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主人公vsルシファー4 魔界、地上を巻き込んだ決戦になる

【魔界・王城・実況中継室】


「……おや?」


アスタロトの端末に、新しい通信が入った。


「地上側から映像回線の接続要求です」


ベリアルが眉を上げた。


「地上側? 誰からです?」


「監視特化様です。魔界側の映像を受信し、地上側にも同時配信したいとのことです」


ベリアルは一瞬黙り込んだ。


それから、ゆっくりと笑みを浮かべた。


「……なるほど。魔界だけでは飽き足らず、地上にもこの騒ぎを広げるつもりですか」


「接続を許可しますか?」


「もちろんです」


ベリアルは即答した。


「ここまで来たら、規模が大きい方が面白いでしょう」


「情報伝達の範囲が拡大しますね」


「そういうことです。決して、面白がっているわけではありません」


アスタロトはベリアルを見た。


「……その説明は、記録に必要でしょうか?」


「必要ありません!」


アスタロトは通信回線を開いた。


「こちら魔界側の実況中継室。地上側からの接続要求を確認しました。映像および音声の同期を開始します」


監視特化の声が返ってきた。


『こちら地上側、監視特化です。映像同期を確認しました』


「接続に問題はありません。地上側でも配信を開始できます」


『了解。地上側の配信準備を進めます』


ベリアルは椅子から身を乗り出した。


「せっかくですから、正式に合同実況としましょう。魔界と地上、両方に同時中継です」


「……役割分担が必要ですね」


アスタロトが淡々と言った。


「私が全体実況、ベリアルが戦況解説。地上側は映像管理と行動分析を担当していただきましょう」


『了解しました』


監視特化が応じる。


潜入特化の声が続いた。


『私は主人公の行動分析を担当します。戦闘の意図や動きについて、必要に応じて補足します』


『私は応援コメントを担当するわ♡』


嫉妬の声が明るく響いた。


ベリアルは目を閉じた。


「……最後の担当は、必要なんですか?」


『必要ですわ♡』


嫉妬は即答した。


「そうですか……」


アスタロトは書類に新たな項目を追加した。


「記録。魔界側と地上側の映像回線が接続。合同実況を開始。魔界側は実況と戦況解説、地上側は映像管理、行動分析および応援コメントを担当」


「決定が早すぎませんか?」


「すでに各担当者から承諾を得ています」


「応援コメントの人は、最初からやる気満々でしたけどね……」


ベリアルは苦笑した。


そして、映像へ視線を戻した。


「では、改めて始めましょうか」


*


【魔界・地上全土・合同実況中継】


『魔界および地上の皆様、改めてお伝えします』


アスタロトの冷静な声が、両世界へ同時に響き渡った。


『人類最強の主人公と、現魔王ルシファー。両者の決戦は現在も続いています。今回から地上側の映像回線も接続され、合同実況となりました』


「いやあ、まさか地上側まで合流するとは」


ベリアルが楽しそうに続けた。


「魔王城への殴り込みが、魔界と地上をまたぐ一大中継に発展するとは思いませんでしたね」


『発端は夜間生活に関する規則への抗議です』


「そこを毎回強調しないでください!」


『重要な背景情報ですので』


『こちら地上側、監視特化です。映像の同期は安定しています。魔界側の戦闘映像を地上側でも確認できます』


『行動分析を担当します、潜入特化です。主人公はルシファーの攻撃を受け流しながら、着実に間合いを詰めています。無闇に攻めているのではなく、相手の反撃を警戒しながら前進しているようです』


