ヤンデレVS十傑、再起。そしてすべてはなかったことになった
# 国王、再起への決意
国王は、三匹の子豚の一件を思い返していた。
あの日、余は確かに全盛期の姿を取り戻した。
禁断の技、全盛回帰。
衰えた肉体は若返り、かつての力を取り戻したかのように思えた。
そして、格闘特化の男のヤンデレと戦った。
王覇気功を発動し、生命力を燃やして戦闘力を十倍にまで引き上げた。
あと一撃で勝てるところまで追い詰めたのだ。
だが、余は最後の一撃を放つ前に意識を失った。
「……足りなかったのだ」
国王は拳を握りしめた。
確かに、あの時の余は強かった。
しかし、足りなかった。
何が足りなかったのか。
まずは体力だ。
いくら全盛期の肉体を取り戻そうとも、体力まで戻らなければ意味がない。長期戦になれば、いずれ限界が訪れる。王覇気功で生命力を燃やせば、一時的に力を引き上げることはできる。だが、それは根本的な解決にはならなかった。
そして、もう一つ。
十傑だ。
あの戦いに、十傑はいなかった。
余は一人で戦い、一人で限界を迎えた。
もし、あの場に十傑がいたならば。
もし、余が全盛期の力を完全に取り戻し、十傑と共に戦うことができたならば。
結果は違っていたかもしれない。
## 国王、再起への決意――十傑との再会
国王は窓の外を眺めながら、拳を握りしめた。
「まずは、全盛期の力を取り戻さねばならぬ……」
あの戦いで、国王は思い知った。
禁術「全盛回帰」は、確かに若き日の肉体を取り戻せる。しかし、失われた体力までは戻らない。あれでは、いくら強くなろうとも、長期戦で力尽きてしまう。
「以前のような禁術に頼るわけにはいかぬ。もっと根本的な方法が必要だ」
国王は顎に手を当て、考え込んだ。
「そうだ。魔道のヤンデレに頼んでみるか。あやつなら、若返りの魔法くらい――」
「お呼びになりまして?」
国王は飛び上がった。
いつの間にか、魔道のヤンデレがすぐ横に立っていた。
「ぬおっ!? いつからそこにいた!?」
「最初からですわ♡」
「……まあよい。実は頼みがある」
国王は咳払いをして、事情を説明した。
「余は全盛期の肉体を取り戻したい。だが、以前の禁術では体力までは戻らなかった。何か方法はないか?」
魔道のヤンデレは、にっこりと微笑んだ。
「それでしたら、龍を呼び出せばよろしいのですわ♡」
「龍だと?」
「ええ♡ 龍の力を使えば、国王様を若返らせることができますわ。それだけではありません。失われた十傑も、蘇らせることができますの♡」
「な、なんだと!?」
国王は思わず立ち上がった。
若返りだけではない。十傑の復活まで可能だというのか。
かつての全盛期の肉体を取り戻し、さらに十傑とともに戦えるのであれば、再起への道が開けるかもしれない。
「頼む! その龍を召喚してくれ!」
「かしこまりましたわ♡ それでは、呪文を唱えますわね♡」
魔道のヤンデレは両手を掲げ、呪文を唱え始めた。
「古より世界を見守りし偉大なる龍よ――我が呼び声に応え、その姿を現したまえ!」
その頃。
別の屋敷では、主人公がいつものようにヤンデレたちから逃げる方法を考えていた。
「……どうすれば、あいつらから逃げられるんだ」
その瞬間だった。
主人公の股間が、突如として光り輝いた。
「……ああ?」
次の瞬間、主人公の股間から龍が出現した。
見覚えのある龍だった。
主人公は龍を見上げ、それから天井に空いた穴を見た。
「……またやりやがったな、あいつら」
もはや驚きもしなかった。
龍が突然現れることにも、召喚場所が股間であることにも、いちいち突っ込んでいては身が持たない。
「今度は何を企んでるんだ……」
龍は悠然と空へ舞い上がり、雄叫びを上げた。
その咆哮とともに、黄金色の光が世界中へと広がっていく。
国王の城では、国王の身体が黄金色の光に包まれていた。
衰えていた筋肉が隆起し、白髪は黒く戻り、顔から老いが消えていく。
やがて光が収まったとき、そこに立っていたのは、かつて最強と謳われた全盛期の国王だった。
国王は自分の手を握り、拳を振るった。
身体が軽い。力がみなぎっている。失われた体力まで、完全に戻っていた。
「こ、これは……!」
魔道のヤンデレは、満足そうに微笑んだ。
「大成功ですわ♡ これで国王様は、全盛期の力を取り戻しましたわね♡」
「おお……! では、十傑も……!」
その言葉に応えるように、龍の咆哮が再び響き渡った。
城の大広間に、十の光が降り注ぐ。
光は渦を巻き、少しずつ人の形を作り上げていった。
そして、十人の戦士たちが姿を現した。
剛王の刃、ガルド・ヴァルグレン。
千里眼、アルシオン・アシュフォード。
白銀の聖女、エリシア・ミレイユ。
城砕き、ブリュンヒルデ・ロックハート。
紫電、ヴェスパー・ヴェルナー。
鉄壁、ラグナル・グランツ。
万象の策士、オルフェウス・グレイヴ。
戦場の鍛冶師、ドゥラン・ベルク。
白狼騎兵、ヴァルド・ノルド。
蒼天の翼、アストリア・スカイラーク。
かつて国王とともに戦い、国を守り抜いた十傑だった。
彼らは困惑した様子で周囲を見回した。
「……ここは?」
最初に声を上げたのは、ガルドだった。
彼は広間を見渡し、やがて正面に立つ国王を見つけた。
そして、目を見開いた。
「……陛下?」
国王は一歩、前へ踏み出した。
「ガルド……!」
「陛下! ご無事だったのですか!」
ガルドは駆け寄った。
普段は寡黙で、どんな敵を前にしても動じない男だった。そのガルドが、今は声を震わせていた。
「よかった……本当によかった……!」
国王はガルドの肩を強くつかんだ。
「お前こそ……! お前たちこそ……!」
それ以上、言葉が続かなかった。
国王は十人の顔を、一人ずつ確かめるように見つめた。
もう二度と会えないと思っていた仲間たちが、目の前にいる。
確かに、そこにいるのだ。
「……すまぬ」
国王は頭を垂れた。
「余は、お前たちを守れなかった。国王でありながら、皆を失った。そして、残された国さえ十分に守ることができなかった」
握りしめた拳が震えた。
「余が、もっと強ければ……!」
「陛下」
エリシアが静かに声をかけた。
「どうか、頭をお上げください」
「だが……!」
「私たちは、陛下に仕えたことを後悔しておりません。陛下と共に戦えたこと。それが、私たちの誇りです」
ブリュンヒルデが豪快に笑った。
