↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
28/161

番外編 魔道のヤンデレ「幸運値を上げましょう!」

# 幸運値編――効果のないイヤリングと、全部こちらの仕業


ある日、魔導のヤンデレは、主人公の「幸運」について考えていた。


主人公は毎日、十人のヤンデレたちと過ごしている。

彼女たちから見れば幸せなはずなのに、いつも行為の果てに気絶し、心身ともに疲れ果てている。


「主人公様が疲れ果ててしまうなんて……。なんて不幸なことでしょう」


「そうですね。もっと幸運値を上げて、私たちと過ごす毎日を幸せにしてあげましょう」


彼女たちは本気で主人公の幸せを願っていた。

ただし、主人公本人が何を望んでいるかは、誰も気にしていなかった。


---


## 第一幕 魔法で作ったイヤリング


魔導のヤンデレは、研究室にこもった。


「幸運値を上げる道具……。なければ、作ればいいのですわ♡」


杖を振るい、光を編む。

やがて完成したのは、見かけだけは高級そうな一対のイヤリングだった。


魔力の反応はない。

効果もない。

ただ、それっぽく光るだけの装飾品。


魔導は完成品を手に取り、満足そうに頷いた。


「これで十分ですわ♡ 大事なのは効果ではなく、主人公様が『上がった』と実感できること。そして、私たちがその成長を見届けることですわ」


彼女は残る九人を集めた。


「皆様♡ 主人公様の幸運値を上げる計画ですわ」


「どうやって?」


「このイヤリングですわ♡ 私が魔法で作成しました。使用後、段階的に試練を与え、回避できれば幸運上昇の証拠としますの」


科学特化が首をかしげる。


「効果測定は?」


「目視で十分ですわ♡ 主人公様が危機を回避するたびに、上昇と判断します」


誰も深く追及しなかった。

というより、九人はすでに「見守り役」として乗っていた。


「素晴らしいですわ♡」


「成功したら、夜のご褒美も増えますね♡」


魔導はにっこりと笑った。


「しばらくは私に任せてくださいませ。皆様は、進捗を楽しんでいてください♡」


表向きは単独作戦。

実際には、九人全員が報告を受け、主人公の反応を共有する体制ができあがっていた。


---


## 第二幕 希望を渡す


魔導は主人公のもとへ向かった。


「主人公様♡ 少々、お願いがございますの」


「……またか。何だよ」


「ご安心くださいませ。今回は、あなたのお役に立つことですわ」


主人公は警戒した。


「幸運値を上げるイヤリングですわ♡ 私が特別に作ったものですの。これを使えば、毎日がもっと楽になりますわ」


「……本当か?」


「ええ♡ 私を信じてくださいませ」


その笑顔は、本気だった。

だからこそ、タチが悪かった。


主人公は長い沈黙のあと、小さく息を吐いた。


「……最悪でも、今より不幸にはならないだろ」


「もちろんですわ♡」


魔導はイヤリングを主人公の手に渡した。


何も起きない。

当然だった。効果がないのだから。


それでも魔導は胸の前で手を組んだ。


「はい♡ 装着完了ですわ。これより、幸運値の上昇を確認してまいりますわね」


---


## 第三幕 全部、こちらの仕業


その日の午後。


主人公の頭上に鉄骨が落ちてきた。


「うおっ!」


人類最強の反射神経が、間一髪で彼を生かす。


物陰から見ていた魔導は、小さく拍手した。


「すばらしいですわ! 危機を回避するなんて……やはり、幸運値が上がっていますわね♡」


鉄骨を落としたのは、彼女自身だった。

空間の歪みを一瞬だけ作り、建材の固定を外しただけである。


翌日、トラックが突っ込んできた。


運転手席には誰もいない。

魔力で動かされた無人の車体だった。


主人公は紙一重で避ける。


「昨日より大きな災難ですわ♡ それなのに回避できる……上昇していますわね!」


落石も、橋の崩落も、巨大な岩も、すべて魔導の準備だった。

魔法で岩を浮かせ、タイミングを見て落とす。

橋の要を消し、崩落を演出する。

規模だけは着実に上げていく。


