↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
111/177

ケルビムVSエンジェル 最下級天使の逆襲2

## 智天使ケルビム戦――報告書と百七十五回分の執行


光が反転した直後も、ケルビムの優位は揺るがなかった。


無数の瞳が輝き、四つの顔が戦場の現在、過去、未来を同時に観測する。


先ほど生じた解析の遅延は、わずか一瞬。ケルビムはすでに原因を特定し、対抗策を組み上げていた。


「……興味深い。記録経路を分散し、私の解析結果を逆利用したか」


背後の光輪が、再び回転を始める。


「だが、同じ手段が二度通用すると思ったのなら、見込み違いだ」


光が爆発した。


今度の攻撃は、単なる光弾の連射ではない。


防御すれば防御の弱点を解析し、回避すれば次の攻撃で逃げ道を塞ぐ。反撃すれば、その能力の仕組みまで取り込んでいく。


一発目を防いだ瞬間、二発目が防御の弱点を突く。


二発目を避けた瞬間、三発目が移動先を塞ぐ。


そのすべてを、ケルビムの無数の瞳が同時に制御していた。


「科学、来ますわ!」


監視特化の叫びに、科学が無効化フィールドを三層に分割する。


「第一層で解析、第二層で干渉、第三層で反射……!」


光の奔流が激突した。


第一層、消失。


第二層、歪曲。


科学は即座に第三層の構造を書き換え、光の一部をケルビムへ反射させた。


だが、ケルビムは避けない。


別の光輪が反射光を受け止め、その構造を解析。今度は科学のフィールドへ逆流させた。


「反射経路まで逆算された!?」


「反射を成立させる条件は、すでに把握している」


ケルビムが指を動かす。


第三層が内側から破裂し、科学の身体が吹き飛んだ。端末が地面を滑る。


「ぐっ……!」


科学は倒れたまま端末をつかんだ。


「監視! 攻撃の軌道だけじゃない! 光輪の回転周期と、解析が更新される瞬間も記録して!」


「了解ですわ!」


監視特化は残されたカメラと記録装置を一斉に起動した。


正面、側面、上空、地中。さらに神羅万象が疑似フィールドに組み込んだ空間記録機構まで連動させる。


ケルビムの光が動くたび、数千に分割された映像データが保存されていった。


「光輪の回転、攻撃の分岐、解析経路の変更、再計算のタイミング……すべて記録しますわ!」


監視特化は次々と記録経路を切り替える。


「あなたが何度攻撃を組み替えようと、組み替えた事実までは消せません。永久保存ですわ♡」


「記録経路を増やしたところで、処理能力の差は埋まらない」


ケルビムの周囲に無数の光が出現した。


「記録を開始した瞬間から、その経路も私の解析対象だ」


光が走る。


カメラが破壊され、転送経路が断たれ、保存映像が改ざんされる。それでも監視特化は、残った装置をつないで記録を続けた。


「くっ……! 記録媒体が半分以上……!」


「半分残っていれば十分ですわ!」


最後の記録装置が起動する。


「科学! データを送ります!」


「受信した! 攻撃の分岐条件が見えた……!」


しかし、解析に必要な時間はない。


光の槍が科学へ迫る。


一本が三本に、三本が九本に分岐し、逃げ道を塞いだ。


「解析する前に潰される……!」


その瞬間、戦場の影が動いた。


「でしたら、時間はこちらで作りますわ」


潜入特化が、各所に仕込んでいた封鎖術式を一斉に起動する。


光の経路が複数箇所で遮断され、空間の裏側に仕込まれた術式が光輪同士の接続を妨害した。


連携に、わずかな乱れが生じる。


「今ですわ、科学!」


「分かってる!」


科学は記録データをフィールドへ直接流し込み、攻撃そのものではなく、次の攻撃へ情報を引き継ぐ接続部分だけを狙った。


光の槍が、目の前で停止する。


「捕まえた!」


「なるほど。連携部分だけを切り離したか」


ケルビムは即座に槍の軌道を書き換えた。


「だが、そのフィールドを維持する演算負荷は計算したか?」


端末に警告が連続する。


