人類最強のヤンデレたちが救出に来たけど、どう考えても俺を殺しに来ている
主人公は、格闘特化の男ヤンデレと一緒にお茶をしていた。
「いやあ、こうしてゆっくりお茶を飲むのも悪くないな」
「そうだな。たまにはこういう時間も必要だ」
二人は穏やかな時間を過ごしていた。
その瞬間、背後から腰振りのスペシャリストの男ヤンデレが現れた。
「楽しそうだな♡ だが、そろそろ時間だぜ♡」
腰振りのスペシャリストの男ヤンデレは腰を振った。
凄まじい衝撃波が発生し、主人公はそのまま王城に向かって吹き飛ばされた。
「何をするんだ、お前は!」
主人公の姿は、あっという間に空の彼方へと消えていった。
その直後、近くの物陰から科学のヤンデレが現れた。
彼女は大きな看板を掲げた。
『ドッキリ大成功♡』
同時に、世界配信が開始された。
『緊急特別番組! ヤンデレ救出ドキュメンタリー! 王城に吹き飛ばされた主人公を救出せよ!』
科学のヤンデレは満足そうに頷いた。
「これで準備完了ですわ♡」
そもそも、王城はすでに森羅万象のヤンデレによって制圧されていた。
城門から謁見の間まで、あらゆる場所が彼女の支配下にある。
さらに科学のヤンデレと薬学のヤンデレが協力し、王城内部を大規模なデスゲーム会場へと改造していた。
通路には自動迎撃装置。
部屋には特殊な薬剤を散布する仕掛け。
階段には巧妙な落とし穴。
そして各所には、主人公の行動を監視するためのカメラが設置されていた。
科学のヤンデレは世界配信のカメラに向かって微笑んだ。
「さあ、主人公様は無事に王城から脱出できるのでしょうか♡」
薬学のヤンデレも楽しそうに続けた。
「今回は様々な薬剤を用意しましたわ♡ 体力が低下するものから、身体能力が変化するものまで、種類は豊富ですの♡」
森羅万象のヤンデレは王城の玉座に座り、優雅に紅茶を飲んでいた。
「ふふふ♡ この世界で、あの人が逃げ切れる場所なんてありませんわ♡」
こうして、世界中が注目する救出劇が幕を開けた。
ただし、ひとつだけ問題があった。
救出対象の主人公を王城に吹き飛ばしたのも、救出が必要な状況を作り出したのも、救出を妨害する仕掛けを用意したのも、すべてヤンデレたちだったのである。
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## ヤンデレ救出ドキュメンタリー編――王城大救出作戦♡
王城の正門前。
現場レポーターを務める潜入特化のヤンデレが、カメラに向かって深刻な表情を浮かべていた。
「こちら、現場の潜入特化ですわ♡ 現在、王城内部に主人公様が取り残されております♡」
彼女は背後の王城を振り返った。
「王城は森羅万象のヤンデレによって完全に制圧されており、内部には科学のヤンデレと薬学のヤンデレが設置した数々の危険な仕掛けが存在しています♡」
「主人公様の安否が心配されますわ♡」
その言葉とは裏腹に、彼女は笑顔だった。
「なお、私自身は先ほど、主人公様が逃走する可能性のある経路をすべて調査し、封鎖してまいりました♡」
カメラマンを務める薬学のヤンデレが尋ねた。
「それは救出活動に支障をきたすのでは?」
「何をおっしゃいますの♡ 逃走経路を把握しておくことは、救出活動の基本ですわ♡」
彼女は一切の迷いなく答えた。
「それでは、現場からお伝えしました♡」
画面が切り替わった。
王城の作戦司令室。
科学のヤンデレが大型モニターの前に立っていた。
「それでは、救出作戦の進行状況を説明しますわ♡」
モニターには、王城内部の見取り図が表示されていた。
「第一段階、主人公様の王城への搬送。腰振りのスペシャリストの男ヤンデレが担当しましたわ♡」
