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ヤンデレ・トレーナーズカップ

第一章 王国主催、地獄の育成レース


ある日、王国で一つの大規模な競走大会が開催されることになった。


優勝者には栄誉が与えられる。そして、優勝者を育成したブリーダーには莫大な賞金が支払われるという。


その知らせを聞いた十人のヤンデレたちは、同時に目を輝かせた。


「主人公様を、世界一のウマ娘に育て上げますわ♡」


「ええ♡ 主人公様なら、必ず優勝できますもの♡」


「わたくしたち十人が力を合わせれば、負けるはずがありませんわ♡」


彼女たちは主人公を愛していた。


愛しているからこそ、主人公を最高の存在にしたかった。


たとえ、その過程で主人公がどれほど苦しもうとも。


たとえ、世界がどれほど混乱しようとも。


彼女たちにとって、それは些細な問題だった。


こうして、王国主催の競走大会に向けた地獄の育成計画が始まった。


## 第二章 ライバルたち


大会には、主人公以外にも個性豊かな競争相手が集まった。


まずは勇者。


かつて主人公を見下していた彼は、今回の大会で自分の実力を証明しようと意気込んでいた。主人公とはこれまで戦ったことがないが、競走で勝つつもりだった。


次に、羨望の青年。


彼は、十人ものヤンデレに愛される主人公の人生を羨んでいた。以前、主人公の代役を務めたこともあるが、今回こそ自分の力で勝利を手にしようとしていた。


恋愛の達人も参加した。


十人のヤンデレを相手にしても、自分ならうまく立ち回れると考えていた男である。しかし、彼女たちの試練を突破できなかった過去がある。


正義漢もいた。


主人公はヤンデレたちに洗脳されているのではないかと疑い、彼を救い出そうとした男だ。今回の大会でも、自分の正義を証明するつもりだった。


ゲイバーのお兄さんも参加した。


彼は主人公の理解者であり、平穏な生活を望む人物だった。主人公を心配してはいたが、まさか自分まで地獄の大会に巻き込まれるとは思っていなかった。


そして、国王。


王国の威信を守るため、みずから大会への参加を決めた。


こうして、主人公を含む七人の参加者が集まった。


彼らを待ち受けているのは、栄光のレースなのか。


それとも、誰も予想できない地獄なのか。


答えを知っているのは、十人のヤンデレだけだった。


## 第三章 十人のブリーダー


主人公たちの育成を担当するのは、十人のヤンデレである。


魔導に特化した者。


薬学に特化した者。


監視と情報収集に特化した者。


慈愛に満ちた者。


拷問と具現化を得意とする男。


格闘に特化した男。


腰振りのスペシャリストである男。


性技のスペシャリスト。


羨望に特化した者。


そして、森羅万象を操る者。


彼女たちは、それぞれ異なる能力を持っていた。


しかし、育成方針だけは完全に一致していた。


全員に、まったく同じトレーニングを課す。


速さ、スタミナ、パワー、根性、賢さ。


競走に必要な五つの能力を数値化し、毎日の成長を記録する。


さらに、疲労、体調、やる気まで管理する。


食事、睡眠、休息、体調不良や負傷への対応も、すべて統一する。


才能があろうとなかろうと関係ない。


身分が高かろうと低かろうと関係ない。


誰かが優秀だからといって、特別なメニューを与えることもない。


全員が同じ条件で鍛えられる。


それこそが、公平な育成というものだった。


「わたくしたち、平等ですものね♡」


十人のヤンデレは満足げに頷いた。


なお、主人公の賢さがGであることについて、森羅万象のヤンデレはまったく問題視していなかった。


「主人公様は、わたくしたちの言うことを聞いてくださればよろしいのですわ♡」


その言葉を聞いた主人公は、何かがおかしいと感じた。


しかし、何がおかしいのかを考えるだけの賢さはなかった。


## 第四章 最初のトレーニング


育成初日。


主人公たちは、まず基礎的なランニングから始めた。


その後、スタミナ、パワー、根性、賢さを鍛えるメニューが次々と課された。


