ポイントカード
### 番外編――ポイントカード
【主人公の屋敷・リビング】
主人公は一枚のポイントカードをエンジェルに差し出した。
「懸賞に応募したら当たったんだよ。やる」
エンジェルは両手で丁寧に受け取ると、大切そうにバインダーへ挟んだ。
「ありがとうございます、主人公様♡」
「いや、そんな大層なものじゃないぞ。……まあ、ポイントカードくらいなら普通に使えるだろ」
主人公は少しだけ安堵した。
最近は何を渡しても余計な方向に進むことが多かったが、ポイントカードなら大丈夫だろう。お得に買い物をするくらいの話だ。これで少しは、普通のやり取りができるかもしれない。
「いいえ。主人公様から頂いたものですから♡」
「……そうか」
そのときは、まさか翌日にあんなことになるとは思ってもいなかった。
*
【翌日・主人公の屋敷・リビング】
「主人公様、ご報告があります♡」
「ん? どうした?」
「昨日頂いたポイントカードで、夜の生活をより充実させるための改善本を購入してきました。これからがんばります♡」
「…………」
主人公は絶句した。
エンジェルはいつものようにバインダーを抱え、誇らしげに微笑んでいる。
「主人公様から頂いた大切なポイントカードですから、有効活用させていただきました♡」
「いや、待て。どうしてその本を買うことになったんだ?」
「主人公様との生活を、より良いものにするためです♡ 特に、夜の時間の過ごし方を見直せば、もっと深い信頼関係を築けると」
「そういうことじゃなくてだな……! いや、むしろそういうことだな!?」
そこへ、慈愛と嫉妬がやってきた。
慈愛は本のタイトルをちらりと見て、優しく微笑んだ。
「まあ! 素晴らしいわ、エンジェル♡ 夜の生活を整えるのも、健康管理の一環ですもの。主人公様が疲れを残さないように、私も一緒に考えて差し上げますね♡」
嫉妬はぱちぱちと手を叩いた。
「ええ! 一周回って愛だわ! 一人で勉強するだけじゃなく、みんなで学べばもっと理解が深まるわよ♡ 私も見習って、一緒に応援する!」
「一周回すな!! 健康管理でも集団学習でもないだろ、その本は!」
エンジェルは嬉しそうに頷いた。
「ありがとうございます。お二人にそう言っていただけると、自信が持てます♡」
「自信を持つな!!」
慈愛は心配そうに首を傾げた。
「きっかけはポイントカードでも、主人公様の夜の体調を気遣う努力自体は素晴らしいことよ♡ 無理は禁物ですもの」
嫉妬も満面の笑みで続けた。
「そうよ! みんなで主人公様への愛を深める勉強会にしましょう♡ 愛に努力はつきものだもの!」
「お前たちまで感化されるな!!」
エンジェルはバインダーを開いた。
「では、さっそく勉強を始めますね。学習記録もバインダーに残しておきます♡ 実践する際の注意点もまとめておきます」
「記録まで取るな!! 実践とか言うな!!」
そのやり取りを聞いていたリリムが、呆れた顔で口を挟んだ。
「まさかポイントカードがそんな使われ方するなんて思わないでしょうが!!」
「本当にそうなんだよ!!」
「ポイントカードですわよ!? 買い物をお得にするためのものですわよ!? どうして夜の生活改善本に化けるんですの!?」
エンジェルは真面目な顔で答えた。
「はい。ですから、ポイントを有効活用しました♡」
「ポイントの有効活用の意味が違いますわああああ!!」
慈愛は穏やかに首を振った。
「でも、無駄なく使えたのだから良いことではないかしら♡ 夜の過ごし方が整えば、主人公様ももっと元気になれますもの」
嫉妬も明るく頷いた。
「ええ! ポイントも愛も、使い方次第ね♡ みんなで学べば一石二鳥よ!」
「その二つを同列に並べないでくださいませ!!」
主人公は頭を抱えた。
「……待て。そもそもエンジェルは、どうしてそんな本の存在を知っていたんだ?」
「魔導様から聞きました♡」
「……あいつかー!!」
リリムが即座に反応した。
「やっぱり魔導ですわ!! あの方、裏で何を吹き込んでいますの!?」
エンジェルは淡々と説明した。
