↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
131/179

ヤンデレ女子の恋愛トーク


---


### 番外編――ゲイバーで語られるヤンデレたちの恋愛事情


【王国・ゲイバー「オアシス」】


店内は今日も賑わっていた。

一般客たちが普通に食事を楽しんでいる中、カウンターの端では、王国の守護者たちが一団となって席を占めている。


ゲイバーのお兄さんは、一般客のテーブルに料理を運びながら、カウンターの方にも目を配っていた。


「はい、お待たせ。今日の日替わりです」


一般客の一人が、恐る恐る声を低くして隣の客に囁いた。


「……ねえ、あれ、森羅万象様と魔導様だよな? なんでゲイバーで皿洗ってるんだ?」


「お前ら、少しは反省してこい」


そう主人公に命じられた魔導と森羅万象は、現在、ゲイバー「オアシス」の厨房に立っていた。


二人とも、王国を守るほどの圧倒的な力を持つ存在である。


その一方で、日頃から主人公への愛情を理由に波動砲を放ち、世界の法則を書き換え、国家規模の騒動を引き起こしてきた。


その迷惑ぶりは、もはや王国の行政機関でも処理しきれないほどだった。


「……どうして、わたくしたちが皿洗いなどしなければならないのでしょう?」


洗剤の泡にまみれた手を見つめ、魔導が不満げに呟いた。


「主人公様は、わたくしたちの愛を理解してくださらないのですね♡」


「ええ。私たちはただ、主人公様のために世界を整えているだけですのに」


森羅万象も穏やかな笑顔を浮かべながら、皿を洗っていた。


「その結果、国中に迷惑がかかっているから反省してこい、と言われたのですわね」


「……そうでしたわね♡」


二人は少しだけ考え込み、再び皿洗いを始めた。


反省しているのかどうかは、甚だ疑わしかった。


カウンターの端では、科学、潜入特化、監視特化、そしてリリムが席を並べていた。

リリムは料理を口に運びながら、隣の面々をじっと見ている。


ゲイバーのお兄さんが戻ってくると、潜入特化が得意げに口を開いた。


「今朝も主人公様のスマホを無事に確保してまいりましたわ♡」


科学はグラスを傾け、感心したように頷いた。


「あら、また成功したの?」


監視特化はポテチを一枚摘みながら、淡々と答える。


「ええ。潜入特化さんが物理的に入手してくれたので、私が遠隔でパスワードを解析・解除しましたわ。現在、このスマホはわたくしたちの手元にあるわよ」


潜入特化はバッグから主人公のスマホを取り出し、カウンターに置いて見せた。


「パスワードは変更済みですわ。わたくしたち全員の誕生日を足して、人数で割った数字に設定し直しましたの♡ これで誰にも開けられませんわね」


「合理的ね。データとしても扱いやすいわ」


監視特化が軽く感心する。


そのとき、リリムが箸を置いて、はっきりと言った。


「……あなたたち、それは愛じゃありませんわ。ただの犯罪ですわ」


「ええ♡」


潜入特化は何の問題もないという顔で答えた。


「そこは否定しないんだね……」


ゲイバーのお兄さんがため息をつきつつ、次の一般客のオーダーを取りに行った。


リリムは冷ややかに続けた。


「盗んで、勝手に解析して、パスワードまで変える。どこをどう解釈したら『愛』になるんですの? いい加減にしてくださいまし」


「許可なんて最初から取るつもりなかったわよね。記録としては完璧よ」


監視特化が肩をすくめる。


「でしょうね」


科学も頷く。


「いや、そこで納得しないでくれる?」


お兄さんが戻ってきて、すかさず突っ込んだ。


お構いなしに、潜入特化は料理を受け取り、再び科学に向き直った。


「ですから、撮影日時と閲覧履歴を照合して、主人公様がどの写真を何秒眺めていたのか分析しましたの」


