神羅万象 魔道のヤンデレは病気です 直しましょう4
**番外編――魔導更生計画、四大精霊との契約(帰還編)**
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【主人公の屋敷・地下作戦室】
「――以上が、今回の旅で得られた成果ですわ♡」
魔導は満面の笑みを浮かべ、作戦室の中央に立っていた。
その隣にはエンジェルがバインダーを抱え、少し離れた場所で主人公が腕を組んで深いため息をついている。
リリムも同席していた。
「……本当に、ろくなことがなかったわね」
「何をおっしゃいますの、リリムさん♡ 大変有意義な旅でしたわ!」
「あなた、朝から主人公様を簀巻きにして連れ出したんですよ?」
「そのおかげで四大精霊との契約が成立したのですから、結果オーライですわ♡」
「過程を無視するな!!」
主人公とリリムの声が重なった。
魔導は涼しい顔で聞き流し、並んでいるヤンデレたちへ向き直る。
森羅万象、科学、薬学、慈愛、嫉妬、監視特化、潜入特化。
全員が、微妙な表情で魔導を見つめていた。
「炎の精霊、水の精霊、風の精霊、土の精霊。四大精霊すべてとの契約を成立させましたわ!」
「……四大精霊、すべて?」
森羅万象の眉が、わずかに動いた。
「ええ!」
魔導は胸を張った。
「炎の精霊とは正面から魔力をぶつけ合い、水の精霊には私の心の内を見透かされ、風の精霊には散々逃げ回られ、土の精霊には何日も待たされましたわ!」
「…………」
「ですが、最後には全員が私を認めてくださいましたの! これで私の魔術は、以前とは比べものにならないほど強力になりましたわ♡」
魔導が手を軽く掲げると、炎・水・風・土の四色の光が彼女の周囲に渦巻いた。
作戦室の空気が、明らかに重くなる。
科学が眼鏡を直した。
「……データ上、魔力出力が以前の数倍に達しています」
薬学が冷や汗を一筋流す。
「この安定感……ただの契約では説明がつきませんね」
慈愛が心配そうに手を合わせる。
「魔導さん、お顔がとても生き生きしています……」
嫉妬が小さく呟く。
「なんか……前より怖い」
監視特化が端末を見つめたまま言った。
「脅威度、再計算が必要です」
潜入特化が静かに一歩下がる。
「先回りしても、止められる気がしません」
魔導はさらに嬉しそうに続けた。
「それから、今回の旅で大切なことも学びましたの!」
「……ほう」
森羅万象が、引きつった笑顔で促す。
「相手の意思を尊重すること。信頼を積み重ねること。そして、愛する相手を自分の思いどおりにすることと、相手を幸せにすることは別だということですわ!」
一瞬、作戦室が静まった。
リリムが目を細める。
「……それ、ちゃんと理解したうえで、主人公様を簀巻きにしたの?」
「はい♡」
「…………」
主人公が天を仰いだ。
「理解してないだろ、絶対」
森羅万象はゆっくりと目を閉じ、深呼吸した。
そして、冷や汗を浮かべながら口を開いた。
「……そうですか」
「はい!」
「つまり、魔導さんはそれらを理解したうえで、四大精霊とも意気投合し、さらに強くなって戻ってこられた、と」
「ええ♡ 皆様も以前、『あなたに比べればマシ』とおっしゃっていましたものね」
その言葉に、全員の肩がびくりと震えた。
科学が眼鏡の奥で視線を逸らす。
「……相対評価は、状況によって変動しますから」
薬学が喉を鳴らす。
「重症度の基準を、見直す必要がありそうです」
慈愛が慌てて手を振る。
「わ、私たちはあくまでご主人様の安全を……!」
嫉妬が小声で。
「魔導さんの方が、目立たなくなってきたかも……」
監視特化が記録を止めた。
「……比較対象として不適切でした」
潜入特化が結論を出す。
「先回りの優先順位を変更します」
森羅万象が、優雅さを保ったまま、しかし明らかに冷や汗をだらだらと流しながら言った。
「……やはり、魔導さんが特に重症だというのは、わたくしたちの勘違いだったようですわね」
「まあ♡」
魔導が目を輝かせる。
「やはりそうでしたか!」
「ええ。わたくしたちの方が……まだまだ、ですわ」
「素晴らしい気づきですわね♡」
リリムが即座に突っ込んだ。
「何が素晴らしいのよ! 今のみなさん、明らかにビビってるじゃない!」
「ビビっておりませんわ。正当な再評価です」
「冷や汗だらだらの正当な再評価って何よ!!」
主人公も続いた。
「お前ら、自分が棚に上げて説教したこと、もう忘れたのか!?」
「忘れてはいません。ただ、基準が変わっただけですわ」
「基準を都合よく変えるな!!」
エンジェルが淡々とバインダーに書き込む。
「記録。四大精霊契約により魔導の魔力大幅向上。同席したヤンデレ陣、冷や汗を流しつつ『魔導が特に重症という認識は勘違いだった』と結論。主人公様およびリリム様、強く抗議♡」
「その記録、残すな!!」
魔導は自分の手を見下ろし、四色の光を纏った指先を見つめた。
「……そうですわ」
口元が、ゆっくりと吊り上がる。
「これだけの力があれば……」
「おい」
「以前は波動砲の威力が少々足りませんでしたけれど……」
「待て、魔導」
「今度は四大精霊の力を融合させた、特別製の波動砲ですわ♡」
「安心できる要素が一つもない!!」
魔導は優雅に一礼した。
「それでは、天界まで行ってまいりますわ! ドミニオンズ様へのご報告も兼ねて♡」
「行くなあああああ!!」
「報告じゃないわよそれ!!」
しかし、魔導はすでに転移魔術を発動させていた。
炎が燃え上がり、水が渦巻き、風が吹き抜け、大地の魔力が足元に集まる。
四つの属性が一つに重なり、巨大な魔力が収束していく。
「四大精霊融合型――超波動砲♡」
次の瞬間、魔導の姿は消えていた。
作戦室に残された面々は、しばらく沈黙した。
森羅万象が、冷や汗を拭いながら呟く。
「……わたくしたちも、もう少し成長しなければいけませんわね」
科学が虚ろな目で。
「成長の方向性が、完全に間違っています」
リリムが両手で顔を覆った。
「結局、誰も更生してない……」
主人公は深く、深く息を吐いた。
「俺の平和は、また遠ざかったな……」
遠くの空から、天界の悲鳴がかすかに聞こえてきた。
――魔導の更生計画は、名目上の成功を収めた。
そして、周囲のヤンデレたちだけが、本気で冷や汗をかくことになったのである。




