天界との決着、そして日常へ
# 三大天使出撃――全員集合編
## 天界――待機命令を破る三大天使
天界の光の回廊は、重い沈黙に包まれていた。
大天使ミカエルの待機命令は、依然として有効だった。
智天使ケルビム、主天使ドミニオンズ、座天使スローンズ、そして最上位の熾天使セラフィム。上位天使たちは、地上のヤンデレたちとの戦いで次々と敗れていた。
それでも、ミカエルは動かなかった。
「今は観察に徹せよ。相手の能力も連携も、まだ完全には把握できていない。軽挙は禁物だ」
指揮官として正しい判断だった。
だが、三大天使は納得できなかった。
ウリエルが腕を組み、掌の炎を燃え上がらせる。
「判断が正しいのはわかっている。だが、これ以上、黙って見ていられるか。天界の威信が踏みにじられているのだぞ」
ガブリエルは巻物を開いた。
「拙速は避けるべきです。しかし、戦闘記録は十分に集まりつつあります。これ以上何もしないのであれば、我ら三大天使が存在する意味は何なのでしょう」
ラファエルも杖を握りしめた。
「ウリエルが攻撃し、ガブリエルが敵を制圧する。私が回復を担えば、二人の戦線を維持できる。個々の戦いで敗れた者たちとは違う」
「三人ならば、勝機はある」
ウリエルの言葉に、二人も頷いた。
攻撃、宣告、回復。
三つの力を連携させれば、単独では突破できない敵にも対抗できる。それが三人の結論だった。
「地上のバグは、ここで止まる」
ガブリエルが宣告の言葉を準備する。
「傷ついた仲間を癒やし、この戦いを終わらせよう」
ラファエルが杖を構えた。
ミカエルの命令に背くことは承知していた。
それでも、三人は地上への出撃を選んだ。
彼らはまだ知らなかった。
その判断こそが、次の敗北を招くことを。
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## 地上――待ち構える側
王国の屋敷・庭。
空から三つの光が降りてくるのを、全員が確認していた。
主人公を中心に、ヤンデレたちとエンジェルが集まっている。
森羅万象は紅茶を傾け、魔導は扇子で口元を隠す。科学は端末を操作し、薬学は小瓶を揺らしていた。
監視はカメラを構え、潜入は影に溶け込む。慈愛は微笑み、嫉妬はメガホンを準備している。
格闘特化は拳を握り、腰振りスペシャリストは腰を割る。拷問特化は拘束具を点検していた。
エンジェルはバインダーを開く。
「記録開始します。愛ですから♡」
「……やっぱり来たか」
主人公が呟く。
科学が端末を見せた。
「三大天使。ウリエルが攻撃、ガブリエルが行動制限、ラファエルが回復。三人の連携が要ですわ」
「つまり、三人が揃う前に逃げればよかったんじゃねえのか?」
「逃げ道はすべて把握済みですわ♡」
森羅万象が紅茶を置いた。
「敵の逃げ道もですけれど」
「そっちは塞がなくていいんだよ!」
魔導が扇子を閉じる。
「チャオ♡ 希望を与えてから回収する準備は万全ですわ」
「絶対ろくなことにならねえ……」
三つの光が庭に着地した。
ウリエル、ガブリエル、ラファエル。
三大天使が揃った時点で、包囲は完成していた。
ウリエルが主人公を睨む。
「お前がミカエルを退けた者か。だが、我ら三人ならば――」
「三人でも同じですわ♡」
森羅万象が静かに遮った。
「ここは、わたくしの整えた場所ですもの」
「ならば、その場所ごと焼き尽くす!」
ウリエルが炎を放った。
戦いが始まった。
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## 三大天使戦――連携を崩せ
「燃え尽きろ!」
ウリエルの炎が庭を覆う。
森羅万象が指を振ると、炎は空間ごと隔離された。
「燃えるのは構いませんわ。ただし、こちらには届きませんの」
「ならば、届くまで燃やす!」
炎が膨張し、隔離空間の境界に亀裂が走った。
次の瞬間、炎の一部が境界を焼き破る。
熱風が庭を薙ぎ、主人公の頬をかすめた。
「おい、漏れてるぞ!」
「想定以上の火力ですわね♡」
森羅万象が指先を弾く。破れた境界が再構築され、炎が再び閉じ込められた。
