ヤンデレ番外編――必殺国防装置として働く愛を業務にするプロ集団
### 【番外編】「あいつら、一応国家どころか人類支えてるんだよな」
カウンターに突っ伏したまま動かない主人公に、お兄さんは冷えたグラスをコトンと置いた。
「……なあ、お前」
「あんだよ」
「前から思ってたんだけどよ。あいつら……あの10人って、普通に仕事してんの?」
主人公は重い瞼をゆっくり開け、力なく息を吐いた。
「仕事?……ああ、してるぞ。一応な」
「してるのかよ!!」
お兄さんは思わず叫んだ。
「あんな24時間態勢でお前を監視して、配信して、拘束具作って、回復薬ドーピングしてる狂人どもが、いつ働いてんだよ!?」
主人公はグラスの氷を指先でつつきながら、遠い目をした。
「……昼間は普通に国家の基幹事業を担当してる。あいつらが手を出さないと、この国の経済と安全保障が1秒で崩壊するからな」
お兄さんは口をぐぐっと引き結び、額を押さえた。
「……ちょっと待て。詳しく教えろ」
---
#### 1. 国防と情報の最前線
「まず【監視・情報】だ。国家最高機密のサイバー防衛と情報解析のトップだ。国家級の攻撃を指一本で無効化しながら、裏で俺の心拍数と逃走経路をライブ配信してる」
「国家の盾になりながら何配信してんだよ!!」
「しかもあいつ、俺の絶叫を『素晴らしい記録ですわ♡』って保存してる。苦しみをコンテンツにするのが好きなんだ。ドSの中でも、記録して楽しむタイプだ」
「最悪の趣味だな……」
「【潜入】は各国の諜報機関が泣いて頼み込む防諜のエースだ。某国のスパイ網を単身で潰して帰ってきた足で、屋敷の通気口に先回りして俺を捕まえてた」
「スケールの無駄遣いが過ぎるだろ!!」
「『安全対策ですわ♡』って言いながら逃げ道を全部塞ぐ。論理で追い詰めるタイプで、本人は善意のつもりなのが怖い」
---
#### 2. エネルギー・科学・兵器の基盤
「【魔導】と【科学】は共同で、国家級のクリーンエネルギーと宇宙開発を仕切ってる。指を振るだけで電力自給率100%。ただし余剰エネルギーの9割が、俺の部屋の重力調整と逃避行の遮断に消えてる」
「国民の電力を何に使ってんだ!!」
主人公は、そこで一度言葉を切った。
「……魔導はな」
「あんだよ」
「あいつが一番たちが悪い」
お兄さんは身を乗り出した。
「ドS度で一番、って前にも言ってたよな」
「ああ。でも、ただ残酷なだけじゃない。あいつは、俺に希望を持たせるのが上手い」
主人公はグラスを回した。
「『わかりましたわ♡』『お任せください♡』『主人公様のためですわ♡』。頼むと、いつも笑顔で引き受ける。実際、道具も作る。魔法も使う。計画も通る」
「なら、いいじゃねえか」
「そこからだ。通ったあとに、必ず裏を取る」
「は?」
「身体交換を頼んだら、交換はしてくれる。でも能力は魂側に残るから、俺の身体に入ったあいつが魔法を使って、俺を追い詰める。科学に頼むルートも、魔導が先に話を通してる。二重スパイみたいに、俺の作戦を九人に報告してたこともある」
お兄さんの顔が引きつった。
「……最初から、味方のふりか」
「ふり、とも違う。あいつは本気で協力してるつもりなんだ。俺の望みが『自由』でも、解釈を『主人公様が安心して愛を受け取れる環境づくり』に置き換える。本人の中では矛盾してない」
「最悪だな」
「強制恋愛ノートのときもそうだ。俺が反撃の道具を見つけたと思ったノートは、ただのノートだった。本物の魔法のノートは、あいつの懐にあった。俺の計画を全部把握したうえで、都合のいいように『成功させて』くれた」
「成功させて、だと?」
「ああ。俺が書いた結末を、あいつの都合に書き換えて実現した。俺は勝ったつもりで、実は最初から掌の上だった」
主人公は小さく笑った。笑っていない目で。
「『主人公様が一生懸命考えてくださった計画ですもの。わたくしたち、みんなで協力して実現して差し上げましたの♡』だそうだ」
「余計なお世話の極みだろ……」
「しかも、裏切ったあとも悪びれない。むしろ『喜んでくださったかしら♡』って顔をする。怒ると『照れていらっしゃいますわね♡』で終わる。抗議も拒否も、全部愛の確認に変換される」
「会話が成立してねえ」
