10pの夢を見た主人公 もうヤンデレは嫌だ
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# 番外編――夢の中のハーレム建設と、その翌朝
【王国・主人公の屋敷・朝のリビング】
朝食後。
主人公はソファに座り、深刻な顔で呟いた。
「……昨夜、夢を見たんだ」
エンジェルが音速でバインダーを開いた。
「主人公様の夢の記録! 新規案件ですね♡」
「案件にするな! ただの夢だろ!」
「夢の内容は?」
「まだ聞いてないだろ!」
魔導が扇子を広げ、楽しそうに微笑んだ。
「まあまあ。せっかくですから、聞かせていただきましょう。どんな夢でしたの?」
「夢の中で俺は思ったんだ。ヤンデレは嫌だ、もっと普通のハーレムがいいって」
ピタッ。
全員の動きが止まった。
魔導の扇子が閉じる。
エンジェルのペンが止まる。
二人はゆっくりと顔を見合わせた。
「……エンジェル」
「はい、魔導様」
「今の発言、記録しましたわね?」
「もちろんです♡ 証拠確保済みです」
「おい。何の証拠だ」
「続きをどうぞ♡」
二人の声が重なった。
主人公は嫌な予感を覚えた。
「……夢の中で、まず可愛い女の子を集めたんだ」
「何人ですの?」
魔導が身を乗り出す。
「覚えてない」
「なるほど。人数を把握できないほどの大規模ハーレム……」
エンジェルが書き込んだ。
「違う! そういう意味じゃない!」
「対象人数、不明。本人、説明を拒否」
「拒否してない!」
「では、続きをどうぞ♡」
「お前のバインダーは裁判所か!」
魔導が扇子で口元を隠した。
「それで? 可愛い女の子を集めた後は?」
「男子も加えた」
「……男子?」
リリムの声が低くなる。
「いや、夢の中でそういう流れになったんだよ!」
「夢の中の主人公様は、性別の壁を越えたのですね♡」
エンジェルが目を輝かせた。
「記録を訂正します。『恋愛対象の選定基準、拡張傾向あり』」
「そんな分析をするな!」
「では、猫は?」
魔導が続けた。
「……猫も加えた」
「まあ!」
魔導が勢いよく立ち上がった。
「人間だけでは飽き足らず、猫まで愛の輪に迎え入れたのですわね♡」
「美談にするな! ただの夢だろ!」
「犬もですか?」
エンジェルが尋ねる。
「犬も加えたよ!」
「猫派と犬派の対立を解消する、画期的なハーレム構想……!」
「違うからな!?」
科学が眼鏡を押し上げた。
「人間、男子、猫、犬……対象選択の基準が一貫していませんね」
「夢なんだから仕方ないだろ!」
薬学が静かに手を挙げた。
「念のため、睡眠前の摂取物を確認したいのですが」
「何も飲んでない!」
監視情報が続けた。
「夢を見た時刻は?」
「知らん!」
潜入特化が真顔で尋ねた。
「犬と猫は、本当に犬と猫だったのでしょうか? 変装した誰かの可能性は?」
「夢にまで潜入工作を持ち込むな!」
主人公が頭を抱える。
その間にも、魔導とエンジェルは二人で何やら相談していた。
「魔導様。これは夢の再現が必要ですね」
「同感ですわ。本人の証言だけでは、ハーレム建設の全容が分かりませんもの♡」
「再現魔法を準備します」
「私は出演者名簿を作成しますわ」
「待て。今、何て言った?」
「夢の再現ですわ♡」
「出演者名簿です♡」
「やめろぉぉぉ!!」
森羅万象が静かに紅茶のカップを置いた。
「……それで、結局どうなったのですか?」
主人公は遠い目をした。
「気づいたら、10Pになってた」
…………。
空気が凍りついた。
魔導の扇子が、手から滑り落ちた。
エンジェルのペンが、バインダーを突き破る勢いで紙に突き刺さった。
二人は、ゆっくりと主人公を振り返った。
「……エンジェル」
「はい、魔導様」
「今の部分は、太字で」
「承知しました♡」
「太字にするな!!」
魔導が主人公の前に立った。
「つまり、女の子を集め、男子を加え、猫と犬まで迎え入れた結果……」
エンジェルが横から補足する。
「最終的に10Pへ到達した、と」
「言い方を変えても事実は変わりませんわね♡」
「変えなくていい! 夢なんだから!」
魔導は、ふっと笑みを深めた。