走る。


鍛える。


走る。


また鍛える。


休む間もなく、トレーニングは続いていった。


主人公は、もともと世界最強の肉体を誇っていた。


速さもパワーも、根性も優れている。


しかし、ウマ娘としての競走に適応するための訓練は、彼が想像していた以上に過酷だった。


「おい! ちょっと待て! このメニュー、どう考えても多すぎるだろ!」


主人公が抗議すると、ヤンデレたちは首を傾げた。


「あら? 皆様、同じメニューですわよ♡」


「そういう問題じゃねえ!」


「主人公様ならできますわ♡ わたくしたち、信じておりますもの♡」


信頼と愛情に満ちた笑顔。


その笑顔の前では、主人公の抗議など何の意味もなかった。


勇者も、正義漢も、羨望の青年も、恋愛の達人も、国王も、ゲイバーのお兄さんも、同じメニューをこなしていた。


誰もが自分の限界を感じ始めていた。


それでも、まだ初日だった。


## 第五章 コンディションという名の壁


二日目。


トレーニングは昨日と同じだった。


メニューも、回数も、負荷も変わらない。


しかし、参加者たちの体には疲労が蓄積していた。


筋肉痛。


重い脚。


乱れる呼吸。


思うように動かない体。


昨日なら何でもなかった動作が、今日は苦痛に変わっている。


それでも、ヤンデレたちは記録を確認しながら、淡々と指示を出した。


「皆様、昨日と同じメニューですわ♡」


「体調管理も重要ですわよ♡」


「無理をしてはいけませんけれど、決められたトレーニングはきちんとこなしてくださいませ♡」


参加者たちは困惑した。


無理をしてはいけない。


しかし、トレーニングは減らない。


休息は管理されている。


食事も睡眠も統一されている。


それなのに、疲労は確実に積み重なっていく。


主人公は空を見上げた。


「……これ、何日続くんだ?」


誰も答えなかった。


いや、答えを知っている者はいた。


十人のヤンデレである。


彼女たちは、主人公が世界一のウマ娘になる日まで、鍛え続けるつもりだった。


## 第六章 最初の脱落者


三日目。


ゲイバーのお兄さんは、ある重大な事実に気づいた。


この大会で賞金を受け取るのは、優勝した競走者ではない。


優勝者を育成したブリーダーである。


つまり、誰が優勝しようとも、賞金を受け取るのはその育成担当者なのだ。


主人公が優勝すれば、十人のヤンデレが賞金を手にする。


勇者が優勝しても、その育成担当者が賞金を手にする。


競走者たちがどれほど苦労しても、賞金の行き先は別なのである。


ゲイバーのお兄さんは、ゆっくりと地面を見つめた。


「……俺、何のために走ってるんだ?」


これまでのトレーニング。


蓄積する疲労。


容赦のないメニュー。


そして、この先に待つであろう地獄。


それらを乗り越えても、賞金が自分に入るわけではない。


彼は静かに腰を下ろした。


そして、競走路の土をこね始めた。


「俺はもういいや……。ここで土でもいじってるよ……」


監視・情報特化のヤンデレは、その様子を見て頷いた。


「なるほど。賢さSSですわね♡ 賞金の仕組みを理解して、走る意味がないと判断したのですわ♡」


こうして、ゲイバーのお兄さんは自ら大会を辞退した。


お兄さんは、レースに出る意味がないと悟り、地面で遊ぶのをやめた。


「さて、帰って店を開けるか。今日は忙しくなりそうだしね」


お兄さんは立ち上がり、会場をあとにしようとした。


そのときだった。


「待ちな♡」


背後から、妙に艶のある男の声が響いた。


振り返ると、そこには腰振りのスペシャリストである男のヤンデレが立っていた。


「せっかくここまで来たのに、帰っちまうのか?」


「いや、俺はもう棄権したからね。そもそも優勝しても俺には何の得もないし」


「なるほど♡ 合理的な判断だな♡」


「わかってくれて助かるよ。それじゃあ――」


「だが、お前をそのまま帰すのはもったいないな♡」


男のヤンデレは、ゆっくりと腰を落とした。


次の瞬間。


ドゴォォォォォンッ!!