科学が即座に告げる。
「森羅万象様、境界を固定してください。出力の変化はこちらで分析しますわ」
「承知しましたわ♡」
炎の逃げ道が塞がれる。
ウリエルは舌打ちした。
その隙に、ガブリエルが巻物を掲げる。
「告げる。対象の行動を――」
魔導が一歩前に出た。
「その宣告、契約で制限させていただきますわ♡」
見えない鎖が巻物に絡みつく。
だが、ガブリエルは強引に言葉を押し通した。
「――封じる!」
宣告が成立した。
主人公の身体が硬直し、拳を握ることさえできなくなる。
「っ……!」
格闘特化も動きを封じられ、二人は一瞬、身動きが取れなくなった。
ガブリエルが勝利を確信する。
「神の言葉は、契約だけでは封じきれません!」
主人公は動かない身体のまま、彼女の巻物を見た。
「……なるほど。宣告そのものじゃない。言葉が成立する条件を潰せばいいんだ」
「魔導! 言葉を封じるんじゃなく、成立条件を潰せ!」
「かしこまりましたわ♡」
魔導が扇子を開く。
「宣告の対象、範囲、成立条件。そのすべてに契約を追加いたします!」
鎖が巻物を包み、文字の一部が書き換わった。
ガブリエルが次の宣告を試みる。
だが、言葉が途切れた。
「そんな……!」
主人公の身体が自由を取り戻す。
「よし、次だ!」
ラファエルが即座に杖を掲げた。
「《フルヒール》!」
回復の光がウリエルとガブリエルを包み、傷と消耗を癒やしていく。
「これで、まだ戦えます!」
薬学が小瓶を投げ、慈愛がその効果を受け取る。
「回復効率を落としますわ♡」
「癒やしの光に、少しだけ遠慮していただきますわね♡」
二人の対策で、回復の速度が目に見えて落ちた。
だが、ラファエルは杖を握り直す。
「ならば、回復量を増やせばいい!」
膨大な光が放たれ、ウリエルの炎が再び勢いを取り戻した。
ガブリエルも巻物を握り、封じられた宣告を押し通そうとする。
三人の連携が、復活しかけていた。
科学が声を上げる。
「回復によって連携が再起動しています! 個別の能力を抑えるだけでは、突破されますわ!」
主人公は三人の動きを見て、即座に判断した。
「連携そのものを止める! 格闘特化、ウリエルを頼む。俺はラファエルを倒す!」
「了解です、ご主人様!」
格闘特化が地面を蹴った。
「修行の成果を見せてやる!」
ウリエルが炎を放つ。
格闘特化は怯まずに突っ込み、拳を叩き込んだ。
炎が弾け、ウリエルの身体が後方へ吹き飛ぶ。
「この火力の中を突っ込んでくるだと……!」
「火力が高いのはわかった! だが、殴れないとは言っていない!」
ウリエルは炎を盾にして反撃しようとする。
しかし、森羅万象が炎の広がる方向を制限した。
「少々、動きにくくしておきましたわ♡」
その隙に格闘特化の拳が腹部へ突き刺さる。
「ぐっ……!」
ウリエルが地面に叩きつけられた。
一方、主人公はラファエルへ一直線に駆ける。
「近づかせません!」
ラファエルが回復の光を盾にする。
主人公は拳を引いた。
「回復するのは勝手だ。だが、俺を止められると思うな!」
拳が光の盾を打ち砕き、ラファエルの杖を弾き飛ばす。
続く一撃が腹部を捉えた。
「かはっ……!」
ラファエルが吹き飛び、庭に沈む。
杖を失い、回復もできない。
残るガブリエルが巻物を掲げた。
「告げる。敵の――」
「させませんわ♡」
魔導の契約が巻物を縛る。
「今度は最後まで言わせませんの」
ガブリエルは力ずくで宣告を成立させようとした。
「神の言葉は、あなた方の契約などで――」
「もう聞き飽きた」
主人公が踏み込む。
ガブリエルは巻物を盾にしたが、宣告は完成しない。
主人公の拳が巻物の脇をすり抜け、彼女の身体に叩き込まれた。
「ぐっ……!」
ガブリエルが吹き飛び、地面に沈んだ。
静寂が戻る。
ウリエルは格闘特化に押さえ込まれ、ラファエルは杖を失い、ガブリエルの宣告は魔導の契約に阻まれている。
三大天使の連携は、完全に崩壊した。
腰振りスペシャリストが低く笑う。
「……いい汗をかいたぜ」
拷問特化が頷いた。
「役割を先に潰す。拘束具の設計にも応用できそうだ」