「そうだぜ、陛下! あたしらは好きで戦場に立ったんだ。今さら謝られたって困っちまう!」
「ブリュンヒルデの言うとおりです」
ラグナルも静かに頷いた。
「我らは陛下の盾となるために、ここにいたのです。盾が傷つくことを恐れていては、何も守れません」
ヴェスパーが剣の柄に手を添えた。
「それに、まだ戦いは終わっていないのでしょう?」
国王は顔を上げた。
十人の目が、まっすぐ自分を見つめていた。
かつてと変わらぬ、力強い眼差しだった。
ドゥランが拳を打ち合わせた。
「武器なら、いくらでも鍛え直してやる。今度こそ、誰にも壊せない武器をな!」
「戦術の再構築は私にお任せください」
オルフェウスが静かに告げた。
「相手がどれほど強大であろうとも、勝ち筋を探すのが私の仕事です」
ヴァルドは膝をつき、頭を垂れた。
「我が槍は、再び陛下と国のために」
そして、アストリアが晴れやかな笑顔を見せた。
「陛下! また一緒に空を飛びましょう!」
アルシオンは仲間たちを見渡し、静かに微笑んだ。
「再び十人が揃いましたね。ならば、今度こそ先を見通し、陛下を勝利へ導きましょう」
国王は十人を見渡した。
もう、言葉は必要なかった。
「……皆、戻ってきてくれたのだな」
「ああ、陛下」
ガルドが答えた。
「我ら十傑、再び陛下のもとに」
十人は一斉に膝をついた。
「我らが剣を、再び国王陛下に捧げます!」
大広間に、十人の声が響き渡った。
国王は天を仰いだ。
目尻から、一筋の涙がこぼれ落ちた。
「……ありがとう」
それは、一国の王としての言葉ではなかった。
仲間を失い、力を失い、それでも立ち上がろうとしていた一人の男の言葉だった。
国王は一人ずつの顔を見つめ、やがて力強く頷いた。
「今度こそ、余はお前たちと共に戦う。そして、この国を守り抜く」
国王は拳を握りしめた。
「余は、もう二度とお前たちを失わぬ」
十傑は、力強く頷いた。
こうして、かつて国を支えた十一人が再び揃った。
国王は全盛期の力を取り戻し、十傑もまた蘇った。
失われたはずの仲間たちが戻ってきた今、国王には再び戦う理由があった。
今度こそ、国を守り抜く。
その決意を胸に、国王は立ち上がった。
再起の物語は、ここから始まる。
その頃、別の屋敷では――。
主人公が、龍を見上げながら呟いていた。
「……俺の股間から出てきた龍が、国王を若返らせて十傑まで蘇らせたのか?」
主人公はしばらく黙り込んだ。
「……もう何でもありじゃねえか、あいつら」
「……十傑まで復活させただと?」
主人公の顔色が変わった。
嫌な予感がした。
かつて、ヤンデレたちは主人公、ゲイバーのお兄さん、国王の三人を豚に変えた。
三人はそれぞれ別の国へ逃げ込んだが、ヤンデレたちはその国々をたった一人ずつで制圧した。
黒鉄帝国は股間のスペシャリストに。
白銀王国は格闘特化の男のヤンデレに。
そして黄金諸侯連盟は森羅万象のヤンデレに。
国が滅茶苦茶にされた挙げ句、最後には三人ともヤンデレたちの用意した勝負に巻き込まれたのだ。
ゲイバーのお兄さんは、股間のスペシャリストとの戦いで彼方へ吹き飛ばされた。
国王は格闘特化の男のヤンデレをあと一歩まで追い詰めながら、体力が尽きて気絶した。
そして主人公は、そもそも勝負に参加する権利すら与えられず、ヤンデレたちに連れ去られた。
「……あいつら、今度は国王を本気で再起させるつもりか?」
国王が全盛期の力を取り戻し、十傑まで揃った。
普通に考えれば、国を守るための心強い戦力が復活したということだ。
しかし、主人公は知っていた。
ヤンデレたちが何かを始めたとき、まともな展開になるはずがない。
しかも、十傑という大規模な戦力まで揃ったのだ。
この先、どれほどの騒動が起きるのか、想像するだけでも恐ろしかった。
「まずい……。これは絶対に、ろくでもないことに巻き込まれる」
主人公は即座に行動を開始した。
向かう先は、一つしかない。
ゲイバーのお兄さんのもとだった。
彼もまた、豚にされ、国を巻き込んだ騒動に翻弄された被害者である。
この状況を理解してくれる人間は、ほかにいない。
「お兄さんのところなら、少しは安全なはずだ……」
主人公はヤンデレたちに気づかれないよう、ひそかに屋敷を抜け出した。
こうして主人公は、国王と十傑の再起に端を発する新たな騒動から逃れるため、ゲイバーのお兄さんのもとへ避難することにしたのである。
## 忘れられた十一人目の英雄
主人公は、ひそかに屋敷を抜け出した。
向かう先は、いつものゲイバー。
国王と十傑が再起したとなれば、何が起こるかわからない。かつて豚に変えられ、三つの国を巻き込む大騒動に巻き込まれた主人公にとって、ゲイバーのお兄さんは数少ない事情を理解してくれる仲間だった。
「あのお兄さんのところに避難すれば、少しは落ち着けるはずだ……」
主人公は慎重に周囲を警戒しながら、ようやく店のあった場所へたどり着いた。
しかし。
「……あれ?」
店がなかった。
いつも明かりが灯っていたはずの場所には、鬱蒼とした森が広がっていた。
看板もない。建物もない。店へ続く道すら存在しない。
まるで、最初からそこには何もなかったかのようだった。
「……おかしい。確かに、ここだったはずだ」
主人公は周囲を見渡した。
すると、森の奥から、凄まじい咆哮が聞こえてきた。
グオオオオオオオオオオッ!!
鳥たちが一斉に飛び立ち、地面が震える。
主人公は嫌な予感を覚えながら、ゆっくりと森の奥へ進んだ。
そこにいたのは、巨大な獣だった。
全身を覆う異様な体躯。鋭い牙。人間のものとは思えない巨大な爪。
そして、その身体には古びた剣が埋め込まれていた。
剣には、かつて英雄が持っていたとされる紋章の力が宿っている。
獣は主人公を見つけると、低く唸った。
「……おい。まさか……」
主人公は、その姿を凝視した。
見覚えがあった。
体格も、立ち姿も、どこか懐かしい。
そして何より、その獣の首には、かつてゲイバーのお兄さんが身につけていた装飾品が残されていた。
「……お兄さん?」
獣が顔を上げた。
「グ……オオ……」
言葉にならない声が漏れる。
主人公は一歩、近づいた。
「おい、冗談だろ……。何があったんだよ!」
獣は苦しむように頭を振った。
その瞳の奥に、ほんの一瞬だけ、人間だったころの面影が浮かんだ。
しかし、次の瞬間。
グオオオオオオオオオオッ!!