科学は静かにグラスを置いた。


「……それ、本人の許可は?」


「ありませんわ♡」


「でしょうね」


監視特化も頷く。


「許可なんて最初から取るつもりなかったわよね。記録としては完璧よ」


リリムがこめかみを押さえながら、低く言い放った。


「……犯罪を『記録』で正当化するの、もうやめなさいな。本気でおかしいですわよ、あなたたち」


「そういうことにしておきましょうか」


科学は魔導たちの話を聞き流しながら料理を口に運んだ。


潜入特化は思い出したようにバッグから一本の紐を取り出した。


「そういえば、これですわ」


科学がそれを覗き込む。


「安全祈願のお守り? 懐かしいわね」


「主人公様が、わたくしたちに『安全祈願のお守り』としてくださったものですの♡ 身を守ってくれるお守りだそうで」


「へえ。大切にしているのね」


潜入特化は当然とばかりに微笑んだ。


「ええ。主人公様からのお守りですから♡ 永遠に身につけておくつもりですわ」


リリムが即座に切り込んだ。


「……あなたたち、お守りの意味、ちゃんと理解してますの? 『安全祈願』ですのよ? 『永遠の愛の証』じゃありませんわ。勘違いも甚だしいですわね」


「ええ♡」


魔導はお守りを見つめながら目を輝かせた。


「まあ♡ 主人公様がくださったお守りですの? 素敵ですわね♡」


森羅万象も興味深そうに頷いた。


「主人公様が私たちの安全を願ってくださったのですね。素敵なことですわ♡」


監視特化は薄く笑った。


「データとして残す価値はあるわね。効果測定してみる?」


「二人とも、今は普通に感心してるけどね」


ゲイバーのお兄さんが釘を刺した。


「それで、先ほどエンジェルにも渡して、効果を説明して差し上げましたの」


「それで?」


「説明が終わった瞬間でしたわ」


潜入特化は遠い目をした。


「バキィッ!! という音とともに、安全祈願のお守りがバインダーで叩き潰されましたの」


魔導と森羅万象は同時に首を傾げた。


「……え?」


科学はグラスを置いた。


「……どうして?」


「わたしにも分かりませんわ。エンジェルは、壊れたお守りを見下ろして、こう言いましたの」


潜入特化はエンジェルの声を真似た。


「『願いを叶えるために、いつ切れるか分からない紐に頼る必要はありません♡ 主人公様の願いは、私が記録し、正確に執行しますから♡』」


科学は額に手を当てた。


「お守りの存在意義を根本から否定してるじゃない……」


監視特化は肩をすくめた。


「業務独占ね。報告書に『外部手段排除』って書かれてるわ」


リリムが呆れ果てた声で、はっきりと言った。


「……エンジェルさんまでおかしいですわ。主人公様がくださった安全祈願のお守りを、破壊して何がしたいんですの。意味が分かりませんわ」


魔導は先ほどまでの感動をどこかへ吹き飛ばし、笑顔を引きつらせた。


「……なるほど。主人公様の願いを叶える役目を、お守りに取られたくなかったのですわね♡」


森羅万象も納得したように頷いた。


「願いを叶える手段が自分以外に存在することが、許せなかったのでしょうね。愛ですわ♡」


「いや、愛で済ませていい話じゃないよね?」


ゲイバーのお兄さんがすかさず突っ込んだ。


「しかも、そのあとバインダーに何か書き込んでいましたわ」


「何を?」


「『安全祈願のお守り破壊完了。願望実現手段としての有効性は認められず。今後も主人公様の願いは私が直接管理する』と」


科学はしばらく黙っていた。


「……その子、恋愛のお守りにまで対抗意識を燃やしてるの?」


「ええ♡ 主人公様への愛に、外部委託は不要ということですわね♡」


監視特化が補足する。


「それ、対抗意識というより完全な業務独占よ。記録係としてのプライドが高いわね」