凄まじい腰振りによって、衝撃波が発生した。


「えっ?」


お兄さんの身体は衝撃波に飲み込まれ、そのまま会場の彼方へと吹き飛ばされた。


「ぎゃああああああああああああああっ!!」


数秒後。


男のヤンデレは、気絶したお兄さんを軽々と抱き上げた。


「ふふふ♡ これでお持ち帰りだな♡」


そして、そのまま満足げに会場をあとにした。


監視・情報特化のヤンデレは、当然のようにその一部始終を全世界に配信していた。


潜入特化のヤンデレが、楽しそうに実況する。


「おおっと! 棄権して帰ろうとしたゲイバーのお兄さん、まさかの場外撃破です!」


嫉妬のヤンデレも、笑顔で続けた。


「腰振りのスペシャリスト、見事なお持ち帰りですね♡」


画面には、視聴者数が凄まじい勢いで増加していく様子が映し出されていた。


こうして、お兄さんは平穏な日常へ帰ることに失敗した。


なお、本人の意思は一切確認されていない。


最初の脱落者が決まった。


しかし、地獄はまだ始まったばかりだった。


## 第七章 パドック・デスゲーム


そして、ついにレース当日がやってきた。


参加者たちはパドックに集まり、最後の準備を進めていた。


国王は威厳を保とうとしていた。


勇者は剣を携え、気合を入れている。


正義漢は覚悟を決め、羨望の青年は主人公を睨んでいた。


恋愛の達人は、周囲の状況を冷静に分析している。


そして主人公は、これから何が起きるのか分からないまま、嫌な予感を抱いていた。


そのときだった。


魔導のヤンデレが、会場の中央に巨大な魔法陣を展開した。


「皆様、レース前の準備運動ですわ♡」


その様子を、上空に浮かぶ複数の魔法映像装置が捉えていた。


監視特化のヤンデレだった。


「皆様、お待たせいたしましたわ♡ 本日は育成レースの模様を全世界に生配信いたしますわ♡」


画面の隅には、視聴者数が表示されている。


数字は猛烈な勢いで増えていた。


実況席では、潜入特化のヤンデレと嫉妬のヤンデレが並んでいた。


「さあ、いよいよレース当日ですわ♡ 参加者の皆様も気合十分ですわね♡」


潜入特化のヤンデレが、会場を見渡しながら実況する。


嫉妬のヤンデレも笑顔で頷いた。


「ええ♡ 主人公様がどのような走りを見せてくださるのか、楽しみですわ♡」


そのとき、魔導のヤンデレが波動砲を放った。


国王が空高く吹き飛ばされ、彼方で小さな星になった。


実況席の二人は、一瞬だけ沈黙した。


そして、潜入特化のヤンデレが口を開いた。


「おおっと! レース開始前に、国王様がまさかの脱落ですわ♡」


嫉妬のヤンデレが、冷静に続けた。


「これは波乱の幕開けですわね♡ まだスタートすらしていませんのに♡」


監視特化のヤンデレが、画面の数字を確認した。


「国王様の脱落シーンが大好評ですわ♡ 視聴者数がさらに増加しておりますわ♡」


主人公は三人を見上げた。


「お前ら、今のを実況するなあああああ!!」


潜入特化のヤンデレは、にこやかに返した。


「ですが、主人公様♡ これもレースの記録ですわ♡」


「レースですらねえだろおおおおお!!」


監視特化のヤンデレは、満足そうに微笑んだ。


「主人公様の素晴らしいツッコミも、全世界にお届けしておりますわ♡」


主人公は頭を抱えた。


レースが始まる前から、すでに逃げ場はなかった。


「国王様、脱落ですわ♡」


魔導のヤンデレは、にこやかに告げた。


主人公は震えた。


「……準備運動って、何だよ……」


レースはまだ始まっていない。


それなのに、すでに国王が消えた。


主人公は、この大会が普通の競走ではないことを改めて理解した。


もっとも、理解したところで何も変わらなかった。


## 第八章 ファンファーレは世界の終わり


レース開始の時間が迫っていた。


ファンファーレを担当するのは、森羅万象のヤンデレだった。


