王女 最終試験2
開始の合図と同時に、王女が縮地で間合いを詰めた。
鋭い踏み込み。無駄のない重心移動。
これまでの指導を吸収した動きは、以前よりも明らかに洗練されていた。
王女は正面から突っ込むと見せかけ、直前で進路を変えた。
主人公の視線を引きつけ、その意識がわずかに逸れた瞬間、死角へ滑り込む。
手刀が主人公の肩口へ走った。
しかし――。
主人公は、首をわずかに傾けただけでそれをかわした。
「……悪くない。だが、まだ甘い」
「っ……!」
次の瞬間、主人公の姿が視界から消えた。
「えっ!?」
背後から、軽く肩を叩かれる。
「ここだ」
「ひゃっ!?」
振り向いたときには、主人公はすでに数歩離れていた。
王女の動体視力でも、追い切れない。
(速い……! やはり、ご主人様は人類最強……! わたくしが今まで相手にしてきた誰とも、次元が違いますわ……!)
王女は悔しそうに唇を噛んだ。
だが、その目は少しも曇っていなかった。
(それでも、諦めません。ご主人様がどれほど強くても、わたくしの推し活は止まりませんわ!)
「もう一度、参ります!」
王女が地面を蹴る。
今度は正面からではない。
左右へ気配を散らし、死角へ回り込み、複数の動きを織り交ぜる。
さらに、視線によるプレッシャーを先に放った。
「ご主人様。逃げ道は、すでにありませんわ」
主人公が反射的に横へ飛ぶ。
その先には、王女があらかじめ読んでいた位置への気配の刷り込みが待っていた。
「ちっ……!」
「段階を踏むのです。いきなり距離を詰めず、まず存在を認識させる。……先生方に教わりましたわ」
王女の手が伸びる。
主人公はそれを払いのけようとしたが、彼女の動きは正確だった。
優しさによる完全包囲。
逃げようとすればするほど、柔らかく、しかし確実に選択肢が消されていく。
……もっとも、主人公が本気を出せば、包囲など一瞬で突破できるのだが。
主人公はすべてを見切っていた。
手刀を受け流し、蹴りを半歩でかわし、背後からの接近を振り返りもせずに避ける。
王女がどれほど工夫しても、主人公の衣服にすら触れられない。
「くっ……! あと少しなのに……!」
「あと少しどころか、まだ一度も当たってないぞ!」
「ですが、先ほどより距離は縮まりましたわ!」
「それは俺が避ける方向を変えただけだ!」
「ご主人様がわたくしを見てくださっている……!」
「会話が成立してない!」
王女の頬が、さらに赤く染まった。
(ああ……! わたくしの攻撃をすべて見切り、余裕をもって対応なさるご主人様……! なんて素敵なのでしょう……! 強くて、優しくて、しかもわたくしの未熟なところまで見てくださっている……!)
戦闘中だというのに、王女の推し活は絶好調だった。
その情熱が、動きにさらなる勢いを与える。
「ご主人様! わたくし、もっと頑張りますわ!」
「頑張る方向を考えろ!」
主人公は軽く地面を蹴り、王女との距離を一気に広げた。
そして、構えをとる。
「……そろそろ終わりにするぞ。これ以上続けても結果は変わらん」
王女は悔しそうに俯いた。
「……やはり、わたくしでは届きませんのね」
「近接戦で俺に勝とうなんて、甘い」
主人公の言葉に、王女は一瞬だけ肩を落とした。
だが、次の瞬間。
「……いいえ」
王女は顔を上げた。
「近接戦で勝てないのなら、別の方法を考えればよいのですわ!」
「……ん?」
次の瞬間、魔導が扇子を大きく振り上げた。
「王女殿下! そこで諦めてはいけませんわ! ご主人様に認めていただくのでしょう!?」
「はいっ!」
王女が力強く返事をする。
「そうです! 王女殿下ならできます! これまでの訓練の成果を、最後まで発揮してください!」
エンジェルまでバインダーを握りしめ、珍しく声を張り上げた。
「おい。何でお前ら、王女を応援してんだよ!」
主人公が思わず二人を振り返る。
「努力する受講者を応援するのは、指導者として当然ですわ♡」
「そういう問題じゃねえだろ! 俺を倒す側の応援をするな!」
「ご主人様! わたくし、まだ諦めておりませんわ!」
王女の瞳に、再び炎が宿った。
(ご主人様は人類最強。正面から挑んでも、わたくしの攻撃など簡単に見切られてしまいます。それでも……先生方が応援してくださっている! ここで諦めるわけにはいきませんわ!)
