主人公&神羅万象VSセラフィム2
# 熾天使セラフィム戦――神の炎と、人類最強の拳
神の炎と、森羅万象の世界が激突した。
白銀の空間が震える。セラフィムの六枚の翼から放たれた炎が、幾重にも重なる隔離空間を焼き崩していく。
一層目が消滅。
二層目が融解。
三層目では、空間そのものがねじ曲がった。
だが、炎は止まらない。
「空間を分けようと、因果をねじ曲げようと無駄だ。浄化すべきものが存在する限り、神の炎はそこへ至る!」
森羅万象は、砕けた茶器を見下ろした。
「……なるほど。空間を焼くだけではありませんのね。浄化という結果そのものを成立させようとしている」
「だったら、結果を成立させる前に止める」
主人公が口を挟んだ。
森羅万象が振り返る。
「ご主人様?」
「こいつは空間を突破しているんじゃない。浄化するという結果を、無理やり成立させている。なら、いくら壁を増やしてもきりがない」
主人公はセラフィムを睨んだ。
「違うか?」
「……人間にしては、よく見ている」
セラフィムが片手を上げた。
遠方の柱が白く染まり、内側から燃え上がる。重力が変質し、世界を支える法則までもが浄化の対象となっていく。
「お前の世界は、己の執着を守るために作られたもの。その根幹から清めてくれよう」
「素晴らしいですわ。世界の仕組みそのものを変えようとなさるのですね」
森羅万象が指先を動かす。
消えかけた柱が元に戻り、重力が正常化する。だが、修復された柱は再び白い炎に包まれた。
「浄化を拒むか!」
「いいえ。あなたの力がどう作用するのか、理解しただけですわ」
森羅万象の指が横へ滑る。
柱の周囲に幾何学模様が浮かび上がった。
炎を封じ込めたのではない。
浄化が成立する条件そのものを、書き換えているのだ。
炎は燃えている。
浄化の権能も健在だ。
それでも、浄化という結果だけが成立しなくなり始めた。
「……対象の在り方を変えているのか」
セラフィムが目を細める。
「ならば、世界そのものを浄化する!」
六枚の翼が大きく広がった。
次の瞬間、疑似フィールド全体が純白に染まった。
柱だけではない。床も、空間の境界も、重力も、因果も。森羅万象が定めた法則のすべてが、神の炎に包まれていく。
「歪みが世界全体に及ぶのなら、世界全体を清めればよい!」
床に亀裂が走った。
柱が消え、空間が軋む。
森羅万象が整えた世界そのものが、侵食されていく。
主人公は、迫る炎を見つめていた。
森羅万象が世界を整えている間にも、セラフィムは攻撃を続けている。彼女が防御と修復に力を割けば、その分だけ世界を維持する負担が増える。
そして、セラフィムはその隙を逃さない。
「……なるほどな」
主人公は拳を握った。
「お前、森羅万象を先に潰すつもりか」
「当然だ。世界を支える者を排除すれば、歪みは自ずと消える」
「そうかよ」
主人公が一歩、前へ出た。
「なら、俺を無視するな」
セラフィムの視線が主人公を捉えた。
「人間よ。神の意志を理解せぬ者が、正義を語るな」
「神の意志?」
主人公の拳が、ぎりりと握り締められる。
「お前たちの都合を、神の意志と呼ぶな。エンジェルに手を出したことも、地上に攻め込もうとしたことも、俺は認めない」
「ならば、その拳で神の愛に抗ってみせよ!」
セラフィムの翼から炎が噴き上がった。
主人公は真正面から踏み込んだ。
拳を振り抜く。
しかし、セラフィムを守る透明な光の膜が膨らみ、拳を弾き返した。
「くっ……!」
腕に衝撃が走る。
主人公は後退しながら、拳を握り直した。
先ほどと同じだ。
力は届かない。
ただ強く殴るだけでは、何度繰り返しても結果は変わらない。