潜入特化は満足げに頷いた。


「さすがエンジェルですわ♡ 愛が深いですわね♡」


リリムが箸を置き、冷たく言い放った。


「……あなたたち、全員おかしいですわ。お守りの意味も、犯罪の意味も、まともな解釈も、何一つ分かっていないようですわね」


魔導は腕を組み、何かを考え込んだ。


「……わたくしも、主人公様の願いを叶えるのに、こんな紐に頼る必要はありませんわね♡」


森羅万象も微笑んだ。


「ええ。願いが叶う世界に整えてしまえばいいのですもの♡」


「なるほど♡ それなら、安全祈願のお守りに頼る必要なんてありませんわね♡」


魔導は納得したように頷いた。


「主人公様が願いごとをなさったら、わたくしが波動砲で全部叶えて差し上げますわ♡」


「私は世界そのものを整えて、願いが叶った状態にして差し上げますわ♡」


「素敵ですわね♡」


二人はうっとりと顔を見合わせた。


そのとき、魔導の手元で皿が滑った。


「あっ……!」


皿が床に落ちる寸前、魔導は反射的に波動砲を放った。


**ドゴォォン!!**


皿は粉々になり、破片が床一面に散らばった。


一般客たちが一斉に振り返り、凍りついた。


「……あ」


魔導は煙の上がる手元を見つめた。


森羅万象は慌てて指を鳴らした。


「大丈夫ですわ。割れる前の状態に整えれば――」


しかし、彼女の指先から漏れ出した力が、ほんの少しだけ暴走した。


次の瞬間、厨房の一角に局所的な小規模な突風が巻き起こり、さらに微かな地響きが床を伝った。


**ガラガラガラッ……!!**


洗って乾かしてあった皿の山が、まるで小さな自然災害に見舞われたかのように一斉に崩れ、床へ落ちていく。


連鎖するように、陶器の割れる音が店内に響き渡った。


「……あ」


森羅万象は穏やかな笑顔のまま、崩れた皿の山を見つめた。


「……少し、力の調整を誤りましたわね」


一般客たちは一斉に振り返り、凍りついた。


厨房で英雄たちが皿を破壊している。

しかも片方は波動砲、もう片方は自然災害じみた力で。


しかし、次の瞬間。


客たちは揃って視線を逸らし、黙々と食事を再開した。


「……何も見なかった」


「今日は何も起きていない」


「英雄様方が何をしていようと、俺たち一般人には関係ない」


誰かが小さく呟き、他の客たちも深く頷く。


箸の音だけが、不自然なほど規則正しく店内に響いていた。


沈黙。


ゲイバーのお兄さんは、ゆっくりと二人を振り返った。


「……お前たち、皿を割るの何枚目だよ!」


魔導は笑顔を引きつらせた。


「こ、これは主人公様の願いを叶えるための能力の応用でして……♡」


「皿洗いに能力を使うな!!」


森羅万象も気まずそうに微笑んだ。


「世界を整える前に、手元を整えるべきでしたわね♡ 自然災害の力は、やはり皿には不向きでしたわ」


「うまいこと言ってごまかすな!!」


ゲイバーのお兄さんは床に散らばった破片を指差した。


「もう決めた! 割った皿の代金は全部、主人公に請求書を送っとくからな!」


「なっ……!? どうして主人公様に請求するんですの!?」


「お前たちが主人公のことを話してると、毎回こうなるからだよ!!」


森羅万象は少し考えてから、穏やかに頷いた。


「なるほど……主人公様への愛が、経済活動にも影響を及ぼしているのですね♡」


「違う! お前たちが皿を割ったんだよ!!」


監視特化がポテチを摘みながら呟く。


「記録には『愛による物的損害および局所的自然災害』って残しておくわね」


リリムが深く息を吐き、冷たく言い放った。


「……本当に、あなたたちおかしいですわ。どこまで行っても自覚がないんですのね」


ゲイバーのお兄さんの怒号が店内に響き渡った。


それでも一般客たちは、一切反応しなかった。