獣は咆哮を上げ、主人公へ襲いかかった。
「うおっ!? ちょっと待て! 俺だ、俺だって!」
主人公は攻撃をかわしながら、必死に呼びかけた。
だが、獣の攻撃は止まらない。
巨大な爪が地面をえぐり、古びた剣が振るわれるたびに凄まじい衝撃が森を駆け抜けた。
かつてはゲイバーで酒を飲み、くだらない話で笑い合っていた男。
その男が今や、理性を失った怪物となっていた。
「……おい、ふざけるなよ」
主人公の声が震えた。
「俺、ここに避難しに来ただけなんだぞ……」
そのときだった。
「ご主人様、見事な変身でしょう?♡」
聞き覚えのある声が響いた。
主人公が振り返ると、魔道のヤンデレが立っていた。
その隣には、薬物専門のヤンデレと、化学特化のヤンデレまでいる。
「……お前ら」
主人公の顔が引きつった。
魔道のヤンデレは、楽しそうに微笑んだ。
「こちらのお兄様は、かつて十傑とともに戦った英雄……その歴史から名前を抹消された、忘れられた十一人目の英雄なのですわ♡」
「は?」
「かつて彼は、紋章と英雄の遺産の力を使いすぎた結果、恐ろしい獣へと変貌してしまいましたの♡ 理性を失い、人々を襲う存在となり、やがて歴史からその名を消されてしまったのですわ♡」
主人公は、獣を見た。
「……いや、待て。元はゲイバーのお兄さんだろうが!」
「ええ♡」
魔道のヤンデレは、あっさりとうなずいた。
「薬物専門のヤンデレが紋章の力を増幅する薬を調合し、化学特化のヤンデレが英雄の遺産との反応を制御。そして私が魔法で歴史を書き換えましたの♡」
「歴史を書き換えた!?」
「はい♡ お兄様は、かつて存在した英雄。紋章の力に飲まれ、獣となり、人々を襲ったために歴史から抹消された存在……ということになりましたわ♡」
「ゲイバーは!?」
「そのような店は、最初から存在しませんわ♡」
「お兄さんの人生まで消したのかよおおおおおおおおおお!!」
魔道のヤンデレは、胸を張った。
「**魔道のヤンデレ、薬物専門のヤンデレ、化学特化のヤンデレが一日でやってくれました♡**」
「一日でやることじゃねえだろうが!!」
主人公の叫びが森に響き渡った。
その間にも、獣となったお兄さんは苦しそうに唸り続けていた。
かつての名は、歴史から消された。
かつての居場所も、最初から存在しなかったことになった。
かつての仲間との思い出さえ、世界そのものが否定している。
彼は、忘れられた十一人目の英雄。
森をさまよい、近づく者を襲う、恐ろしい獣となってしまったのだ。
主人公は獣を見つめた。
「……お兄さん」
返事はない。
ただ、獣の瞳の奥で、かすかな光が揺れていた。
主人公は拳を握りしめた。
「……絶対に、元に戻してやるからな」
その言葉を聞いた魔道のヤンデレは、嬉しそうに微笑んだ。
「まあ♡ ご主人様ったら、お兄様のことまで心配して差し上げるのですね♡」
「お前らが元凶だろうが!!」
主人公の避難計画は、完全に崩壊した。
逃げ込むはずだったゲイバーは消滅し、頼りにしていたお兄さんは、歴史から抹消された怪物へと変貌していた。
そして、国王のもとには全盛期の力を取り戻した国王と十傑が揃っている。
主人公は、ようやく理解した。
今回の騒動は、まだ始まったばかりなのだ。
# 十傑、ヤンデレ軍団に挑む
森の奥。
主人公は、獣と化したゲイバーのお兄さんを前に、頭を抱えていた。
「どうすれば元に戻せるんだ……」
「ご主人様♡ そのうち慣れますわよ♡」
「慣れるわけねえだろ!」
魔道のヤンデレが微笑んだ、そのときだった。
空が暗くなった。
森の上空に、無数の影が差した。
主人公が顔を上げると、そこには大軍勢が広がっていた。
先頭に立つのは、一人の男。
全盛期の力を取り戻した国王だった。
その背後には、十人の戦士たちが並んでいた。
剛王の刃、ガルド・ヴァルグレン。
千里眼、アルシオン・アシュフォード。
白銀の聖女、エリシア・ミレイユ。
城砕き、ブリュンヒルデ・ロックハート。
紫電、ヴェスパー・ヴェルナー。
鉄壁、ラグナル・グランツ。
万象の策士、オルフェウス・グレイヴ。
戦場の鍛冶師、ドゥラン・ベルク。
白狼騎兵、ヴァルド・ノルド。
蒼天の翼、アストリア・スカイラーク。
国王は森を見下ろした。
「……見つけたぞ」
その視線の先には、十人のヤンデレたちがいた。
国王は忘れていない。
自分が豚に変えられたこと。
逃げ込んだ国を制圧されたこと。
そして、全盛期の力を取り戻してもなお、格闘特化の男のヤンデレに敗北しかけたことを。
あれから、国王は再び鍛え直した。
十傑も蘇った。
もう、あのときとは違う。
「ヤンデレたちよ!」
国王の声が森に響き渡った。
「これ以上、好き勝手にはさせぬ!」
魔道のヤンデレは、きょとんとした。
「……あら? 国王様ではありませんか♡」
「余は再び立ち上がった! 今度こそ、貴様らの暴虐を止めてみせる!」
「まあ♡ 随分とお元気になられましたわね♡」
「ふざけるな!」
国王は剣を抜いた。
「十傑よ!」
「はっ!」
十人の戦士たちが、一斉に武器を構えた。
「これより、ヤンデレ軍団を討伐する!」
「承知!」
十一人の声が重なった。
その光景を見ていた主人公は、嫌な汗を流していた。
「……おい、待て」
主人公は国王たちを見上げた。
「ここで戦うつもりか?」
国王は主人公に目を向けた。
「主人公よ。案ずるな。そなたは下がっておれ」
「いや、そういう問題じゃねえ!」
主人公は森を見渡した。
片側には国王と十傑。
反対側には、世界の法則すら自由に書き換えるヤンデレ軍団。
そして自分の隣には、理性を失ったゲイバーのお兄さん。
「……この森、絶対に原形をとどめないだろ!」
しかし、誰も聞いていなかった。
森羅万象のヤンデレが、楽しそうに微笑んだ。
「なるほど♡ 私たちに戦いを挑むのですね♡」
彼女は十傑を眺めた。
「せっかく復活したのですから、実力を試してみましょうか♡」
「余を侮るな!」
国王が叫んだ。
「始め!」
号令と同時に、十傑が動いた。
ガルドが大剣を振り下ろす。
その一撃を、格闘特化の男のヤンデレが正面から受け止めた。
轟音が森を揺るがした。
「ほう……! いい剣ですね♡」
「黙れ!」
ガルドは間髪入れずに二撃目を放った。
その隣では、ヴェスパーと魔道のヤンデレが激突していた。
剣閃が飛び交い、魔法陣が次々と展開される。
ヴェスパーは魔法の隙を突いて踏み込んだ。
しかし、魔道のヤンデレは笑顔を崩さなかった。
「私、この魔法にハマっていますの♡」