エンジェルがバインダーに記録する。
「三大天使、戦闘不能を確認。記録完了です♡」
主人公は拳を下ろし、息を吐いた。
「……これで終わりか?」
「はい。ご主人様の勝利ですわ♡」
魔導が笑顔で答える。
「俺だけの勝利みたいに言うな。みんなで倒したんだろ」
ヤンデレたちの顔が、一斉に輝いた。
「……今のは忘れろ」
「全員で勝利した、というお言葉。記録しました♡」
エンジェルのペンが走る。
「忘れろって言っただろ!」
戦いは決着した。
三大天使は対策を突破し、連携を立て直しかけた。だが、そのたびにヤンデレたちは対応し、主人公は突破口を見極めて攻撃対象を選んだ。
能力対策、分析、戦術判断、近接攻撃。
すべてが噛み合った結果だった。
そして、その一部始終を全員が記録していた。
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戦闘後――全員集合
金色の光が戦場に降り注いだ。
大天使ミカエルだった。
地面に倒れた三大天使を見て、彼は深々と息を吐いた。
「……すまない。待たせた」
主人公は肩で息をしながら答えた。
「お前、部下の管理が雑だな」
「自覚している」
ミカエルが三人を回収しようとした、そのとき。
森羅万象、魔導、科学、薬学、監視、潜入、慈愛、嫉妬、格闘特化、腰振りスペシャリスト、拷問特化。そしてエンジェルが、いつの間にか主人公の周囲に集まっていた。
全員集合だった。
主人公はゆっくりと振り返る。
「……お前ら、最初から全部わかってたんだな」
監視がポテトチップスを頬張りながら、カメラを掲げた。
「最初から最後まで録画済みですわ♡ 高解像度で保存してあります」
「戦闘中にポテチ食ってたのかよ!」
「記録係の栄養補給ですわ♡」
「そんな記録係がいるか!」
魔導が扇子を開いた。
「あら、ミカエル様♡ 部下さんたち、随分と無残な姿になりましたわね。チャオ♡」
「お前も煽るな!」
科学が端末をしまう。
「三大天使の能力と連携パターンは記録済みです。次回の対策にも役立ちますわ」
「次回がある前提で話すな!」
薬学が小瓶を揺らした。
「ご主人様、お怪我を治しましょうか?」
「頼む」
「では、わたくしが《フルヒール》をかけて差し上げますわ♡」
慈愛がすかさず手を伸ばす。
「傷も疲労も、まとめて回復いたします」
「疲労まで回復させたら、また何かに巻き込まれるだろうが!」
「まあ♡ ご主人様はお元気ですわね」
「そういう意味じゃねえ!」
潜入が影から顔を出した。
「ちなみに、敵の撤退経路も最初から把握していましたわ」
「準備がよすぎるんだよ……」
格闘特化が胸を張る。
「ご主人様と一緒に戦えた! 修行の成果も見せられたぞ!」
「俺一人の手柄じゃない。みんなで倒したんだろ」
その瞬間、ヤンデレたちの表情が一斉に輝いた。
「……今のは忘れろ」
エンジェルのペンが走る。
「全員で勝利した、とのお言葉。記録しました♡」
「忘れろって言っただろ!」
腰振りスペシャリストが低く笑い、拷問特化が頷いた。
「いい汗をかいたぜ」
「役割を先に潰す戦術、拘束具の設計にも応用できそうだ」
「戦いを研究会みたいに振り返るな!」
主人公は額に手を当てた。
「……俺が命懸けで戦ってたの、わかってる?」
「もちろんですわ♡」
ヤンデレたちの返事は見事に揃った。
「だからこそ、最初から最後まで見届けましたの♡」
「そういう問題じゃねえ!」
ミカエルは一同を見渡した。
「……やはり、全員揃うと壮観だな」
「感心してんじゃねえよ!」
主人公の叫びが庭に響いた。
天界の責任
魔導が扇子を閉じ、ミカエルに向き直った。
「ところで、ミカエル様♡ 今回は、どういうご用件ですの?」
「三大天使の回収だ。私の待機命令に背いて出撃した。これ以上、地上で戦闘を続けさせるわけにはいかない」
森羅万象が微笑む。
「どうぞお連れくださいませ♡ ご主人様にこれ以上迷惑をかけるのであれば、次はこちらから整えに上がりますわ」
ミカエルは冗談として受け流さなかった。