ただ黙々と、皿に残った料理を口に運んでいる。


魔導と森羅万象は顔を見合わせた。


「……森羅万象さん」


「何ですの、魔導さん?」


「次からは、主人公様への愛を語るときも、手元には気をつけましょうね♡」


「ええ。素敵な教訓ですわ♡」


「反省するところ、そこじゃねえだろ!!」


二人は再び皿洗いへと戻ろうとしたそのとき、魔導がふと主人公のスマホを手に取った。


「そういえば……少し確認してみますわね♡」


魔導は検索画面を開き、「ま」と入力した。


しかし、予測変換に「魔導」の文字は一切出てこない。


「……あら?」


科学が覗き込む。


「わたくしもやってみるわね」


科学は「か」と打った。やはり何も出てこない。


潜入特化は「せ」と打ち、森羅万象は「し」と打った。

監視特化も「か」と打ってみたが、結果は同じだった。


沈黙が落ちる。


魔導がゆっくりと口を開いた。


「……さては、主人公様、わたくしたちの名前を忘れていらっしゃるのでは?」


「ええ……その可能性が高いですわね」


森羅万象が静かに頷く。


「写真は残してくださっているのに、名前の予測変換が出ない……これは重大な事態ですわ」


潜入特化も深刻な顔になった。


「わたくしたちの存在が、主人公様の記憶から薄れつつあるのでしょうか……」


科学は冷静に分析する。


「検索履歴に『一人になりたい』があったのも、その影響かもしれませんね」


監視特化が付け加える。


「予測変換に出てこないのは、連絡先を全削除された可能性もあるわ。でも『忘れられた』って解釈するのも、この場の空気的には正しいわね」


リリムが、ついに限界を超えたように声を上げた。


「……違いますわよ! いつもあなた方から一方的に迫り続けているから、主人公様はそもそも携帯を自分から打てる状況にないんですの! 予測変換に残るわけがないでしょうが!」


ゲイバーのお兄さんも大きく頷いた。


「そうだよ! お前たち怖すぎだろ!! 勝手にスマホ奪ってパスワード変えて、予測変換に自分の名前が出ないだけで『忘れられてる』って結論出すなよ! 普通に連絡先消されてるだけだろ!!」


その瞬間、知らない番号から着信が入った。


「……あら」


魔導が何事もなかったかのように電話に出る。


「はい、魔導ですわ♡」


受話器の向こうから、怒りに満ちた声が飛び出した。


「俺の携帯返せ!!」


店内に、主人公の怒声が響き渡った。


一般客たちが再び凍りつく。

それでも、誰も席を立たず、ただ黙々と食事を続けていた。


魔導はにこやかに微笑んだ。


「あら、主人公様♡ ちょうどよかったですわ。わたくしたちの名前、ちゃんと覚えていらっしゃいますか? チャオ♡」


「覚えるも何も、毎日追っかけてくるだろ!! いいから返せ!!」


「ええ、返しますわ♡ ただし、今夜の特製料理を召し上がっていただいてからですの♡」


「はぁ!?」


カチャ、と魔導は電話を切った。


ゲイバーのお兄さんは両手で顔を覆った。


「……もういい。請求書も何も、全部まとめて主人公に押し付けてくれ。俺は知らん」


リリムも深くため息をつき、冷たく言い放った。


「……本当に、あなたたち全員おかしいですわ。自覚というものが一切ないんですのね」


一般客の一人が小さく呟いた。


「……英雄様たち、怖すぎる……」


それでも、誰一人として店を出ようとはしなかった。

ただ、見なかったことにして、食事を続けるだけだった。


カウンターの上で、パスワードを変更されたスマホが、再び画面を暗くした。


そしてその夜。

魔導特製の煮込み料理が、再び主人公の前に並ぶこととなる。


(監視特化の私的ビデオには、すべて記録されていた)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。