神羅万象 魔道のヤンデレは病気です 直しましょう1
**番外編――魔導更生計画、天界壊滅の危機と簀巻きの主人公**
*
【天界・ドミニオンズの詰め所】
「……もう我慢の限界ですわ」
魔導は天界の上空に浮かび、眼下に広がる神々の領域を見下ろしていた。
普段の優雅な微笑みはない。
「ご主人様への愛情が、どうしてこうも報われないのでしょう……」
胸の奥から湧き上がる感情。愛情であり、独占欲であり、行き場を失った苛立ち。
魔導は小さく息を吐いた。
「……少し、気分転換が必要ですわね♡」
視線が、ドミニオンズの詰め所に向けられる。
「ちょうどいいところに、憂さ晴らしの相手がいますもの♡」
次の瞬間、膨大な魔力が集束した。
「では、参りますわよ♡」
轟音。
波動砲が、ドミニオンズの詰め所に直撃した。
「な、何だ!?」
建物から飛び出したドミニオンズが空を見上げる。
満面の笑みを浮かべる魔導がそこにいた。
「ごきげんよう、ドミニオンズ様♡」
「ま、魔導!?」
「本日は少々、気分が優れませんの。お付き合いいただけますかしら?」
「待て! 何をするつもりだ!?」
「もちろん、憂さ晴らしですわ♡」
「話し合いというものが――」
「うるさいですわ♡」
再び波動砲が放たれる。
ドミニオンズは慌てて防御を展開した。
しかし攻撃は止まらない。
一発、二発、三発。
防御を固めれば、その防御ごと吹き飛ばす。
反撃しようとすれば、反撃の暇を与えずに次を撃ち込む。
「ちょっと待て! せめて話を聞け!」
「嫌ですわ♡」
「嫌ですわじゃない! 秩序ある対話を!」
「秩序より、わたくしの気分の方が大切ですわ♡」
「そんな理屈が通るわけないだろうが!!」
天界に、ドミニオンズの悲鳴が響き渡った。
*
【主人公の屋敷・地下作戦室】
その頃。
魔導は、なぜか正座させられていた。
目の前には、森羅万象を筆頭に、科学、薬学、慈愛、嫉妬、監視特化、潜入特化がずらりと並んでいる。
「……で、皆様は、わたくしに何のご用ですの?」
魔導が優雅に、しかし明らかに不満げに尋ねた。
森羅万象が穏やかに口を開く。
「魔導さん。あなたの最近の行動は、少し度が過ぎていますわ」
「度が過ぎている、ですと?」
「ええ。ご主人様への愛情は尊いものですが、天界に波動砲を撃ち込むのはいかがかと」
科学が端末を見ながら続ける。
「データ上、私情による破壊行為の頻度が急増しています。これは改善が必要です」
薬学が優しく微笑む。
「心の安定を欠いていると、周囲にも影響が出ますからね。少し反省された方がいいですよ」
慈愛が心配そうに手を合わせる。
「魔導さん、無理をしていませんか? ご主人様を想う気持ちは分かりますが、他の方を巻き込むのは……」
嫉妬が腕を組む。
「みんなで仲良くしましょう? 天界を壊したら、仲良くできないわよ?」
監視特化が淡々と。
「波動砲の使用回数、記録済みです。前回比で300%増です」
潜入特化が静かに付け加える。
「先回りして止めようと思いましたが、間に合いませんでした」
魔導は目を丸くした。
「……どの口がおっしゃるんですか?」
全員が「?」という顔をする。
魔導は扇子を閉じ、ゆっくりと続けた。
「森羅万象さん。あなたはご主人様の逃げ道に崖を増やしましたわね?」
「安全のためですわ」
「科学さん。寝返りを逃走兆候と断定して拘束したのはどちらですの?」
「データに基づく安全対策です」
「薬学さん。『愛情が深まる副作用』のある薬を勧めたのは?」
「負担軽減のためですよ」
「慈愛さん。《フルヒール》で回復させて、再拘束を可能にしたのは?」
「痛くないように、です♡」
「嫉妬さん。場を盛り上げてカオスを加速させたのは?」
「応援よ♡」
「監視特化さん。寝顔フォルダ三万件は?」
「記録です」
「潜入特化さん。先回りして逃げ道を塞いだのは?」
「仕事ですので」