「何っ!?」
ヴェスパーの足元に巨大な魔法陣が現れた。
次の瞬間、彼女の身体が空高く吹き飛ばされた。
「ヴェスパー!」
ガイウスが槍を構え、援護に向かう。
しかし、そこへ股間のスペシャリストが立ちはだかった。
「おやおや♡ 私と遊んでくださるのですか?」
「どけ!」
ガイウスが槍を突き出した。
股間のスペシャリストは、腰を振った。
衝撃波が発生し、ガイウスの槍を弾き飛ばした。
「なっ……!」
「まだまだですよ♡」
二度目の衝撃波が、ガイウスを大空へと吹き飛ばした。
その上空では、ダイアナが竜に乗って急降下していた。
「今度は私が相手よ!」
しかし、股間のスペシャリストは空を見上げた。
そして、スクワットを始めた。
一回。
衝撃波が発生した。
二回。
さらに衝撃波が重なった。
三回。
衝撃波が空へと駆け上がった。
「きゃあああああああ!」
ダイアナと竜は、まとめて彼方へと吹き飛ばされた。
一方、オルフェウスは戦場全体を見渡していた。
「この戦場……何かがおかしい」
彼はすでに、魔法と物理法則の異常な干渉を見抜いていた。
「全員、陣形を維持しろ! 相手の能力を分析し、攻撃を集中させる!」
十傑は即座に陣形を組み直した。
アルシオンの矢が飛び、ブリュンヒルデの斧が地面を砕き、ラグナルが仲間を守る盾となる。
エリシアは負傷者を癒やし、ドゥランは戦場で武器の調整を続けた。
十人は、それぞれの能力を生かして戦っていた。
そして、ついにオルフェウスが叫んだ。
「今だ! 全員、国王陛下を援護しろ!」
国王が前へ出た。
その全身から、凄まじい気が立ち上った。
「これが、余の全盛期の力だ!」
国王は森羅万象のヤンデレへと突進した。
拳が迫る。
空気が震える。
地面が砕ける。
しかし、森羅万象のヤンデレは、ただ微笑んでいた。
「惜しいですわ♡」
彼女が指先をわずかに動かした。
その瞬間。
国王の拳は、彼女の目の前で止まった。
いや、止められたのではない。
拳が進むという現象そのものが、消されていた。
「……なっ!?」
国王は目を見開いた。
「そんな馬鹿な……!」
森羅万象のヤンデレは、首を傾げた。
「皆様、とても頑張っていますわね♡」
彼女は十傑を見渡した。
「でも、まだまだですわ♡」
そして、満面の笑みを浮かべた。
「それでは、次はこちらの番ですわね♡」
森が静まり返った。
十傑は武器を構え直した。
国王は歯を食いしばった。
そして主人公は、絶望的な表情で叫んだ。
「だから言っただろおおおおおおおお!! この森で戦うなあああああああ!!」
## 十傑、反撃開始――ヤンデレたちのファンサービス
「それでは、次はこちらの番ですわね♡」
森羅万象のヤンデレが微笑んだ。
その瞬間、国王の背後でオルフェウスが声を上げた。
「陛下! お待ちください!」
「何だ、オルフェウス!」
「相手の能力が規格外なのは明白です。しかし、先ほどの攻防で一つ分かったことがあります」
オルフェウスは戦場を見渡した。
「彼女たちは、我々を一瞬で壊滅させることができる。それにもかかわらず、わざわざ一人ずつ相手をしています。ならば、我々が連携を維持し、相手の能力を分析し続ければ、戦える可能性はあります!」
「なるほど……!」
国王の目に闘志が戻った。
「十傑よ! 陣形を立て直せ!」
「承知!」
アルシオンが弓を構えた。
「敵の動きを見極めます。皆さん、私の合図に合わせてください!」
放たれた矢は、ヤンデレたちを直接狙わなかった。
矢は森の木々を次々と貫き、戦場の周囲に展開していく。
「なるほど。視界と移動経路を制限するつもりですね♡」
監視を得意とするヤンデレが感心したように呟いた。
「ええ。そこからが本番です!」
アルシオンの合図とともに、ブリュンヒルデが斧を振り下ろした。
轟音。
大地が割れ、土煙が舞い上がる。
その隙に、ヴェスパーが稲妻のごとき速さで敵陣へ切り込んだ。
「これならどうだ!」
剣閃が走る。
魔道のヤンデレは、寸前で後退した。
「あらあら♡ 危ないですわね♡」
「避けたか!」
「ええ♡ 今のはなかなか見事でしたわ♡」
ヴェスパーは追撃を仕掛けた。
魔道のヤンデレは防御魔法を展開し、二人の剣が激突する。
その衝撃で、魔道のヤンデレの身体が後方へ押し戻された。
「おおっ!」
国王が目を見開いた。
「やったぞ! 押している!」
「まだです、陛下!」
オルフェウスが叫んだ。
「この好機を逃してはなりません!」
エリシアが仲間たちを回復させ、ラグナルが前線を支える。
ドゥランは戦場の状況を読み、仲間の武器に即席の改良を施した。
ガイウスが槍を構え、アストリアが空から援護する。
ガルドは大剣を肩に担ぎ、格闘特化の男のヤンデレへ向かって突進した。
「今度こそ、貴様を超えてみせる!」
「おや♡ また私と遊んでくださるのですね♡」
男のヤンデレが拳を構えた。
大剣と拳が激突する。
一度。
二度。
三度。
衝撃が森を揺るがす。
ガルドは一歩も退かなかった。
「ぐうううううっ!」
「ほう……!」
男のヤンデレの足が、わずかに後ろへ滑った。
それを見た十傑たちが、一斉に声を上げた。
「押しているぞ!」
「陣形を維持しろ!」
「今だ、畳みかけろ!」
国王は剣を掲げた。
「皆の者! 余に続け!」
全盛期の力を取り戻した国王が、戦場の中央へ踏み込んだ。
その一撃は、かつて格闘特化の男のヤンデレを追い詰めたときと同じ、凄まじい威力を秘めていた。
「はああああああああっ!」
国王の剣が振り下ろされる。
森羅万象のヤンデレは、わずかに目を見開いた。
そして、後方へ跳んだ。
「まあ♡ これは危ないですわね♡」
剣が地面を叩き割る。
大地が揺れ、土煙が高く舞い上がった。
国王は剣を構え直した。
「どうだ! これが、余と十傑の力だ!」
その声に、十傑たちは歓声を上げた。
かつて失った仲間たち。
再び揃った十人。
そして全盛期の力を取り戻した国王。
彼らは今、確かに戦っていた。
一人では届かなかった領域へ、仲間とともに手を伸ばしている。
国王の胸に、熱いものが込み上げた。
「これならば……!」
しかし、そのとき。
魔道のヤンデレが、楽しそうに笑った。
「素晴らしいですわ♡ 連携も、戦術も、個々の実力も!」
彼女は胸元で両手を合わせた。
「これほどの戦いを見せてくださるなんて、感激ですわ♡」
「何を余裕ぶっている!」
国王が叫んだ。
「このまま押し切るぞ!」
十傑は一斉に動いた。
オルフェウスの指示のもと、アルシオンの矢が逃げ道を塞ぎ、ブリュンヒルデとガルドが正面から圧力をかける。
