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手作り弁当

### 番外編――ヤンデレトーク2・ゲイバーのとある日


【王国・ゲイバー「オアシス」】


「そういえば、この前、主人公様に手作り料理をプレゼントしましたの♡」


エンジェルは、いつものようにバインダーを抱えながら、誇らしげに微笑んだ。


科学がグラスを置いた。


「まあ。エンジェルが手料理? 珍しいわね」


「ええ♡ 主人公様のために、心を込めて作りましたの。魔導さん、森羅万象さん、科学さん、薬学さんとの合作ですわ♡」


潜入特化が興味深そうに身を乗り出す。


「へえ、合作ですか。それで、何を作りましたの?」


「それはもう、主人公様の好みに合わせた特別な料理ですわ♡」


監視特化がポテチをつまんだ。


「主人公の反応は?」


「はい♡ まず、プレゼントしたスケッチブックを開いてくださいました」


「……スケッチブック?」


魔導が首を傾げつつも、得意げに胸を張った。


エンジェルは満面の笑みを浮かべた。


「中には、私が心を込めて描いた料理の絵がありましたの♡ これが上段の完成予想図ですわ」


沈黙。


科学が瞬きをした後、自信ありげに頷いた。


「……なるほど。視覚的な完成イメージを先行提示したわけね。理に適っているわ」


森羅万象は優雅に微笑み、胸を張った。


「ええ。主人公様の想像力に、料理の完成形を先に味わっていただく。素敵な趣向ですわ♡」


そのとき、隣で料理を食べていたリリムが、箸を置いてはっきりと言った。


「……意味が分かりませんわ。最初に絵を見せて、何がしたいんですの? 料理を贈るなら、最初から食べられるものを出せばいいでしょうに」


「違う! 料理を作る工程を想像力に委ねるな!!」


ゲイバーのお兄さんが厨房から即座に突っ込んだ。


エンジェルは気にする様子もなく、嬉しそうに話を続けた。


「主人公様は、スケッチブックを開いて、こうおっしゃいましたの」


エンジェルは主人公の声を真似た。


「『……これ、食べられないよね?』」


科学は額に手を当てつつも、肯定的に言った。


「まあ……至極真っ当な確認ね。でも、そこからが本番ですもの」


「『もちろんです♡ こちらが本命のお弁当ですわ』とお答えしましたわ♡」


「そこは即答するな!! 相手が確認してるのは、絵の鑑賞方法じゃなくて食事が可能かどうかだよ!!」


お兄さんの声が店内に響いた。


リリムも冷ややかに付け加えた。


「普通はそこで『すみません、絵でした』と謝るところですわ。なぜ得意げに本命を出すんですの」


魔導は感心したように目を輝かせ、胸を張った。


「まあ……♡ 主人公様に、まずは視覚で愛を感じていただくなんて。エンジェルさんもなかなか大胆ですわね♡ わたくしも波動の調整で火力を担当した甲斐がありましたわ」


「大胆で済ませるな! 普通は食べられるものを最初から贈るんだよ!」


エンジェルは幸せそうに頷いた。


「そして、主人公様は『今度こそ本物の料理が出てくるのか』と期待を込めて、二段目の蓋を開けてくださいましたの♡」


店内が少し静まり返る。


「下段には――私たち合作の特製料理が入っておりましたわ♡」


エンジェルは二段式の弁当箱をカウンターに置き、下段の蓋を開けて見せた。


そこには、真っ黒に焦げた炭のような物体が丁寧に詰め込まれていた。


主人公はそれを見て、完全に絶句したという。


エンジェルは当時を思い出し、得意げに言った。


「さあ、召し上がれ♡」


魔導が自信満々に胸を張った。


「わたくしの波動砲で火力を完璧にコントロールした結果ですわ♡」


森羅万象も優雅に頷く。


「私が世界を整え、最適な状態に仕上げましたわ♡」


科学が冷静に、しかし誇らしげに分析する。


「加熱時間と温度の数値を最適化したはずよ。炭化は想定内のバリエーションね」


薬学も真面目に胸を張った。


「栄養バランスと食感を考慮した配合です。黒さは見た目のインパクトを狙ったものですね」


リリムが、はっきりと切り込んだ。


「……炭を料理として正当化しないでくださいまし。これはただの失敗作ですわ。どこをどう見ても炭ですわよ」


「お前ら全員、自信持って炭を褒めるな!!」


お兄さんのツッコミが店内を揺らした。


しかし、科学は何かを思い出したように指を立てた。


「そうそう。料理そのものとは別に、もう一つ仕込んでおいたものがあるわ」


「……何を?」


お兄さんが警戒する。


薬学が、当然のように答えた。


「惚れ薬です」


「料理の説明の続きみたいに言うな!!」


リリムが即座に声を重ねた。


「それに惚れ薬を入れるな! 炭になった失敗作に薬を仕込むなど、許されるはずがありませんわ!」


「森羅万象さんが効果の及ぶ範囲を整え、魔導さんが薬効を損なわないよう火力を調整し、科学さんが配合を計算しました。私は薬剤の調製を担当しています」


薬学は淡々と説明した。


「つまり、炭になった料理には、私たち四人で協力して作った惚れ薬が仕込まれていたのです♡」


エンジェルが嬉しそうに付け加えた。


「もちろん、主人公様への愛を深めていただくためですわ♡」


「目的が判明しても何一つ安心できねえ!! あと、料理を焦がすな! 薬を仕込むな! そもそも本人の意思をどうするつもりだ!!」


お兄さんの悲鳴をよそに、エンジェルは話を続けた。


リリムはこめかみを押さえながら、冷たく言い放った。