王女は深く息を吸い、構えを取り直した。
「ご主人様! もう一度、参ります!」
「だから、何度やっても結果は――」
主人公が言い終える前に、王女が地面を蹴った。
縮地による急接近。
主人公は当然のようにその動きを見切り、王女の手刀を軽くかわす。
だが、王女は止まらなかった。
一撃をかわされることを前提に、踏み込みの勢いを殺さず身体を回転させる。続く蹴りも、主人公は半歩下がって避けた。
「まだですわ!」
「おいおい、少し落ち着け!」
王女は攻撃を繰り返す。
主人公には一撃も届かない。技量も速度も、依然として圧倒的な差があった。
それでも、王女の表情は明るかった。
(当たらない……! まったく届きませんわ! けれど、ご主人様はすべての攻撃を見切りながら、わたくしを傷つけないように受け流してくださっている……! ああ、なんてお優しい……!)
「王女殿下! ご主人様の優しさに甘えてはいけませんわ! その隙を見極めるのです!」
魔導が扇子を振りながら声援を送る。
「記録。王女殿下、攻撃を回避され続けていますが、闘志は衰えていません。主人公様が反撃を最小限に抑えている点にも注目してください!」
「エンジェル、お前まで実況するな!」
「応援と記録は、指導者の重要な役目です」
「いつからそんな役目ができたんだよ!」
そのやり取りの最中にも、王女は攻撃を続けていた。
主人公は一歩も本気を出していない。
それどころか、王女の攻撃を避けながら、転びそうになれば支え、危険な体勢になればさりげなく逃げ道を作っていた。
王女は、その優しさを見逃さなかった。
(ご主人様は、本気を出せば一瞬でわたくしを制圧できる。それなのに、わたくしが成長する機会をくださっている……。だったら、わたくしも最後まで応えなければ!)
「ご主人様ぁぁぁ! 大好きですわぁぁぁっ!」
「戦闘中に告白するな!」
王女の勢いが増した。
鋭い踏み込みからの手刀。主人公は上体を傾けてかわす。間髪入れずに放たれた回し蹴りも、腕で受け流すことなく、軽く身を引いて空振りさせた。
実力差は明白だった。
しかし王女は、その一連の動きの中で、主人公が自分を傷つけないよう常に力を加減していることを確信した。
(……今ですわ!)
王女はわざと踏み込みを深くし、主人公の懐へ飛び込んだ。
「また同じ手か!」
主人公は即座に対応し、王女の腕を押さえようとする。
だが、王女はそこで力比べをしなかった。
捕まれかけた腕を引くのではなく、身体を沈めて軸をずらし、主人公の腕の下をすり抜けるように回り込む。
「なにっ!?」
「捕まえましたわ!」
王女は主人公の胴へ両腕を回し、全身でしがみついた。
もちろん、主人公なら力ずくで振りほどくこともできる。
だが、それをすれば王女が怪我をしかねない。
「おい、王女! 離れろ!」
「嫌ですわ! 今日こそ、最後まで諦めません!」
「だからって、こんな――!」
主人公が慎重に王女の腕を外そうとした、その瞬間。
王女は主人公の動きに合わせて重心を移し、足を絡めるように踏み込んだ。
主人公の体勢が、ほんのわずかに崩れる。
その隙を逃さず、王女は全身の力を込めて押し込んだ。
ドサッ!