ヴェスパーとガイウスが側面を突き、アストリアが上空から追撃する。
ラグナルが守り、エリシアが支え、ドゥランが武器を調整する。
十人全員が、それぞれの役割を果たしていた。
ついに、ヤンデレたちは後退を余儀なくされた。
「おおおおおおおっ!」
国王が剣を振り上げた。
「見たか! 余と十傑の力を!」
その頃。
ヤンデレたちの間では、誰にも聞こえない小さな会話が交わされていた。
「皆様、楽しんでいらっしゃいますわね♡」
「ええ♡ 国王様も十傑の皆様も、とても生き生きしていますわ♡」
「もう少し押されているふりをしたほうが、盛り上がるのではありませんか?」
「賛成ですわ♡ せっかくのごっこ遊びですもの♡」
「では、次は少し大げさに吹き飛ばされてみましょうか♡」
十人は楽しそうに頷いた。
彼女たちにとって、この戦いは勝敗を決めるためのものではなかった。
国王と十傑がどこまで戦えるのか。
どんな連携を見せ、どれほど必死に食らいついてくるのか。
その様子を存分に楽しむための、ごっこ遊びだったのだ。
国王たちは、それを知らない。
彼らは本気だった。
失われた誇りを取り戻し、仲間とともに勝利をつかむため、本気で戦っていた。
そして、ヤンデレたちは負けたふりをしながら、その姿を楽しんでいた。
「陛下! 今です!」
オルフェウスの声が響く。
国王は全力で踏み込んだ。
剣と剣が激突する。
衝撃が森を揺るがした。
そして、森羅万象のヤンデレの身体が、後方へ大きく吹き飛ばされた。
「きゃあああああああっ♡」
彼女は空中でくるりと回転し、地面へと着地した。
「やられましたわ♡」
「よし! ついに一矢報いたぞ!」
国王は拳を握りしめた。
十傑も歓声を上げた。
しかし、主人公だけは違った。
「……おい」
主人公は、ヤンデレたちをじっと見つめていた。
「今の、絶対にわざとだろ……」
彼は知っていた。
これまで何度も、ヤンデレたちの常識外れな行動に振り回されてきたのだ。
国王たちが勝てるようになったのではない。
ヤンデレたちが、勝たせているのだ。
主人公は頭を抱えた。
「……また始まったよ。あいつらの悪趣味な遊びが」
その一方で、国王は十傑と肩を並べていた。
「皆の者! この調子で押し切るぞ!」
「おおおおおおおっ!」
十傑の声が森に響いた。
戦況は、互角。
少なくとも、国王たちにはそう見えていた。
そしてヤンデレたちは、笑顔のまま静かに構え直した。
彼女たちのファンサービスは、まだ始まったばかりだった。
# 絶望編――ヤンデレ軍団のファンサービス
戦況は、互角だった。
ガルドの大剣が格闘特化の男のヤンデレを押し返し、ヴェスパーの剣が魔道のヤンデレを追い詰める。アルシオンの矢が敵の退路を塞ぎ、オルフェウスの指揮によって十傑は完璧な連携を見せていた。
国王は剣を握りしめた。
「見たか! これが余と十傑の力だ!」
十傑の面々にも、希望が生まれていた。
かつては一人で挑み、敗北した相手。
しかし、今は違う。
仲間がいる。戦術がある。そして何より、国王自身が全盛期の力を取り戻している。
「陛下! 勝機が見えてきました!」
オルフェウスが叫んだ。
「このまま連携を維持すれば、相手を攻略できます!」
国王は力強く頷いた。
「よし! 全軍、攻勢を強めよ!」
その瞬間だった。
「……素晴らしいですわ♡」
森羅万象のヤンデレが、ぱちぱちと拍手をした。
「皆様の戦いぶり、本当に見事でしたわ♡ 連携も、戦術も、個々の技量も。ここまで私たちを楽しませてくださるなんて、感激ですわ♡」
国王は眉をひそめた。
「何が言いたい?」
森羅万象のヤンデレは、にっこりと微笑んだ。
「ですが――私たちに勝つには、まだまだ遠いですわね♡」
その瞬間、ヤンデレたちは一斉に顔を上げた。
全員が笑っていた。
今までの戦いで見せていた苦悶の表情も、押し込まれたときの驚きも、後退する姿も。
すべて、芝居だった。
「……何?」
国王の顔から笑みが消えた。
魔道のヤンデレが、楽しそうに口を開いた。
「さあ♡ そろそろ、本当のファンサービスを始めましょうか♡」
## 第一幕――希望を与えてから奪う
「まずは、こちらからですわ♡」
森羅万象のヤンデレが、手を軽く振った。
その瞬間、先ほどまで後退していたヤンデレたちの傷が消え、乱れていた衣服が元に戻った。
折れた武器も、崩れた防御も、すべて元通りになっていく。
「な……!」
オルフェウスが目を見開いた。
「そんな馬鹿な……! 我々が与えた損傷は、確かに通っていたはずだ!」
「ええ♡ ちゃんと受けて差し上げましたもの♡」
森羅万象のヤンデレは、悪びれる様子もなく答えた。
「皆様に、勝てると思っていただきたかったのですわ♡」
国王の背筋に悪寒が走った。
「貴様……最初から、負けたふりをしていたのか?」
「もちろんですわ♡」
即答だった。
「だって、本気で戦ってしまったら、すぐに終わってしまうではありませんか♡」
彼女は、まるでおもちゃを前にした子供のように目を輝かせた。
「皆様が必死に考え、工夫し、仲間と力を合わせて希望を見つける。その瞬間が、とても素敵なのですもの♡」
そして、彼女は微笑んだ。
「その希望が失われる瞬間は、もっと素敵ですけれど♡」
「全軍、散開しろ!」
オルフェウスが即座に命じた。
しかし、遅かった。
地面から無数の鎖が出現し、十傑の足元に絡みついた。
拘束特化のヤンデレが、嬉しそうに両手を広げた。
「逃げ道は用意してありますわ♡ 頑張って抜け出してくださいませ♡」
「この程度!」
ガルドが大剣を振り下ろした。
鎖が砕け散る。
「よし! 突破できるぞ!」
しかし、その直後。
砕けた鎖が、何倍もの数になって復活した。
今度は腕に、脚に、胴体に。
ガルドの身体が、あっという間に拘束されていく。
「なっ……!」
「惜しかったですわね♡」
拘束特化のヤンデレが、楽しそうに微笑んだ。
「あと少しでしたのに♡」
## 第二幕――十傑の切り札
「陛下! 私に策があります!」
オルフェウスが叫んだ。
彼は拘束された状態でも、冷静さを失っていなかった。
「相手は明らかに、こちらの反応を楽しんでいます! ならば、その行動を逆手に取るのです!」
「どうする、オルフェウス!」
「全員で一斉攻撃を仕掛けます! 相手が攻撃を受け止めるために力を集中させた瞬間、その防御を突破するのです!」
国王は頷いた。
「よし! その策に乗ろう!」
十傑は互いに目配せした。