「国家事業でも同じだ。永久機関の調整も、宇宙開発の魔法支援も、全部そつなくやる。有能なんだよ、本当に。だから頼ってしまう。で、頼った瞬間に詰む」
お兄さんは深いため息をついた。
「……つまり、一番信用できそうに見えて、一番信用ならねえのが魔導か」
「そういうことだ。希望をくれて、通路を開いて、出口で笑う。腹黒さってより、善意の解釈権を全部持ってる感じだ」
「善意の解釈権……嫌な言葉だな」
「科学は俺を実験台として見る。成功率99.999%とか言いながら、残りの0.001%を誠実に残す。冷静に数値化してくるのがまた嫌なんだ」
「研究者の顔して何やってんだ……」
「【拷問・具現化】は国防の次世代兵器と新素材のチーフだ。国家予算級の耐熱・耐圧素材で叙勲されてる。本人は『あの素材も主人公様の拳には耐えられませんでした……♡』って涙ぐんでた」
「勲章返上しろ!!」
「壊されると喜んで、次はもっと頑丈なのを作る。失敗を成功だと思い込むタイプだ」
---
#### 3. 医療と「回復」の奇跡
「【薬学】はWHOが激震する難病特効薬を量産して、ノーベル賞を辞退してる。理由は『論文を書く時間があるなら、慈愛の疲労を消すドリンクの調合に使いたいから』だそうだ」
「世界を救うより狂気の永久機関を優先すんな!!」
「実験が好きなんだ。俺に何を飲ませても『データが取れますわ♡』って顔をする」
「で、【慈愛】は国際医療レスキューの最高顧問だ。年間数千人を完治させてるゴッドハンド。一番魔力を使ってるのは、毎日ボロボロの俺を新品にする作業だ」
「命の重さのバランスが狂いすぎてんだよ!!」
「『かわいそう♡』って言いながら完全回復させて、すぐ次の地獄に送る。優しさの皮を被ったドSだ。回復が休息じゃなくて、再開ボタンなんだよ」
お兄さんは黙って酒を煽った。
---
#### 4. 頂点と、力押しと、応援
「【森羅万象】は……まあ、頂点だ。自然災害の制御から国土の安定まで、気に入らない地形は作り替える。優雅に紅茶を飲みながら、3分でキレて城ごと飛ばす」
「3分は短いだろ!!」
「余裕ぶって極端なことをする。支配欲が強くて、俺を自分の都合に合わせようとする」
「【格闘】と【腰振り】は、軍事訓練と特殊戦力の現場だ。格闘は熱血でわかりやすい。腰振りは本気を出すと国が消える。加減はできると言いながら、以前は国を三つ消した」
「加減できてねえだろ!!」
「で、【嫉妬】は……意外とまともに見える。名前に反して嫉妬せず、みんなを応援してる。危険度は一番低い。ただし、応援の方向がいつもズレてる」
「一番マシ、ってのがもう終わりだな」
---
お兄さんは開いた口が塞がらないまま、呆然と固まっていた。
「……じゃあ何か? あのヤンデレ集団って……この国のインフラ、医療、科学、防衛、経済を裏から支えてる……『国家の重鎮にして人類の救世主』ってことか……?」
「まあ、表向きはな」
主人公は乾いた声で呟いた。
「国家も世界も、あいつらのおかげで平和そのものだ。超絶スペックと労働力が余った結果、唯一の『趣味』として俺一人が集中的に詰まされてるだけだ」
「スケールが狂いすぎてて頭痛くなってきたわ!!」
お兄さんは頭を抱えて絶叫した。
「じゃあ何か!? 俺がお前を庇ったり、身体交換で助けたりしたら、俺は『国家の超重要インフラの稼働を妨害したテロリスト』として消されるのか!?」
「たぶん、お前のゲイバーごと【森羅万象】に更地にされるな」
「理不尽すぎるだろおおおおお!!」
主人公はグラスの底を見つめた。
「あいつらはな。個人で狂ってるんじゃない。分業して、記録して、改善して、次の計画を立てる。愛を業務にしてるプロだ」
「プロって言葉を返せよ……」
「中でも魔導は、そのプロの窓口だ。俺が誰かに頼るとき、だいたい最初に顔を出す。で、話が通ったと思った瞬間に、盤面が入れ替わってる」
「……お前、あいつを一番憎んでるのか?」
主人公は少し考えてから、首を横に振った。
「憎んでる、だけでもない。一番頼ってしまう相手だ。だから一番危ない」
カウンターの上で、冷えた酒が静かに揺れていた。
世界の平和と人類の進歩は、今日もヤンデレたちの「余力」によって完璧に保たれていた。
そしてその莫大な愛と技術のすべてを、たった一人で全身に受け止める英雄だけが、今夜も逃げ場のないグラスの底を見つめていたのだった。