「なるほど。やはり主人公は冷静ですね」


ベリアルが感心したように頷いた。


『あれだけ怒っていても、戦闘判断は崩れていません。人類最強という評価にふさわしい戦い方です』


『ご主人様、頑張ってくださいませ♡』


嫉妬の明るい声が割り込んだ。


「……応援コメントが早い!」


ベリアルが思わず突っ込んだ。


『だって、応援したいんですもの♡』


『嫉妬様、コメントは戦況の説明が終わってからお願いします』


アスタロトが淡々と注意した。


『分かりましたわ♡ では、次の隙に応援しますわね♡』


「応援するタイミングを予約しないでください!」


魔界各地では、魔族たちが映像を見つめていた。


地上の街でも、人々が映像の前に集まり始めていた。


「魔界だけじゃなく、地上でも見られるのか!?」


「人類最強と魔王の決闘だぞ! 見ない理由がないだろ!」


「でも、これって本当に配信していいものなのか……?」


「魔界側が実況しているんだ。今さらだろう!」


魔界と地上の住民たちは、合同実況に釘付けになった。


【魔界・王城・大広間の外】


魔導は、実況の音声を聞きながら何度も頷いていた。


「なるほど……。ご主人様の動きには、一切の無駄がありませんわね♡」


科学が横から口を挟む。


「それはさっきも言っていたでしょう」


「ええ。ですが、何度見ても素晴らしいのですわ♡」


魔導は、主人公がルシファーの攻撃をかわした瞬間に身を乗り出した。


「今ですわ! ご主人様、そこから右へ踏み込んでくださいませ♡」


薬学が目を丸くした。


「ちょっと待って。戦闘中の主人公に聞こえるわけないでしょう?」


「気持ちを届けているのですわ♡」


「届いていないわよ!」


そのとき、エンジェルがバインダーを開いた。


「記録します。魔導様、戦闘映像に対して独自の指示を開始」


「指示ではありませんわ♡ 愛情を込めた助言ですわ♡」


「訂正します。独自の愛情を込めた助言を開始」


「だから、そのまま記録するな!!」


科学が頭を抱えた。


魔導は気にせず、さらに映像へ声をかけた。


「ご主人様、無理はなさらないでくださいませ♡ ですが、勝ってくださいませ♡」


薬学が呆れたように呟いた。


「結局、どっちなのよ……」


エンジェルはペンを走らせた。


「追記。魔導様の助言には、主人公の安全確保と勝利の両方が含まれている。優先順位は不明」


「不明じゃありませんわ♡ どちらも大切ですもの♡」


「……合理的な説明は難しいと判断します」


エンジェルは、そのまま記録を続けた。


*


【魔界・王城・大広間】


主人公の拳が、ルシファーの腕と激突した。


轟音。


床に亀裂が走り、衝撃波が大広間の柱を揺らした。


ルシファーは一歩後退した。


主人公は間髪入れずに追撃する。


「まだまだぁっ!」


拳が迫る。


ルシファーは身体をひねってかわし、そのまま主人公の懐へ踏み込んだ。


「甘い!」


鋭い一撃が放たれる。


主人公は腕を交差させて受け止めたが、その衝撃で床を滑った。


「……っ!」


それでも倒れない。


主人公は足を踏みしめ、再び前へ出た。


ルシファーの目が細くなる。


「なるほど。以前よりも、さらに迷いがなくなったようだな」


「当たり前だ!」


主人公は拳を握りしめた。


「俺は遊びに来たんじゃねえ! 自分の生活を取り戻しに来たんだ!」


「ならば、その怒りを俺にぶつけてみろ!」


二人が再び激突した。


*


【魔界・地上全土・合同実況中継】


『主人公が再び前進! ルシファーの防御を押し込み、間合いを詰めています!』


ベリアルの声が響く。


『対するルシファーは、主人公の勢いを利用して反撃に転じようとしている。両者とも、正面から一歩も譲りません』


『今の一撃、主人公の拳がルシファーの防御を揺さぶりましたね』


『ええ。ルシファー様も受け止めていますが、衝撃は相当なものです』


『それにしても、主人公の動機を考えると、なんとも複雑な戦いです』


『規則への抗議が、魔王との決闘に発展しましたからね』


『魔王様も、規則の撤回を先送りにした結果、魔界と地上の両方に戦闘を中継されることになるとは思わなかったでしょう』


『ベリアル』


『はい?』


『あなた、後でルシファー様に叱責されても知りませんよ』


『そのときは、そのときです』


『ずいぶんと覚悟が決まっていますね』


『ここまで来たら、最後まで見届けるのが礼儀でしょう』


『観戦するための理屈が、どんどん増えていますね』


『アスタロト、あなたも中継を止める気はないでしょう?』


『ありません』


『即答ですか!』


『今、停止すると視聴者から苦情が来る可能性があります』