ガルドが力を振り絞り、拘束を引きちぎる。
ブリュンヒルデが斧を構え、ヴェスパーが剣を抜く。
ガイウスが槍を掲げ、アストリアが空へ舞い上がった。
アルシオンの矢がヤンデレたちの頭上へ降り注ぐ。
ラグナルが仲間を守り、エリシアが仲間たちの動きを支える。
ドゥランが鍛え上げた武器が輝き、オルフェウスが全員の動きを統率する。
そして、国王が最後尾から踏み込んだ。
「これが、余たちの全力だあああああああ!」
十一人の攻撃が、一点に集中した。
轟音。
爆風。
大地が砕け、森の木々が揺れた。
土煙が戦場を覆い尽くす。
「やったか……!」
国王が息を切らしながら呟いた。
しかし、土煙の向こうから、楽しそうな笑い声が聞こえてきた。
「うふふ♡」
魔道のヤンデレだった。
「今のは、なかなかよかったですわ♡」
土煙が晴れた。
ヤンデレたちは、全員無傷で立っていた。
それどころか、彼女たちの足元には、十傑の攻撃によって生じた地割れを埋めるように花が咲いていた。
「……あり得ない」
オルフェウスの声が震えた。
「全員の攻撃を一点に集中させたんだぞ……!」
森羅万象のヤンデレが、感心したように頷いた。
「ええ♡ 素晴らしい作戦でしたわ♡」
そして、彼女は小首を傾げた。
「ところで、皆様は今の攻撃で、私たちの何を傷つけたつもりなのですか?」
誰も答えられなかった。
「生命力? 魔力? 肉体? それとも、空間そのものかしら?」
彼女は指先で空中をなぞった。
「どれも、私たちには通用しませんわ♡」
その笑顔は、どこまでも優しかった。
「でも、諦めないでくださいませ♡」
「……何?」
「まだ戦えますでしょう? まだ希望は残っていますでしょう?」
魔道のヤンデレが、そっと手を差し伸べた。
「さあ♡ もう一度、立ち上がってくださいませ♡」
国王は歯を食いしばった。
「……貴様ら!」
## 第三幕――本当の蹂躙
「もういいでしょう♡」
森羅万象のヤンデレが告げた。
その一言で、空気が変わった。
今まで遊んでいたヤンデレたちの表情から、余裕の笑み以外の感情が消えた。
「それでは、少しだけ本気を出しますわね♡」
最初に動いたのは、格闘特化の男のヤンデレだった。
ガルドが大剣を構える。
「来い!」
男のヤンデレは、拳を一発だけ放った。
大剣が砕けた。
衝撃でガルドの身体が吹き飛び、森の向こうまで転がっていく。
「ガルド!」
国王が叫んだ。
その横を、股間のスペシャリストの衝撃波が通り抜けた。
ブリュンヒルデが構えていた斧が粉々になり、彼女の身体が空高く舞い上がる。
「うおおおおおおおおっ!?」
「次はあなたですわね♡」
ヴェスパーが魔道のヤンデレへ駆け込んだ。
剣閃が走る。
一撃目をかわし、二撃目を受け流し、ヴェスパーは懐へ踏み込んだ。
「今度こそ、捉えた!」
魔道のヤンデレは、にっこりと微笑んだ。
「まあ♡ 近接戦闘がお得意なのですね♡」
彼女は片手を前へ突き出した。
「それでは――波動砲ですわ♡」
凄まじい魔力が一点に集束した。
次の瞬間、極太の光線が放たれた。
ドゴオオオオオオオオオオオオオン!!
波動砲はヴェスパーの目の前を通り過ぎ、背後の地形を丸ごと吹き飛ばした。
山肌が削り取られ、森が消し飛び、地面には巨大な溝が刻まれた。
「なっ……!」
ヴェスパーは間一髪で横へ飛び退いた。
直撃は免れた。
しかし、魔道のヤンデレは、そんな彼女を追うように腕を動かした。
「まだまだですわ♡」
第二射。
ドゴオオオオオオオオオオオオオン!!
ヴェスパーが避けた先の地面が吹き飛んだ。
第三射。
ドゴオオオオオオオオオオオオオン!!
さらに隣の丘が消し飛んだ。
第四射。
第五射。
第六射。
波動砲が連続して放たれる。
一発ごとに地形が変わり、森が吹き飛び、地面が深くえぐられていく。
ヴェスパーは必死に走り、跳び、剣を構えながら波動砲をかわし続けた。
しかし、攻撃の間隔は短い。
一発を避ければ、次が飛んでくる。
二発目をかわした先には、三発目が待ち受けている。
「くっ……! どれだけ撃てるんだ……!」
魔道のヤンデレは、楽しそうに笑った。
「私、この魔法にハマっていますの♡」
第七射。
ヴェスパーが飛び退いた地面が消し飛んだ。
第八射。
彼女が足場にしようとした岩山が粉々になった。
第九射。
立ち上る土煙ごと、波動砲が薙ぎ払った。
そして第十射。
ついにヴェスパーは、逃げ場を失った。
「しまっ――!」
波動砲が直撃した。
凄まじい光と轟音が森を覆い尽くした。
ヴェスパーの身体が吹き飛び、遠くの地面へ叩きつけられる。
その周囲には、巨大なクレーターができていた。
「ヴェスパー!」
国王が叫んだ。
魔道のヤンデレは、満足そうに頷いた。
「ふふ♡ 連射の練習にもなりましたわ♡」
彼女は、えぐれた大地を見渡した。
「地形を変えるのって、とても楽しいですわね♡」
その言葉を聞いた十傑たちは、戦慄した。
あれほどの威力の波動砲を、一発だけではなく、好きなだけ連射できる。
山を削り、森を消し、地形そのものを吹き飛ばす攻撃。
それが、魔道のヤンデレの得意技だった。
そして今、彼女はその力を、十傑を追い詰めるために使い始めたのだ。
次に、アストリアが空から突撃した。
「ヴェスパーの仇よ!」
竜の背から槍を構え、森羅万象のヤンデレへ急降下する。
しかし、森羅万象のヤンデレは片手を上げただけだった。
アストリアと竜は、空中でぴたりと停止した。
「えっ……?」
「空を飛ぶのは、気持ちよろしいですわよね♡」
森羅万象のヤンデレは、楽しそうに言った。
「でも、落ちるのもいい経験になりますわ♡」
重力が反転した。
アストリアと竜は、空の彼方へと吹き飛ばされた。
「きゃああああああああああっ!」
アルシオンは仲間の窮地を見て、矢を放った。
一矢、二矢、三矢。
すべてが森羅万象のヤンデレへ向かう。
しかし、その矢は彼女に触れる直前、花びらへと変わった。
「まあ♡ きれいな花ですわね♡」
アルシオンは、弓を握る手を震わせた。
「そんな……私の矢が……」
「いい矢でしたわ♡」
森羅万象のヤンデレは、にこやかに告げた。
「ですが、私に届くには程遠いですわね♡」
一方、ラグナルは残った仲間を守ろうとしていた。
盾を構え、押し寄せる攻撃を受け止める。
しかし、盾は傷一つつかないまま、彼の手の中で小さな花束に変わった。
「……なに?」
「守ろうとする姿、とても素敵ですわ♡」
森羅万象のヤンデレが、ラグナルを見つめた。
「ですから、もう守らなくていいのですわ♡」