画面に、主人公が衝撃波で吹き飛ばされる映像が流れた。
「見事な命中ですわ♡」
「第二段階、王城の制圧。森羅万象のヤンデレが担当しましたわ♡」
画面が切り替わる。
王城の兵士たちが、森羅万象のヤンデレにあっさり制圧されていた。
「完璧な制圧ですわ♡」
「第三段階、救出を困難にするための会場設営。私と薬学のヤンデレが担当しましたわ♡」
「第四段階、現場レポート。潜入特化のヤンデレが担当していますわ♡」
科学のヤンデレは満足そうに頷いた。
「以上、救出作戦の準備はすべて順調ですわ♡」
司令室に拍手が起こった。
「それでは、救出作戦を開始いたしますわ♡」
こうして、救出対象を吹き飛ばし、救出現場を制圧し、救出を困難にする仕掛けを設置したヤンデレたちによる、前代未聞の救出作戦が始まった。
画面は再び王城の正門前へと切り替わった。
潜入特化のヤンデレが、深刻な表情でカメラを見つめていた。
「現在、救出部隊の到着が待たれています♡」
その背後から、魔導のヤンデレが現れた。
「潜入特化、救出部隊ならもう到着していますわよ♡」
「えっ?」
潜入特化のヤンデレが振り返る。
そこには、魔導のヤンデレをはじめとするヤンデレたちが勢揃いしていた。
「私たちが救出部隊ですわ♡」
「なるほど♡ それでは、これから救出活動を開始するということですわね♡」
「いいえ♡ 救出活動はもう始まっていますわ♡」
「……どういうことですの?」
魔導のヤンデレは、にっこりと微笑んだ。
「世界配信が始まった時点で、救出作戦は開始されていますわ♡」
「なるほど♡」
潜入特化のヤンデレは、納得したように頷いた。
「それでは、主人公様の救出に向かいましょう♡」
彼女たちは王城へと歩き始めた。
その直後、森羅万象のヤンデレから通信が入った。
『皆さん、申し訳ありませんわ♡ 現在、王城の正門が封鎖されております♡』
一同が足を止めた。
「森羅万象、あなたが王城を制圧したのではありませんの?」
『ええ♡ ですから、主人公様が脱出できないように封鎖しておきましたわ♡』
「……私たちも入れないのですが?」
『あら♡ 救出作戦には困難がつきものですわ♡』
沈黙が流れた。
潜入特化のヤンデレは、すぐさまカメラに向き直った。
「ご覧ください♡ 救出部隊は、さっそく最初の困難に直面しております♡」
彼女は笑顔で続けた。
「果たして、救出部隊はこの難局を乗り越え、主人公様を救出できるのでしょうか♡」
そのとき、科学のヤンデレから通信が入った。
『正門を突破するための専用装備を用意してありますわ♡ 費用は国庫から支出済みです♡』
「さすが科学のヤンデレですわ♡」
『ちなみに、その装備を使わないと開かないように正門を改造したのも私ですわ♡』
「……なるほど♡」
潜入特化のヤンデレは、再びカメラに向き直った。
「救出活動には、莫大な費用と高度な技術が必要なのですわ♡」
こうして、救出対象を救出するために、救出対象を閉じ込めた本人たちが、救出対象を閉じ込めた本人たちの用意した障害を突破するため、救出対象を閉じ込めた本人たちの用意した装備を使うことになった。
世界中の視聴者は、この前代未聞の救出劇を固唾をのんで見守っていた。
## 救出部隊編――人類最強、遠距離砲撃から逃げ延びろ
城内では、主人公が必死に罠を回避していた。
床から飛び出す槍。
壁から放たれる矢。
天井から降り注ぐ岩石。
「くそっ! いったい、いつまで続くんだ!」
主人公は人類最強の力を駆使し、次々と襲い来る罠を突破していく。
そのときだった。
『皆さん、ついに救出部隊が到着しましたわ♡』