そのたびに、九人へ報告が入る。


「順調ですわ♡ 主人公様、次々と試練を乗り越えていらっしゃいます」


監視特化は映像を保存し、科学特化は「回避成功率100%」と記録し、森羅万象は「次はもう少し派手でもいいですわね♡」と笑う。


主人公だけが、状況を理解していなかった。


「……お前、俺を殺す気か?」


「何を言っているのですか。私はあなたの幸せを願っているのですよ♡」


悪意はなかった。

正確には、悪意の自覚がなかった。


彼女にとってこれは実験であり、育成であり、愛の確認だった。

イヤリングに効果がなくても問題ない。

主人公が生き延びる姿こそが、幸運上昇の証明なのだから。


---


## 第四幕 最終試験という名の落とし穴


十分に「幸運が上がった」と判断した魔導は、九人を再び集めた。


「皆様♡ 最終確認の時間ですわ」


「どうするの?」


「私たち十人で、主人公様と戦います。これに勝てれば、幸運値は完璧ですわ♡」


九人は顔を見合わせ、揃って頷いた。


「いいですね♡」


「本気で行けば、正確に測れますわね♡」


魔導は一人、主人公の前に立った。


「主人公様♡ 朗報ですわ」


「……何だ」


「これまでの試練、すべて乗り越えていらっしゃいます。ですので、最後の試験をご用意しましたわ」


「最後の試験?」


「はい♡ クリアすれば、もう災難は降りかかりません。幸運値は完成ですわ」


主人公の目に、わずかに光が戻った。


「……本当に、終わるとか?」


「ええ♡ 私を信じてくださいませ。今度こそ、あなたを楽にして差し上げますわ」


鉄骨もトラックも落石も、全部「過程」だったのだと。

最後を越えれば、楽になれるのだと。


主人公は、希望を持ってしまった。


訓練場へ向かう途中、魔導は背後の九人にだけ聞こえる声で言った。


「皆様、手加減は不要ですわ♡ 正確な測定のためですもの。それに……これまでの演出も、すべて私の魔法でしたから。本番は、本物でいきましょう♡」


「承知しましたわ♡」


主人公は、希望を持ったまま訓練場の中央に立った。


「……おい。まさか、全員で俺と戦うつもりか?」


「はい♡」


魔導は満面の笑みで答えた。


「大丈夫ですよ。あなたの幸運値は、大きく上昇しているはずですから」


試験が始まった。


次の瞬間。


主人公は地面に倒れていた。


一瞬だった。


人類最強の男が、何もできないまま瞬殺された。


---


## 第五幕 手違いではない


魔導は倒れた主人公を見て、首をかしげた。


「……あれ?」


彼女は自作のイヤリングを指先でつまんだ。


効果はない。最初からない。

災難も、自分の魔法。

最終試験も、最初から勝たせる気はなかった。


それでも彼女は、にっこりと笑った。


「なるほど♡ つまり、幸運値の確認は、私一人では不十分だったのですね」


九人が拍手する。


「素晴らしい検証でしたわ♡」


「データも十分ですわね♡」


魔導は倒れた主人公に駆け寄り、抱き起こした。


「ごめんなさい、主人公様♡ ちょっとした手違い、ではなく……方針の修正でしたわ♡」


悪びれる様子はない。


「でも、これで分かりました。単独の試練より、私たち全員で見守る方が、主人公様の成長には効果的ですわ♡」


慈愛が光を灯し、傷を消していく。


「はい♡ これで元気になりましたわね」


主人公は気絶したままだった。


効果のないイヤリング。

全部こちらの仕業の危機。

最後に渡された希望と、十人での瞬殺。


それが、魔導のヤンデレの愛だった。


彼女はすでに次を考え始めていた。


「次は『不幸を先に消化する儀式』と銘打って、もう一度やってみますわね♡ イヤリングは新作を作りますの。今度は、もっとそれっぽく光るやつを♡」


監視特化がカメラを止める。


「タイトルは『効果のない幸運具と、世界最強の回避能力』でどうでしょう♡」


「いいですわね♡」


世界最強の男は、今日も新品同様に回復され、幸福の予定表の中へ戻されていくのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。