二人の身体が芝生へ倒れ込む。
主人公はとっさに自分の身体をひねり、王女が下敷きにならないようにした。結果として、背中が芝生に沈んだのは主人公のほうだった。
王女はその隙に身体を起こし、主人公の腕を押さえながら、横からしっかりと抱きついた。
「捕獲……成功ですわぁぁぁっ!!」
庭に、王女の歓声が響き渡った。
*
魔導が扇子を放り出しそうな勢いで両手を叩く。
「やりましたわ、王女殿下! 見事ですわぁぁぁ♡」
エンジェルも、いつになく勢いよくバインダーに書き込んだ。
「記録! 王女殿下、単独で主人公様の体勢を崩し、捕獲に成功! 最後まで諦めない精神と、相手の反応を利用した戦術が決め手となりました!」
主人公は芝生に倒れたまま、信じられないものを見る目で二人を見た。
「…………なんでお前ら、そんなに王女を応援してんだよぉぉぉ!!」
魔導は満面の笑みで答えた。
「頑張ってきた生徒が成果を出したのですもの! 応援にも熱が入りますわ♡」
「俺は!? 俺の立場はどうなるんだよ!」
「主人公様は、素晴らしい試験対象でした」
「褒めてるようで全然褒めてねえ!」
王女は主人公に抱きついたまま、感激に震えていた。
「ご主人様……! わたくし、ついに……ついに捕まえることができましたわ……!」
その声には、いつもの暴走気味な推し活の熱だけではない、心からの喜びがこもっていた。
「先生方に教えていただいたことを、全部出し切りました。ご主人様にはまったく及びませんでしたけれど……それでも、最後まで諦めずに挑戦できましたわ!」
主人公は、しばらく王女の顔を見つめていた。
「……ああ。最後の動きは悪くなかった。俺が怪我をさせないように動くことまで、ちゃんと読んでいたんだな」
「ご主人様……!」
王女の目が潤んだ。
「ありがとうございます……! そのお言葉だけで、わたくし……!」
王女は、もう一度主人公の胸元に顔を寄せた。
捕獲に成功した。
先生方にも褒めてもらえた。
そして何より、ご主人様本人から、自分の努力を認めてもらえた。
王女にとって、これ以上の喜びはなかった。
(ああ……夢のようですわ……! ご主人様に認めていただけるなんて……! わたくし、頑張ってきて本当によかった……!)
そのまま、しばらく主人公を抱きしめていた。
……しかし。
王女の頭の中で、ふと、試験の本来の目的がよみがえった。
捕獲は、あくまで第一段階。
この先には、まだ次の課題が待っている。
(……そうでしたわ!)
王女は、はっと顔を上げた。
「ご主人様!」
「ん?」
「わたくし、捕獲に成功いたしましたわ!」
「それは今聞いた」
「で、ですから……その……!」
王女は一度、言葉を切った。
先ほどまであれほど堂々と攻撃を仕掛けていたというのに、急に視線が落ち着かなくなる。
「……次の段階へ、進んでもよろしいでしょうか?」
「次の段階?」
主人公が聞き返した、その瞬間だった。
王女の脳裏に、魔導から教わった数々の講義がよみがえった。
距離の詰め方。
相手の気持ちを確かめること。
親密な時間を過ごすための心構え。
そして――夜の生活。
「…………っ!」
頬が、一瞬で真っ赤に染まった。
(ま、待ってくださいませ……! ここから先は、本当にご主人様と……二人きりで……!?)
頭では何度も学んだはずだった。
知識だって、ちゃんと身につけたつもりだった。
なのに、いざ目の前に主人公がいると、何も考えられなくなってしまう。
主人公の体温。
すぐそばにある顔。
自分を見つめる、その瞳。
つい先ほどまで戦闘に集中していたはずなのに、それらを意識した途端、王女の心臓が激しく跳ね始めた。
(こ、これ以上は……わたくしの心が……まだ……!)
「……王女?」
主人公が不思議そうに声をかける。
王女は返事をしようとした。
しかし、口から出てきたのは、かすかな声だけだった。
「……あ、あの……ご主人様……」
「どうした?」
「そ、その……わたくし……」
声が上ずる。
目が泳ぐ。
主人公の服をつかんでいた手にも、急に力が入らなくなった。
(どうしましょう……! 先ほどまでは、あんなに堂々とできていたのに……! ご主人様を捕まえることばかり考えていて、その先のことを、わたくし……!)