城内放送から、潜入特化のヤンデレの声が響いた。
『今回、救出に向かうのは魔導のヤンデレさんと慈愛のヤンデレさんです♡』
主人公の顔が輝いた。
「来たのか!」
ようやく助かる。
この地獄から、ようやく解放されるのだ。
しかし、主人公は知らなかった。
救出部隊の二人が、どんな目的でやってきたのかを。
城の外。
魔導のヤンデレと慈愛のヤンデレは、城を見上げていた。
「主人公さんが、あの城の中で助けを待っていますわ♡」
慈愛のヤンデレが、悲しそうな表情を浮かべる。
「一刻も早く救出してあげなければなりませんわね♡」
「ええ♡ 私たちの力で、必ず助け出しましょう♡」
魔導のヤンデレも、真剣な顔でうなずいた。
二人は、城内にいる主人公の位置を正確に把握していた。
そして、互いに目を合わせた。
「それでは、始めましょうか♡」
「はい♡」
魔導のヤンデレは、両手を掲げた。
「波動砲♡」
凄まじい魔力が収束する。
次の瞬間、極太の光線が城壁を貫き、城内へと突き進んだ。
その狙いは、主人公だった。
「なっ!?」
主人公は、背後から迫る殺気を察知した。
反射的に地面を蹴り、横へ飛ぶ。
直後、波動砲が主人公のいた場所を直撃した。
轟音。
石造りの床が粉砕され、巨大な穴が開いた。
「おい! 今のは何だ!?」
主人公が叫ぶ。
城内放送から、魔導のヤンデレの声が響いた。
『大丈夫ですか、主人公さん♡ 今の攻撃で、周囲の危険な罠を破壊しておきましたわ♡』
「俺を狙って撃っただろうが!」
『あらあら♡ 何をおっしゃっていますの? 私は救助活動をしているだけですわ♡』
主人公は歯を食いしばった。
冗談ではない。
今の攻撃は、直撃すれば人類最強の自分でさえ無事では済まなかった。
そして、休む暇もなかった。
「では、私もお手伝いしますわ♡」
慈愛のヤンデレが、穏やかに微笑んだ。
「光魔法――パージ♡」
空高く、光の弾が出現した。
それは城の屋根を越え、城内へと飛び込んだ。
主人公は横へ跳び、紙一重で回避した。
光弾が床を砕く。
直後、壁に激突した光弾が、軌道を変えて跳ね返った。
「……は?」
主人公が振り返る。
光弾が、再びこちらへ向かってきていた。
「なんで戻ってくるんだ!?」
主人公は全力で走った。
光弾は壁に当たり、床に当たり、再び壁に当たりながら、執拗に主人公を追いかけてくる。
「おい! なんで俺を追いかけてくるんだ!」
『あらあら♡ 何をおっしゃっていますの? 私は主人公さんを救出するために、光魔法を使っているだけですわ♡』
「じゃあ、なんでパージが俺を追いかけてくるんだよ!」
『不思議ですわね♡ 魔法の軌道が、たまたま主人公さんのいらっしゃる方向へ向かっているだけではありませんか?』
「壁に当たるたびに軌道が変わって、何度も俺に向かってきてるんだぞ!?」
『まあ♡ 主人公さんは観察力が鋭いのですね♡』
「褒めてる場合か!」
主人公は床を蹴り、迫り来る光弾を回避した。
光弾は背後の壁に激突し、再び跳ね返る。
「まだ終わらないのかよ!?」
『パージは遠距離から攻撃できる便利な光魔法ですわ♡ 救出活動にも役立ちますの♡』
「俺を殺しかけてるだろうが!」
『あら♡ 私は主人公さんを傷つけるつもりなどありませんわ♡』
慈愛のヤンデレは、心から心配しているような声で続けた。
『主人公さん、そんなに走り回っては危険ですわ♡ どうか落ち着いてくださいませ♡』
「お前の魔法が追いかけてくるから走ってるんだよ!」
『まあ……♡ それは大変ですわね♡』
まるで他人事だった。
主人公は必死に走り続けた。
一度避けても終わらない。
二度避けても終わらない。