「今回の一件は、天界の側に非がある。上位天使たちの敗北を受けても方針を見直せず、三大天使が命令を破る事態まで招いた。お前に戦いを強いたことも含め、責任は私にある」
主人公は腕を組んだ。
「なら、後始末ってのは具体的に何をするんだ?」
科学が即座に答える。
「天界から主人公様への接触、侵攻、能力による干渉を禁止する非干渉協定が必要です。謝罪だけでは再発防止になりませんわ」
「非干渉については、天界に戻って正式に協議する。少なくとも、私の許可なく地上への侵攻を行うことは認めない」
主人公が睨んだ。
「許可があれば侵攻するってことか?」
ミカエルは言葉に詰まった。
「……その点も含めて、見直す必要があるな」
「最初からそう言えよ」
科学が端末を操作する。
「協定には禁止事項だけでなく、違反時の対応も明記してください。ミカエル様の意思表明だけでは不十分ですわ」
「そこまで必要か……」
「必要ですわ♡」
ミカエルは目を閉じた。
「……帰還後、必ず協議する」
魔導が優雅に一礼した。
「よろしいですわ♡ 約束をお忘れにならないように。チャオ♡」
嫉妬が主人公の横から顔を出す。
「大丈夫! 私たちが主人公様を幸せにするからね♡ 天界の人たちも、もう邪魔しないでね!」
慈愛も微笑んだ。
「ええ♡ ご主人様が壊れてしまっても、何度でも治しますもの」
「壊れる前提で話すな!」
ミカエルは反論を諦め、三大天使のもとへ歩み寄った。
撤退――そして、いつもの日常へ
「立て。帰るぞ」
ウリエルは悔しげに拳を握った。
「三人で力を合わせた。それでも敗れたか……」
ガブリエルは巻物を抱え直す。
「一度は対策を突破できました。ですが、連携を立て直す前に崩された」
ラファエルも杖を支えに立ち上がった。
「回復を制限されたことが、決定的でした」
ミカエルは三人を見つめた。
「分析は天界に戻ってから行う。今は撤退だ」
金色の光が三人を包み込む。
転移が始まる直前、ミカエルは主人公へ向き直った。
「お前の強さは認めよう。だが、あのヤンデレたちから逃げるのは相変わらず難しそうだな」
「……余計なお世話だ」
森羅万象がにこやかに口を挟む。
「逃げ道は、わたくしがきちんと整えますもの♡」
「お前が一番の障害なんだよ!」
エンジェルがバインダーに追記した。
「ミカエル様の発言、ご主人様の反応、森羅万象様の補足。すべて記録しました♡」
「そこまで記録しなくていい!」
光が収束し、ミカエルと三大天使の姿が消えた。
天界の侵攻は、ひとまず終わった。
主人公はその場に立ち尽くし、周囲を見渡した。
勝った。だが、目の前には別の意味で手強い相手が十人以上いる。
しかも、全員が満面の笑みを浮かべていた。
「……お前ら、少しは休ませてくれ」
エンジェルがそっと近づいた。
「……終わりましたか?」
「ああ。とりあえずな」
「よかった……」
彼女は安堵したように胸を撫で下ろした。それから、いつものようにバインダーを開く。
「本日、三大天使との戦闘。主人公様側の勝利を確認。天界軍は撤退。地上への侵攻は、ひとまず終息しました」
ペンを動かす手が、わずかに止まった。
「……私の選択が、少しは意味を持ったのかもしれません」
主人公は彼女を見た。
「意味はあっただろ。お前が警告してくれなきゃ、もっと面倒なことになってたかもしれねえ」
エンジェルの瞳が潤んだ。
「主人公さん……」
「だから、もう謝るな」
「……はい♡」
彼女は嬉しそうに頷き、最後の一文を書き加えた。
天界の侵攻は収まった。
それでも、主人公の願いは変わらない。
普通に飯を食って、普通に寝て、誰にも追われない生活。
「普通に飯を食って、普通に寝たいだけなのに……」
その呟きは、周囲の笑い声にかき消された。
ただ一人、エンジェルだけは、その願いを正確に記録していた。
「ご主人様の願い……記録しました♡」
彼女はバインダーを閉じ、満足そうに微笑む。
「……愛ですから♡」
ヤンデレたちは今日も、優しく、絶対的に主人公を囲んでいた。
戦いは終わった。
だが、主人公の日常が平穏を取り戻す日は、まだ遠そうだった。