「では、夢の中では何と叫んでいらしたのです?」
「……それは」
「さあ、正確にお願いします♡」
エンジェルが録音用の魔法具まで取り出した。
「何で録音する準備までできてるんだよ!」
主人公は観念したように目を閉じた。
「『10Pしたい! 10Pしたいぃぃぃ!!』って……」
「…………」
「それで、『俺はハーレムを作るんだ! ヤンデレは嫌なんだぁっ!!』って、何度も叫んでた」
沈黙。
十三人分の視線が、主人公に突き刺さる。
魔導は笑っていた。
エンジェルも笑っていた。
二人とも、目だけがまったく笑っていなかった。
「……いや、夢だからな?」
「ええ、分かっておりますわ♡」
魔導が優しく頷いた。
「夢の中の願望を、現実で実現したいとは限りませんものね♡」
「そうそう! 分かってるじゃないか!」
「ですから、夢の内容を現実で再現して、本人の反応を確認しましょう」
「何も分かってない!!」
エンジェルが勢いよくバインダーを掲げた。
「では、臨時企画を発表します! 題して――『主人公様の夢を再現しよう♡ 普通のハーレム検証会』!」
「却下!!」
「第一段階、可愛い女の子を集めます♡」
「やめろ!」
「第二段階、男子を追加!」
「追加するな!」
「第三段階、猫と犬を配置!」
「配置するな!」
「第四段階――」
「最終段階を言うなぁぁぁ!!」
魔導が扇子を広げ、優雅に宣言した。
「ご安心くださいませ。夢の再現にあたり、私が魔法で舞台を整えますわ♡」
「お前の魔法が一番危ないんだよ!」
「ご希望なら、夢の中で叫んでいらした台詞も再現いたしますわ」
「台詞まで再現するな!」
「『10Pしたい!』でしたわね♡」
「復唱するなぁぁぁ!!」
主人公はソファに崩れ落ちた。
「……俺はただ、夢を見たって話をしただけなのに……」
魔導がしゃがみ込み、主人公の顔を覗き込む。
「次は、どんな夢をご覧になりたいですか?」
「もう夢なんか見たくない!」
エンジェルが即座に書き留めた。
「新規記録。主人公様、夢の継続を拒否。夢に対する抵抗感あり」
「それも記録するな!」
「次回の企画に反映します♡」
「企画を続けるなぁぁぁ!!」
魔導は扇子を閉じ、エンジェルに微笑みかけた。
「では、最後に夢の再現に必要なものを用意いたしましょうか♡」
「承知しました。出演者の準備ですね♡」
「ええ。まずは、猫と犬からですわ」
「……は?」
主人公が顔を上げた瞬間だった。
魔導が床に扇子を向ける。
足元に、淡い光を放つ巨大な魔法陣が浮かび上がった。
「ちょっと待て。何をする気だ?」
「夢の再現に必要な準備ですわ♡」
「その言い方が一番信用できないんだよ!」
魔法陣がぱあっと輝いた。
ぽんっ!
「にゃーん」
「わんっ!」
光の中から、猫と犬が一匹ずつ現れた。
猫は優雅に尻尾を立て、犬は元気よく主人公の足元へ駆け寄る。
魔導は満面の笑みで両手を広げた。
「さあ、主人公様。どうぞ♡」
「どうぞじゃねえよ!!」
主人公は思わず立ち上がった。
「本当に召喚しやがった……!」
猫はソファに飛び乗り、主人公の隣に丸くなった。
犬は主人公を見上げ、尻尾をぶんぶん振っている。
魔導が、わざとらしく首を傾げた。
「では、こちらの猫と犬はお気に召しませんでしたか?」
「いや、その……」
主人公は猫を見た。
猫は気持ちよさそうに目を細めている。
次に犬を見た。
犬は期待に満ちた目でこちらを見上げていた。
「……かわいい」
「まあ♡」
魔導の顔が輝いた。
「早くも愛着が芽生えたようですわね!」
「いや、かわいいのは事実だろ! でも、これは夢の再現とは別の話で――」
エンジェルが猛烈な勢いで書き込んだ。
「追加記録。主人公様、猫と犬の容姿を肯定。夢の再現に対する関心が認められます♡」
「その結論に至る過程が理解できない!」
「つまり、猫と犬の参加は問題なし、と」
「違う! ……いや、猫と犬に罪はないけど!」
「ほら、問題ありませんわね♡」
「俺の発言を都合よく切り取るな!」
主人公は額を押さえた。
もう何を言っても、彼女たちに都合よく解釈される気がした。
しかし、本当の悪夢はここからだった。
