神が与えた最後の呪い
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主人公には、特殊な能力があった。
その名も「夜の生活力」。
主人公がヤンデレたちの要求を本気で受け止め、夜の生活で彼女たちを満たすことで、彼らを一時的に説得できる能力だった。
しかし、効果は長続きしない。
一時的に満足しても、ヤンデレたちは再び主人公を求める。
主人公の愛情が深まるわけでもない。
逃げたいという気持ちが消えるわけでもない。
彼にとっては、終わりのない時間稼ぎにすぎなかった。
一方、ヤンデレたちにとっては、主人公が自分たちを受け入れてくれた証拠だった。
夜の生活が終わった直後、屋敷の広間は熱気に包まれていた。
魔導のヤンデレが杖を抱きしめ、頬を赤らめて呟く。
「ご主人様の夜の生活力……今までで一番ですわ♡ 魔法で余韻を永遠に固定しておきたい……♡」
(この感覚を失いたくない。結界を張って、ご主人様を閉じ込めてしまえば、何度でも味わえるのに……)
慈愛のヤンデレは優しく主人公の髪を撫でながら、聖母のような微笑みを浮かべた。
「傷一つありませんわ♡ でも、ご主人様が私たちを満たしてくださった証拠……この体に残る温もり、大切にしますわね♡」
(ご主人様のすべてを癒やし、すべてを受け止める。夜が明けても、私がそばにいれば安心ですもの……永遠に)
科学のヤンデレがタブレットを確認しながら、眼鏡を光らせた。
「数値、すべて過去最高ですわ♡ このデータがあれば、次回の夜の生活をさらに最適化できます。ご主人様の反応パターン、完璧に解析しましたわ」
(逃げられても、すぐにこの力を引き出して満足させてあげられる。データは私だけのもの……♡)
監視のヤンデレはカメラを手放さず、満足げに頷いた。
「すべて録画済みですわ♡ ご主人様が私たちを優先してくださった瞬間……何度でも見返します」
(この映像を永久保存して、毎日確認しなければ。ご主人様の顔が、私たちだけに向いている証拠ですもの♡)
嫉妬のヤンデレが両手を合わせて、目を輝かせた。
「みんなで一緒に幸せになれてよかったぁ♡ 主人公様の頑張り、ちゃんと見てたよ! 応援し続けなきゃ!」
(主人公様がこんなに私たちを満たしてくれた……私、もっと近くで見ていたいわ。監視映像をリピートしちゃう♡)
森羅万象のヤンデレがゆったりと微笑む。
「ご主人様の力が、世界を優しく包みましたわね♡ 重力のように、私たちを引き寄せてくださって……」
(この力がある限り、ご主人様は私たちから離れられませんわ。自然のように、永遠に寄り添いましょう♡)
潜入のヤンデレが影から静かに現れて、囁いた。
「先回りして、環境を整えておいて正解でしたわ♡ ご主人様の夜の生活力……影で何度でも支えます」
(どこへ逃げても、私が影にいる。この力を引き出すのは、私たちだけの特権ですもの♡)
主人公が疲れた声で否定した。
「違う。ただの時間稼ぎだ」
「否定しなくてもいいのよ♡ 私たちは分かってるから」
嫉妬が優しく微笑む。
「全然分かってねえ!」
主人公の叫びは、誰にも届かなかった。
### 不死の呪い
#### 終わらせたい
主人公は考えた。
自分が存在する限り、誰かが犠牲になる。
逃げても、誰かが追いかけてくる。
自分を救おうとする者が傷つき、死んでも復活した幼なじみたちが再び追ってくる。
多くの人が主人公の自由のために戦い、そして倒れていった。
「……もう終わらせたい」
誰にも聞こえない声だった。
ある夜。
主人公は世界の果てにある古い神殿へ向かった。
そこには、あらゆる願いを叶えるという古代の祭壇があった。
主人公が望んだものは、力ではなかった。
財宝でもない。
名誉でもない。
ただ、終わり。
永遠に続く追走劇の終わりだった。
「誰も傷つかなくて済む方法をくれ」
