ!」
「波動砲ですわ!」
「童話ごっこで撃つ技じゃねえだろおおおおおおおおおお!!」
極太の光線が放たれた。
主人公は全力で回避した。
波動砲は大地を貫き、地平線の彼方まで光の奔流を走らせた。
その瞬間、科学特化型のヤンデレが叫んだ。
「爆発演出、追加ですわ!」
「承知しました!」
薬学特化型のヤンデレが特殊効果を発動させた。
轟音。
閃光。
巨大な火柱。
次々と爆発が連鎖し、空は炎と煙に覆われた。
「爆発、もう少し派手にできますか?」
潜入特化型が尋ねる。
「もちろんですわ!」
科学特化型が答えた。
次の瞬間、先ほどの三倍の爆発が起きた。
「派手すぎるだろおおおおおおおおおお!!」
主人公は必死に走った。
カメラはその姿を追い続ける。
「素晴らしい走りですわ!」
「ここで主人公様が振り返ります!」
「爆発を追加します!」
「主人公様、頑張ってください!」
四人のヤンデレたちは、完全に撮影に夢中になっていた。
主人公は、その光景を見てようやく理解した。
機関銃も、ロケットランチャーも、爆撃も、自然災害も、波動砲も。
あれらは、彼女たちにとって本気ですらなかったのだ。
「ちょっと待て! マッチがなくなったのは、お前らのせいだろ!」
「ええ。ですが、売り切れなかったのは事実ですから」
「原因と責任を分けろ!」
「主人公様、頑張ってください!」
攻撃が放たれた。
主人公は必死に回避した。
しかし、十人のヤンデレたちの本来の力は、人類最強の主人公ですら容易には対処できない。
ついに攻撃の一部が直撃し、主人公は地面に倒れた。
「主人公様!」
慈愛のヤンデレが駆け寄り、傷ついた主人公を完全に回復させた。
「これで大丈夫ですわ!」
「……助かった」
主人公が安堵した、その直後。
「では、次は私たちの番ですね!」
残りのヤンデレたちが、嬉しそうに彼を取り囲んだ。
「白雪姫ごっこのとき、王子様の口づけが素晴らしいことに気づきましたもの!」
「ええ。主人公様を元気づけるには、ディープキスが一番ですわ!」
「いや、慈愛のヤンデレが回復してくれただろ!」
「もちろんです! でも、こちらも大切ですから!」
主人公の抗議は、十人の笑顔に押し流された。
こうして、主人公が倒れるたびに慈愛のヤンデレが完全回復させ、そのあとでヤンデレたちがディープキスをすることになった。
そして、回復が終われば、お仕置きが再開される。
攻撃。
被弾。
回復。
ディープキス。
そして、再び攻撃。
その様子を、監視特化型のヤンデレは一瞬たりとも逃さず撮影していた。
「主人公様の勇姿、すべて記録しておりますわ♡」
「記録するな!」
潜入特化型のヤンデレは、撮影された映像を確認しながら脚本を修正していた。
「ここで主人公様が倒れ、慈愛のヤンデレが救う。そして、仲間たちの愛情が主人公様を支える……。感動的ですわ!」
「どこが感動的なんだよ!」
「主人公様の叫びも素晴らしいですわ。ぜひ予告編に使いましょう!」
「絶対に使うな!」
主人公は必死に耐え続けた。
「主人公様、回避能力が向上していますわ!」
「愛の力ですね!」
「これなら次の童話ごっこも安心です!」
「お前らが攻撃しなければ、そもそも回避する必要もないんだよ!」
十人は顔を見合わせた。
「まあ……!」
「主人公様は、私たちにもっとキスをしてほしいのですね!」
「違う!」
「照れなくてもよろしいのですよ!」
「照れてない!」
ヤンデレたちは、今日も主人公のために頑張っているつもりだった。
## 第四幕 地獄変
「マッチ売りの少女といえば、やはり寒さですわね!」
魔導を極めたヤンデレが魔法陣を展開した。
次の瞬間、主人公は分厚い氷に閉じ込められた。
「これぞ極寒地獄ですわ!」
「いや、凍らせすぎだろ!」
主人公は氷を砕いて脱出した。
十人は歓声を上げた。
「さすが主人公様!」