「……待て。思い出した。猫と犬だけじゃなかった」
全員が注目する。
「ボールペンも加わった」
「…………は?」
魔導の扇子が止まる。
「それからサッカーボールも」
「……はあ?」
「さらに、クッションと、なぜか冷蔵庫のドアも……」
エンジェルの笑顔が引きつった。
「主人公様?」
「気づいたら、机の上のホッチキスまで輪に加わってて……最後は『10Pしたい!』って叫びながら、ボールペンとサッカーボールに囲まれてた」
…………。
今度こそ、誰も言葉を発しなかった。
科学が眼鏡をゆっくり押し上げた。
「……対象選択の基準が、完全に崩壊していますね」
薬学が静かに頷いた。
「精神的負荷というより、夢の構造自体が危険です」
リリムが額を押さえた。
「ボールペンとサッカーボール……? 主人公様、夢の中で何をなさっていたんですの……」
魔導は、しばらく黙っていた。
やがて扇子を閉じ、真剣な顔で頷いた。
「なるほど……。猫と犬だけでは足りず、文房具とスポーツ用具まで愛の輪に迎え入れたのですわね♡」
「違う。今の説明で何を理解したんだ……」
主人公の声から、先ほどまでの勢いが消えた。
エンジェルが震える手でバインダーを開く。
「追加記録。対象にボールペン、サッカーボール、クッション、冷蔵庫のドア、ホッチキスを確認。愛の対象範囲、無限大に拡張中♡」
主人公は、しばらくエンジェルを見つめた。
「……もういい。好きに記録してくれ」
「はい♡ ご本人から許可をいただきました!」
「許可してねえよ! ……いや、もういいんだ。俺が悪かった」
「主人公様!?」
魔導が目を輝かせた。
「夢の再現を認めてくださるのですね♡」
「どうしてそうなるんだ……」
主人公は天井を仰いだ。
もう、何も考えたくなかった。
ところが。
「では、夢の再現を正確にするため、追加召喚を行いますわ♡」
「……好きにしてくれ」
「承知しました♡」
「待て。今のはそういう意味じゃ――」
ぽんっ! ぽんっ! ぽんっ!
光の中から、ボールペン、サッカーボール、クッション、さらには小さなホッチキスまで次々と現れた。
ボールペンは机の上を転がり、サッカーボールは主人公の足元で跳ね、クッションはソファに着地する。
ホッチキスは、なぜかカチカチと音を立てていた。
主人公は、その光景を無言で見つめた。
「……夢って、怖いな」
「主人公様?」
「いや、何でもない。俺は今、夢と現実の区別について深く考えているんだ」
「なるほど。夢の再現によって、哲学的な境地に到達されたのですね♡」
「違う。もういい……」
魔導が満足げに扇子を広げた。
「夢の再現、第二段階完了ですわ♡」
「完了させるな……」
「ボールペンもサッカーボールも、主人公様の夢の中では大切なパートナーだったのでしょう?」
「パートナーじゃねえよ……ただの物体だろ……」
エンジェルが記録を続ける。
「対象の多様性を確認。種族・性別・物品の壁を完全に超越したハーレム構想、完成度高し♡」
「……もう、何でもいいよ」
「主人公様、ついに受け入れたのですね♡」
「受け入れてない……」
そのとき、森羅万象が静かに立ち上がった。
「……そろそろ、整えましょう」
「え?」
魔導が振り返る。
森羅万象は淡い光を手のひらに集めた。
「召喚された動物たちと物品を、元の状態に戻します」
光が広がり、猫、犬、ボールペン、サッカーボール、クッション、ホッチキスが、静かに光の粒となって消えていった。
「あ……」
魔導が少し残念そうに扇子を閉じた。
「せっかく召喚したのに……」
主人公は、空になったソファと机を見つめた。
「……助かった。ありがとう、森羅万象」
「いえ、お気になさらず」
森羅万象は穏やかに微笑んだ。
そして、主人公へ視線を向けた。
「ところで、主人公様」
「……何だ?」
「今の夜の生活に、何か不満があるのではありませんか?」
「……は?」
主人公の顔から血の気が引いた。
「夢の中で、これほどまでに対象を広げてハーレムを建設しようとした。それは、現状への不満の現れではないでしょうか」
「違う! ただの夢だぞ!!」
