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花占い

# 番外編――花占いと神のお告げ


【現実世界・主人公の屋敷・庭】


午後の陽射しが穏やかに差し込む庭で、リリムは一輪の花を手に、真剣な表情で花びらを一枚ずつ摘んでいた。


「主人公様と結ばれる……結ばれない……結ばれる……結ばれない……」


最後の一枚が落ちる。


「……結ばれない」


リリムは固まった。


「……もう一度ですわ♡」


別の花を手に取り、再び摘み始める。


「結ばれる……結ばれない……結ばれる……結ばれない……」


「……結ばれない」


「…………」


三輪目。四輪目。五輪目。


結果はすべて同じだった。


結ばれない。


結ばれない。


結ばれない。


さすがのリリムも、顔色を失っていた。


その様子を見ていた主人公は、深刻な表情で口を開いた。


「……リリム」


「な、なんですの、主人公様……?」


「俺たち……別れよう」


「…………え?」


リリムは耳を疑った。


「だ、だって……」


主人公はリリムの手にある花を指差した。


「何度占っても、俺たちは結ばれないって結果が出てるんだろ? 神のお告げなんだろ? だったら、仕方ないじゃないか」


「……主人公様……」


リリムは震える手で花を見つめた。


「そ、そうですわね……。神様のお言葉には逆らえませんもの……」


「……ああ」


しばらくの沈黙。


しかし、主人公が本当に背を向けた瞬間、リリムは慌ててその腕を掴んだ。


「ま、待ってくださいませ!!」


「……なんだ?」


「本当に別れるおつもりですの!?」


「いや、だって花占いの結果が……」


「い、嫌ですわ!! 主人公様と別れるなんて、絶対に嫌ですわ!!」


リリムは涙目になりながら、主人公の腕にしがみついた。


「花占いなんて信じませんわ! 主人公様と結ばれない未来なんて、絶対に認めませんわ!!」


「いや、さっきまで神のお告げだから仕方ないって言ってただろ!?」


「それは……その……! 神様だって間違えることくらいありますわ!!」


「お前、さっきまで神のお告げに従うって言ってたじゃないか!?」


「主人公様と別れるくらいなら、神様だって信じませんわ!!」


「都合がよすぎるだろ!!」


リリムは主人公の服をぎゅっと握り締め、ついに声を上げて泣き出した。


「ひどいですわ……! わたくし、主人公様に会うために段ボールの中に入ったり、新聞の押し売りと間違えられたり……魔王様に何度も土下座したり……色々大変だったんですのよ!? それなのに、花占い一つで別れようだなんて……!」


主人公は一瞬、言葉を失った。


「……あ」


「玄関で門前払いされて、フィギュアの箱に隠れて配送されて、開けたのは主人公様じゃなくて魔導たちで……! わたくし、どれだけ頑張ったと思っているんですの……!」


そのとき、庭の木陰から声がした。


「実況を開始します♡ 現在、リリムの涙の訴えにより、主人公が謝罪。頭を撫でる動作を確認」


監視特化がタブレットを構え、淡々と配信を続けていた。


その隣でアスタロトが眼鏡を光らせ、元気よく突っ込んだ。


「ちょっと待った! 段ボールに入るのも、フィギュアの箱に隠れるのも、新聞の押し売りに間違えられるのも、全部自分でやったことでしょうが! 自業自得ですよ、それ!」


「そこを突っ込むな!」


ベリアルも腕を組んだまま、冷静に解説した。


「リリムの苦労は事実です。しかし、その原因の一部は本人の無謀な行動にあります。同情すべき点はありますが、全面的な被害者とは言えませんね」


「二人とも味方じゃないの!?」


嫉妬がメガホンを手に、明るく実況を被せる。


「おおっ! 主人公様がリリムを慰めてるわよ♡ いい雰囲気! みんなで応援しましょう! 頑張れリリム! 頑張れ主人公様!」


「そこで両方を応援するな!」


リリムは涙を拭った後、ふっと表情を鋭くした。


「それに……いいですこと、主人公様。神のお告げを理由に別れようとしていましたわよね?」


「……ああ」


「主人公様たちはドミニオンズの秩序法則を契約の文言で縛り、ケルビムの情報優位をエンジェルの記録と執行で崩し、スローンズの行動固定を薬学の侵食で崩し、セラフィムの聖炎を森羅万象と協力して意識喪失させ、三大天使の連携すら近接で崩し、ミカエルとも渡り合ってきたんですわよね?」