「人間の力では、私の聖性を破れぬ。お前の拳にどれほどの力があろうと、神に守られたこの身には触れられぬのだ!」
セラフィムは主人公を見下ろした。
「退け。お前にできることはない」
主人公は答えず、相手の翼を観察した。
炎が放たれる瞬間、六枚の翼がわずかに収縮する。
光の膜が拳を弾いた瞬間、翼の付け根に白い光が集中する。
攻撃も防御も、聖性によって成立している。
ならば、突破口はそこにある。
「……森羅万象!」
「はい、ご主人様♡」
「俺の拳を届かせろ。ただし、こいつの力を奪う必要はない」
森羅万象が微笑んだ。
「力を奪わず、拳を届かせる……。ご主人様らしいご注文ですわね」
「こいつは自分の力を正義だと信じている。その力を消して勝ったところで、こいつは負けを認めないだろう」
主人公はセラフィムを睨んだ。
「こいつの力が残ったままでも、俺の拳が通じると証明してやる」
セラフィムの表情が険しくなった。
「人間風情が……!」
「その人間に殴られるのが嫌なら、さっさと降参しろ」
主人公は再び構えた。
「俺は、お前が倒れるまでやめない」
森羅万象は、世界全体へ広がる炎を見渡した。
「承知いたしましたわ♡」
彼女が両手を広げる。
床から柱へ。柱から空間の境界へ。境界から世界の中心へ。
無数の光の線が走り、世界を構成する法則が浮かび上がった。
彼女は、壊れたものを一つずつ直しているのではない。
世界がどのような状態にあるべきか。その基準そのものを整え直していた。
「ご主人様の拳が、あの天使に届かない道理はありませんもの♡」
森羅万象の指先が、わずかに動いた。
それだけだった。
主人公の肉体に変化はない。
腕力も、速度も、何一つ増えていない。
変わったのは、世界の決まりごとだった。
聖なる存在には、不純なる者の拳が届かない。
その法則が、森羅万象の世界から消えた。
「……世界の基準そのものを固定したか」
セラフィムが警戒を強める。
「ええ。あなたの炎が何を変えられるのか。それを決めるのは、もうあなたではありませんの」
「ならば、お前を直接焼き尽くす!」
白い光が一本の柱となって放たれた。
森羅万象へ向かい、空間を焼きながら迫る。
「させるか!」
主人公が駆けた。
森羅万象を狙う炎の進路へ踏み込み、セラフィムの注意を自分へ引き戻す。
「よそ見してんじゃねえ!」
セラフィムが振り向く。
主人公の拳が迫っていた。
先ほどと同じ、ただの拳。
しかし今度は、光の膜が弾くことはなかった。
**ドゴォッ!**
拳がセラフィムの頬に直撃した。
熾天使の身体が大きく吹き飛ぶ。六枚の翼が乱れ、白い炎が空中に散った。
「なっ……!」
セラフィムは体勢を立て直そうとする。
だが、主人公は追撃していた。
床を蹴り、距離を詰める。
「エンジェルを傷つけたこと!」
右拳が、セラフィムの腹部に叩き込まれた。
「地上を侵略しようとしたこと!」
続けざまに左拳が炸裂する。
セラフィムの身体が浮き上がった。
「そして、それを正義だと言い張ること!」
最後の一撃。
主人公は全身の力を拳に込め、セラフィムの顔面へ叩きつけた。
**轟音。**
白銀の床に衝撃が走った。
セラフィムは床を転がり、数本の柱を巻き込んでようやく止まった。
六枚の翼が力なく広がる。
純白の炎は、まだ燃えている。
聖性も、神の加護も失われてはいない。
それでも、セラフィムは立ち上がれなかった。
「……なぜだ……」
彼女は震える腕で身体を支えようとした。
「私の聖性は……消えていない。神の炎も、失われてはいない……なぜ、人間の拳が……!」
森羅万象が、主人公の隣へ歩み寄った。
「聖なる存在だから、人間の拳が通じない。その法則を、わたくしが書き換えただけですわ♡」