彼女は胸を張って宣言した。


「それでは皆様! 自然の奏でる壮大なファンファーレをお聞きくださいませ♡」


主人公は嫌な予感を覚えた。


「待て。その言い方、絶対に何かおかしいだろ!」


森羅万象のヤンデレが両手を広げた。


空が暗くなった。


次の瞬間、巨大な雹が降り始めた。


それは普通の雹ではなかった。


一つ一つが人間を吹き飛ばしかねないほど巨大だった。


「なんだこれはああああああ!」


正義漢は、正義を叫ぶ間もなく巨大な雹の直撃を受け、脱落した。


羨望の青年は必死に逃げようとしたが、今度は空から雷が落ちた。


「どうして俺ばかりこんな目に――!」


落雷。


羨望の青年も脱落した。


恋愛の達人は、降り注ぐ雹と雷の動きを冷静に分析しようとした。


「待て……雷の発生には何らかの規則性が……!」


彼は雷の落下パターンを読み切ろうとした。


しかし、次の瞬間。


雷が彼を直撃した。


「分析が……間に合わなかった……!」


恋愛の達人も脱落した。


会場は混乱に包まれた。


国王はすでに星になっている。


正義漢、羨望の青年、恋愛の達人も脱落した。


残っている競走者は、主人公と勇者だけだった。


実況席では、潜入特化のヤンデレが興奮した声を上げた。


「次々と競走者が脱落しておりますわ♡ これは予想外の展開ですわね♡」


嫉妬のヤンデレは、手元の資料を確認した。


「事前の想定を大幅に超える脱落率ですわ♡ スタート前に、ここまで人数が減るとは思いませんでしたわね♡」


「しかも、原因はすべてファンファーレですわ♡」


「本来なら、レース開始を盛り上げるための演出ですものね♡」


二人は顔を見合わせ、楽しそうに笑った。


監視特化のヤンデレが、配信画面を確認した。


「皆様、ご安心くださいませ♡ 映像はすべて記録しておりますわ♡」


「安心できる要素がどこにあるんだよおおおおお!!」


主人公の叫びが響いた。


潜入特化のヤンデレは、すかさず実況を続けた。


「おおっと! 主人公様、開始前から精神的なダメージを受けておりますわ♡」


嫉妬のヤンデレも頷く。


「しかし、まだ勇者様が残っておりますわ♡ ここからの巻き返しに期待ですわね♡」


そして二人は、ようやくスタート地点にたどり着いた。


その瞬間。


足元が崩れた。


「うわあああああああああ!」


スタート地点には、巨大な落とし穴が仕掛けられていたのだ。


主人公と勇者は、そろって穴の底へ落下した。


幸い、二人とも生きていた。


だが、レース開始前からすでに満身創痍だった。


## 第九章 追加ルール、地獄の追跡レース


主人公と勇者は、何とか落とし穴から這い上がった。


二人はスタートゲートの前に立ち、ようやくレースが始まるのを待った。


そのとき、場内アナウンスが響いた。


「ここで、追加ルールを発表いたしますわ♡」


主人公は顔を引きつらせた。


「……追加ルール?」


科学担当のヤンデレが、嬉しそうに説明を始めた。


「今回のレースでは、競走開始から三秒後に、二十体のAIロボットが投入されますわ♡」


「二十体?」


「はい♡ 自動小銃を搭載した追跡型ですわ♡」


「自動小銃!?」


「ロボットたちは、ゴールするまで皆様を追いかけ続けますわ♡」


主人公は勇者を見た。


勇者も主人公を見ていた。


二人とも、何も言えなかった。


さらに科学担当のヤンデレは続けた。


「なお、コース全体には、すでに痺れ薬と脱力薬を散布してありますわ♡」


「は?」


主人公は自分の能力値を思い出した。


速さはS。


スタミナはA。


パワーはS。


根性はS+。


そして、賢さはG。


「……詰んでないか、これ?」


勇者も顔を引きつらせた。


「……俺たち、競走をするんだよな?」


「そうですわ♡」