『ルシファー様からの苦情は考慮しないんですか!?』


『そちらは後ほど対応します』


『後ほどで済むんですかねえ……』


ベリアルは笑いながら、再び映像へ視線を戻した。


『ともかく、今はこの歴史的な決闘を見届けましょう!』


魔界各地から歓声が上がった。


主人公を応援する者。


ルシファーの勝利を願う者。


純粋に戦いの行方を見守る者。


立場は違っても、誰もがこの決闘に釘付けになっていた。


*


【魔界・王城・大広間の外】


「始まりましたわ……♡」


魔導は扉の陰から、戦闘の様子を見つめていた。


主人公とルシファー。


人類最強と魔界の王。


その二人が、真正面から激突している。


「ご主人様が魔王と直接対決……。なんて素敵な光景なのでしょう♡」


魔導は両手を握りしめた。


「ご主人様、どうか思う存分戦ってくださいませ♡」


薬学は心配そうに目を細めた。


「……主人公、本当に大丈夫かしら」


彼女の視線は、主人公の動きから離れなかった。


「兵士たちを相手にしていたときは余裕があったけれど、相手はルシファーよ。無理をしすぎなければいいけれど……」


「主人公の身体能力なら、簡単には倒れないと思う」


科学は端末を操作しながら答えた。


「それに、今回の戦闘では目的がはっきりしている。規則の撤回と、自分の意思を認めさせること。主人公はそのために戦っているんだ」


潜入特化は、静かに主人公を見つめていた。


「……誰にも、自分の意思を奪わせない」


彼女は小さく呟いた。


「そのために、魔王にまで立ち向かう。……本当に、格好いい」


リリムは胸の前で手を組み、頬を赤らめていた。


「主人公様……♡ 魔王相手にも一歩も引かないなんて……!」


彼女は興奮を抑えきれない様子で、何度も頷いた。


「やっぱり、主人公様こそ私の運命の相手ですわ♡」


「あなたは少し静かにしてくださいませ」


魔導が小声で注意した。


「だって、こんな場面を見せられたら、黙っていられませんわ!」


「ご主人様の戦いを邪魔しないように、静かに見守るのですわ♡」


「……分かりましたわ」


リリムは口を閉じた。


しかし、その瞳は主人公を追い続けていた。


エンジェルはバインダーを開き、戦闘の記録を始めた。


「記録。主人公、魔王ルシファーと交戦開始。発端は夜間生活に関する規則への抗議。主人公は規則の撤回を要求。ルシファーは即時撤回を拒否し、直接対決へ移行」


ペン先が止まった。


エンジェルは戦う二人を見つめた。


「……ご主人様は、本当に怒っていらっしゃるのですね」


いつものように記録を取るだけでは、足りない気がした。


主人公は自分の生活を取り戻すために、魔界の王へ立ち向かっている。


その姿を、彼女は最後まで見届けるつもりだった。


「引き続き、戦闘の経過を記録します」


エンジェルは再びペンを走らせた。


*


【魔界・王城・大広間】


主人公の拳が、再びルシファーの腕と激突した。


轟音。


床に走った亀裂が、さらに広がる。


ルシファーは攻撃を受け止めながら、主人公の動きを見極めていた。


「……なるほど」


彼は低く呟いた。


「ただ怒りに任せているわけではないな」


「当たり前だ!」


主人公は拳を引き、即座に次の一撃を放った。


「俺は本気で怒っているんだ! だからこそ、ここで決着をつける!」


ルシファーはその攻撃を受け流し、反撃を繰り出した。


主人公は身をひねってかわし、すぐさま距離を詰める。


二人の攻防は途切れなかった。


どちらも相手の動きを読み、攻め方を変え、わずかな隙を探している。


人類最強と魔界の王。


その名にふさわしい戦いだった。


*


【魔界・地上全土・合同実況中継】


『主人公が再び攻勢に出ました!』


ベリアルの声が響く。


『ルシファーの反撃をかわし、間合いを詰めています。動きに無駄がない。怒りが判断力を損なっていないのは、驚くべき点ですね』


『ルシファー様も、主人公の攻撃を正面から受けるだけではありません。攻撃の軌道を見極め、反撃のタイミングを探っています』


『いやあ、両者ともに一歩も譲りませんね』


『ベリアル。解説に熱が入りすぎています』


『これで熱が入らない方がおかしいでしょう!』


『音量を調整しますか?』


『やめてください!』


アスタロトは何事もなかったかのように、映像を切り替えた。


『現在、魔界各地および地上側で視聴が続いています』


「視聴状況まで実況するんですか!?」


『重要な情報です』


「重要なのかなあ……」


ベリアルは首をかしげた。


しかし、すぐに真剣な表情へ戻った。