静かな祈りだった。
だが、その願いは別の形で叶えられた。
祭壇から光が溢れる。
空が裂ける。
世界が震える。
古き神――ヤンデレの神が目を開いた。
神は比較的常識人だった。
光の中から現れた神は、まず主人公の願いを聞き、頷いた。
「終わらせたい、か。分かる。お前の状況は……正直、気の毒だ」
しかし、その時。
十人のヤンデレたちが神殿に押し寄せてきた。
監視がすべてを察知し、魔導が空間を繋ぎ、潜入が先回りしていたのだ。
「神様! お願いですわ♡」
魔導が杖を掲げて叫ぶ。
「ご主人様に永遠の命を! これでずっと一緒にいられますわ♡」
慈愛が涙ぐみながら訴える。
「ご主人様が傷つく心配がなくなりますもの♡ 私が永遠に癒やせますわ!」
科学がデータを突きつける。
「不死化すれば、夜の生活力の計測も無限に可能ですわ♡ 研究が永遠に続きます!」
監視がカメラを向ける。
「永遠の映像が撮れるのですわ♡ ご主人様のすべてを、永久に記録できます!」
嫉妬が両手を合わせて跳ねる。
「永遠に一緒だなんて、最高ね♡ みんなで応援し続けられるわ!」
森羅万象が穏やかに、しかし熱を込めて言う。
「自然のように、永遠にご主人様を包み込みましょう♡」
潜入が影から囁く。
「逃げ場所を、永遠になくせますわ♡」
神は顔を引きつらせた。
「……お前たち、本気で言ってるのか? 相手の意思を無視して、永遠に縛り付けるだと? ドン引きなんだが」
しかし、ヤンデレたちの目は狂気的に輝いていた。
「ご主人様のためですわ♡」
「愛ですもの♡」
「私たちが幸せになれる唯一の方法ですわ♡」
熱狂的な病み具合が、神の常識を押し潰していく。
神はため息をつき、結局押し負けた。
「……分かったよ。お前たちの熱意に負けた。叶えてやる」
次の瞬間。
主人公の身体は光に包まれた。
痛みも。
疲労も。
老いも。
死も。
すべてが遠ざかっていく。
主人公は理解した。
「……嘘だろ」
神は、主人公へ不死を与えてしまったのだ。
どれだけ傷ついても死なない。
どれだけ倒れても蘇る。
どれだけ逃げても生き続ける。
主人公が望んだのは終わりだった。
だが手にしたのは、永遠だった。
屋敷へ戻ると、ヤンデレたちは歓喜した。
「素晴らしいですわ♡」
魔導が契約書を書き足しながら微笑む。
「これで魔法の契約も永遠ですわね♡」
「これでもう安心ですわ♡」
慈愛が目を潤ませる。
「ご主人様が傷つく心配がありませんもの♡ 私がずっと癒やせますわ」
「ご主人様が傷つく心配がありませんもの♡」
森羅万象は満面の笑みだった。
「重力のように、永遠に繋ぎ止められますわ♡」
科学が興奮した声で続ける。
「不死化データ、最高ですわ♡ 夜の生活力も無限に計測可能に……!」
監視がカメラを回しながら呟く。
「永遠の記録が始まりますわ♡」
嫉妬が嬉しそうに両手を合わせた。
「これで、ずっと一緒にいられるわね♡」
その言葉に、誰も疑問を抱かなかった。
主人公だけを除いて。
主人公は呆然と立ち尽くし、やがて頭を抱えた。
「……は? 終わらせてくれって頼んだのに、なんで不死なんだよ!?」
誰も答えない。
「死ねないってことは、永遠に逃げ回らなきゃいけないってことだろ!? 休みがないじゃないか!」
ヤンデレたちは幸せそうに彼を見つめるだけだった。
「ツッコミどころが多すぎる……神よ、お前も常識人だって言ってたよな? なんで押し負けたんだよ!」
「お前たちの熱意がすごすぎた」と、遠くで神が小さく弁解する声がした。
逃げられない。
終われない。
別れも来ない。
永遠に追われ続ける。
永遠に愛され続ける。
それは、ヤンデレたちにとって最高の祝福だった。
しかし主人公にとっては、どんな呪いよりも重い、終わりのない呪いだったのである。
「……俺の人生、どこで間違えたんだ」
主人公の絶望の呟きが、永遠に続く夜に溶けていった。