壁に当たるたびに軌道を変え、主人公に直撃するまで反射し続ける。
それが、慈愛のヤンデレのパージだった。
威力そのものは、魔導のヤンデレが放つ波動砲に及ばない。
しかし、回避しても攻撃が終わらないという点では、波動砲よりも厄介だった。
主人公が通路を曲がれば、光弾は壁に当たって追いかけてくる。
床を蹴って跳び上がれば、光弾は床に当たって角度を変える。
壁を駆け上がれば、今度は天井で跳ね返る。
「しつこすぎるだろ!」
人類最強の反射神経と身体能力がなければ、とっくに命を落としていた。
だが、敵は二人だけではなかった。
「主人公さん、本当に素晴らしいですわ♡」
慈愛のヤンデレが、感心したように声を弾ませた。
「褒めるな! 攻撃を止めろ!!」
『主人公さんが頑張っていらっしゃるのですもの♡ 私たちも、最後まで救出活動を続けなければなりませんわ♡』
「その救出活動を今すぐやめろ!!」
主人公が走り出す。
背後から、壁に反射したパージが追いかけてきた。
「また来たのかよ!」
主人公は跳躍して回避する。
直後、魔導のヤンデレが放った波動砲が通路を貫き、逃げ道を粉砕した。
「今度はそっちかよ!!」
主人公は崩れ落ちる瓦礫を飛び越え、別の通路へ駆け込んだ。
しかし、そこに待ち構えていたのは科学特化のヤンデレだった。
「あら♡ 主人公さん、ちょうどいいところにいらっしゃいましたわ♡」
彼女の背後には、無数のミサイルが浮かんでいた。
「まさか……お前もか!?」
「ええ♡ 遠距離からの救出支援ですわ♡」
科学特化のヤンデレが指を鳴らした。
「全弾発射♡」
轟音とともに、ミサイルの大群が一斉に飛び出した。
「多すぎるだろうが!!」
主人公は全力で走った。
ミサイルが次々と着弾し、通路が爆炎に包まれる。
爆風で身体が吹き飛ばされそうになる中、主人公は壁を蹴って方向を変えた。
だが、ミサイルは止まらない。
前方からは波動砲。
背後からは反射を繰り返すパージ。
そして、上空からは大量のミサイルが降り注ぐ。
「逃げ道がねえ!!」
そのとき、主人公の足元が不自然に滑った。
「うおっ!?」
床に足を取られ、主人公は大きく体勢を崩した。
そこへ、背後からパージが迫る。
「しまっ――!」
光弾が主人公の背中に直撃した。
「ぐあっ!」
主人公は床を転がり、壁に激突した。
「何だ、この床は!?」
通路の端から、薬学のヤンデレがひょっこりと顔を出した。
「あら♡ さっそく私の特製スリップ薬が役に立ちましたわね♡」
「お前が仕掛けたのかよ!!」
「ええ♡ 足元が滑りやすくなれば、転倒による二次被害を防ぐため、救出部隊も慎重に行動するようになりますでしょう?♡」
「俺が転んで攻撃を食らったんだよ!!」
「あらあら♡ それは大変ですわね♡」
薬学のヤンデレは、まったく悪びれなかった。
『まあ♡ 主人公さん、これだけの攻撃を受けても立ち上がるなんて、さすがですわ♡』
慈愛のヤンデレが感嘆の声を上げた。
「褒めるな! 攻撃を止めろ!!」
『主人公さんが頑張っていらっしゃるのですもの♡ 私のパージも、まだまだ頑張らなくてはいけませんわね♡』
「頑張るな!!」
主人公は急いで立ち上がり、再び走り出した。
しかし、スリップ薬の散布された床に足を取られ、思うように加速できない。
その隙を逃さず、パージが壁に当たって軌道を変えた。
「また来た!?」
避けようとした主人公の足が滑る。
体勢を立て直す間もなく、光弾が今度は脇腹に直撃した。
「ぐっ!」
主人公は吹き飛ばされたものの、どうにか起き上がった。
「床まで敵なのかよ……!」