「……あなたたち、本当におかしいですわ。絵を先に見せて、炭を料理だと言い張り、その上惚れ薬まで入れる。どこからどう見ても問題しかありませんわ」


「主人公様は『まあ、死にはしないだろ……』とおっしゃって、恐る恐る口に入れてくださいましたの♡」


「そこで食うなよ、主人公!」


「そして、『固い……噛めない……』とおっしゃいましたわ」


科学が興味深そうに頷く。


「食感のデータとして貴重ね」


主人公は炭を噛みしめながら聞いたという。


「……これ、試食したか?」


エンジェルは純粋に首を傾げて答えた。


「試食って何ですか?♡」


店内が再び沈黙に包まれた。


ゲイバーのお兄さんが力なく呟いた。


「……試食の概念がないのかよ」


リリムも呆れたように言った。


「……自分たちが作ったものを、自分たちで確認しないんですの? 信じられませんわ」


ところが、話はそこで終わらなかった。


炭をどうにか飲み込んだ主人公は、しばらく呆然としていた。


やがて、彼はゆっくりと顔を上げた。


「……エンジェル」


「はい♡ 主人公様♡」


「……好きだ」


エンジェルの目が輝いた。


「まあ……♡」


主人公は続けた。


「魔導も、森羅万象も、科学も、薬学も……みんな大切だ。できることなら、ずっと一緒にいてほしい」


その場にいたヤンデレたちは、そろって息を呑んだ。


主人公は普段なら決して口にしないような甘い言葉を、ためらいもなく続けていた。


「お前たちがいてくれて、本当によかった……」


エンジェルは両手で口元を押さえた。


「こ、これが……主人公様からの愛の言葉……♡」


魔導は感激のあまり、目に涙を浮かべた。


「主人公様……! わたくし、今なら世界を何十回でも焼き尽くせますわ……!」


「焼くな! 今すぐその物騒な感動を鎮めろ!」


森羅万象は頬を赤らめ、胸に手を当てた。


「世界を整える必要などありませんわ……。主人公様が私たちを必要としてくださる。それだけで十分ですもの♡」


科学は震える手でグラスを置いた。


「これは……これまでの反応とは明らかに違うわ。発言内容、声の調子、表情……すべてが極めて好意的よ」


薬学は満足げに頷いた。


「惚れ薬の効果が出ていますね。狙いどおりです」


「狙いどおりって、本人の意思を薬でどうこうした結果だろうが!!」


お兄さんが叫んだ。


リリムも重ねて言った。


「……薬で引き出した言葉を、本気の愛だと喜ばないでくださいまし。それでは意味がありませんわ」


だが、ヤンデレたちの耳には届いていなかった。


主人公はエンジェルの手を優しく握った。


「エンジェル。これからも、俺のそばにいてくれ」


「はいっ♡ 一生おそばにおりますわ♡」


続いて主人公は、魔導たちにも穏やかな笑みを向けた。


「みんなも、ずっと一緒だ」


魔導は両手で顔を覆い、森羅万象は幸せそうに微笑み、科学は記録すべきデータの多さに目を輝かせ、薬学は成果を確信した。


監視特化がポテチを噛みながら付け加える。


「映像記録も残ってるわ。主人公の絶句から、急に甘くなった表情まで。比較データとして最高ね」


潜入特化も嬉しそうに頷いた。


「普段は聞けない言葉まで引き出せたんですもの。大成功ですわ♡」


エンジェルはバインダーを抱えて、満面の笑みを浮かべた。


「皆さんも、主人公様への愛が深いのですね♡ 私、感激しましたわ♡」


科学が静かに結論を述べた。


「料理の完成度には問題があったけれど、目的に対する成果は申し分ないわね」


「料理の完成度にも、目的にも、問題しかねえよ!!」


お兄さんの怒号が店内に響き渡った。


リリムが深く息を吐き、冷たく言い放った。


「……本当に、あなたたち全員おかしいですわ。絵を見せて、炭を食わせて、薬で言葉を引き出す。それを成功だと胸を張るなど、常識がありませんわ」


一般客たちは一斉に視線を逸らし、黙々と自分の食事に集中していた。


「……英雄様たち、今日も怖いな」


「何も見なかったことにしよう……」


その一方で、ヤンデレたちはすっかり満足しきっていた。


魔導がうっとりと微笑む。


「主人公様から、あんなに愛のこもった言葉をいただけるなんて……♡」


森羅万象も穏やかに頷く。


「ええ。私たちの想いが、ついに届いたのですわね♡」


科学は記録をまとめながら言った。


「惚れ薬の効果は十分に確認できたわ。次回は料理の炭化も改善できれば、さらに完成度が上がるはずね」


薬学も真面目に頷いた。


「薬効を維持したまま、食べやすい食感に調整しましょう」


「次回がある前提で話を進めるな!!」


エンジェルは幸せそうにバインダーを開いた。


「では、今回の報告書には――『特製料理による愛情表現、極めて良好な結果を確認』と記載しておきますわ♡」


「そこは『料理が炭になった』って書け!!」


お兄さんは深いため息をつきながら、次の一般客の料理を盛り付けた。


リリムも同様にため息をつき、小さく呟いた。


「……次も炭にする気満々ですのね。もう、何を言っても無駄ですわ」


そして、その夜。


主人公の元には、再び「改良版・もっと黒い特製弁当」が届くこととなる。


もちろん、惚れ薬の配合はさらに改良されていた。


(監視特化の私的ビデオには、この日のトークもすべて記録され、エンジェルの報告書には「愛の深化――惚れ薬の有効性を確認」と記載された。)

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