「では、次は灼熱地獄です!」
今度は大地が赤熱し、周囲一帯が猛烈な熱に包まれた。
主人公は倒れた。
慈愛のヤンデレが完全回復させる。
「よく頑張りましたね、主人公様!」
そして、白雪姫ごっこ以来すっかり味を占めたヤンデレたちが、ディープキスで主人公を労った。
その光景を見て、潜入特化型のヤンデレが頷いた。
「いいですわ! 極寒、灼熱、自然災害、波動砲……。第一話だけで、これほど多彩な見せ場が作れるとは!」
「見せ場じゃねえ! 俺は今、灼熱地獄にいるんだよ!」
「では、次は砂漠地獄ですわ!」
「まだやるのかよ!」
主人公は水も食料もない砂漠に放り出された。
やがて力尽きたが、またしても慈愛のヤンデレに回復され、ディープキスを受け、再び試練へ送り返された。
極寒。灼熱。砂漠。
主人公が生き延びるたび、ヤンデレたちは新たな地獄を用意した。
その間も、科学特化型は爆発演出を調整し、薬学特化型は特殊効果を追加し、監視特化型は撮影を続け、潜入特化型は脚本を磨き上げていた。
「主人公様、あらゆる環境に耐えられるようになりましたね!」
「お前らのせいで、人間やめかけてるんだよ!」
「まあ! 謙遜なさらなくてもよろしいのに!」
十人は満面の笑みを浮かべた。
その一方で、マッチは最初の爆撃ですべて誘爆していた。
制限時間も、刻一刻と迫っていた。
## 第五幕 売れなかったマッチ
こうして、主人公は極寒地獄、灼熱地獄、砂漠地獄を次々と生き延びた。
しかし、肝心のマッチは一本も売れていなかった。
そもそも、最初の爆撃で商品はすべて誘爆して消滅している。
制限時間の一日は、とうに過ぎようとしていた。
主人公は、空っぽになった荷物を抱えていた。
「……なあ」
十人が振り返る。
「マッチ、もうないんだけど」
「ええ、存じておりますわ!」
「お前らのせいで全部なくなったんだぞ」
「ですが、ルールはルールですから!」
「まだそれを言うのか!」
十人は顔を見合わせ、楽しそうに笑った。
「では、最後にもう一度、お仕置きをいたしましょう!」
「まだやるのかよ!」
十人が魔力を解放した。
大地が震え、空間に亀裂が走る。
森羅万象のヤンデレが再び自然災害を呼び起こし、魔導のヤンデレが波動砲の魔法陣を展開した。
科学特化型のヤンデレは魔改造した機関銃を構え、薬学特化型は追加の特殊効果を準備する。
監視特化型のヤンデレは、最後の一瞬までカメラを回し続けていた。
「クライマックスですわ!」
潜入特化型のヤンデレが叫ぶ。
「主人公様、最後まで頑張ってください!」
主人公は、もはや驚きもしなかった。
(ああ、またか……)
攻撃が放たれた。
主人公は必死に回避したが、ついに直撃を受けて倒れた。
慈愛のヤンデレが彼を完全回復させる。
そして、残りのヤンデレたちがディープキスをする。
回復が終われば、また攻撃。
主人公は、すでに人間の限界を大きく超えた耐久力を獲得していた。
それでも、十人のヤンデレたちの攻撃は終わらなかった。
やがて、潜入特化型のヤンデレが満足げに脚本を閉じた。
「撮影完了ですわ!」
監視特化型のヤンデレも、録画映像を確認して頷いた。
「全シーン、完璧に記録できました!」
科学特化型が胸を張る。
「爆発演出も、過去最高の仕上がりですわ!」
薬学特化型も微笑んだ。
「主人公様の体調管理も万全でした♡」
主人公は地面に座り込み、空を見上げた。
「……俺、マッチ売りの少女だよな?」
「もちろんです!」
「だったら、もう少し童話らしくやってくれ!」
十人は顔を見合わせた。
そして、楽しそうに笑った。
危機を作るのもヤンデレ。失敗の責任を問うのもヤンデレ。お仕置きをするのもヤンデレ。そして、主人公を救うのもヤンデレ。
撮影するのもヤンデレ。脚本を書くのもヤンデレ。爆発を派手にするのもヤンデレ。
それが、ヤンデレたちの考える愛情だった。