『あら♡ 主人公さん、そんなに慌てて走っては危険ですわ♡ 落ち着いてくださいませ♡』
「お前の魔法が追いかけてくるからだろうが!!」
慈愛のヤンデレは、心配そうに首を傾げた。
『それにしても、薬学のヤンデレさんの仕掛けは見事ですわね♡ 主人公さんが足を止めてくだされば、救出しやすくなりますもの♡』
「俺を転ばせておいて何を言ってるんだ!!」
その直後、魔導のヤンデレが再び波動砲を放った。
主人公は滑る床を蹴り、間一髪で横へ飛び退いた。
波動砲が通路を破壊する。
崩れ落ちた瓦礫を避けようとした主人公の頭上に、ミサイルの大群が迫った。
「まだ来るのか!?」
科学特化のヤンデレが、遠くから楽しそうに手を振った。
「第二波、発射ですわ♡」
「やめろ!!」
爆発が連続し、床も壁も次々と砕け散った。
主人公は滑る床で足を取られながら、降り注ぐミサイルを避け、跳ね返るパージから逃げ、波動砲によって破壊される通路を駆け抜けた。
それでも、人類最強の主人公は立ち上がり続けた。
「……ふざけるな。俺は救出されに来たんだぞ……!」
科学特化のヤンデレは、満足そうに頷いた。
「素晴らしい耐久力ですわ♡ これなら、追加のミサイルも問題ありませんわね♡」
「問題しかねえよ!!」
薬学のヤンデレも、うれしそうに微笑んだ。
「スリップ薬も順調に効果を発揮していますわ♡ 次は別の薬剤も試してみましょうか♡」
「余計なことをするな!!」
城外では、潜入特化のヤンデレが興奮した様子で実況していた。
『ご覧ください! 魔導のヤンデレさん、慈愛のヤンデレさん、科学特化のヤンデレさん、そして薬学のヤンデレさんによる、見事な救出支援ですわ♡』
薬学のヤンデレがカメラを回しながら頷いた。
『四者の連携によって、主人公さんを安全な場所へ誘導しているのですね♡』
「どこが安全なんだよ!!」
主人公の叫びは、爆発音にかき消された。
世界中の視聴者は、救出部隊の華麗な連携に歓声を上げていた。
その一方で、主人公はパージを避け、波動砲から逃げ、ミサイルの雨をくぐり抜け、滑る床の上を必死に走り続けていた。
「次こそ、主人公さんを救出しますわ♡」
「ええ♡ 絶対に逃がしませんわ♡」
「ミサイル、全弾再装填ですわ♡」
「床の薬剤も追加しておきますわね♡」
四人のヤンデレは、満面の笑みで次の攻撃を準備した。
主人公に残された選択肢は、ただ一つ。
**人類最強の力を振り絞り、波動砲とパージ、終わりの見えないミサイルの雨、そして滑る床から逃げ続けることだった。**
##――森羅万象のヤンデレ、3分でキレる
城の最奥。
豪華な王座に腰掛けた森羅万象のヤンデレは、優雅に紅茶を飲んでいた。
テーブルには、焼き菓子が並んでいる。
彼女は主人公が救出され、自分のもとへやってくる瞬間を心待ちにしていた。
しかし。
一向に主人公がやってこない。
「……遅いですわね♡」
森羅万象のヤンデレは、ティーカップを置いた。
「魔導のヤンデレと慈愛のヤンデレが、あれほど頑張っているというのに……♡」
彼女は窓の外を眺めた。
遠くで城の一角が吹き飛んだ。
続いて、光の弾が廊下を跳ね回っている。
「もうすぐですわね♡」
彼女は再び紅茶を口に運んだ。
そして、3分が経過した。
「…………」
森羅万象のヤンデレの笑顔が消えた。
「……主人公さん、遅いですわね♡」
彼女はティーカップを置いた。
「もう3分も待ちましたのに♡」
もちろん、主人公はそんなことを考えてすらいなかった。
そもそも、森羅万象のヤンデレが王座で待っていること自体、知らない。
彼は今も城の中を必死に走り回り、波動砲と跳ね回るパージから逃げていた。