「……とはいえ、この戦いの結果は、単なる勝敗以上の意味を持つでしょうね」


『どういう意味ですか?』


「主人公が勝てば、ルシファー様は規則の問題を改めて考えざるを得ない。ルシファー様が勝ったとしても、主人公の抗議そのものが消えるわけではありません」


『つまり、勝敗だけでは問題は解決しない、と』


「その通りです。……まあ、今はまず決着がどうなるかを見届けましょう」


『ええ』


アスタロトは一瞬だけ、映像の中の二人を見つめた。


そして、いつもの淡々とした声で告げた。


『魔界と地上の皆様。決着は、まだついていません』


*


【魔界・王城・大広間の外】


魔導は主人公を見つめていた。


薬学は心配そうに、科学は分析するように、潜入特化は一心に。


リリムは祈るように両手を組み、エンジェルはバインダーに記録を続けている。


誰もが、主人公の行く末を見守っていた。


主人公は、自分の生活を取り戻すために魔王へ立ち向かっている。


その怒りは本物だった。


そして、その決意もまた揺らいでいなかった。


*


【魔界・王城・実況中継室】


「……さて」


ベリアルは、映像を見つめながら腕を組んだ。


「この決闘が終わったら、ルシファー様は我々に何とおっしゃるでしょうね」


アスタロトは記録用の書類を整理した。


「実況中継の許可を得ていなかった点について、指摘される可能性があります」


「可能性というより、確実でしょう」


「では、事前に説明資料を作成しておきます」


「何の説明をするんです?」


「魔界全土への情報伝達が必要だった理由です」


「……つまり、言い訳ですね?」


「説明資料です」


「名前を変えただけじゃないですか!」


アスタロトは平然と答えた。


「事実を整理しておけば、後の対応が容易になります」


ベリアルはため息をついた。


「あなた、本当にそういうところだけは抜かりがありませんね」


「記録係ですので」


「またそれだ!」


ベリアルは笑いながら映像へ目を戻した。


「……まあ、いいでしょう。怒られるときは一緒です」


「私はあなたほど楽しんではいません」


「その割には、回線を切ろうともしませんね?」


「中継の途中で停止する方が、記録上の問題になります」


「はいはい。そういうことにしておきましょう」


二人は並んで映像を見つめた。


画面の中では、主人公とルシファーが再び激突していた。


魔界と地上の住民たちが、次の一撃を待っている。


主人公の怒りが魔王へ届くのか。


それとも、ルシファーが再び人類最強の前に立ちはだかるのか。


決着は、まだついていなかった。


そして、その一部始終を、ベリアルとアスタロトは面白がりながら中継し続けていた。


魔王城の襲撃を止めることもなく。


魔王からの叱責を恐れる様子もなく。


ただし、後で怒られる可能性についてだけは、二人ともきちんと理解していた。


そのうえで、二人は中継を続けていた。


「……ベリアル」


「何です?」


「次は、主人公がどのような攻撃を繰り出すか予測してみてください」


「いいでしょう。では、私は戦況解説を続けます」


「記録しておきます」


「そこは記録しなくていい!」


魔界と地上の両方に、ベリアルのツッコミが響き渡った。


そして、決戦は続く。


*


【魔界・王城・実況中継室】


『……ところで、アスタロト』


「何でしょう、ベリアル」


『少し気になることがあるんですが』


「どうぞ」


『地上側の配信回線、いつの間にか接続先が増えていませんか?』


アスタロトは端末を確認した。


「……確かに。地上側から追加の音声回線が接続されていますね」


『誰からです?』


「リリム様です」


『……嫌な予感がしますね』


その直後、実況回線に甲高い声が割り込んだ。


『ちょっと待ってくださいませ!!』


ベリアルは額を押さえた。


「やっぱり来た……!」


『リリム様。現在、合同実況の進行中です。発言される場合は、順番をお待ちください』


アスタロトが淡々と告げた。


『そんなことを言っている場合ではありませんわ! 今回の騒動について、重大な訂正がありますの!』


『訂正?』


『はい! 今回の決戦は、主人公様がわたくしの愛を認めさせるために、魔界の王へ直談判に行かれた壮大な英雄譚ですわ!!』


沈黙。


魔界側も、地上側も、誰一人としてすぐには反応できなかった。


やがて、ベリアルが口を開いた。


『……はあ!?』


『主人公様は、わたくしとの夜の生活を守るため、魔界の王にまで直談判なさっているのです! これは愛の英雄譚! 歴史に残るべき出来事ですわ♡』


『いやいやいや! 常識的に考えて、ただの生活規則への抗議でしょう!? どこが愛の英雄譚なんだ!』