「演算負荷、限界突破!? これ以上は――!」


フィールドが崩壊した。


光の槍が科学の肩を貫き、彼女は地面に倒れ込む。


「科学!」


「まだ……止めないで……!」


科学は血のにじむ手で端末を握り直した。


「監視の記録、潜入の封鎖、神羅万象の空間構造……全部重ねれば、ほんの一瞬だけ連携を止められる!」


「その一瞬を作るのが、私の仕事ですもの」


潜入特化はケルビムの背後に現れ、最後の封鎖術式へ魔力を注ぎ込んだ。


光輪の一つが回転を乱す。


「……まだ抵抗するか」


ケルビムが振り返る。


「ええ。ご主人様の平穏を乱す相手に、道を譲るわけにはいきませんわ」


「ならば、その抵抗ごと封じる」


光が走り、潜入特化の退路を切り取った。


「しまっ……!」


身体が光の帯に捕らえられ、地面へ叩きつけられる。


それでも彼女は、最後の力で術式を起動した。


「科学! 監視! 今ですわ!」


監視特化が記録した攻撃軌道。


科学が抽出した情報伝達の接続条件。


潜入特化が封鎖した光輪同士の経路。


三つの情報が疑似フィールドを通じて一点に集中する。


ケルビムの光が、一瞬だけ逆流した。


「……何?」


肩に、細い傷が走る。


「ダメージ、通りましたわよ……!」


科学が息を切らしながら笑った。


「攻撃を無効化したわけじゃない。成立条件の一部を、一瞬だけこちらの制御下に置いたのよ……!」


ケルビムは傷を見つめ、それから三人へ視線を戻した。


「……見事だ」


その声から、先ほどまでの軽蔑が消えていた。


「能力を相互に補完し、私の情報処理に一時的な負荷を与えた。認めよう。下位天使としては異例の連携能力だ」


四つの顔が、三人を見据える。


「だからこそ、これ以上の猶予は与えない」


光が膨れ上がった。


三人が作った隙は、確かにケルビムへ届いた。


だが、彼女は依然として圧倒的だった。


そして、戦場を見つめていたエンジェルが、ゆっくりと立ち上がる。


「……ありがとうございます、皆さん」


彼女はバインダーを胸に抱いた。


「これで、ようやく執行できます」


ケルビムの視線が向く。


「最下級天使エンジェル。お前の戦闘能力では、私に傷ひとつつけられない」


「ええ。知っています」


エンジェルはあっさりとうなずいた。


「剣も槍も格闘技も、あなたほど上手には扱えません。けれど――」


彼女はバインダーの表紙を撫でた。


「記録なら、誰にも負けません」


「そのバインダーの仕組みも解析済みだ」


「そうでしょうね。でも、あなたはひとつだけ分かっていません」


バインダーが開かれる。


そこには、天界での敗北、失態、上位天使たちの身勝手な行動、そして後始末を引き受けた者の記録がびっしりと並んでいた。


エンジェルの指がページをめくる。


「アークエンジェルが星にされたとき。プリンシパリティがゲームの売却不可ボスにされたとき。パワー軍団が朝の腰振りで全滅したとき。ヴァーチュースが清楚なメイド服で帰還したとき……」


一枚、また一枚。


「私は全部、報告書にまとめました。被害状況を整理して、関係者に確認して、提出して、差し戻されて、書き直して……!」


エンジェルの声が大きくなる。


「上位の方々は好き勝手に地上へ降りて、好き勝手に暴れて、好き勝手に失敗する! 帰ってくれば、私の机に書類が積み上がるんです!」


バインダーを握る手に力がこもった。


「提出期限は待ってくれません! 書類は勝手に減りません! 誰も手伝ってくれません! 私がどれだけ忙しくても、誰も気にしません!」


ケルビムが眉を動かした。


「……それがどうした?」


「お昼休みだって、そうです!」


「……ランチ?」


「そうです、ランチです!」


エンジェルは叫んだ。


「私だって、温かい食事を椅子に座って落ち着いて食べたいんです! なのに報告書の差し戻し、追加資料、失態の聞き取り、提出期限の前倒し! 食堂に着いた瞬間、呼び戻されたことだってあります!」