だが、そんな事情を森羅万象のヤンデレが考慮するはずもなかった。
「私が、わざわざお茶を飲みながら待って差し上げているというのに……♡」
彼女は立ち上がった。
「私に会いたくないとでもおっしゃるのかしら?」
城を用意したのも彼女だった。
脱出経路を封鎖したのも彼女だった。
主人公を逃がさないために、数々の仕掛けを用意したのも彼女だった。
そして今、その城から主人公を救出するために、魔導と慈愛のヤンデレが城を破壊していた。
それでも主人公は来ない。
「……もう、結構ですわ♡」
森羅万象のヤンデレは、片手を掲げた。
その手のひらに、膨大なエネルギーが収束していく。
大地が震えた。
空が歪んだ。
城全体を覆う結界が、内側から軋み始めた。
「たった3分も待たせるなんて……♡」
彼女は、にっこりと微笑んだ。
「城ごと吹き飛ばして差し上げますわ♡」
次の瞬間。
凄まじいエネルギー弾が放たれた。
閃光が城を飲み込んだ。
王座も、廊下も、塔も、壁も。
森羅万象のヤンデレが用意した豪華な城は、跡形もなく吹き飛んだ。
その破壊は、城内で波動砲とパージを必死に避けていた主人公にも襲いかかった。
「……は?」
主人公が状況を理解するより早く、爆風が彼の身体を吹き飛ばした。
そして、城が跡形もなく消滅した場所に、森羅万象のヤンデレが降り立った。
彼女は周囲を見回し、主人公の姿を探した。
「主人公さーん♡ どこですのー?♡」
少し離れた場所で、主人公が地面から這い上がってきた。
「お前……! いきなり何をするんだ!!」
森羅万象のヤンデレは、彼を見つけると満面の笑みを浮かべた。
「あら♡ やっと来てくださいましたのね♡」
「来てねえよ!! 吹き飛ばされたんだよ!!」
「まあ♡ 照れなくてもよろしいのに♡」
「何をどう解釈したらそうなるんだ!!」
森羅万象のヤンデレは、主人公の腕に抱きついた。
「さあ♡ お待ちしておりましたわ♡ 今度こそ、私と一緒にお茶にしましょうね♡」
「城を吹き飛ばしておいて、お茶!?」
「ええ♡ お菓子も用意してありますわ♡」
「城と一緒に吹き飛んだだろうが!!」
「あら……♡」
森羅万象のヤンデレは、少しだけ残念そうな顔をした。
「では、もう一度お城を作りましょうか♡」
「そういう問題じゃねえ!!」
こうして主人公は、命懸けで逃げ続けた末に、自分が何のために逃げていたのかも知らされないまま、城ごと吹き飛ばされて森羅万象のヤンデレに回収された。
**3分待てない女と、3分どころか一秒たりとも休めない主人公。**
## エピローグ――人類最強、救出成功
城が消滅した。
魔導のヤンデレと慈愛のヤンデレによる遠距離攻撃を避け続け、最後には森羅万象のヤンデレのエネルギー弾に城ごと吹き飛ばされた主人公。
彼は地面に倒れたまま、しばらく動かなかった。
「……もう嫌だ」
その言葉は、世界中に配信されていた。
監視特化のヤンデレは、映像を確認しながら満足そうにうなずいた。
『皆さん、ご覧ください♡ 主人公さんは数々の困難を乗り越え、ついに救出されましたわ♡』
「乗り越えてねえよ! 最後は城ごと吹き飛ばされたんだよ!」
『あら♡ ご本人も、救出の成功に感極まっていらっしゃるようですわね♡』
「どこをどう見たらそうなるんだ!!」
画面には、森羅万象のヤンデレに腕を抱かれた主人公が映っていた。
『今回の救出作戦は大成功ですわ♡ 人類最強の主人公さんを、無事に救出することができました♡』
世界中から歓声が上がった。
「人類最強ってすげえ!」
「波動砲も光魔法も避け続けたぞ!」
「最後の大爆発からも生還するなんて、さすがだ!」
主人公は頭を抱えた。