ヤンデレたちは満面の笑みで頷いた。


そして、スタートの合図が鳴った。


主人公と勇者は一斉に走り出した。


三秒後。


二十体のAIロボットが投入された。


センサーが二人を捕捉し、自動小銃を構えながら追跡を開始する。


コースには薬剤の白い霧が立ち込めていた。


主人公は叫んだ。


「これのどこが競走なんだああああああああ!!」


勇者も叫んだ。


「知らん! だが、捕まったら終わりだああああああああ!!」


しかし、二人はすぐには逃げなかった。


彼らはスタート地点から少し進んだところで立ち止まり、追ってくるロボットたちを見据えた。


勇者が剣を抜いた。


「……このままでは、まともに走ることすらできない」


主人公も拳を握った。


「だったら、先にあいつらをぶっ壊す」


二人は顔を見合わせた。


これまで二人は戦ったことがない。


主人公は勇者を敵視していたわけではないし、勇者も主人公と決着をつけたことはなかった。


ただ、今回は同じ競走者だった。


そして今、二人の目的は一致していた。


「ロボットを全滅させる。そうすれば、少なくとも普通に走れるはずだ」


「……ああ。やるぞ、勇者!」


二人は共闘を決意した。


ヤンデレたちは、その様子を眺めていた。


「なるほど♡ 追加のロボットを投入すれば、いつまでもレースが始まりませんものね♡」


「今いる二十体だけで十分ですわ♡ これ以上は投入しませんわ♡」


こうして、主人公と勇者は二十体のAIロボットに立ち向かうことになった。


## 第十章 まさかの共闘、二人の反逆


二十体のAIロボットが、二人を取り囲んだ。


銃口が一斉に向けられる。


主人公は地面を蹴った。


「うおおおおおおおお!」


圧倒的なパワーで、一体目のロボットを殴り飛ばす。


勇者は剣を振るい、別のロボットを斬り伏せた。


銃撃が飛び交う。


爆発が起こる。


二人は互いに背中を預けながら、次々とロボットを破壊していった。


主人公の身体能力と、勇者の剣技。


それぞれの強みがかみ合い、ロボットの数が減っていく。


「右だ!」


「任せろ!」


主人公が敵を吹き飛ばし、勇者がとどめを刺す。


勇者が攻撃を受けそうになれば、主人公が割って入る。


二人は一度も戦ったことがなかった。


それでも、今は互いの力を信じていた。


そして――。


最後の一体が、地面に崩れ落ちた。


二十体のAIロボットは、すべて破壊された。


「……終わった、のか?」


主人公が息を吐いた。


勇者は剣を地面に突き立て、膝をついた。


「……ああ。これで、ようやく……」


しかし、彼の体は限界だった。


連日の過酷なトレーニング。


パドックでの混乱。


落とし穴からの脱出。


そして、二十体のAIロボットとの戦闘。


勇者は力尽き、その場に倒れ込んだ。


「おい、勇者!」


主人公が駆け寄る。


勇者は、かすかに笑った。


「……すまない。俺は……ここまでだ」


「何言ってんだ! まだレースが――」


「……お前は、走れ」


勇者はそれだけ言うと、目を閉じた。


戦闘で力を使い果たした勇者は、競走を続けられなくなった。


主人公は拳を握りしめた。


二人でロボットを倒し、これからようやく本当の競走が始まるはずだった。


しかし、勇者は走れなくなった。


主人公は一人、スタート地点を見つめた。


## 第十一章 主人公様への配慮、そして新たなる走者たち


主人公は、荒れ果てたコースを見つめていた。


ロボットは全滅した。


勇者は倒れた。


ほかの競走者たちも、すでに脱落している。


「……俺、一人で走るのか?」


その言葉を聞いたヤンデレたちは、深刻な表情になった。


「まあ……主人公様がお一人で走ることになりますわね……」


「それでは、少し寂しいかもしれませんわ♡」