ページには、日付、時刻、業務内容、食事を断念した理由が几帳面に記録されていた。


「一度や二度じゃありません! 十回でも二十回でもありません!」


エンジェルの目が潤む。


「百二十八回です!」


戦場が静まり返った。


科学が倒れたまま顔を上げ、監視特化も思わず手を止める。


「私がランチに行けなかった回数です! 食べ損ねた回数です! 自分の休憩時間を、上位天使の尻拭いに奪われた回数です!」


エンジェルはケルビムを睨みつけた。


「あなたも、その原因のひとつです!」


「天界の業務は階級に応じて分担される。下位天使が記録を担うのは、秩序の維持に必要なことだ」


「必要なら、百二十八回もランチを奪っていいんですか?」


「業務の必要性と、個人の食事時間は別の問題だ」


「では、あなたが代わりに報告書を書いてくださるんですか?」


ケルビムは沈黙した。


「書いてくださるんですか!?」


「私の役割は、神の叡智をもって状況を解析することだ。下位天使の事務処理を代行することではない」


「ですよねえ!」


エンジェルは笑った。目はまったく笑っていない。


「自分の仕事は自分の仕事。私の仕事は私の仕事。上位の方々の失敗は私の仕事。追加の報告も私の仕事。ランチを逃しても自己責任!」


彼女はバインダーを抱きしめた。


「もう、うんざりなんです!」


バインダーが強烈な光を放った。


魔導が仕込んだ具現化の術式が、科学の解析データ、監視の記録、潜入の封鎖情報を吸収していく。


「……でも、仕事の恨みだけではありません」


エンジェルは別のページを開いた。


そこには、主人公に関する記録が並んでいた。


『ご主人様、本日も大変お元気でした』


『ご主人様、本日のお食事は大変おいしそうでした』


『ご主人様、本日も平穏な日常を希望されていました』


そして、その下には別の記録。


『本日、ご主人様が一般女性へ視線を向けた回数――合計四十七回』


エンジェルの頬が、ぴくりと動いた。


「……四十七回」


顔を向けた回数、三十回。


特定部位に視線が向いた回数、十二回。


通り過ぎたあとに振り返った回数、五回。


「合計、四十七回」


声だけは、妙に穏やかだった。


「ご主人様は普通に飯を食って、普通に寝たいだけ。ええ、分かっています。私はご主人様の意思を尊重します。ご主人様の平穏を守ります」


彼女は顔を上げた。


「……なのに」


バインダーの表紙が、ぎしりと鳴る。


「どうして、ほかの女性を見るんですか?」


誰も答えなかった。


「私は毎日、報告書を書いています。上位の方々の失態を片づけ、ランチまで奪われている。それでも、ご主人様の記録だけは欠かしません」


ページをめくる。


「発言、行動、食事、睡眠、表情、困っていたこと……私は全部、覚えています」


エンジェルは四十七回という数字を指で叩いた。


「なのに、ご主人様は一般女性を四十七回も見たんです」


「……それは主人公の自由だろう」


ケルビムが口を挟んだ。


エンジェルの動きが止まる。


「……自由?」


「視線を向けること自体に問題はない。回数を記録して執着することに合理性はない」


「合理性……」


エンジェルは肩を震わせた。


「ふふっ……あははっ! そうですよね! 私のランチも、仕事も、ご主人様への愛も、合理性で測れば無駄ですよね!」


涙を浮かべながら、満面の笑みを見せる。


「百二十八回もランチを逃した気持ちも、ご主人様がほかの女性を四十七回も見た気持ちも、あなたには理解できない!」


バインダーが開く。


「でも、記録は残っています」


二つの数字が赤く輝いた。


ランチを逃した回数、百二十八回。


主人公が一般女性を見た回数、四十七回。


「合計、百七十五回」


ケルビムの無数の瞳がバインダーへ集中した。


「……待て。その記録を何に利用するつもりだ」


「執行します」


エンジェルは即答した。


バインダーが変形し、記録された数字が光の弾丸へと変換されていく。


科学が目を見開いた。