「力を奪ったのではなく……世界の条件を変えたというのか……」
「ええ。ご主人様の腕力は何一つ変わっておりません。あなたの聖性も、神の炎も、そのままですわ」
森羅万象は主人公を見上げた。
「ですが、その世界で何をするかを決めたのは、ご主人様ですわ」
主人公はセラフィムを見下ろした。
「聞こえたか。お前を殴ったのは俺だ」
セラフィムが顔を上げる。
「森羅万象が世界を整えたことは否定しない。だが、エンジェルを傷つけたことも、地上を侵略しようとしたことも、お前がやったことだ」
主人公は拳を握り締めた。
「だから俺が止める。お前の正義とやらが、誰かを踏みにじる限りな」
セラフィムの瞳に、怒りが宿った。
「人間ごときが……神の使命を妨げるというのか!」
彼女は立ち上がり、六枚の翼を大きく広げた。
残された力のすべてを解き放つ。
白い炎が爆発した。
床を砕き、柱を呑み込み、空間全体を純白に染め上げる。
最後の抵抗だった。
「消えよ! 神の炎の前に、すべてを捧げよ!」
炎が主人公へ殺到する。
主人公は逃げなかった。
「森羅万象! 止められるか!」
「もちろんですわ♡」
「なら、頼む!」
「お任せくださいませ!」
森羅万象が指を弾く。
**パチンッ。**
その音と同時に、世界が静止した。
炎は燃えたまま、進まなくなった。
広がることも、何かを焼くこともできない。
セラフィムが翼を動かそうとする。しかし、その動きが結果として成立しない。
神の力は消えていない。
ただ、この世界に何の変化も引き起こせなくなっていた。
「……そんな……」
セラフィムの声が途切れた。
森羅万象が指先を下ろす。
「あなたの力も、熾天使としての格も、何一つ失われておりませんわ。ただ、この世界で何を起こすかは、わたくしが整える。それだけですの」
「……これで終わりだ」
主人公はセラフィムの前へ歩み出た。
セラフィムは動けない。
それでも、彼女の瞳から敵意は消えていなかった。
「私は……神の使命を……」
「その話はもういい」
主人公は拳を引いた。
「お前が何を信じていようと、他人を傷つけていい理由にはならない」
一瞬の静寂。
「これで終わりだ」
全身の力を一点に集中させる。
人類最強の男が、最後の拳を放った。
**ドゴンッ!**
拳がセラフィムを捉えた。
その身体が床へ叩きつけられ、白い光輪が砕け散る。
六枚の翼が大きく広がり、やがて力を失った。
熾天使セラフィムは、ついに意識を失った。
戦場に、静寂が戻る。
主人公は拳を下ろし、倒れたセラフィムを見つめた。
怒りが消えたわけではない。
だが、これ以上殴る必要もなかった。
「……これで、終わりだ」
その言葉を聞き、森羅万象は満足げに微笑んだ。
「お見事ですわ、ご主人様♡」
彼女が再び指を弾く。
**パチンッ。**
砕けた床が元に戻り、亀裂が塞がる。消えた柱が復元され、空間を覆っていた炎も別次元へと隔離された。
焦げたドレスも、割れた茶器も、すべて元通り。
森羅万象の世界は、何事もなかったかのように整った。
彼女は新しい紅茶を用意し、主人公へ微笑みかけた。
「これで、地上を脅かす方はお一人、退場ですわね」
主人公は小さく息を吐いた。
「ああ。エンジェルに、もう手を出させない」
神の炎は、最後まで消えなかった。
セラフィムの信念も、最後まで折れなかった。
それでも彼女は敗北した。
森羅万象が、主人公の拳を届かせた。
主人公は、その突破口を見抜き、自ら戦い続け、最後の一撃で決着をつけた。
世界を整える力と、人類最強の拳。
二つがそろって初めて、熾天使セラフィムを止めることができた。