羞恥心が、津波のように押し寄せる。
王女は主人公を抱きしめたまま、完全に固まった。
「……ご、ご主人様。その……わたくし……」
「うん?」
「今夜は……その……まだ……準備が……」
最後まで言い切れなかった。
王女の顔は、耳まで真っ赤だった。
先ほどまでの勇ましさはどこへやら。
今や、主人公の顔を見ることさえできなくなっていた。
*
魔導が、そっと扇子を閉じた。
「……そこまでですわ」
優雅に歩み寄り、固まった王女の肩に手を置く。
「本日の実践訓練は、ここまでといたしましょう」
「……せ、先生……」
「よく頑張りましたわね、王女殿下。捕獲までの手順は見事でしたわ。最後まで諦めず、ご主人様の動きを読み、見事に成果を出しましたもの」
魔導は、いつものからかうような笑みを少しだけ和らげた。
「それに、実際にご主人様を目の前にして、恥ずかしくなってしまうのも無理はありませんわ。知識と実践は、別物ですもの♡」
「……っ!」
王女は、ますます顔を赤くした。
エンジェルもバインダーを抱え直し、真剣な表情で記録を続ける。
「記録。王女殿下、捕獲段階までを完璧に遂行。夜の生活への移行は、本人の心の準備不足により中断。総合評価――合格♡」
「待て。何でそこで合格になるんだ?」
主人公が即座に口を挟んだ。
「そもそも、俺はまだ何も了承してないんだが!?」
エンジェルは顔色ひとつ変えずに答えた。
「今回の試験における評価対象は、王女殿下の習得技術と実践能力です。主人公様の同意は、評価項目に含まれておりません」
「その評価項目がおかしいんだよ!」
「ご主人様、申し訳ありません……!」
王女が慌てて顔を上げた。
「わたくし、ご主人様を困らせるつもりでは……!」
「いや、困ってはいるけどな……」
「うぅ……」
王女は、しゅんと肩を落とした。
その様子を見て、主人公は思わずため息をついた。
「……まあ、努力したこと自体は認める。さっきの動きも、本当によかったぞ」
「……本当ですの?」
王女が、おそるおそる顔を上げる。
「ああ。実力差がある中で、ちゃんと考えて動いていた。最後まで諦めなかったのも、よかったと思う」
「ご主人様……!」
王女の目が、再び潤んだ。
「ありがとうございます……! わたくし、そのお言葉だけで……!」
「いや、だから、そろそろ離れてくれ」
「……あと三秒だけ」
「一秒だ」
「二秒……!」
「増やすな!」
魔導とエンジェルは、再び満足げに顔を見合わせた。
「素晴らしい成長ですわね♡」
「記録。王女殿下、捕獲成功後も主人公様への抱擁を継続。なお、主人公様から解除の要請あり」
「そこまで記録するな!」
王女はようやく主人公から身体を離した。
そして、顔を真っ赤にしたまま、ゆっくりと立ち上がった。
「……ありがとうございました。先生方。そして、ご主人様」
深々と頭を下げる。
「わたくし、まだまだ未熟ですけれど……今日のことは、絶対に忘れませんわ」
その声には、先ほどまでの照れくささに加えて、確かな充実感があった。
「次こそは、もっと心の準備をして臨みますわ。ご主人様と、きちんと向き合えるように……!」
「だから、次がある前提で話を進めるな!」
主人公の叫びが庭に響いた。
*
【庭・最終試験判定】
魔導は、ようやく解放された主人公の前で、優雅に咳払いをした。
「それでは、最終試験の結果を発表いたしますわ」
「不合格にしろ。今すぐ」
「王女殿下、捕獲段階までを達成。指導内容の理解度、情熱、そして最後まで諦めない精神力を高く評価し――」
「待て。俺を制圧したのは、お前ら二人の援護があったからだろ」
「もちろん、その点も考慮しておりますわ♡」
「考慮した結果、合格にするな!」