「記録された事象の回数を、具現化術式の出力に変換しているの!?」


「ええ。魔導さんが仕込んでくださった術式です」


エンジェルはバインダーを構えた。


「科学さんの解析データで出力を補強し、監視さんの記録で照準を固定。潜入さんが封鎖した経路から攻撃を通します」


彼女はケルビムを見据えた。


「私ひとりでは、あなたに攻撃を当てられません。だから、皆さんの力を借ります」


科学が血まみれの顔で笑った。


「……ようやく使ってくれたわね。私たちが残したデータを」


監視特化が最後の記録装置を操作する。


「照準固定。回避経路は三つ。うち二つは封鎖済みですわ」


「残る一つも、閉じますわ!」


潜入特化が最後の力で術式を起動した。


光の経路が一瞬だけ閉ざされる。


「私の行動を制限したつもりか!」


ケルビムは別の光輪を展開し、封鎖術式を破壊し始めた。


科学の無効化も、監視の記録も、潜入の封鎖も、彼女を完全には押さえ込めない。


それでも三人は、崩壊する術式を維持し続けた。


あと一瞬。


エンジェルが攻撃を通すための、一瞬だけ。


エンジェルはバインダーをケルビムへ向けた。


「智天使ケルビム。これまでの報告書業務に対する、私の個人的な恨み!」


一発目の光が宿る。


「ランチを百二十八回も奪われたことへの、正当な抗議!」


二発目が重なる。


「そして、ご主人様が一般女性を四十七回も見たことに対する、どうしようもない嫉妬!」


三発目が轟音とともに膨れ上がった。


「全部まとめて――執行します!」


「待て! その出力は――!」


ケルビムが初めて声を荒らげた。


「百七十五回分、衝撃波、発射しますね♡」


**ドゴォォォォォン!!**


バインダーから放たれた衝撃波が、光の壁を打ち破った。


ケルビムは防御光輪を三枚重ね、威力を分散させる。


だが、衝撃波は一発ではなかった。


**ドゴォォォォォン!!**


二発目が、歪んだ光輪の弱点を突く。


**ドゴォォォォォン!!**


三発目が、その接続部へ集中する。


ケルビムは防御を再構築しながら、攻撃の軌道を解析した。


「この程度で、私を倒せると思うな!」


四発目が放たれる直前、彼女は回避先を見切った。


身体をひねり、直撃を避ける。


衝撃波は肩をかすめ、背後の空間を吹き飛ばした。


「見切ったぞ!」


反撃に移ろうとした瞬間、監視特化が叫ぶ。


「今の回避動作、記録しましたわ!」


科学が端末を叩く。


「回避後の姿勢を反映! 照準を修正する!」


潜入特化が封鎖術式を再起動する。


「逃がしませんわ!」


回避先がわずかに制限された。


「残り、まだありますからね♡」


五発目。


六発目。


七発目。


衝撃波が連続して放たれる。


ケルビムは光輪を重ね、軌道を逸らし、出力を分散させる。一発ごとに防御を削られながらも、そのたびに対抗策を組み上げていった。


「……っ、まだ終わらないのか!」


「終わりませんよ!」


エンジェルが叫ぶ。


「百二十八回、ランチを奪われたんです!」


八発目。


「ご主人様が一般女性を四十七回も見たんです!」


九発目。


「私がどれだけ報告書を書いたと思っているんですか!」


十発目。


衝撃波が防御光輪を大きく揺さぶり、ケルビムの身体が初めて後方へ押し戻された。


「こ、こんな……下位の記録が……!」


四つの顔が困惑と怒りに歪む。


「主人公のチラ見回数と、ランチを逃した回数だと!? 神の叡智に、そんなものが何の関係がある!」


「関係あります!」


エンジェルは即座に言い返した。


「私にとっては、どちらも大問題なんです!」


彼女はバインダーを抱きしめ、涙目で叫ぶ。


「ご主人様が誰を見るかは、ご主人様の自由です! 分かっています! でも、嫉妬するものは嫉妬するんです!」


衝撃波が、再び光を貫く。


「ランチだって私の楽しみです! 忙しくても、お昼くらい普通に食べたいんです! それを百二十八回も奪われたんですよ!」


もう一発。