「魔導様が、『主人公様からポイントカードを頂いたのなら、夜の生活を充実させる本を買うのも素敵な使い道ですわ♡』と教えてくださいました」
「ポイントカードを渡しただけで、どうしてそんな話になるんだよ!!」
慈愛は優しく言った。
「でも、主人公様の夜の体調を気遣うための努力なのよね。素晴らしいわ♡」
嫉妬は目を輝かせた。
「ええ! 魔導さん、素敵な提案をしたのね! みんなで一緒に学べる機会まで作ってくれて、一周回って愛だわ♡」
「一周回って戻ってくる場所がおかしいんですわ!!」
「お前たち、少しは疑問に思わないのか!?」
エンジェルは安心させるように微笑んだ。
「ご安心ください、主人公様。魔導様からは、購入する本の選び方についても助言を頂いております♡」
「まだあるのか!?」
「はい。『勉強した内容は、いつか実践することが大切ですわ♡ 記録を残しながら進めれば、改善点も分かりやすいですもの』と」
「魔導ォォォォ!!」
そのとき、リビングの入口から聞き慣れた声が響いた。
「チャオ♡ 呼びましたかしら?」
魔導が優雅に入ってきた。
「お前、エンジェルに何を教えたんだ!!」
「あら。私はただ、ポイントカードの有効活用法を教えただけですわ♡」
「そんな有効活用法があってたまるか!!」
魔導は扇子で口元を隠して微笑んだ。
「それに、ご主人様♡ エンジェルがご主人様との夜の生活をより良くしようと努力しているのです。応援して差し上げるべきではありませんか?」
エンジェルは力強く頷いた。
「はい! これからも頑張ります♡」
慈愛も優しく続けた。
「私も応援するわ♡ 無理のない範囲で、健康的にね」
嫉妬は両手を挙げた。
「私もよ♡ みんなで一緒に学んで、主人公様への愛を深めましょう!」
「完全に魔導の思惑どおりじゃありませんの!!」
主人公は深いため息をついた。
「……もう二度と、いらないものをエンジェルに渡すのはやめよう」
エンジェルは即座に反応した。
「では、次は主人公様ご自身にも読んでいただける本を探しておきますね♡」
「探さなくていい!!」
魔導がすかさず言った。
「では、ポイントカードなしでも購入できる本をご紹介しますわね♡ 実践向きのものを厳選いたします」
「次の手を用意するなああああ!!」
リリムが肩を落とした。
「ポイントカードの話だったはずなのに、どうしてこんな騒ぎになりますの……」
エンジェルは首を傾げながら、バインダーに新しい記録を書き加えた。
「記録。主人公様から頂いたポイントカードを使用。夜の生活改善本を購入。慈愛様から健康面での激励を、嫉妬様から集団学習の提案を受け、リリム様からも貴重なご意見を頂きました♡」
「私の発言を激励扱いしないでくださいませ!!」
「……誰か、あいつからバインダーを取り上げてくれ」
エンジェルはにこやかに答えた。
「愛ですから♡」
「その言葉で全部押し切ろうとするなああああ!!」
エンジェルは、ふと思い出したように顔を上げた。
「そうです、主人公様♡」
「……今度は何だ?」
「せっかくですから、主人公様も含めて皆さんで一緒に読みましょう♡ 実践の前に、全員で理解を深めるのが効率的です」
「そんな本じゃねえだろ!!」
「最後の最後まで、とんでもないことを言い出しますわね!!」
慈愛は優しく微笑んだ。
「みんなで学べば、主人公様の夜の負担も減らせるわね♡」
嫉妬は目を輝かせた。
「ええ! みんなで主人公様への愛を深めましょう♡ 勉強会、開始よ!」
魔導が優雅に近づいてきた。
「チャオ♡ 私もご一緒しますわ。ご主人様、隣に座ってもよろしいですかしら?」
「誰も読むとは言ってねえだろ!!」
エンジェルは満足そうにバインダーに書き込んだ。
「では、皆さんが参加されるということで記録しておきますね♡」
「勝手に参加者にするなああああ!!」
リリムがぼやいた。
「もうポイントカードなんて渡すものではありませんわ……」
こうして、たった一枚のポイントカードは、主人公の平穏を脅かす新たな記録とともに、エンジェルのバインダーへと収まったのだった。