エンジェルがバインダーを閉じた。
「最終評価、合格。王女殿下は、単独戦闘では主人公様に及ばないことを理解したうえで、相手の反応を利用した戦術により目的を達成しました。戦術的判断、情熱、精神的成長を総合評価しました♡」
「それはもう夜の生活指導じゃなくて、戦術の試験だろ!」
王女は、ぱっと顔を輝かせた。
「合格……! わたくし、合格ですの!?」
「ええ。おめでとうございますわ、王女殿下♡」
「おめでとうございます」
魔導とエンジェルが拍手を送る。
王女は両手で顔を覆い、感激に震えた。
「ありがとうございます……! 先生方、本当にありがとうございますわ……!」
そして、次の瞬間には主人公へ向き直っていた。
「ご主人様! わたくし、合格いたしましたわ!」
「……ああ、よかったな」
「これで、夜の生活についてお話しする資格をいただけましたのね!」
「資格は試験で取るものじゃない!」
王女は少し考え込んだ。
やがて、先ほどまでの勢いが嘘のように、そっと主人公を見上げた。
「……では、改めてお願いしてもよろしいでしょうか?」
主人公は、その真剣な問いに、すぐには答えなかった。
王女は急かさず、じっと返事を待っている。
先ほどまでのように、無理に距離を詰めることもない。
ただ、頬を赤らめながら、主人公の答えを待っていた。
やがて主人公は、肩の力を抜いた。
「……話をするくらいなら、別にいい。ただし、俺の知らないところで勝手に試験を組んだり、魔法で拘束したりするのは、もうなしだ」
王女の顔が、ぱっと明るくなった。
「本当ですの!?」
「本当だ。だから、今度からは最初に聞け」
「はいっ! 必ず守りますわ!」
王女は勢いよく頭を下げた。
(ご主人様が、わたくしの話を聞いてくださる……! 無理やりではなく、ちゃんとお願いして、答えていただけた……!)
その事実が、何よりも嬉しかった。
捕獲に成功したことも、試験に合格したことも、もちろん嬉しい。
けれど、それ以上に。
自分の気持ちを伝え、ご主人様がそれを受け止めてくださったこと。
それこそが、王女にとって何よりの成果だった。
(次は、もっと素敵な時間を過ごせるように……! わたくし、もっと頑張りますわ!)
「……いや、だから頑張る方向を間違えるなよ」
主人公の呟きは、王女の歓喜にかき消された。
魔導は扇子で口元を隠し、エンジェルはバインダーに最後の一文を書き込む。
「記録。最終試験、終了。王女殿下、合格。今後の課題は、本人の同意を得たうえでの実践的なコミュニケーション能力の向上♡」
主人公が、ゆっくりと二人を振り返った。
「……最初からそれを教えろよ」
魔導は、にっこりと笑った。
「それでは、ご主人様。次回は『相手の同意を得るための交渉術』を追加いたしましょうか♡」
「次回はない!」
王女は、主人公の隣で嬉しそうに頷いた。
「交渉術……! ぜひ、わたくしも学びたいですわ!」
「お前は今、学ぶ前に実践するな!」
庭には、主人公の悲鳴と、王女の楽しげな笑い声が響き渡った。
人類最強の主人公は、戦闘では誰にも負けない。
しかし、王女の情熱的な推し活と、なぜか王女を応援する魔導とエンジェルの連携には、今日も頭を抱えるしかなかった。
――こうして、王女の「夜の生活指導」最終試験は、捕獲成功という形で幕を閉じた。
戦闘では最後まで諦めず、見事に主人公を捕らえた王女。
けれど、その先の段階では、顔を真っ赤にして固まってしまうほど初心なままだった。
夜の生活までは至らなかったものの、彼女の推し活は、確実に一歩前進した。
そして王女は、本人の同意を得るという、最も大切な課題を胸に刻みながら、次の目標へと目を輝かせるのだった。