「あなたたちは私の記録を当然のように使い、私の時間を当然のように奪う! 私が怒ることまで計算に入れている!」


もう一発。


「だったら、その怒りも、嫉妬も、恨みも、全部まとめて返してやります!」


バインダーが眩い光を放った。


ケルビムの防御光輪が次々と砕け散る。


それでも彼女は倒れなかった。


残された光輪をすべて前方へ集め、衝撃波を正面から受け止める。


「私は智天使ケルビム! 神の叡智を預かる者だ! その程度の個人的な記録で、私のすべてを崩せると思うな!」


光が爆発した。


衝撃波と防御光輪が激突し、疑似フィールド全体が揺れる。大地に亀裂が走り、空の一部が剥がれ落ちた。


エンジェルのバインダーにも、ひびが入る。


「……っ、まだ……!」


科学が叫んだ。


「エンジェル! 今なら防御の再構築が間に合っていない!」


「分かっています!」


監視特化が残された記録装置をすべて接続する。


「攻撃経路、固定! これが最後の記録になりますわ!」


潜入特化も、崩壊寸前の封鎖術式へ全力を注いだ。


「この一撃だけは、通しますわ!」


三人の連携が、最後の一瞬を作り出す。


防御光輪が再構築される直前、エンジェルはバインダーを構え直した。


「四十七回分の嫉妬!」


光が弾ける。


「百二十八回分のランチへの恨み!」


さらに光が重なる。


「そして、これまで私が書き続けてきた、すべての報告書の重み!」


最後の衝撃波が放たれた。


**ドゴォォォォォォォォン!!**


ケルビムは両腕を交差させ、残された光輪をすべて展開した。


それでも、衝撃波を防ぎきれなかった。


光輪が砕ける。


聖衣が裂ける。


肩と腕に明確な損傷が刻まれた。


ケルビムの身体が、地面へ叩きつけられた。


轟音のあと、静寂が訪れた。


エンジェルは荒い呼吸を繰り返しながら、バインダーを胸に抱いていた。


科学は端末を落とし、監視特化は残された映像を確認する。潜入特化は、ようやく封鎖術式を解除した。


三人とも、立ち上がる力さえ残っていない。


だが、彼女たちは確かに見た。


智天使ケルビムが、地面へ倒れた瞬間を。


エンジェルは震える手でバインダーを開き、最後のページに記録を書き込んだ。


『智天使ケルビム戦。科学特化・監視特化・潜入特化の連携により、解析と防御の一部を一時的に無効化。エンジェルの記録具現化攻撃が直撃。ケルビムに明確な損傷を確認』


ペンを止め、さらに書き加える。


『ランチを百二十八回奪われた恨み、執行済み』


その下に、もう一行。


『ご主人様のチラ見四十七回に対する嫉妬、未解消』


「……ふふっ」


エンジェルは満足そうに笑った。


「まだ、解消していませんからね♡」


そのとき、地面に倒れていたケルビムの指が動いた。


「……記録したな」


低い声とともに、彼女はゆっくりと上半身を起こす。


傷ついた身体。砕けた光輪。乱れた聖衣。


それでも、無数の瞳には神の叡智が宿っていた。


「見事だった。三人の連携、そしてエンジェルの具現化攻撃。確かに私は損傷を受けた」


ケルビムは立ち上がる。


「だが、勝敗が決したわけではない」


空が再び白く輝き、背後に新たな光輪が展開された。


「この戦闘の記録は、私にとっても貴重な情報となった。次に同じ手段を使われても、もう通さない」


四つの顔が、エンジェルたちを見据える。


「次は、私の番だ」


エンジェルはバインダーを閉じ、傷ついた身体で立ち上がった。


「ええ。まだ終わっていませんね」


笑顔で答える。


「でも、記録は残りました。あなたが傷ついたことも、私たちが一矢報いたことも、全部」


ケルビムは答えなかった。


ただ、無数の瞳が、かつてないほど鋭く彼女たちを見つめていた。


智天使ケルビムは、依然として強者だった。


エンジェルたちは、まだ勝っていない。


それでも、絶対的な情報優位を誇る智天使に、確かな損傷を刻み込んだ。


その事実だけは、もう誰にも消せなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。