彼女が手をかざすと、ラグナルの身体から力が抜けた。
盾を持ち上げることすらできなくなり、その場に膝をついた。
オルフェウスは、戦場全体を見渡した。
策は通じない。
武器も通じない。
魔法も通じない。
そして、魔道のヤンデレが放つ波動砲は、一発ごとに戦場の地形を吹き飛ばしていく。
戦うための足場も、陣形を維持するための森も、逃げ道さえも失われていく。
「……陛下」
オルフェウスは、震える声で呟いた。
「申し訳ありません。私には、これ以上の策が……」
国王は答えなかった。
ただ、目の前の光景を見つめていた。
つい先ほどまで、勝利は目前だった。
仲間たちと肩を並べ、全盛期の力で戦い、ついにヤンデレたちを追い詰めたと思っていた。
だが、それはすべて相手が与えた希望だった。
希望を抱かせ、努力を認め、勝てると思わせる。
そのうえで、すべてを奪う。
ヤンデレたちは、ただ勝つだけでは満足しない。
彼らの戦いそのものを、愉快な余興に変えてしまうのだ。
## 第四幕――慈悲という名のファンサービス
それでも、国王は立っていた。
傷ついた仲間たちを背に、剣を構えていた。
「……余は、まだ負けておらぬ」
森羅万象のヤンデレが、目を細めた。
「あら♡」
「十傑は、余の誇りだ。彼らと共に戦い、ここまでたどり着いた。その事実だけは、貴様らにも消せぬ!」
国王は一歩踏み出した。
「たとえ勝てずとも、余は最後まで戦う!」
その言葉に、倒れていた十傑が反応した。
ガルドが大剣の柄を握る。
ヴェスパーが震える脚で立ち上がろうとする。
ラグナルが盾の代わりに拳を構える。
一人、また一人と、十傑が立ち上がろうとしていた。
「陛下……」
ガルドが呟いた。
「我らは、まだ戦えます……!」
国王は仲間たちを見渡した。
そして、力強く頷いた。
「そうだ。余たちは、まだ終わっておらぬ!」
十一人が、再び陣形を組もうとした。
そのときだった。
「皆様……ずいぶんと傷ついてしまいましたわね♡」
慈悲のヤンデレが、ゆっくりと前へ進み出た。
彼女は倒れた十傑を見つめ、心から心配するような表情を浮かべた。
「かわいそうに……。あちこち痛むでしょう? もう大丈夫ですわ。私が治して差し上げますからね♡」
慈悲のヤンデレが両手を広げた。
温かな光が戦場を包み込む。
傷ついた身体が癒やされ、折れた骨が元に戻り、失われた体力まで満ちていく。
砕けた大剣が復元され、ブリュンヒルデの斧も、ラグナルの盾も元通りになった。
ヴェスパーの身体から痛みが消え、アストリアと竜も無事に戻ってきた。
瞬く間に、十傑は全員、万全の状態を取り戻した。
「こ、これは……!」
国王が驚きの声を上げた。
「敵である余たちを回復させただと……?」
慈悲のヤンデレは、柔らかく微笑んだ。
「もちろんですわ♡ 皆様、こんなに一生懸命頑張っていらっしゃるのですもの。傷ついたままでは、かわいそうでしょう?」
彼女は十傑一人ひとりの顔を見つめた。
「元気になりましたか? 痛いところはありませんか? さあ、もう大丈夫ですわ♡」
その声音は、どこまでも優しかった。
国王は困惑した。
「なぜ……なぜ、我らを助ける?」
慈悲のヤンデレは、まるで当然のことを尋ねられたかのように首を傾げた。
「だって、皆様には、まだ頑張っていただきたいのですもの♡」
彼女は胸の前で手を合わせた。
「せっかくここまで戦ってくださったのに、こんなところで終わってしまうなんて、もったいないでしょう?」
そして、満面の笑みを浮かべた。
「さあ♡ もう一度、立ち上がってくださいませ♡」
国王は言葉を失った。
回復してくれた。
傷を治し、体力を戻し、武器まで元通りにしてくれた。
だが、それは救済ではなかった。
再び戦わせるためだった。
もう一度、希望を抱かせるためだった。
そして、もう一度、その希望を奪うためだった。
それこそが、ヤンデレたちのファンサービスだった。
## 第五幕――十傑の誇り
国王は、慈悲のヤンデレを見つめていた。
「……貴様らは、余たちを弄んでいるのか」
森羅万象のヤンデレが、楽しそうに頷いた。
「ええ♡ 皆様の戦いぶりが、本当に素晴らしいものですから♡」
「ふざけるな!」
国王は剣を握りしめた。
「余たちは本気で戦っているのだ! 国を守るため、仲間とともに立ち上がったのだぞ!」
「存じておりますわ♡」
森羅万象のヤンデレは、少しも悪びれなかった。
「だからこそ、楽しいのですわ♡」
彼女は十傑を見渡した。
「皆様は、仲間を信じ、知恵を絞り、限界を超えて戦おうとしてくださる。その姿は、本当に感動的ですわ♡」
そして、にっこりと微笑んだ。
「でも――」
その一言で、空気が凍った。
「どれだけ頑張っても、私たちには届きませんわ♡」
国王は歯を食いしばった。
「……貴様!」
「悔しいでしょうねぇ♡」
森羅万象のヤンデレは、優しく、そして残酷に告げた。
「せっかく全盛期の力を取り戻し、仲間たちも蘇ったのに。これほど努力しても、勝利には届かないのですもの♡」
国王の拳が震えた。
十傑たちも、唇を噛みしめていた。
彼らは再び武器を構えた。
ガルドが大剣を握る。
ヴェスパーが剣を抜く。
ブリュンヒルデが斧を肩に担ぐ。
アルシオンが弓を引き絞り、ガイウスが槍を構える。
ラグナルは盾を前へ出し、アストリアは竜にまたがった。
エリシアは仲間たちを見渡し、オルフェウスは再び戦術を組み立てる。
ドゥランは武器の状態を確かめた。
彼らは諦めなかった。
「陛下!」
ガルドが叫んだ。
「我らは十傑です! たとえ相手がどれほど強かろうとも、最後まで戦い抜きます!」
国王は、仲間たちを見渡した。
傷は癒えた。
武器も戻った。
体力も回復した。
しかし、絶望だけは消えていなかった。
それでも国王は、剣を掲げた。
「……そうだ」
彼は力強く頷いた。
「余たちは、まだ戦える!」
十傑が声を上げる。
「おおおおおおおおおおっ!」
森が震えた。
ヤンデレたちは、その光景を見て楽しそうに笑った。
慈悲のヤンデレが、満足げに頷いた。
「まあ♡ 元気になってくださってよかったですわ♡」
魔道のヤンデレが、波動砲を構えるように手を掲げた。
「それでは、続きを始めましょうか♡」
森羅万象のヤンデレが、両手を広げた。
「さあ♡ 皆様。次はどんな戦いを見せてくださるのでしょう?」
国王と十傑が、一斉に踏み込んだ。
ヤンデレたちは笑顔で構え直した。
国王たちは、再び希望を抱いていた。
今度こそ、突破口を見つけられるかもしれない。
今度こそ、相手に一矢報いることができるかもしれない。