エンジェルが即座にバインダーを開いた。
「記録。森羅万象様の分析により、主人公様の現状不満を確認♡」
「確認するな!!」
魔導が扇子を広げ、にっこりと微笑んだ。
「なるほど。では、夜の生活を改善する必要がありますわね♡ 主人公様、今夜は私とじっくり――」
「待ちなさい」
静かな声が、その場に響いた。
魔導の動きが止まる。
振り返ると、森羅万象がいつもの穏やかな笑みを浮かべていた。
「……何ですの、森羅万象?」
「魔導。少し、話があります」
「今は主人公様との大切な時間ですわ♡」
「ええ。ですから、なおさらです」
森羅万象は主人公へ視線を向けた。
主人公は魔導に腕をつかまれたまま、必死に助けを求める目をしている。
森羅万象は小さく頷いた。
「皆さん、最近、主人公様をトレーニングさせていませんよね?」
「……え?」
主人公の顔が引きつった。
「体力が有り余っているから、余計なことを考えるのです」
「待て。どうしてそういう結論になるんだ?」
森羅万象は、にっこりと微笑んだ。
「夢の中でハーレムを建設するほど、暇を持て余しているのでしょう。ならば、身体を動かしていただくのが一番ですわ」
「いや、夢とトレーニングは関係ないだろ!」
「関係あります。少なくとも、私の判断では」
「その判断がおかしいんだよ!」
魔導が扇子を広げ直した。
「なるほど……確かに、最近は主人公様との時間を優先して、トレーニングは後回しになっていましたわね」
「お前まで納得するな!」
森羅万象は静かに手を掲げた。
足元に、淡い光を放つ巨大な魔法陣が広がる。
「それでは、皆さん。場所を移しましょう。今回はトレーニングです」
「……どこへ?」
科学が尋ねた。
「障害物がなく、思い切り身体を動かせる場所です」
主人公は、ゆっくりと周囲を見回した。
魔導。エンジェル。森羅万象。科学。薬学。監視特化。潜入特化。格闘特化。腰振りスペシャリスト。拷問特化。慈愛。嫉妬。そしてリリム。
全員が、何の疑問もなく準備を始めていた。
「……まさか、全員でやる気か?」
「もちろんですわ」
森羅万象が微笑んだ。
「全員、転移します」
「待て。俺はまだ参加するなんて一言も――」
主人公は魔導の腕を振りほどき、魔法陣の外へ走り出そうとした。
しかし、足元が光った。
「なっ!?」
「逃げても無駄ですわ、主人公様♡」
魔導の声が背後から響く。
「ちくしょう! こうなったら――!」
主人公が全力で跳躍した、その瞬間。
「転移開始」
森羅万象の声とともに、魔法陣がまばゆい光を放った。
「うわあああああ!!」
次の瞬間、リビングにいた全員の姿が消えた。
*
【王国・広大な平野】
風が吹き抜ける、見渡す限りの平野。
草原の中央に、主人公とヤンデレたちが転移してきた。
「……ここは?」
主人公は周囲を見回した。
森羅万象は満足げに頷いた。
「よい場所ですね。これなら、屋敷を壊す心配もありません」
「屋敷を壊す前提で話すな!」
監視特化が端末を操作した。
「国民向けの映像配信を開始します。リアルタイムで全国に中継しますね」
「……は?」
主人公の動きが止まった。
「今、何て言った?」
「全国中継です」
「どうしてだよ!?」
潜入特化がマイクを構えた。
「実況を開始します」
嫉妬が元気よく手を挙げる。
「コメントも全力でいきます♡」
リリムも腕を組んで隣に立った。
「私もコメント側で参加しますわ」
「待て待て待て! 何で観客まで用意されてるんだ!?」
科学は端末を起動した。
「攻撃開始のタイミングを同期させます」
「同期させるな!」
薬学は薬箱を開き、必要な薬剤を確認した。
「……今回は、治療薬を多めに用意しておきましょう」
「何を想定してるんだよ!」
格闘特化は拳を鳴らした。
「久しぶりの実戦形式だな!」
腰振りスペシャリストは肩を回す。
「広い場所なら、衝撃波も遠慮なく撃てるな」
拷問特化は工具箱を地面に置いた。
「拘束具も持ってきたぞ」
主人公は思わず後ずさった。
「……トレーニングって、普通はもっとこう……走ったり、筋トレしたりするものじゃないのか?」
慈愛が優しく微笑んだ。