「せっかくの競走ですもの。競い合う相手がいないと、張り合いがありませんわね♡」


主人公は嫌な予感を覚えた。


「おい。何を考えてる?」


魔導のヤンデレが、にっこりと笑った。


「主人公様に寂しい思いをさせるわけにはいきませんわ♡」


森羅万象のヤンデレも頷いた。


「そうですわ♡ ここは、わたくしたちが新しい走者を用意して差し上げましょう♡」


「新しい走者?」


魔導のヤンデレが手を掲げた。


魔法陣が展開され、三体の魔物が召喚された。


さらに、科学担当のヤンデレが操作を始める。


地面が震え、二機の古代兵器が姿を現した。


主人公は絶句した。


「……魔物が三体。古代兵器が二機……?」


「はい♡ 主人公様を一人で走らせるわけにはいきませんもの♡」


こうして、新たな競走者が用意された。


主人公。


三体の魔物。


二機の古代兵器。


合計六人分の走者が、スタート地点に集まった。


もちろん、勇者は含まれていない。


彼は戦闘で力尽き、すでに競走を続けられない状態だった。


「さあ、主人公様♡ これで寂しくありませんわね♡」


主人公は、魔物と古代兵器を交互に見た。


「……これ、本当に競走なんだよな?」


ヤンデレたちは笑顔で頷いた。


「もちろんですわ♡」


実況席では、潜入特化のヤンデレが数を数えていた。


「主人公様に加えて、魔物が三体、古代兵器が二機ですわ♡」


嫉妬のヤンデレが、楽しそうに補足する。


「これで走者は合計六人分ですわね♡ 競走としての公平性はともかく、賑やかになりましたわ♡」


「公平性という言葉を知っているなら、少しは考えろおおおおお!!」


監視特化のヤンデレは、配信画面に新しいテロップを表示した。


『主人公様、孤独を解消♡』


「孤独の解消方法がおかしいだろおおおおお!!」


潜入特化のヤンデレは、魔物たちを見つめた。


「魔物の皆様も、やる気十分ですわね♡」


嫉妬のヤンデレが頷く。


「古代兵器も準備万端ですわ♡ 主人公様、素晴らしい競争相手に恵まれましたわね♡」


主人公は空を見上げた。


「俺は普通の競走相手が欲しかったんだよ……」


主人公は空を見上げた。


もう、何も考えたくなかった。


## 第十二章 肺活量SSS、まさかの失格判定?


主人公は、再び走り始めた。


三体の魔物と二機の古代兵器も、彼と並んでコースを進んでいく。


だが、コースには依然として痺れ薬と脱力薬が残っていた。


主人公は白い霧を見つめた。


「……待てよ」


もし、この薬剤を吸い込んだらどうなるのか。


痺れ薬で体が動かなくなる。


脱力薬で力が入らなくなる。


そんな状態で競走を続けられるはずがない。


主人公は、自分の能力を思い出した。


速さS。


スタミナA。


パワーS。


根性S+。


賢さG。


そして――肺活量SSS。


「……そうか!」


主人公は大きく息を吸い込んだ。


「うおおおおおおおおおおおおお!!」


全力で息を吐き出した。


凄まじい風圧がコースを駆け抜ける。


白い霧が吹き飛ばされ、薬剤はコースの外へと押し流されていった。


視界が晴れた。


主人公は、ようやく普通に走れる状態になった。


「よし! これで薬剤の心配はない!」


しかし、観察していたヤンデレたちは、そろって考え込んだ。


「……これは、どう判断するべきでしょうか?」


「コースに散布した薬剤を吹き飛ばすなんて、想定していませんでしたわね♡」


「競走条件を変更したことになりますわ♡」


主人公は目を見開いた。


「は? いや、薬を吸ったら走れないだろ!」


「ですが、薬剤は競走の条件として設定されていましたわ♡」


「だからって、吸い込んだら終わりじゃねえか!」


ヤンデレたちは、真剣な表情で協議を始めた。


主人公は、その様子を見つめながら思った。


――また、余計なことをしてしまったのか?