主人公は無言になった。


「それなのに、さっきまで神のお告げを理由にわたくしと別れようとしていたのは、いったいどの口ですの!?」


「…………」


「神の軍勢を倒すのはよくて、花占いの結果には従うんですの? 神様に対する態度が都合よすぎませんこと!?」


主人公は完全に黙り込んだ。


「そもそも、神のお告げを信じるのでしたら、これまで倒してきた神の軍勢はいったい何だったんですの!?」


「…………」


「さらに言いますわ。魔王様が『夜の生活についても認める必要がある』と正式に通達なさったのに、そんなことをおっしゃるんですか? これは外交問題ですわよ!?」


「……外交問題、か」


「はい♡ 魔王様の方針を無視すれば、魔界側がどう出るか分かりませんもの!」


アスタロトが勢いよく付け加えた。


「確認します! 魔王通達は正式文書として残っています! これを無視したら外交問題になる可能性は十分ありますよ! ただし、そもそもリリムがここまで来た経緯も問題なんですけどね!」


「お前はどっちの味方なんだよ!」


ベリアルが眼鏡を押し上げた。


「リリムは、主人公の戦歴を持ち出して発言の矛盾を突き、さらに魔王の正式通達を外交問題として提示しました。感情論だけでなく、実績と公的文書を組み合わせた見事な反撃です」


「なんで口論を戦術分析みたいに解説してるんだよ!」


エンジェルがバインダーを開いた。


「記録します♡ リリム様、神の軍勢撃破歴を根拠に主人公様の矛盾を指摘。さらに魔王通達を提示し、外交問題へと発展させました♡」


リリムは主人公をじっと見つめた。


「……何か反論はありますの?」


「…………」


「ありませんわよね♡」


主人公は長く沈黙した後、小さく呟いた。


「……そうだな。外交問題は大事だな」


「ですわよね♡」


「……とりあえず、今は別れないことにする」


「主人公様♡♡♡」


リリムが嬉しそうに抱きついてくる。


「離れてくれ」


「いえ♡ 謝罪もしてくださったのですから、もっと近くで感謝を述べさせてくださいませ♡」


「その感謝の仕方をやめろ!」


そのとき、エンジェルがバインダーを閉じ、リリムと目配せした。


「リリム様。主人公様は『都合のいい神のお告げ利用』に加え、『外交問題未遂』まで引き起こしかけましたわね♡」


「そうですわね♡」


「よって、適切なお仕置きが必要かと」


「同意しますわ♡」


二人は同時に主人公を見た。


「は? 制裁?」


エンジェルがバインダーを開く。


「執行します♡ 『都合のいい神のお告げ利用』および『外交問題未遂』に対するお仕置きですわ♡」


リリムがにこやかに腕を組む。


「わたくしも協力しますわ♡ まずは夜の生活の……特別枠から、ですね♡」


「待て待て待て! 結託するな!!」


監視特化が淡々と締めた。


「配信を継続します。現在、リリムとエンジェルの共同制裁が開始。逃走経路は封鎖済みです」


アスタロトが眼鏡を光らせ、元気よく宣言した。


「補足します! 共同制裁の成功率は極めて高いです! 主人公の拒否権は現状、機能していません! というか、ここまで来たらもう何を言っても無駄ですよ!」


ベリアルが腕を組んだまま、最後に一言だけ付け加えた。


「花占いから始まった話が、最終的には主人公への制裁に着地しましたか。……リリムの勝ちですね」


「勝ち負けじゃないだろ!!」


嫉妬がメガホンを振った。


「みんなで仲良くやりましょう♡ 制裁も愛情のうちよ! 応援してるわ!」


「応援しなくていいからぁぁぁぁ!!」


主人公の悲鳴が、穏やかな午後の庭に響き渡った。

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