しかし、主人公だけは知っていた。
これは戦争ではない。
ヤンデレたちにとって、これは遊びなのだ。
そして、彼女たちは遊びを終わらせるつもりなど、最初からなかった。
森の隅で、主人公は頭を抱えた。
隣では、獣と化したゲイバーのお兄さんが唸っていた。
主人公は、ゲイバーのお兄さんを元に戻すために避難してきたはずだった。
それなのに、目の前では国王と十傑が、ヤンデレたちの悪趣味な遊びに巻き込まれている。
「……最悪だ」
主人公は呟いた。
「頼むから、俺が関わってないところでやってくれよ……」
その願いは、誰にも届かなかった。
ヤンデレたちは笑顔で構え直した。
国王と十傑も、再び武器を構えた。
そして慈悲のヤンデレは、次に傷つく者たちを癒やす準備を始めた。
絶望編は、まだ終わらない。
## 絶望編、まさかの結末
森は壊滅していた。
山肌は吹き飛び、地面には巨大なクレーターがいくつも開いている。
国王と十傑は、満身創痍になりながらも、なお戦おうとしていた。
一方、ヤンデレたちは楽しそうに笑っていた。
「さあ♡ 次はどうなさいますか? 国王様♡」
森羅万象のヤンデレが尋ねた。
国王は剣を握りしめた。
「余は……まだ……!」
そのときだった。
「……そろそろ、終わりにいたしましょうか♡」
魔道のヤンデレが、ふと思い出したように呟いた。
彼女は両手を掲げ、呪文を唱え始めた。
「古より世界を見守りし偉大なる龍よ――我が呼び声に応え、その姿を現したまえ!」
その頃。
森の隅で、主人公は獣と化したゲイバーのお兄さんをどうやって元に戻すか考えていた。
「……頼むから、これ以上ややこしいことを増やさないでくれよ」
その瞬間、主人公の股間が光り輝いた。
「……またかよ」
次の瞬間、主人公の股間から龍が出現した。
龍は悠然と空へ舞い上がり、森の上空に姿を現した。
そして、眼下の惨状を見渡した。
吹き飛んだ山。
消し飛んだ森。
満身創痍の国王と十傑。
そして、楽しそうに微笑む十人のヤンデレたち。
龍はしばらく沈黙した。
やがて、魔道のヤンデレが満面の笑みでお願いをした。
「龍さん♡ お願いがありますの♡」
龍は嫌な予感を覚えた。
「今回の出来事、やっぱなしでお願いしますわ♡」
「…………は?」
龍は絶句した。
世界を揺るがす戦いが始まり、国王は全盛期の力を取り戻し、十傑は蘇り、三つの国を巻き込んだ過去の因縁まで再び動き出した。
そのすべてを、今ここで。
「やっぱなしでお願いしますわ♡」
「…………」
龍は、もう一度、眼下を見渡した。
国王と十傑。
壊滅した地形。
そして、笑顔で返事を待っている魔道のヤンデレ。
龍は深々と息を吐いた。
「……お前たちは、いったい何をしているのだ」
「ちょっとしたお遊びですわ♡」
「ちょっとした……?」
龍の声が震えた。
「山が消し飛んでいるのだが?」
「魔法の練習ですわ♡」
「十人の英雄が蘇っているのだが?」
「龍さんのおかげですわ♡」
「そして、今度はそれをなかったことにしろと?」
「はい♡」
魔道のヤンデレは、にっこりと微笑んだ。
龍は、完全に沈黙した。
長い、長い沈黙だった。
やがて龍は、天を仰いだ。
「……もう好きにしてくれ」
そして、龍が咆哮を上げた。
黄金色の光が世界を包み込んだ。
## 世界、巻き戻る
まず、戦場に立っていた十傑の身体が、黄金色の光に包まれた。
ガルドが驚きの声を上げた。
「なっ……身体が……!」
アルシオンが手を伸ばした。
「陛下!」
エリシアが祈りを捧げようとした。
ブリュンヒルデが斧を構え直した。
ヴェスパーが剣を抜こうとした。
ラグナルが盾を持ち上げた。
オルフェウスが何かを分析しようとした。
ドゥランが武器を確認した。
ヴァルドが槍を握りしめた。
アストリアが竜の手綱を引いた。
しかし、すべてが遅かった。
十人の身体は、黄金色の光の中へ溶けていった。
「陛下ああああああああ!」
ガルドの叫びが響いた。
次の瞬間、十傑は跡形もなく消滅した。
彼らが持っていた武器も、身に着けていた装備も、すべて消えていた。
残されたのは、元の姿に戻った国王だけだった。
国王の若返った肉体から力が抜けていく。
黒かった髪は再び白くなり、隆起していた筋肉は元に戻り、全盛期の肉体は失われた。
「……な……」
国王は自分の手を見つめた。
「余の身体が……!」
国王は、何が起きたのか理解できなかった。
つい先ほどまで、十傑がいた。
共に戦い、再び国を守ろうと誓い合った仲間たちがいた。
しかし、今はもういない。
国王は、その場に立ち尽くした。
「……余の再起は……」
魔道のヤンデレが、明るい声で告げた。
「はい♡ 今回の出来事は、全部なかったことになりましたわ♡」
「…………」
国王は、絶句した。
そして、その瞬間。
遠く離れた場所に、ゲイバーが復活した。
消えていた建物が元の場所に戻り、看板に明かりが灯る。
店の奥では、ゲイバーのお兄さんが、いつもの人間の姿で酒を飲んでいた。
「いやあ、今日は平和だなあ」
お兄さんは、グラスを傾けた。
かつて獣になっていたことも。
歴史から名前を消されていたことも。
主人公が助けに来たことも。
何もかも、最初からなかったかのようだった。
そして森の隅では、主人公が呆然と立ち尽くしていた。
「……戻ったのか?」
主人公は周囲を見渡した。
壊滅していた森は元通りになっていた。
山も戻っている。
クレーターも消えている。
そして、国王の再起を支えた十傑も、獣と化したゲイバーのお兄さんも、もう存在しない。
魔道のヤンデレが、主人公に駆け寄った。
「ご主人様♡ これで一件落着ですわね♡」
主人公は、彼女を見つめた。
「……お前らが始めたんだろうが」
「はい♡」
「国王を若返らせたのも?」
「はい♡」
「十傑を蘇らせたのも?」
「はい♡」
「お兄さんを獣にしたのも?」
「はい♡」
「それを全部なかったことにしたのも?」
「はい♡」
主人公は、深々とため息をついた。
「……もう、何も言いたくねえ」
魔道のヤンデレは、嬉しそうに微笑んだ。
「ご主人様♡ お疲れでしたら、お屋敷へ帰りましょう♡」
「帰るか!」
「まあ♡ 照れなくてもよろしいのに♡」
「照れてねえよ!」
ヤンデレたちは楽しそうに笑った。
こうして、国王の再起も、十傑の復活も、忘れられた十一人目の英雄も、すべてなかったことになった。
龍は二度と召喚に応じたくないと思った。
そして今日も主人公はヤンデレたちにお持ち帰りされた。夜は長い。




