ヤンデレ番外編2――世界最強なのにヤンデレ10人に勝てない理由――主人公回収システム
「世界最強」が絶対に勝てない理由
## プロローグ:深夜の戦力比較
営業を終えたゲイバーのカウンター。
お兄さんは冷えたグラスに酒を注ぎながら、げっそりした顔の主人公を見つめていた。
「……なあ、前々から気になってたんだがよ」
「あんだよ」
「お前って……一応、単体なら世界最強なんだろ? ルシファー倒して、ミカエル殴って、次元まで叩き割ったんだよな?」
「ああ。純粋な『武』と瞬発力なら、俺が頂点だ」
お兄さんは自分の頭をガリガリと掻いた。
「じゃあ何で毎回、あいつらに手も足も出ずに捕まってんだよ!? 10人束になろうが、世界最強なら一人ずつ殴り倒せば済む話だろ!」
主人公はグラスの氷を指先で鳴らし、深い溜め息をついた。
「お兄さん……甘いな。あの10人はな、ただ『強い奴が10人いる』んじゃない。一つの完璧な『主人公回収システム』なんだ」
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## 第一幕:単体戦力と、頂点の顔ぶれ
「まず、単体の戦力から話す」
主人公は指を折った。
「一番上が【森羅万象】だ。個人戦のレベルじゃない。重力、地形、天候、空間ごと弄る。優雅に紅茶を飲みながら、3分でキレて城ごと更地にする」
「3分は短いだろ……! でも、お前の方が速く動いて殴れば勝てるんじゃないのか?」
「武芸や瞬発力なら俺が上だ。だがあいつは『戦う場所そのものを消す』。逃げようとしたら、ティーカップ片手に空間を指で弾かれた」
> **【回想:森羅万象】**
> 『あら♡ 主人公様、どこへお出かけですの? 世界の軸を少し捻っておきましたわ。これで、どこへ走られても私の膝の上に着地なさいますのよ♡』
> 『空間を書き換えるなあああああ!!』
「……目的地ごと膝の上に変更された」
「物理法則を強制イベントに使うな!!」
「次が俺。3位が【魔導】。戦略級の魔法火力と汎用性の塊だ。波動砲も出すし、法則干渉もする。正面火力は脅威だが、突破力なら俺が五分からやや優勢だ」
「おお、じゃあ魔導には勝てるのか」
「勝『てる』。頼むと笑顔で協力もする。問題は、頼んだ瞬間に裏を取られることだ」
> **【回想:魔導】**
> 『ご安心くださいませ♡ ご指示通り、脱出魔法の陣を組みましたわ! ……あ、転送先は私のベッドの上に設定しておきましたけれど♡』
> 『裏を取るなあああああ!!』
「学習しろよお前は!!」
「あいつはな。協力自体は本気だ。ただ『主人公様の望み』の解釈権を全部持ってる。自由も、脱出も、最後は『安心して愛を受け取る環境づくり』に書き換えられる」
「善意の解釈権か……嫌な言葉だな」
「4位が【腰振り】。本気の衝撃波で国が消える。加減できると言いながら、以前は国を三つ消した」
> **【回想:腰振り】**
> 『主人公様ぁ♡ 愛のパワーを少しだけ込めて振ってみました♡』
> (※背後の山脈と隣国が消滅する音)
> 『加減って言葉を知らんのかああああ!!』
「5位が【科学】。殴り合いは弱いが、能力無効化装置と自動迎撃で戦況を壊す」
> **【回想:科学】**
> 『分析完了♡ 主人公様の生体エネルギーを99.999%打ち消すバリアを展開しました。科学の勝利ですわ♡』
> 『俺の筋肉を理不尽に無効化するな!!』
「6位が【薬学】。単体火力は中堅だが、味方を強化すると上位が跳ね上がる」
> **【回想:薬学】**
> 『ふふ♡ 確実に捕獲できるよう、皆様の腕力を2000%引き上げる特製アンプルを調合しましたわ♡』
> 『味方を怪物化させるな!!』
「7位が【格闘】。白兵の専門家で一騎当千だが、純粋な肉体言語なら俺には及ばない」
> **【回想:格闘】**
> 『ハァッ! 主人公様! 武を極めた者同士、拳と拳で語り合いましょうぞ!!』
> 『熱血顔で距離を詰めるんじゃねえ!!』
「ふむふむ。ここまではパワー系と技術系だな」
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## 第二幕:条件付きの番狂わせと、支援帯
主人公はお兄さんをじっと見た。
「で、8位が……条件付きだが、**お前**だ」
お兄さんは注ぎかけのボトルを止め、目を丸くした。
「ハァ!? 俺!? なんで一般人の俺が8位なんだよ!」
「忘れたのか。三国志編で、お前は俺を1秒で倒した」
「あれは薬学と魔導と慈愛のフルドーピングだろ!! 俺の素の力じゃねえ! 殺す気か!!」
「だから『条件付き』だ。素のお兄さんは10位。農作業と『我儘の極意』で常人は遥かに超えるが、ヤンデレ個人には勝てない」
「当たり前だろ! 俺は安酒出したいだけの一般人だ!」
「9位は【拷問・具現化】。鎖や兵器を現場で作る戦場制御向きだ。俺に一瞬で鎖を砕かれて、感動の涙を流してた」
> **【回想:拷問・具現化】**
> 『ご覧ください! 私の最高傑作、超強度合金の鎖です!』
> (バキィン!!)