## 第十三章 特例措置、主人公様を救え♡


十人のヤンデレは、薬剤を吹き飛ばした主人公の行為について協議を続けていた。


「主人公様の行為を認めるべきでしょうか?」


「しかし、コースの条件が変わってしまいましたわ♡」


「とはいえ、このまま薬剤を残せば、主人公様が動けなくなる可能性がありますわね♡」


「それでは競走そのものが成立しませんわ♡」


彼女たちは、主人公のために考えていた。


主人公が走れなくなれば、競走が続けられない。


競走が続けられなければ、主人公は優勝できない。


主人公が優勝できなければ、彼女たちの育成計画も台無しになる。


それだけは避けなければならなかった。


嫉妬のヤンデレが感心したように言った。


「能力値の肺活量SSSが、ここで生きてきましたわね♡」


「しかし、競走条件を変更したとして、失格になる可能性もありますわ♡」


「これは審判団の判断が注目されますわね♡」


主人公が叫んだ。


「おい! 普通に考えれば、薬剤を吸わずに済むほうがいいだろ!」


監視特化のヤンデレは、配信画面に投票機能を表示した。


『主人公様の行為は認められるべき?』


主人公は目を見開いた。


「視聴者投票にするなあああああ!!」


やがて、十人のヤンデレは結論を出した。


森羅万象のヤンデレが、堂々と宣言した。


「主人公様の薬剤除去行為については、特例として認めますわ♡」


主人公は、ほっと胸を撫で下ろした。


「……よかった。ようやく話が通じた……」


しかし、科学担当のヤンデレが、にっこりと微笑んだ。


「ただし、ルールに反する行為をなさった以上、何らかのペナルティーは必要ですわ♡」


主人公の顔が凍りついた。


「……は?」


## 第十四章 特例の代償、仲間が敵になった日


「主人公様の薬剤除去行為は、特例として認められましたわ♡」


森羅万象のヤンデレが、改めて告げた。


主人公は、ひとまず安堵した。


だが、その直後だった。


三体の魔物が動きを変えた。


二機の古代兵器も、主人公へと照準を合わせた。


「……おい?」


魔物たちは、主人公を取り囲むように動き始めた。


古代兵器の砲門が、ゆっくりと彼に向けられる。


主人公は、状況を理解できなかった。


「待て! お前ら、さっきまで一緒に走っていただろ!」


そう。


彼らは主人公を一人で走らせないために用意された、同じ競走の走者だった。


しかし、薬剤を吹き飛ばした行為へのペナルティーとして、彼らの役割が変わったのだ。


科学担当のヤンデレが、楽しそうに説明した。


「特例として薬剤を吹き飛ばすことは認めますわ♡ ですが、その代償として、主人公様には新しい条件を課します♡」


主人公は叫んだ。


「新しい条件!?」


「はい♡ 三体の魔物と二機の古代兵器から逃げながら、ゴールを目指してくださいませ♡」


「はああああああああ!?」


森羅万象のヤンデレが、さらに笑顔で付け加えた。


「なお、ゴールに到達できなかった場合、主人公様は塵となりますわ♡」


「塵!?」


主人公は、自分の耳を疑った。


さっきまで一緒に走っていた競走者たちが、今度は自分を殺しにくる。


しかも、ゴールできなければ塵になる。


主人公は、ゆっくりと後ずさった。


魔物たちが迫る。


古代兵器が動き出す。


潜入特化のヤンデレが声を上げた。


「おおっと! 特例は認められましたが、主人公様には新たな試練が課されましたわ♡」


嫉妬のヤンデレが、冷静に続けた。


「薬剤を除去した結果、競走相手が追跡者に変わりましたわね♡」


「そんなルール変更があってたまるかあああああ!!」


監視特化のヤンデレは、画面の隅にテロップを表示した。


『特例措置の代償』


「番組の演出みたいにまとめるなあああああ!!」


「ふざけんなああああああああ!!」


主人公は走り出した。


もはや、競走どころではなかった。


仲間だったはずの走者たちが、容赦なく彼を追い詰めてくる。


主人公は逃げた。


ただひたすらに、ゴールを目指して走り続けた。


こうして、レースは本当の地獄へと突入した。


## 第十五章 感動のゴール、そして地獄のエキシビションマッチ


主人公は走っていた。


三体の魔物が背後から迫る。


二機の古代兵器が容赦なく攻撃を仕掛けてくる。


避ける。


跳ぶ。


転がる。


走る。


すでに体力は限界だった。


脚は震え、呼吸は乱れ、視界はかすんでいる。


何度も倒れかけ、そのたびに歯を食いしばって立ち上がった。


「くそっ……! 俺は……俺は……!」


背後から古代兵器の砲撃が迫る。


主人公は最後の力を振り絞り、地面を蹴った。


そして――。


ゴールテープを切った。


「ゴオオオオオオオオルッ!!」


実況の声が会場中に響き渡った。


主人公はゴールした直後、その場に倒れ込んだ。


「はぁっ……はぁっ……。もう……無理……」


命尽きる寸前だった。


観客席は静まり返っていた。


誰もが息を呑み、地面に倒れた主人公を見つめている。


やがて、一人の観客が涙を流した。


「すごい……! あんな地獄を乗り越えて……!」


「よく頑張った……! 本当によく頑張ったなあああ!」


観客席のあちこちから、すすり泣く声が聞こえ始めた。


やがて会場全体が感動の涙に包まれた。


「主人公さまああああああ!」


ヤンデレたちも泣いていた。


「主人公様……! よくぞゴールしてくださいましたわ……!」


「途中で何度も死にかけて……それでも最後まで走り抜くなんて……!」


「感動しましたわ……♡」