「誰か……誰か、この配信を止めてくれ……」
しかし、監視特化のヤンデレは配信を止めなかった。
むしろ、主人公の疲れ切った表情を大写しにした。
『おや♡ こちらの表情も素晴らしいですわね♡ 救出の感動が伝わってまいります♡』
「違う! これは絶望の顔だ!!」
そのとき、配信画面が切り替わった。
現場のレポーターを務めていた潜入特化のヤンデレが、満面の笑みで登場した。
『皆さん、今回の救出作戦には、私も大きく貢献いたしましたわ♡』
「お前、何をしたんだよ!」
『主人公さんが逃げ出さないよう、城の脱出経路をすべて封鎖しておきましたの♡』
「お前が犯人じゃねえか!!」
『まあ♡ 何をおっしゃっていますの? 脱出経路がなければ、主人公さんは危険な城の外へ飛び出してしまうかもしれませんでしょう?♡』
「その城自体が危険だったんだよ!!」
『つまり、主人公さんを安全な場所に留めておくための、完璧な安全対策でしたわ♡』
監視特化のヤンデレが、深くうなずいた。
『なるほど♡ さすがは潜入特化のヤンデレさんですわね♡ 救出作戦の成功に欠かせない働きでしたわ♡』
「お前ら、絶対に話が通じないだろ!!」
世界中の視聴者は、二人の連携を称賛した。
「見事な役割分担だ!」
「救出作戦の裏側まで考えられているなんて!」
「これは歴史に残る救出劇だ!」
主人公は、もはや何も言えなかった。
そのとき、配信画面の隅から、嫉妬のヤンデレが姿を現した。
彼女は両手を大きく振りながら、満面の笑みで叫んだ。
『主人公さーん♡ 救出成功、おめでとうございますわー♡』
「お前は何を祝ってるんだよ!!」
『だって、主人公さんが無事に救出されたんですもの♡ こんなに嬉しいことはありませんわ♡』
『さすが主人公さんですわ♡ 波動砲もパージも避けて、最後には城の大爆発まで生き延びるなんて♡』
「最後の爆発は森羅万象のヤンデレが起こしたんだよ!!」
『まあ♡ それでも生きていらっしゃるのですから、さすがですわね♡』
「褒めるところがおかしいだろ!!」
嫉妬のヤンデレは、画面越しに主人公へ向かって一生懸命に手を振った。
『主人公さーん♡ 頑張ってくださいませー♡ 私はいつでも主人公さんを応援しておりますわー♡』
「もう何も頑張りたくねえよ!!」
『あら♡ では、頑張らなくてもよろしいですわ♡ 私は主人公さんの味方ですもの♡』
その言葉に、主人公は一瞬だけ黙った。
「……お前は、まともなことも言えるんだな」
『もちろんですわ♡』
嫉妬のヤンデレは嬉しそうに微笑んだ。
そして、森羅万象のヤンデレに腕を抱かれている主人公を見た。
「その理屈で距離を詰めようとするな!!」
『私も応援していますわー♡ 主人公さーん♡』
嫉妬のヤンデレは、画面の向こうでさらに大きく手を振った。
『頑張ってくださいませー♡ 次も応援しておりますわー♡』
「次なんかいらねえ!!」
監視特化のヤンデレは、その様子まで余すことなく配信していた。
『おおっと♡ 嫉妬のヤンデレさん、最後まで主人公さんを熱烈に応援していらっしゃいますわ♡』
『当然ですわ♡ 主人公さんが頑張る姿は、いつだって素晴らしいんですもの♡』
潜入特化のヤンデレも、元気よく手を挙げた。
『私も応援しておりますわー♡』
『皆さん、ありがとうございますわー♡』
「お前ら、救出劇が終わったんだから、少しは静かにしてくれ!!」
主人公の絶叫が、世界中に響き渡った。
こうして、人類最強の主人公を救出するという壮大な作戦は、世界中から称賛される大成功を収めた。
なお、主人公本人は最後まで納得していなかった。
そして、彼に休息が訪れることもなかった。