『主人公様の行動には、わたくしへの愛が表れているのですわ♡』


『どこに!?』


『主人公様が魔界まで来てくださったこと自体が、何よりの証拠ですわ!』


『抗議の相手が魔王だったから来ただけでしょうが!』


『照れ隠しですわ♡』


『都合のいい解釈にも程がある!!』


アスタロトは淡々と記録した。


「……リリム様による独断の美化報道を確認」


『独断ではありませんわ! これは歴史的事実です!』


『事実じゃなくて、あなたの願望でしょうが!』


ベリアルのツッコミが、魔界と地上の両方に響いた。


『ですが、リリム様の主張も、視聴者の皆様にとっては一つの見解として扱えます』


アスタロトが冷静に補足した。


『扱わなくていい!』


『情報の公平性を保つため、発言内容は記録しておきます』


『公平性を保つなら、ちゃんと否定してくださいませ!』


『否定することと、記録することは別です』


『ううう……! アスタロト様まで冷たいですわ!』


ベリアルは大きくため息をついた。


『……分かりました。ここまで来たら、最後まで中継するしかありませんね。魔界と地上の皆様、ただいまリリム様による独自解釈が入りましたが、決戦の発端はあくまで夜間生活に関する規則への抗議です』


『その説明は不要ですわ!!』


『必要です!』


【魔界・王城・実況中継室】


エンジェルは、通信回線から聞こえてきた一連のやり取りを、真剣な表情で記録していた。


「記録。リリム様、主人公の魔界襲撃について独自の解釈を提示。内容は、主人公がリリム様への愛を証明するために魔王へ直談判したというもの」


彼女はペンを止めた。


「……事実関係との相違について、確認が必要ですね」


その横で、魔導がうっとりと頷いた。


「ですが、主人公が愛のために戦っている可能性もありますわ♡」


「現時点では、主人公本人からそのような発言は確認されておりません」


「ご主人様は、わざわざ口に出さなくても行動で示される方ですわ♡」


「その解釈を採用すると、主人公の行動の大半が愛情表現として扱われることになります」


「素晴らしいことではありませんか♡」


エンジェルは数秒、考え込んだ。


そして、報告書に一行を追加した。


「参考意見。魔導様は、主人公の行動を愛情表現として解釈する傾向が強い」


「エンジェル、それは余計ですわ♡」


「事実ですので」


魔導は微笑んだまま、映像に視線を戻した。


「ご主人様……♡ どうか、私たちのためにも勝利してくださいませ♡」


「……魔導様」


「何でしょう?」


「今の発言も、記録してよろしいでしょうか?」


「もちろんですわ♡」


エンジェルは、ためらいなく書き加えた。


「追記。魔導様、主人公の勝利を希望。理由は複数存在する可能性があるが、本人への確認は未実施」


「……最後の一文は必要ですか?」


「報告書の正確性を保つためです」


魔導は満足そうに頷いた。


「さすがエンジェル。記録係として優秀ですわ♡」


「ありがとうございます。なお、魔導様の評価も記録しておきます」


「そこまで記録しなくていいですわよ!?」


珍しく魔導が慌てた。


エンジェルは、静かにペンを走らせた。


*


【現実世界・主人公の屋敷・監視室】


「……リリム、いつの間に回線に入ったの?」


科学が端末を操作しながら呟いた。


「監視回線の接続先を利用したみたいね。映像の中継に便乗して、音声だけ割り込んできたんだと思う」


監視特化は画面を確認した。


「回線の遮断は可能です。ただ、魔界側の合同実況そのものに影響が出る可能性があります」


薬学は眉間を押さえた。


「どうして、真面目に戦況を見守ることすらできないのかしら……」


魔導は頬に手を当てた。


「でも、ご主人様が主人公らしく戦っていらっしゃることは、間違いありませんわ♡」


「それとリリムの主張は別の話でしょう」


薬学が即座に突っ込んだ。


潜入特化は映像を見つめたまま言った。


「……戦闘の分析を続けましょう。今は主人公の動きを見逃すわけにはいかない」


「そうね」


科学は画面を切り替えた。


「主人公はルシファーの反撃を受け流しながら、少しずつ攻勢を強めている。戦況に大きな変化はないけど、どちらも相手の動きに対応し始めているね」


嫉妬はメガホンを持ち直した。


「ご主人様、頑張ってくださいませ♡」


「嫉妬、コメントは順番を守って」


潜入特化が注意した。


「分かっているわ♡ 今は応援の準備をしているだけよ!」


「準備って何よ……」


薬学は深々とため息をついた。

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