実況席の潜入特化のヤンデレも、思わず声を震わせた。


「主人公様……! ついに……ついにゴールですわ……!」


嫉妬のヤンデレも、目元を拭った。


「本当に素晴らしい走りでしたわ……! 数々の試練を乗り越えて、最後まで走り抜かれましたわ……!」


監視特化のヤンデレは、配信画面を確認した。


「皆様、ご覧くださいませ♡ 全世界の視聴者数が過去最高を更新しておりますわ♡」


十人のヤンデレは涙を流しながら、主人公の姿を見つめていた。


主人公は地面に倒れたまま、かすれた声でつぶやいた。


「……やっと……終わった……」


そう。


ついに終わったのだ。


数々の脱落者。


波動砲。


巨大雹。


落雷。


落とし穴。


二十体の機関銃搭載AIロボット。


薬剤散布。


そして、魔物と古代兵器による追跡。


あらゆる地獄を乗り越え、主人公はついにゴールした。


観客は泣いている。


ヤンデレも泣いている。


主人公も、もう泣きたい気分だった。


そのときだった。


森羅万象のヤンデレが、涙を拭いながら一歩前に出た。


「みなさま……!」


彼女の声が会場に響き渡る。


「本日は、素晴らしいレースをありがとうございましたわ♡」


観客席から拍手が沸き起こった。


森羅万象のヤンデレは満面の笑みを浮かべた。


「そこで、わたくしから皆様に提案がございますの♡」


主人公は地面に倒れたまま、薄目を開けた。


「……提案?」


森羅万象のヤンデレは、十人のヤンデレを順番に見渡し、最後に主人公へ視線を戻した。


「みなさま! 今からエキシビションマッチを開催しますわ♡」


会場がざわめいた。


「エキシビション……?」


「そうですわ♡」


彼女は満面の笑みで告げた。


「それは、生き残った主人公様と、わたくしたち十人のバトルですわ♡」


「…………は?」


主人公の顔から、すべての感情が消えた。


観客席がどよめく。


「十人対一人だと!?」


「レースの直後だぞ!?」


「主人公はもう限界じゃないか!」


森羅万象のヤンデレは、不思議そうに首をかしげた。


「あら? でも、主人公様は見事にゴールされましたわよ?」


「それとこれとは話が違うだろおおおおおおおお!!」


主人公は震える手で地面を掴んだ。


「……誰か……」


そのとき、慈愛のヤンデレが優しく微笑みながら歩み寄った。


「まあ、主人公様♡ そんなにお疲れになって……。かわいそうに♡」


彼女は主人公の体にそっと手をかざした。


すると、淡い光が主人公を包み込んだ。


骨折、筋肉の損傷、極度の疲労、枯渇した体力。


そのすべてが一瞬で回復していく。


数秒後。


主人公は何事もなかったかのように立ち上がった。


「……あれ?」


体は軽い。


息苦しさもない。


脚の震えも消えている。


完全回復だった。


慈愛のヤンデレは、嬉しそうに微笑んだ。


「これで大丈夫ですわね♡ 主人公様には、まだまだ頑張っていただかなくてはなりませんもの♡」


「いや、そこまで回復させてくれたなら、もう帰らせてくれよ!」


「あら♡ 何をおっしゃいますの?」


森羅万象のヤンデレが、満面の笑みで告げた。


「これからエキシビションマッチですわ♡」


「回復させたのは、このためかああああああああ!!」


実況席の二人は、再び顔を見合わせた。


潜入特化のヤンデレが、ゆっくりと口を開いた。


「……感動のゴールから、まさかの追加競技ですわ♡」


嫉妬のヤンデレが頷いた。


「主人公様に休息の時間は与えられないようですわね♡」


「与えろおおおおおお!!」


監視特化のヤンデレが、嬉しそうに宣言した。


「皆様、配信を終了する必要はございませんわ♡ ここからはエキシビションマッチをお届けいたしますわ♡」


「まだ配信するのかあああああ!!」


観客席から、再び歓声が沸き起こった。


主人公は悟った。


慈愛とは、必ずしも救済を意味するわけではない。


そして十人のヤンデレは、愛情たっぷりの笑顔で戦闘態勢に入った。


レースは終わった。


だが、地獄は終わっていなかった。


## エピローグ 脱落者たちの再教育


その頃、拷問担当のヤンデレは、レースで脱落したウマたちを施設へと運び込んでいた。


「皆さん♡ レース、お疲れさまでした♡」


脱落したウマたちは、不安そうに彼を見つめた。


「これから皆さんには、再教育を受けてもらいます♡」


その様子もまた、監視特化のヤンデレによって撮影されていた。


「皆様♡ こちらでは、脱落者の皆様を対象とした再教育プログラムが始まろうとしておりますわ♡」


実況席の潜入特化のヤンデレが、興味深そうに言った。


「次の大会に向けた育成ということですわね♡」


嫉妬のヤンデレも頷いた。


「ええ♡ 今回脱落した皆様が、次回どのような成長を遂げるのか。今から楽しみですわ♡」


施設の奥から、不穏な音が聞こえてきた。


三人は笑顔で配信を続けた。


一方、会場では主人公と十人のヤンデレによるエキシビションマッチが始まろうとしていた。


監視特化のヤンデレが、配信の締めくくりに告げた。


「皆様♡ 本日はご視聴ありがとうございましたわ♡ なお、配信はこのまま継続いたしますので、引き続きお楽しみくださいませ♡」


主人公の絶叫が、会場と全世界に響き渡った。


「いつ終わるんだよおおおおおおおお!!」


レースが終わっても、ヤンデレたちの育成計画に終わりはない。


そして、主人公の地獄は、今日も世界中に配信されていた。

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