魔導は深く息を吐いた。
「……皆様、ご自身のことは棚に上げて、わたくしだけを責めていらっしゃいますの?」
森羅万象が優雅に微笑む。
「いいえ。あなたに比べれば、わたくしたちはマシですわ」
「はあ!?」
科学が即答する。
「数値的に見て、魔導さんの破壊規模は突出しています」
「規模の問題ではありませんわ!」
薬学が穏やかに。
「私たちは、ご主人様の健康や安全を第一に考えていますから」
「わたくしもご主人様のためですわ!」
慈愛が優しく首を傾げる。
「でも、天界の方々を巻き込まない方法もありますよ?」
「どの口が! あなたたちこそ、ご主人様を毎日追い込んでいらっしゃるではありませんか!」
嫉妬が明るく手を叩く。
「でも魔導さんの方が目立つもの。目立たないようにしましょう♡」
「目立つから悪いのですか!?」
監視特化が記録する。
「『どの口が』発言を確認。自己正当化の傾向が強いです」
「あなたたちも同じですわ!!」
潜入特化が静かに。
「私たちは、ご主人様の視界に入りすぎないよう配慮しています」
「先回りして包囲している時点で配慮ではありませんわ!」
魔導は正座のまま、扇子で床を軽く叩いた。
「いいですこと? わたくしはただ、ご主人様への想いが溢れ出ただけですわ。皆様だって、毎日のようにご主人様の平穏を破壊していらっしゃるではありませんか!」
森羅万象が静かに頷く。
「ええ。ですが、あなたに比べればマシですわ」
「その『マシ』が一番腹立たしいですわ!!」
科学が眼鏡を直す。
「相対的に見て、魔導さんの行動は改善優先度が高いです」
「相対的に許されるものではありませんわ!!」
薬学が微笑む。
「まずは魔導さんから反省して、私たちも少しずつ改善していきましょう」
「順序が逆ですわ!!」
慈愛が心配そうに。
「魔導さん、怒らないでくださいね♡ 私たちはあなたのためを思って……」
「その『ためを思って』が一番信用できませんわ!!」
嫉妬が応援する。
「頑張って反省してね、魔導さん! 私も応援するわ♡」
「応援いりませんわ!!」
監視特化が追記する。
「説教中の抵抗発言、複数回確認」
「記録するな!!」
潜入特化が淡々と。
「このままではご主人様にも悪い影響が出ます。更生が必要かと」
「あなたたちこそ更生が必要ですわ!!」
魔導は正座のまま、天を仰いだ。
「……まったく。どの口が、どの口がおっしゃるんですか、皆様は……」
森羅万象が最後に優雅に締めた。
「とにかく、魔導さん。少しは自分の行動を振り返ってくださいませ。あなたに比べれば、わたくしたちはまだマシなのですから」
「その台詞、もう十回は聞きましたわ!!」
こうして、自分たちのヤンデレ具合を完全に棚に上げた説教が、しばらく続いた。
魔導は初めて、ツッコミ役に徹することになったのである。
*
【天界・ドミニオンズの詰め所】
「おーっほっほっほっ♡」
聞き覚えのある高笑いが、天界に響いた。
「まだまだ憂さ晴らしは終わっていませんわよ♡」
「……嘘だろ?」
瓦礫の中から顔を出したドミニオンズが、空を見上げた。
「ま、魔導! さっきヤンデレたちに呼び出されたのではなかったのか!?」
「ええ♡ 皆様から、ありがたいお話を伺ってまいりましたわ!」
「なら、なぜ戻ってきた!?」
「それとこれとは別ですもの♡」
魔導は両手を広げた。
「長様のお話は大変参考になりました。ですが、まだわたくしの気分が完全には晴れておりませんでしたので♡」
「反省していないじゃないか!!」
「失礼ですわね。わたくしはきちんとお話を聞いてきましたわ♡」
「聞いただけで何も変わっていないだろうが! 秩序ある反省というものを!」
「秩序より、わたくしのご機嫌の方が大切ですわ♡」
「そんな優先順位があるか!!」
魔導の周囲に再び魔力が集束する。
「うわあああああ!!」
波動砲が、再び天界を揺るがした。