> 『……素晴らしい……! 次はさらに10倍硬い鎖を具現化しますね♡』
> 『反省して次回作を作ろうとするな!!』
「11位以下が支援帯だ」
「11位以下? 慈愛とか監視とかか?」
「11位が【慈愛】。戦闘力はほぼゼロ。だが、あいつがいるせいで戦闘が終わらない」
> **【回想:慈愛】**
> 『まあ、ボロボロ……♡ かわいそうに……痛いの飛んでいけ♡(完全全快)』
> 『回復させてどこへ送る気だ!?』
> 『もちろん、次の地獄ですわ♡』
> 『優しさの皮を被った再開ボタンかよ!!』
「12位が【監視】と【潜入】。索敵と先回り。直接戦闘は想定外だ」
> **【回想:監視・潜入】**
> 潜入『脱出ルート、予測済みですわ♡』
> 監視『4Kで保存&全世界へ配信中です♡』
> 『チームワークで俺の尊厳を破壊するな!!』
「で、一番下は?」
「13位、【嫉妬】だ。応援特化で直接火力はゼロ。だが、あいつの真価はそこじゃない」
主人公の目が沈んだ。
「あいつの仕事は、『10人が揉めないように調整すること』だ」
> **【回想:嫉妬】**
> 『皆様♡ 順番で喧嘩しては主人公様が困りますわ! 私は最後で構いませんので、皆様どうぞ全力で♡』
> 『内紛を仲裁するな!! 少しはドロドロに揉めろ!!』
「一番マシに見えて、組織の要じゃねえか!!」
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## 第三幕:10人連携=完全な「回収機関」
お兄さんはカウンターに両手をついた。
「待て。単体なら、お前は上位以外には勝てるだろ? 格闘も拷問も科学も、腕力で突破できるんじゃないのか?」
主人公は首を横に振った。
「言ったろ。『個人戦力の和』より『10人連携』の方が上なんだ。俺一人なら、上位1〜2人は相手取れる。だが中核4人――森羅万象、魔導、科学、慈愛が揃った時点で詰み。10人フル連携だと、もう『戦闘』じゃなくて『回収任務』だ」
「回収任務……」
「負ける理由は火力不足じゃない。『戦う条件そのもの』を奪われる」
主人公は指を折った。
「力で押し切る。
→ 拷問の檻、森羅万象の地形、格闘と腰振りの力押し。与えた傷は慈愛が後ろから消す。
瞬間移動で逃げる。
→ 潜入が先回り、監視が位置特定、森羅万象が空間を閉じる。
新能力を出す。
→ 魔導が解析し、科学が無効化装置を起動して『対策完了です♡』と笑う。
長期戦に持ち込む。
→ 薬学が慈愛にドリンクを渡し、相手側の疲労がリセットされる」
> **【回想:10人フル連携】**
> 監視『バイタル低下検知! 潜入、B3ルート遮断!』
> 潜入『粘着ネット設置完了ですわ♡』
> 科学『能力無効化フィールド展開!』
> 拷問『拘束ベッド設置!』
> 慈愛『傷を直して、また元気に捕まえられるように♡』
> 『連携が完璧すぎて一隙もねえええええ!!』
お兄さんは青ざめた。
「……勝てる要素がどこにもねえ」
「そうだ。開戦前に先回りされ、能力を無効化され、力押しで詰められ、ダメージを与えてもリセットされ、最後は記録されて次回の対策資料に回される」
「逃げられねえ、倒せねえ、引き分けもねえ、経験値だけ吸われる……なにその無理ゲー!?」
「だから言ったろ。あいつらは『世界最強を殺す部隊』じゃない。『世界最強を逃がさず、折らず、新品に磨き直して回収し続ける機関』なんだ」
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## エピローグ:逃げ場なき英雄
お兄さんはグラスを一気に煽り、カウンターに叩きつけた。
「やってられねえええええ!! なんだその完璧すぎるシステム!!」
「弱点がないわけじゃない」
「あるのか!?」
「『全員が俺への愛に全力すぎて、合理的な撤退をしない』ことだ」
「それ、ただ執拗に追撃してくるだけじゃねえか!! 弱点になってねえよ!!」
お兄さんは頭を抱えて突っ伏した。
「……ダメだ。お前が勝てる未来が1ミリも見えねえ。俺が身体交換を断ったのは英断だった。あんな回収システムに巻き込まれたら、0.1秒で精神が砕ける」
「だから頼んだんだがな。お前ならワンチャン、隙を突けるんじゃないかって」
「突けるかバカ野郎!! 監視と潜入が電柱の上から4Kで待ってるわ!!」
二人の間に、重い沈黙が落ちた。
店の外では、夜が明けていく。
世界は今日も平和だった。10人のプロフェッショナルが、分業で国家と世界を支えているおかげで。
そしてその超絶スペックのすべてを「たった一人の回収」に注がれる英雄だけが、ピカピカに回復された身体のまま、どこにも逃げられないカウンターの端に座っていた。
「……なあ、お兄さん」
「あんだよ。身体交換は絶対嫌だぞ」
「……塩おにぎり、握ってくれ」
「……へいへい。今作ってやるよ」
お兄さんが握った温かい塩おにぎりだけが、世界最強の男にとって、唯一の救いだった。