「大丈夫ですよ、主人公様。皆さん、手加減はしてくださるはずです」
主人公は、最後の希望を込めて森羅万象を見た。
「……手加減するんだよな?」
森羅万象は穏やかに頷いた。
「もちろんです。ただし、全員が同時に攻撃しますので、個々の加減が全体としてどうなるかは保証できません」
主人公は、しばらく森羅万象を見つめた。
「……なるほど」
「ご理解いただけましたか?」
「いや、分かった。お前たちに常識を期待した俺が間違っていた」
主人公は深く息を吸った。
そして――全力で走り出した。
「逃げるぞぉぉぉ!!」
「主人公様、そちらは平野の端ですわ♡」
魔導が楽しそうに告げる。
「逃走経路はすでに封鎖済みです」
科学が淡々と報告した。
「いつの間に!?」
主人公が振り返ると、ヤンデレたちが扇状に広がり、退路を塞いでいた。
エンジェルがバインダーを掲げる。
「記録します! 『主人公様、トレーニング開始前に逃走を試みるも、失敗』」
「まだ始まってもいねえだろ!」
森羅万象が穏やかに告げた。
「準備は整いましたね」
「整ってない! 俺の心の準備が全然整ってない!」
魔導が扇子を閉じた。
「では、主人公様。夢の中で培われたハーレム建設への情熱を、今度は体力向上へ向けていただきましょう♡」
「そんな情熱はもう消えた!」
森羅万象が手を掲げる。
「――一斉攻撃、開始」
次の瞬間。
平野を埋め尽くすほどの魔法と衝撃が、一点へ集中した。
*
【王国各地・国民の反応】
突然始まった全国中継に、街中の人々が足を止めた。
カフェの大型モニター、広場の街頭ビジョン、家庭のテレビ。どこも同じ映像を映し出している。
「うわ、すげえ……これ映画か何か?」
「いや、生中継だって! 主人公様がヤンデレの方々に囲まれてる!」
「主人公頑張れ! 逃げ切れ!」
「いや、ヤンデレ様たちも頑張って! あの包囲網、すごすぎるだろ!」
「どっちを応援すればいいんだよ!?」
「両方だろ! こんな映像、滅多に見られないぞ!」
街頭ビジョンの前では歓声が上がり、家庭では録画を始める者が続出した。
主人公にとっては人生最大の危機。
国民にとっては、見逃せない娯楽だった。
*
【広大な平野】
轟音と閃光が収まると、主人公はその場に倒れていた。
草原には煙が立ち上り、周囲ではヤンデレたちが満足げに頷き合っている。
監視特化が端末を確認した。
「映像、大成功です。視聴者数は過去最高を記録。応援コメントも殺到しています」
「成功って……何がだよ……」
潜入特化がマイクを向ける。
「実況終了。主人公様は現在、完全にダウンしています」
「実況を締めるな……俺はまだ……」
主人公は腕を動かそうとしたが、指先すら動かなかった。
嫉妬が笑顔で手を振った。
「いいトレーニングだったわね♡」
リリムも満足げに頷く。
「覚醒した力を試すには、なかなか良い機会でしたわ」
森羅万象が微笑んだ。
「よいトレーニングでしたね」
魔導が扇子を広げる。
「記録上も、十分な運動量が確認できました」
エンジェルはバインダーを閉じた。
「本日の記録。主人公様、全員参加型トレーニングを完遂。今後も定期的な実施を検討♡ 配信も継続予定」
「……完遂してねえよ……」
主人公は、かすれた声で抗議した。
「次回なんかあるか……配信もするな……」
しかし、誰も聞いていなかった。
森羅万象は科学と次回のトレーニング内容について相談し、監視特化は配信データを保存し、エンジェルはすでに次回の記録用紙を準備している。
主人公は力なく空を見上げた。
夢の中で普通のハーレムを築こうとしただけだった。
それなのに、朝から夢を分析され、動物や文房具まで召喚され、最終的には平野へ転移させられて全員から一斉攻撃を受け、国民にまで配信された。
「……俺はただ……普通に……」
言葉が途切れた。
エンジェルは、最後に一行を書き加えた。
**『追記。主人公様、トレーニング後に疲労を訴える。次回は負荷を調整し、さらなる体力向上を目指す♡ 配信も継続予定。国民の応援を励みに』**
「……次回なんか……あるかぁぁぁ……」
主人公の叫びが、広大な平野にむなしく響き渡った。




